在宅における使用済み注射針等の管理・回収実態調査

医療

在宅における使用済み注射針等の管理・回収実態調査
掲載している雑誌:病院経営羅針盤

民間のシンクタンク機関である医療経営情報研究所が発行する定期刊行誌「医療アドミニストレータ(注:現「病院羅針盤」)」(編集長 川路淳子)は、「在宅における使用済み注射針等の管理・回収実態」について、一般社団法人千葉県民間病院協会事務管理部会(事務局長・三浦昇)と合同調査を実施した。
※医療経営情報研究所は産労総合研究所(東京都千代田区、代表・平盛之)の附属機関です。

 

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調査結果のポイント

(1)インスリン在宅自己注射診療の実施について

  • 糖尿病患者に対するインスリン在宅自己注射診療を実施している医療機関は  回答のあった80施設中66施設(82%)

(2)インスリン注射針の管理について

  • 上記実施機関に対し、処方した注射針の本数管理を、カルテ以外で行っているかを聞いたところ、「行っていない」が86%

(3)注射針の交付・回収実態について

  • 使用済み注射針等の回収管理は、投与された患者に委ねられることもあり、徹底が困難「初回に担当者が回収指導するのみ」が36%で最多(院内処方施設)

(4)注射針の回収方法について(複数回答)

  • 「処方・手渡し時、回収容器に入れて持参するように指導している」が36件(55%)

(5)針刺し事故について

  • 過去に針刺し事故のあった医療機関は66施設中15施設(23%)

(6)針刺し事故防止策について

  • 最も多かった意見は「針の処方時や渡すときに、安全な回収容器を同時に交付し回収する」

(7)在宅医療における注射針の回収方法(複数回答)

  • 在宅医療を行っている35施設のうち、注射針の回収について、「病院受診時に持参するように指導している」が27件(77%)

 

調査要領

【調査対象】千葉県内218医療機関
【調査時期】2012年5月1日~5月25日
【回答状況】回答が得られた80件のうち(回収率36.7%)
      在宅自己注射診療を行っている医療機関66件について集計した。
注)集計上、無回答はカウントしていない。なお、設問により複数回答となっている。

本年1月、医療経営情報研究所では、一般社団法人千葉県民間病院協会が感染性医療廃棄物への啓蒙活動として行っている産業廃棄物処理施設の見学会に同行させてもらう機会を得た。この産廃施設では、針刺し事故が年間2~3件もあるという。針刺し事故があるとすぐに血液検査を実施し、感染していれば労災適用になるとの説明も受けた。
医療機関でも、外来などで看護師や事務職員が使用済み針を受け取った際に刺してしまい、感染予防のために、病院負担で1本約36,000円もの抗HBs人免疫グロブリン製剤を投与したなどの報告もある。
在宅医療が普及するにつれ、家庭での注射器使用は増えている。それに伴って、使用済みの注射針が一般の家庭ゴミや資源物に混ざって出され、ゴミ・資源物の収集作業員や処理施設作業員の針刺し事故が発生しているというのが実態ではないだろうか。 
今後も在宅自己注射患者は増加するだろう。医療安全が叫ばれるなか、医療機関や調剤薬局から患者に渡される注射針は、どのように管理・回収されているのだろうか。その実態を把握するために、一般社団法人千葉県民間病院協会 事務管理部会と医療経営情報研究所が合同で、千葉県内の医療機関を対象に調査を行った。

 

調査結果の概要

(1)インスリン在宅自己注射診療の実施について

糖尿病患者に対するインスリン在宅自己注射診療を実施している医療機関は82%

回答が得られた80施設のうち、直近3カ月において、糖尿病患者に対するインスリン在宅自己注射の診療を実施している施設は66施設(82%)であった。
以下では、この66施設についてみていきたい。

 

(2)インスリン注射針の管理について

処方したインスリン注射針の本数管理をカルテ以外で行っているかを聞いたところ、「行っていない」と回答した医療機関が86%

処方した注射針の本数管理については患者本人に委ねられる側面があり、カルテ以外で行っている医療機関は66件中わずか9件(14%)で、57件(86%)の医療機関が行っていないと回答している(図1)。

図1 処方した注射針のカルテ以外での本数管理

グラフ

 

(3)注射針の交付・回収実態について

使用済み注射針等の回収管理は、投与された患者に委ねられることもあり、徹底が困難「初回に担当者が回収指導するのみ」が36%で最も多い(院内処方施設)

注射針の処方形態は、院内処方29施設(44%)、院外処方16施設(24%)、院内・院外併用21施設(32%)となっている。
このうち、院内処方施設(院内・院外の併用を含む)については、使用済み注射針等の回収指導は、「初回に担当者が回収指導することになっており、通常は特にしない」が18件(36%)と最も多い。「初回を除き回収がなければ投与しない」と回答したのは、1施設だけであった(図2)。

図2 回収指導(院内処方施設)

グラフ

 

(4)注射針の回収方法について

「処方・手渡し時、回収容器に入れて持参するように指導している」が36件(55%)

注射針の回収方法について、「処方・手渡し時、回収容器に入れて持参するように指導している」が最も多く36件(55%)、次いで「時折、スーパーのレジ袋に入れてくる患者がいる」17件(26%)、「特に指導はしないが、使用済み針の持参者が蓋付きの瓶に入れてくる」15件(23%)などとなった(複数回答、図3)。

図3 回収方法について(複数回答)

グラフ

 

(5)針刺し事故について

針刺し事故のあった医療機関は66施設中15施設(23%)

今までに使用済み注射針・採血針回収時に、針刺し事故が「あった」と回答した医療機関は15件(23%)であった(図4)。
そのときの状況は、「受付職員が患者から受け取るとき」が最も多く6件、次いで「清掃職員がペールボックスに投じる際」の3件であった(表1)。

図4 使用済み注射針・採血針回収時の針刺し事故の有無

グラフ

表1 誰が、どのような時の事故か

グラフ

 

(6)針刺し事故防止策について

最も多かった意見は「針の処方時や渡すときに、安全な回収容器を同時に交付し回収する」

針刺し事故は、医療現場で頻繁に起きているわけではないが、もし起きてB・C型肝炎等に感染してしまったら、人の人生にかかわる問題でもある。そのため、使用済み注射針による針指し事故防止対策についてたずねた(択一式)。
最も多かった意見は「針の処方時や渡すときに、安全な回収容器を同時に交付し回収する」が27件であった(表2)。

表2 針刺し事故を防ぐには、どのようにしたらよいか

グラフ

 

(7)在宅医療における注射針の回収方法

在宅医療における注射針の回収は、「病院受診時に持参するように指導している」が27件(77%)

在宅医療を行っている35施設に、自己注射等で注射針を処方した場合の回収方法についてたずねた。
最も多かった取り組みは、「病院受診時に持参するように指導している」で27件(77%)、次いで「訪問時に回収している」で15件(43%)であった(複数回答、図5)。

図5 在宅医療において注射針を処方した場合の回収方法(複数回答)

グラフ

調査を終えて

在宅医療における自己注射はインスリンのみならず、ますます増加すると思われる。今回の調査は千葉県内の医療機関が対象であったが、全国でも同様の現状ではないだろうか。
患者個人や回収コストの問題、また排出主体により一般廃棄物か特別管理廃棄物か、さらに、市町村によってリサイクルなどの処理により分別するか混合かなどにより、さまざまな場所で針刺し事故は生じる可能性がある。
医療機関は、感染性医療廃棄物処理についての意識は高い。しかし、在宅医療の推進に応じ、多くの医療機関で在宅医療に取り組んでいる実態から鑑みると、自己注射患者について的確に注射をしているかなどの管理(把握)はしているが、家庭での使用済み針の安全な回収という観点からは、患者本人に委ねられているため、その管理を徹底することは難しいといえる。このことが、針刺し事故を起こす原因であろう。
使用済みの針等の処理は、一般ゴミと全く別ルートで処理されなければ、針刺し事故を根絶できないと思われる。それには、回収専用ボトルの普及徹底が望まれよう。ただし、そのコストは誰が、どのように負担するのか。できることなら、全国共通の処理方法を決定し、それを定着させるために、国が解決策を見いだすべきであろう。

 

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※ 詳細データは「医療アドミニストレーター」2012年8月号にて掲載しています。

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