病院人材育成とコンピテンシー活用の仕方

医療

病院経営・管理
病院人材育成とコンピテンシー活用の仕方

■齋藤 清一・著
■A5判・294頁
■本体価格 2,000円
■ISBN 978-4-87913-978-8 C3047
■発行日 2006年11月

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はじめに

1、 コンピテンシーとは結果に現れた顕在能力

いま、 コンピテンシーが脚光を浴びている。
今なぜ、 コンピテンシーなのか、 最近、 分かってきたことはどんなに専門知識や技術を持っていても、 また高い学問や教養を積んでいても、 それが必ずしも成果として現れない人がいる。
学問とか頭の良さ、 悪さは仕事の結果と強い相関関係はないということが分かってきた。 よい仕事をするためには仕事の基本的知識や技術は当然に必要である。 しかし、 それだけでは成果や結果を得ることはできない。 大切なのは仕事に取り組むマインドとか、 最後まで頑張る使命感とか、 また、 仕事に取り組む執務態度がしっかりしていることの方が大切だということである。
行動を変えれば人は誰でもチャンスをつかむことができる。 こういう言葉がある。 「一つの物事を成し遂げるときに全体を 100 と考えると計画はたったの1 %で、 残りの 99 %は努力と汗の行動で決まる」 と。
この言葉は、 正に仕事の成果と仕事を遂行するプロセスの大切さを表現しているのであるが、 よい結果を出すためには結果を導き出したプロセス行動の大切さをいっている。
いつもよい結果を出す人はコンピテンシースキルを持っている。 しかし、 そのスキルは高い成果に直結する目に見える行動であり、 また人が真似をすることができる行動特性に限られる。 これをコンピテンシーというが、 人が真似をすることができないその人だけの得意技はコンピテンシーとはいわない。
コンピテンシーとは行動に現れた顕在能力を取り上げる。 2人に同じ仕事を与えてもその中身や結果はやる人によってまったく違ったものとなる。 コンピテンシーの違いがあるからである。 しゃべり方や、 話すときの顔の表情、 身振り、 手振りなどの表情がとても豊かな人もいるし、 まったく無表情の人もいる。 また同じ商談をしていても、 明るい、 感じのいい人、 暗い人がいる。
商談の結果はいうまでもない。 2人が同じスキルを持っていても見える行動がまったく違う。 このコンピテンシーの違いが結果として仕事に現れる。
もうお分かりのように、 コンピテンシーでは行動に現れない潜在能力は対象にはしない。 コンピテンシーは目で観察できる結果に結びつく行動のみを取り上げるのである。

2、 コンピテンシーとは再現性のある行動

あなたが優秀人材であるか否かの判定は、 成果とプロセスとの関係を観察すれば明らかになる。
プロセスのコンピテンシーがしっかりとしていないと成果を出すことはできない。 「あの人は素敵だね」 「いい仕事をしている」 と評価されている人から、 「その行動を盗もう」 「私もよくなりたい」 という強い思いを持つ人は、 どんな苦難があっても諦めないで最後まで頑張るといった強いコンピテンシーを持っている。 このコンピテンシーがエネルギーになってよい成果を生み出す。 そうした思いがコンピテンシーとして現れる。
このようにコンピテンシーとは優秀者の行動であり、 その力はいつも安定して、 成果に現れる行動である。 その成果は、 継続性がある。 線香花火的な一瞬的な成果行動はコンピテンシーとはいわない。 たまたまうまくいったという行動ではなく、 誰でもその行動をとることによって成果を確実に獲得できる行動をコンピテンシーという。 またその成果行動は今後2, 3年先の成果にも結びつく行動である。
ここで、 大切なことは、 成果を生み出すプロセス行動は企業文化によっても異なったものとなることだ。
わが病院では、 コンピテンシーとして評価される行動でも、 病院が変われば、 コンピテンシーとして認定されない行動もある。 大切なことは成果を生み出す行動 (コンピテンシー) を明らかにしたうえで、 次にその行動に優先番号をつけていく。 こうして業績に直結する重要度の高い行動を明らかにして、 全職員がこのコンピテンシーモデルを参考に、 行動改善を行うことによって期待の成果を獲得することができる。
このコンピテンシーの考え方は、 経営方針や部課の成果目標達成にも非常に有効である。 例えば、 現行の医療収入高30億円を2億円アップ、 現行利益27%これを30%確保するなどの経営方針が示されれば、 診療部門をはじめとして、 私たち各職員は、 どんな行動をとれば、 目標を達成することができるのか、 業績に直結する一番ベストな行動を職員一人ひとりが考える。 そして統一行動を起こす。
業績は職員一人ひとりの自立意識と行動から生まれる。 人間は生まれながらのスキルを持っている。 例えば、 「話をする言葉づかい、 話し方にめりはりがあり、 明るく話す。 いつもいい感じの笑顔を絶やさない」 などのスキルは、 本人の意識とある程度のトレニーングによって身につけることができる。 しかしそのようなスキルを持っているだけではコンピテンシーにはならない。
人間は 「慣れ」 によって傲慢になったりするが、 これは、 コンピテンシースキルを持っていても、 コンピテンシーは発揮されず、 本人が持っているコンピテンシーが組織の求めるものとずれてくる。 これは思考特性と行動特性のズレである。
頭ではこうしなければならないということが分かっていても、 実際の行動がとれない状態をいっている。

3、 コンピテンシーによる人材の育成

コンピテンシーは優秀人材のキーワードから作られる。 このキーワードは企業文化の違いによって異なったものとなるが、 この優秀な人材にインタービューを行い、 浮き彫りにしていくことがコンピテンシー作成のスタートである。
問題は優秀人材がいない時はどうしたらよいかである。 人事賃金改革プロジェクトメンバーに、 わが病院のあるべきマネジャー像について聞いてみた。 その結果、 優秀人材を集約すると 「これからの人材は相手をワクワクさせるような夢を語れる人、 また、 リーダーはビジョンを明確にでき、 それを語れる人、 将来に夢を描き、 引っぱっていける人」 となった。
企業にはおのおのコンピテンシー導入に当たっての作成意図がある。 例えば、 次のようなケースである。
ケース1  若手を早くマネジャーに育てたい。 マネジメントスキルを身につけさせたい。
ケース2  技術者としての専門スキルを早期に身につけさせたい。

優秀な職員になるための第一歩は、 すでに優秀な職員といわれる人の行動を真似ることである。
優秀な職員といわれる人の行動を真似ることから知識や技術が磨かれていく。 よい成果を出すためには優秀な職員に求められるふさわしい行動を真似ることからはじまる。
実は彼が、 彼女が優秀であるか否かの評価は求められる成果を出しているかどうかにある。 しかし、 わが病院、 施設で優秀と認めても社会人として優秀であるかどうかの見方も大切である。 成果を出すためには手段を選ばずでは社会の承認は得られないはずである。
労働観とか、 モラル、 人の機微の理解などは人の痛みで成りたつ医療産業の一つが病院、 施設であると考えれば、 社会性とか人間性、 優しさなどのクラスター (評価項目) は非常に大切であり、 病院、 施設内の成果だけで優秀者とは決められない。
医療従事者として職業人として、 社会人として、 そして人間として、 キャリアの充実にはコンピテンシーが役立つ。 わが病院、 わが施設ではどのような人材が求められているのか必要なコンピテンシーを知っておくことは、 将来のキャリア形成においても大変役に立つことと思う。
特に 20 代、 30 代は将来を見つめて、 充実したキャリアを目指す大切な時期である。 この時期の能力開発がキャリアアンカーを決める。
  (1)私は何を専門性にするのか。
  (2)そのために私は、 いつまでにどのような努力をするのか。
  (3)私はどのような成果を出さなければならないのか。
  (4)そのような成果を出すためには、 私はどのような知識や技術を身につけなければならないのか。
  (5)私と優秀者を比較したとき、 私に足らないものは何か。 その差をどう埋めていくのか。
等々、 20 代、 30 代でしっかりと将来のキャリアを決め、 よいスタートを切りたい。

4、 実力とは何か、 核になるコンピテンシー

「実力とは何か」 この問いに答えるにはまず 「能力とは何か」 を明らかにしなければならないだろう。
実力とか成果という言葉は能力主義人事の上に成り立つからである。 能力主義は職能資格制度により具現化される。 能力を明確化する 「職能資格制度」 では、 まず縦軸に知識、 技術、 経験、 意思や適性、 また体力、 気力などこれらの各能力がグループピングされる。 次に横軸に職種を設定する。
横軸に職種の違い、 縦軸に能力、 習熟の区分を作り、 この碁盤で人材を評価、 育成、 活用、 処遇をするシステムを職能資格制度とか能力主義人事といっている。 この職能資格制度のことを別名 「等級基準」 ともいう。 この等級基準を基本軸にして各職員の能力と適性に応じて能力開発人事を展開する。
以上のように、 能力主義人事は 「人」 を主人公にした人材育成の日本的人事制度である。 日本的人事制度は 「人間基準」 ともいわれるが、 その特徴は能力開発制度である。 これに対してアメリカやヨーロッパの人事管理は 「仕事基準」 の格差と競争、 成果主義人事である。 したがって、 人材育成論はきわめて希薄である。
「仕事」 が主人公であり今やっている仕事の価値を大切にし、 実力がものをいう。 価値の低い仕事をやれば賃金は下がる。 実力は 「どのようなよい結果を出したのか」、 「どのようなアウトプットがあったのか」 のアウトプット論、 能力は、 わが病院、 施設の期待像に対して、 どのくらいの能力を蓄積したかを見るインプット論である。
この能力は、 仕事ができるか否かを決める職務遂行能力に限定した能力である。 しかし高い専門知識や技術を持っている人が必ずしも高い業績を上げているわけではない。 どんなに能力があっても実際に仕事に使わなければ、 その能力を現実の仕事に生かすことはできない。
行動に起こさなければ何も前進しない。 意欲や体力、 使命感もよい仕事をするためには非常に大切である。 そのほか組織と調和していく人間関係づくりなどの能力、 すなわち、 広義の能力が大変重要である。 この能力は職務遂行能力を活かす能力であり、 この能力のことをコンピテンシーという。
コンピテンシーで大切なことはその行動は成果につながるのか、 つながらないのかの行動分析である。 行動の視点は成果に直結する行動に絞っており成果に結びつかない行動はコンピテンシーとしては見ない。
何度もいっているように、 高い専門知識を持っていてもイコール高い成果を生み出すとは限らない。 高い知識が現実の場面で活かされなければ成果は出ない。 この場合は 「現実の場面で知識を行動に結びつけるコンピテンシーに問題がある」 という評価になる。 頭がよいだけでは成果に結びつかない。 コンピテンシーも能力の一部であるが、 仕事ばかりではなく人間的な温かさや意思や使命感までも含んでいる。
組織人として立派でも顧客満足を得られない医師や看護師は多い。 組織人としての能力があるかどうか、 立派かどうかは人事考課の問題。 能力は過去の蓄積能力でありコンピテンシーは現在の実力評価の物差しである。
コンピテンシーは全能力を包含して評価する。 コンピテンシーは 「能力が優れている」、 つまり知識や専門性が高いなどはまったく関係ない。 その能力が成果につながるか否かが大切で、 ただそれだけを 「行動化」 して評価する。 そのために高い成果を継続して上げているハイパフォーマーの具体的行動に注目する。
このハイパフォーマーは仕事をするうえで何を考えて、 また、 どこにポイントを置いて行動をしているのかを分析して抽出した行動特性がコンピテンシーモデルである。
成果に結びついた行動をハイパフォーマーからインタビューし成果に結びついた行動だけを 「思い出してもらい」 抽出する。 「どうやったのか」 と行動事実を聞くことに徹し、 過去形で聞き出し行動事実を集めていく。 あまり昔のことを聞き出しても意味はないので、 過去1年間位を振り返ってもらい最も高い成果を上げた行動を洗い出していく。
このように苦労して作成したコンピテンシーを活用して採用、能力開発、 昇進、昇格、異動配置、賃金処遇など、役割実力成果主義人事賃金の基準として活用する。 コンピテンシー評価により、わが病院、施設の人材力 (強み、 弱みなど)、 これからのわが病院、 施設の人材育成、活用、金処遇戦略などの方向性や問題点を浮き彫りにすることができる。
大切なことはコンピテンシーの実施によって明らかになった数多くの経営課題に即応できるか、 否か、 コンピテンシー作成、 活用の真の目的が正にこの点にある。

5、 本書の出版に当たって

病院、 施設は人間関係業である。 もっと患者、 家族の痛みを心から理解し、 患者家族サイドに立った医療サービスのあり方を徹底して考える時期にきているように思う。
どこの病院、 施設にいっても医療、 介護サービスのメニューは大体同じ、 まったく同じメニューの治療や介護サービスの提供が一般的である。 企業の差別化が騒がれているが、 この産業は皆同じ仕事のやり方でも経営していける産業なのである。
医療統制経済の行政の中での医療行為であり、 決められた看護、 介護サービスの提供しかできないといえばそれまでだが、 行政コントロールの中で、 また与えられた裁量権の中で、 経営工夫も乏しく毎日メニュー業務を中心に仕事を続けている病院、 施設が多い。 メニュ―業務を毎日、 問題意識もなくやっていると誰でも思考停止となる。 また知らず知らずのうちに思考特性が欠けてくる。
例えば、 優秀と評価されている医師や看護師であっても、 患者、 家族から見るとまったく逆の評価になることがある。 また、 患者、 家族評価では 「職業人として、 社会人として、 まだ人間としての常識が欠けている。 口の聞き方が傲慢、 事務的である」 などという。
職業人としては立派であるとの評価も病院、 施設が変われば文化も変わるのでその評価も逆になることは往々にある。 患者家族に接するのは、 多くは新任や中堅の医師、 看護師である。 例えば、 新任の接遇態度一つが病院、 施設の社会的価値観に直結する。 たった一人の職員の行動が病院のレベル、 価値観として評価されるのである。
今回、 出版の運びとなったコンピテンシー活用の仕方に納められているコンピテンシーの例示は病院、 施設の人事改革の画期的な基礎ベースになると期待している。 行動を変えれば職員は必ず成長する。 職員の成長は病院の発展につながる。 また、 病院の発展は社会の価値付け成果 (社会貢献) を高めることにつながる。
さて、 今回の本書のポイントはコンピテンシーとは何か、 から始まり、 部課長を中心とする役割評価とその進め方、 コンピテンシーモデルの作成の仕方、 コンピテンシー活用の仕方、 コンピテンシーモデルを使用しての研修の進め方など、 コンピテンシー研修と活用のノウハウを満載している。 理事長、 院長、 管理監督者、 研修担当責任者、 必修の一冊である。
例示したコンピテンシーモデルはコンサル指導時に筆者がハイパフォーマーから面接インタビューで抽出したクラスター (評価項目)、 ディクショナリー (行動特性) であり、 わが病院、 施設でもすぐに使える価値あるモデルと自負している。
以上、 本書の成るに当たっては経営書院のスタッフ皆様のご支援とご協力のもとに出版の運びとなりましたことに感謝を申し上げる次第です。
最後に本書の理論構成は恩師である日本賃金研究センター代表幹事、 楠田丘先生の考え方を参考にして、 私の長年のコンサル指導の経験から得た持論で執筆したことを申し添えます。挿絵にご協力をいただいたのは、埼玉よりい病院鳥塚一博氏です。 心から厚く御礼を申し上げます。

2006 年 10 月吉日

齋藤 清一

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