人事の地図

インタビュー

「雑誌 × web」クロスインタビュー

Episode4

労働組合の衰退の原因は……

編集部

記事の中では、組合の衰退を救うのは、クミジョの台頭だとありました。そもそも労働組合が衰退していった原因は何があるのでしょうか。

本田氏

衰退の原因はたくさんあります。一つは労働者の変化です。昔は工場で働くいわゆるブルーカラーが多かったのですが、その人たちの賃金を上げるには、「自分たち」で頑張って上げるしかなかったんですね。一生のうちにこれぐらい稼げるという集団としての労働者のことです。そういった時代は労働組合は力を発揮しやすかった。

しかし時代は変わり、職業が多様化しています。ホワイトカラーが増え、サービス職種など、「自分の頑張り次第」で賃金を上げていこうと考える職種の労働者が多くなりました。労働組合に頼むのではなくて、自分たちの実力の話だろうというような風潮もありますよね。それに、そもそも労働組合って何をしてくれるところなんですかというのもある。これだけ毎日一生懸命自分の給料を上げるために働いている人に向かって「頑張ろう!」って言われても、「ちょっといいですわ」というような話にもなる。そうなると労働組合が力を発揮する場面も少なくなります。

それから日本は企業別組合が主流のため、「社員イコール労働者」です。そのため、経営学、特に人事管理、人的資源管理などが発達してくると、会社が先回りして労働条件等を改善するので、労働組合の要求としては肩透かし状態になることもあります。
労働組合がなくても会社でしっかり労働環境、賃金を整えますと経営者が言った場合、労働者がそれに乗ってしまえば、労働組合は「もう要らん」という話になりかねないですよね。

あとは、不甲斐ないと感じることもあるのではないでしょうか。何か起こったときにストライキするわけでもなく、労働組合を、組合費を払っているサービス業と定義すれば、組合の対応が悪ければ組合員はクレーマーみたいなってしまいます。そうなると「何をしてくれているんだ」「金ばっかり取って、あなたたちは一体、何者ですか」みたいに、もう一気に嫌いになっちゃいますよね。これだけでなく、労働組合の衰退の原因はたくさんあります。

オープンショップ制になったら、まっさきに女性が労働組合を離れていく

編集部

いろいろな要因が絡み合って、推定組織率の減少など、労働組合にとって厳しい現状があるのですね。いま、組合費の話が出ましたが、記事のなかでは組合費を払いたくないゾーンなどを省けば、リアル組織率は5%未満になると書かれていました。もう少しリアル組織率について教えてください。

本田氏

リアル組織率というのは、おっしゃったような組合費を払いたくないとか、できればすぐ脱退したいけどユニオンショップ制※8なので辞められないとか、そういった条件を外したとき、労働組合に残る人たちの割合です。リアル組織率の水準を知ることは簡単です。ユニオンショップ制をやめて、オープンショップ制※9にしたときに、組織率が何%になるかってことですから。

だけど日本はユニオンショップが多い国なので、現実的にはそうなってないだけで、これからはもっと衰退していくと思います。私が知っている労働組合では、内輪の会議レベルですが、組合解散っていうことも上っているところもある。そう考えると組合によっては解散前にオープンショップへの移行もあると思うんですよ。そのときにリアル組織率がわかります。そうなると17%も絶対あるわけなく、記事の中では5%未満と大げさに書きましたが、もっと低いかもしれない。

※8ユニオンショップ制:入社時に自動的に企業別組合員になる方式
※9オープンショップ制:自由意志により労働組合に加入する方式

編集部

5%よりも下回るかもしれないというのは、かなりショッキングな数値ですね。

本田氏

オープンショップになったら、まっさきに女性が離れていきます。女性組合員が全部いなくなれば、リアル組織率は1%になってしまいますが、そういった予測もしています。

編集部

男性中心主義の強い労働組合ですが、ここ数年の間に、連合は委員長に芳野友子氏が、全労連は議長に小畑雅子氏が就任いたしました。女性が代表になったことで、男性中心主義の組織構成は加速度的に変革し、クミジョが活躍する場面は増えていくのでしょうか。

本田氏

今のところ「表紙が変わって中身は同じ本」といった感じで大きく変わる気配はありません。ただ少しやりづらいのは、男性も女性も分け隔てなくっていう考え方があるので、女性に会長が変わったからといって、女性らしさを全面に打ち出して女性に対する施策をやり出すかっていえば、それは無理な話なんですよね。

ある程度まで、それまでの男性委員長と同じような流れで進めていくので、あまり大きな前進はないと思います。仮に女性の取組みを全面に進めたとしたら、組織の中で割れますから。それに従来通りというのも組合の流儀としてあります。物事を変えるときにみんなが納得して、最後的に決議をとらなくてはいけないという組織の不利さがありますよね。

それからもう一つ、これは落とし穴なのですが、長期的にそのポジションにいられないというのも大きい。だいたい2年、長くても4年と、任期が見えている人たちが構成する組織ですから、今までと同じでいいじゃないか、という惰性が入ります。そこが企業とは違う。すべての人たちが任期付きで、そんなに大っぴらに変革を起こせるかといえばできない。

ただトップが変わったことによって、いろいろな可能性はあるということは言えますね。だけどそれが今のところ見えてきません。相変わらず賃上げ5%とか、政党とのつながりをどうするかなど、今まで通りの話を会長が変わってもしている。
決意としてはガラスの天井を打ち破ろうとか、非正規の待遇改善を掲げていますが、そこは少しシビアに見ないといけない。まだ検証もできないぐらいですからね。あまり変わっていないんですよ。

編集部

なるほど。組合の流儀もクミジョの活躍を阻む要因になっているのですね。

Episode 5 へつづく