病院職種別等級別職能要件書マニュアル全集

医療

病院経営・管理
病院職種別等級別 職能要件書マニュアル全集

■斎藤 清一・編著
■A4判・1,029頁
■税込価格 62,700円
■ISBN 978-4-87913-949-8 C2034
■発行日 2006年3月

はじめに

監修のことば

「病院職種別等級別職能要件書マニュアル全集」発刊にあたって
監修者 楠田 丘


いま、日本の人事は100年間続いた人間基準の能力主義人事から欧米型の成果主義人事へと変革を遂げつつある。背景に経済成長率の鈍化、それを受けて、労働市場の売り手市場から買い手市場への変革および労働市場の外部化などがあるからである。
さてそこで問題は、能力主義を捨てて成果主義に移行するか、それとも能力主義をベースに成果主義を導入していくかの選択を迫られるが、日本の労使は賢明に後者のあり方を選んでいる。すなわち、人を基準にする日本型成果主義である。
樹木に例えるならば、根と幹が能力主義であり、枝、葉、花、果実が成果主義にあたる。
根幹を捨てては、もう二度と大きな枝は伸びないし、花も咲かない実もならない。つまり能力主義をしっかり基盤に据えてこそ成果主義は永続的に成立する。そして、その幹をなすのが職能資格制度にほかならない。
さらに大切なのは配置や役割の設定において各人の実力(高成果実現行動力)と意思・適性を尊重すること(加点主義)が大切となる。つまり、能力主義と成果主義は実力主義、加点主義によってジョイントされることが要件となる。

能力主義 → 実力主義/加点主義 → 成果主義

すなわちこれからの人材戦略は、能力主義で人材をしっかり育成し、その人材を実力主義、加点主義で活かすことによって成果主義を実りあるものにしていくあり方が強く求められる。
特に、病院をはじめ学校、農協、運輸通信、マスコミ、建設など、人勧準拠(年功・職階人事)から脱却することが強く求められているが、そのためには、この4つの人材哲学、(1)能力主義(人材育成) (2)実力主義(行動力の活用) (3)加点主義(個のチャレンジ尊重)そして (4)成果主義(高い成果・処遇)を完全成立させることが強く求められている。
すなわち、これまでもこれからも日本型人事の基盤は職能資格等級制度であり、これを捨てることはできない。いや職能資格制度を一層整備、充実することがすべての再出発点となる。そしてこの職能資格制度を、人材の評価、育成、活用、そして公正処遇に適切有効に結びつけていくには、職務調査を実施して資格等級基準としての職種別等級別職能要件を明確にしていかなければならない。
職能資格制度における等級基準は、いわば病院経営が従業員に期待する人材像の具体的明細にほかならない。これを基準として人材の評価、育成、活用、そして処遇のすべてが連動してトータルとして展開される。
「等級基準」は、職種別等級別の修得要件(どんな知識、技能、技術を身に付けねばならないかの明細)と習熟要件(どんな仕事つまり課業をどの程度こなすことができねばならないかの明細)の2つの内容からなる。これが具体的に明示されていなければ職能資格制度は有効な意味がないし、単なる年功的な身分資格制度として終ってしまう。
ところで病院の場合、各職種がそれぞれ独立専門的で多岐であり、職種別、等級別の職能要件を作ることは決してやさしい技ではない。これまで多くの病院がトライしながらもそれを具体化することができなかったことが、能力主義人事の導入ひいては人事、賃金制度の全般的近代的改革を遅らせる最大の要因となっていた。
以上を受けて産労総合研究所出版部 経営書院では、病院人事事情に詳しい斎藤清一氏が担当して、ほぼ10年前に、静岡県厚生連、大阪の河内総合病院および茨城の神立病院の3病院の甚大なる御配慮、御協力を得て、1,074頁からなる画期的な病院職種別等級別職能要件書マニュアル全集を発刊した。注目される貴重な資料として高く評価され、幸いにも病院人事の近代化に広くお役に立たせていただくことができた。
その初版発行後、およそ10年経過した今日、病院を取り巻く情況の変化や各方面からの要望を受けて、改ためてその整備、充実を図るべく、ここに、産労総合研究所高橋邦明社長の深い理解と助言もあり、「新版 病院職種別等級別職能要件書マニュアル全集」発刊が、初版同様、斎藤清一氏の並々ならぬ熱意と努力によって結実した。
内容としては、多数あるが特に次の点が有効である。
第一は、病院事例を新しく組み直したことである。
事例は、浦添総合病院(沖縄)、阿知須共立病院(山口県)、県南病院(宮崎県)の3病院で、一層、グレードの高い内容となっている。
第二は、このマニュアルの有効活用のあり方を具体的に提案している点である。すなわち、イ)課業チェックリスト ロ)昇格要件 ハ)基準のクリアの実現 ニ)能力評価のしくみ ホ)上司と部下との間で業務目標、能力開発目標を明確にする目標面接への有効な活用 ヘ)連名課業一覧表の作成と活用 などである。これによって、本マニュアル全集が、病院人事の能力主義、成果主義を進めるうえで一層、有効なものとして高度化している。
斎藤清一氏は病院関連の業務で人事労務関連の第一人者として活躍した後、日本賃金研究センターに入り、主として病院関係を中心に、その経験を活かしながら、能力主義人事の導入に幅広い活躍と実績をあげて、今日にきている。
本マニュアルが、これからの病院の人事、賃金制度の近代化に大きく役立つことを大きく期待するとともに、御協力いただいた3病院の理事長・院長、産労総合研究所の高橋社長、経営書院の方々に心から御礼を申し上げ、監修のことばとする次第である。

2006年2月吉日
楠田 丘


職能要件書マニュアル全集 新版発刊について
職務調査の必要性と能力開発人事の強化


1 能力人事の強化とは何か
能力とは何か、能力を固めなければ実力、成果主義人事は成立しない。成果主義人事のプロセスは能力主義人事である。能力主義は職能資格制度によって具現化される。仕事をすることはもちろん、結果が大切である。しかし、部下にいい仕事をしてもらうためには、きちっとした教育をしなければならない。この仕事を遂行するためには、どんな知識や技能が必要なのか、期待の成果を得るためには、どのような能力開発や自己啓発が必要なのか、またその仕事はどんな手順や方法で、どこまで行なわなければならないのか、期待像を明確にして取り組むことが必要である。
すなわち、能力主義人事とは、能力開発制度なのである。能力は成果を創出するプロセスと理解してほしい。能力があり、周りの諸条件が整えば必然的に成果に結びつく。
能力を明確化する職能資格制度は縦軸に、知識、技能、経験、意思や適性また、体力、気力など、これらの能力を資格等級ごとにグルーピングする。一方、横軸には職種を設定する。横軸に職種の違い、縦軸に、能力、習熟の区分を作り、これで、評価、育成し人材を活用し処遇をするシステムである。この職能資格等級制度を別名で等級基準とも言う。この等級基準を基本軸にして職員各人の能力と適性に応じた、柔軟でクリエィティブな職場活動を推進することができる。
以上から理解されたように能力主義人事は人を主人公にした、日本的人事制度である。日本的人事制度は「人間基準」とも言われているが、その原点は人材育成論である。新卒人材を採用し手塩にかけて企業の中で、職業人とし、社会人として一人前の人材に育てるという企業内育成社会である。これに対してアメリカやヨーロッパでの人材処遇の基本は「仕事基準」であり例えば、価値の低い仕事に変わると賃金は下がる。実力、成果主義の格差と競争の社会である。
日本での仕事のやり方は、他部署の応援や協力、または人事異動という形で、仕事はまったく流動的に編成される。したがって処遇は仕事と切り離したほうが安定的になる。また、人もさまざまであり皆、違うから人を主人公にしたほうが日本的経営はより柔軟で、メリットも大なのである。

2 修得、習熟すべき能力の見直し
能力は時代とともに変わる。職種別、資格等級別にその等級の職員が修得、または習熟すべき能力は不変のものではなく、経済、産業構造の変化、技術の進歩、発展、あるいは病院、施設の業務実態などによって変化する。
したがって、今後、毎年、等級基準(職能要件書)を見直し必要な能力の「加筆、修正、削除」を行わなければならない。大切なのはせっかく作成した等級基準を基準として、どう活用するかである。

3 等級基準(職能要件書)の合否判定基準の活用
職能要件書に記載されている一つひとつの職務遂行能力をクリアしたか否かを直属の上司が「課業チェックリスト」でチェックする。
(1) 「課業チェックリスト」は、課業とその課業内容で書かれており、課業内容の単位業務がその等級の職員に期待し要求するレベルに達しているか、否かをチェックする。期待し要求するレベルは職能要件書の習熟能力欄に書かれているレベルに達しているか否かをチエックすることによりその達成度が分かる。
(2) その等級に記載されている職能要件書の習熟、修得能力のうち90%以上をマスターしていると判定された時、期待レベルで卒業したと判定し、このとき上位等級に昇格する要件を満たす。
(3) 5等級までは卒業方式を適用する。現在の格付け等級が合格になったら6等級までの昇格を認める。
(4) 7等級以上へは入学方式とし現在の格付けされている6等級の職務を合格したうえで、さらに上位等級7等級職務の遂行要件をクリアしていることを条件に昇格を認めることとする。しかし大切なことは職能要件書がない場合は卒業、入学の判定がつかない。
一般的に、7等級以上は管理職クラスであり役割業務(問題解決業務)が主体であり職能要件書がないのが普通である。役割とは権限と責任という意味で管理職クラスともなれば通常、業務マニュアルも何もない。問題解決など変化対応業務を推進するクラスであり課長、部長の役割が確実に遂行できると判定された場合に昇格を認める。7等級は課長クラス、8等級は部長クラス、9等級は副院長クラスの役割を推進できると認定されたとき昇格対象となる。
(5) 6等級以下の昇格においては職能要件書の習熟、修得能力の必修能力はすべてクリアしていなければ昇格はできない。
(6) 職能要件書では下位等級に要求した能力を上位等級者がいまだクリアしていない部分も当然に判定の対象となる。
(7) 職員は、医療産業の発展や技術の進歩あるいは病院、施設の経営向上によって、変化する新たな能力の修得に努め、新たな基準のクリアの実現に努めることが求められる。

4 能力評価の実施
(1) 半期(6カ月)ごとに直属の課長、部長が部下職員各人に「この6カ月中にクリアすべき能力」目標を明確化する。そのステップは次による。
(2) 部課長(考課者)は部下各人の能力を次の3段階で評価し、評価結果を人事課に提出する。
 + 完全にクリアしている。
 ± 期待レベル、条件付きのクリア
 × クリアしていない(×を付した課業は部課長(考課者)は、その具体的理由および努力すべき点など(コメント)を備考欄に必ず付記する)。
一方、部下各人に職能要件書記載の全能力項目について、自己評価をさせる。
(3) 自己評価結果と部課長(考課者)の考課結果に不一致がある場合は部課長は、その理由をよく分析し部下の能力開発に結びつくようにフイドバックに努めることが大切である。

5 課業一覧チェツクリストのマネジメントへの活用
部課長においては自分の部下がどの程度のレベルにあるか、また部下がどんな仕事にどれだけの時間をかけているのか、この課業チェツクリストを一つの能力を計る物差しとして能力をチエックし、部下の指導育成(能力開発)、や人材活用の資料として有効活用することが大切。そのポイントは次のとおりである
 (1) 仕事の配分は人によりアンバランスがあるか、ないか、一目で判定することができる。(質、量のバランス)
 (2) チャレンジ的な仕事を含め、能力開発に結びつく仕事の配分になっているか、否か、
 (3) 機会均等の仕事を与えているか、否か、
 (4) 年齢、経験などから能力に見合った仕事を与えているか、否か、
 (5) 定型業務だけでなく、プロジェクト業務など創造的な業務を年代などを考慮して期待する部下に与えているか、否か、
 (6) 事務とか作業効率の観点から見ての課業分担になっているかどうか、
 (7) 組織的業務推進の観点から見て課業分担に問題はないか、
 (8) 責任の所在が不明確な課業の配分を行っていないか、
 (9) やらなければならない課業や必要な役割業務が抜けていないか、
 (10) 数年来、まったく同じ仕事しかやらせていないことで、モラルダウンが起きていないかの兆候を確認する。

6 連名課業一覧表の作成と活用
職務調査作業、課業の洗い出しと課業の習熟度指定(等級指定)が終わった段階で、課業一覧表を作成し、次にその課業一覧表にその課業を担当している実務担当者名を記入し、誰がどんな仕事を、また、どんなレベルの仕事をどんな割合でやっているのか、チャレンジ課業、レベル課業、アンダー課業の割合を確認する。
チャレンジの多い人、アンダーの多い人など課業分担のバランスを確認し、仕事の機会均等の付与など、今後の部下能力開発や指導のマニュアルとして活用することが大切である。

7 職能要件書の配布
課業一覧表、職能要件書は職種別に該当部分をコピーし部員に配布する。配布時には、課業一覧表、職能要件書を能力開発基準として自己啓発や人事賃金へ結びつけるポイントを分かりやすく説明し、全職員が意欲を持って目標達成に努力できるように活用の仕方をよく理解させることが大切である。

以上、「病院職種別等級別職能要件書マニュアル全集」の発刊に当たっては、人事・賃金の大家である恩師、楠田丘先生の理論をベースに、筆者のコンサルティング経験で得た知識、実務を基に、そのノウハウを集約したものである。本書は、1996年12月に第1版を出版しているが、今回は約10年を経過していることから、時代ニーズを踏まえ新刊本として出版することにしたものである。構成に当たっては、3病院の課業一覧表、職能要件書に加え浦添総合病院の医師の臨床研修制度概要を盛り込むなど、新時代の専門分野の要望に十分に応える内容になっていると確心している。


2006年2月吉日
斎藤清一

著者紹介

■齋藤 清一(さいとう せいいち)・・・昭和13年生まれ。中央大学卒業。杏林製薬㈱にて人事課長ほか歴任。昭和61年退社、同年5月産労総合研究所、日本賃金研究センター主任アドバイザーとして大手から中小企業、大学、JA、病院なども含め多数の企業で人事賃金制度の指導実績がある。

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