人事の地図

インタビュー

「雑誌 × web」クロスインタビュー

Episode1

新しい分野で働く人たちに興味があった

編集部

4回目となるクロスインタビューは、労働組合のクミジョ※1を研究されている本田一成先生にお話をうかがっていきます。人事の地図12月号の時事探訪では、労働組合をテーマに、『人事部と「クミジョ」の不都合な真実』をご執筆いただきました。

2022連合中央女性集会の様子。本インタビュー後、パネルトークセッション「オッサンの壁とクミジョの壁・崖」にパネリストとして登壇されました。

今回は趣向を変えて、産労オフィスから飛び出し東京ビックサイトの国際会議場からお届けいたします。というのも、先生はこのインタビューのあと、この会場で開催される労組のナショナルセンター「連合」の中央女性集会に登壇されます。テーマは12月号の時事探訪と同じく「クミジョ」。

本日は先生がクミジョを研究テーマとしてフィーチャーした背景や、姉妹紙『賃金事情』で連載をいただいている「タイムトラベル労務事情」の軸をなす労働組合についてお話をうかがってまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

※1クミジョ:労働組合の女性の役員、専従職員、役員候補者、関係機関勤務者、組織内議員など広く労働界の女性を指す愛称

本田氏

はい、よろしくお願いします。

編集部

まずは、本田先生ご自身のことからお話を聞かせていただこうと思います。大学で教鞭をとられていて、経営学を研究テーマとされていらっしゃいますが、具体的にどのような研究をされていて、どんな人なのか教えてください。

本田氏

実はですね、私は学会などで皆さんからスーパーマンって言われているんです。

編集部

えっ スーパーマンですか……。

本田氏

と言っても、アメコミのスーパーマンではありませんよ(笑)。なんで「スーパー」かといえば、スーパーマーケットやチェーンストア、フードサービスビジネス、外食産業など、そういったところの労働問題をずっと研究してきたからなんです。

編集部

スーパーマーケットのスーパーで「スーパーマン」ってことですか(笑)。

本田氏

はい。そういうことです(笑)。これまで研究したテーマは多々あります。スーパーなどはパートタイマーが多く働く業態ですよね。なかでも主婦の方々がパートとして働く「主婦パート」が多い。そのため主婦パートをテーマとした研究もしてきました。
また、日本はチェーンストア業界の労働者を組織化して、労働組合をたくさん作った類まれな国です。そこで、チェーンストアの労働組合がどのように形成されたのか、労働組合を結成する人たちに焦点をあてた研究もしてきました。
これらはほんの一例ですが、スーパーやチェーンストア業界の労働問題を主軸にしながら、さまざまなテーマについて研究をしてきたわけです。

編集部

チェーンストア業界の労組結成の歴史は、姉妹紙『賃金事情』で連載いただいた「タイムトラベル労務事情」や、現在連載中の続編「タイムトラベル メンバーシップ型雇用 エピソードゼロ・佐藤文男伝」の主要なテーマとなっていますよね。
そもそもの質問になりますが、なんで「スーパー」だったのでしょうか。

本田氏

それは大学生のときに流通産業を研究されている先生のゼミにいたことが大きいですね。
あとは修士論文を書くときに、アメリカの裁判の判例集を使って雇用差別の問題を取り上げたのですが、その判例集の中でアメリカのスーパーがたくさん出てきたこともきっかけです。研究テーマとして「こりゃええわ!」と(笑)。博士論文もチェーンストアの国際比較で書きました。

それと、日本にチェーンストアという業態が出てきたのは1960年代です。それまで百貨店や小売店、中小小売店、商店街の小売店しかなかった世界に参入してきた新しい分野で働く人たちの労働問題にすごく興味がありました。
経営学的には、今はもう「チェーンストア理論」※2というのがあたり前になりましたが、私が研究をスタートした1980年代にはまだ労働問題と絡ませることは少なく、新しい分野を切り開いていく気持ちもありました。ある意味、周りからは試されていたと思います。

※2チェーンストア理論:10店舗以上の多店舗経営を本部主導で効率的に運営するための手法

チェーンストア業界最大のインパクトは「パートタイマー」の登場

編集部

「タイムトラベル労務事情」では、日本のチェーンストア黎明期で起きた、腱鞘炎対策などをはじめ、さまざまな労働問題を取り上げていただきましたね。それにしても1980年代からだと研究歴は30年近くになりますね。この30年間で業界は変わりましたか。

本田氏

そうですね。動態的にみると、チェーンストア理論自体は変わってないのですが、いろいろな業態に理論が浸透したことが大きな変化といえます。最初はスーパーだったのが、総合スーパーや、今ではドラッグストアや家具など、食品だけじゃなくて非食品にもチェーンストア理論は入ってきました。それからこの30年でコンビニなんかも大きく成長したので、今はもう飽和状態ですね。

編集部

なるほど。チェーンストア理論は、この30年で多様な業態に浸透したものなんですね。新しい分野が参入し、浸透していく過程で、そこで働く労働者の働き方にも変化はあったのでしょうか。

本田氏

やっぱりパートタイマーの登場でしょうね。最初は正社員の週休二日制の代替要員のようなかたちで考えられていましたが、非常に仕事もできるし、ニーズもあったために、爆発的に増えていきました。増えていくなかでパートタイマーの位置づけも変わっていきます。優秀な人材ということもあり、正社員の補助から正社員の代わりを務めるようになっていきます。チェーンストアの現場では、正社員の数倍がパートタイマーです。例えば全従業員が2万人ぐらいだとしたら1万8,000人ぐらいがパートタイマーで、残りが正社員といったようなバランスです。これは劇的な変化だと思います。

編集部

先生のご著書『主婦パート 最大の非正規雇用』(以下、『主婦パート』)に書かれていた「パートタイマーの基幹化」※3につながる話ですね。『主婦パート』を読んでから、スーパーで買い物をするときに、従業員の方に目が行くようになりましたよ。

※3パートタイマーの基幹化:企業の基幹業務をパートタイマーが担うようになり、業務が「基幹化」されること。質的な基幹化と量的な基幹化の2種類がある。業務が基幹化しても待遇が正社員並に改善されるわけでもなく、パートタイマーとしての待遇のままであるといった問題をはらむ

Episode 2 へつづく