人事の地図

インタビュー

「雑誌 × web」クロスインタビュー

Episode2

『News & Report』は人事部の言いたいことを代弁している

溝上氏

昔からのイメージってのは、確かに刷り込まれちゃって難しいですよね。そういうところも『News & Report』では追いかけてきましたねえ。

編集部

弊社の『賃金事情』で連載している『News & Report』ですよね。毎月、経済や労働の最新事情について、匿名も含めていろんな方の話を紹介しながら追いかける企画ですけれど、あれってどのぐらい前に始まったんですか?

溝上氏

前身になる企画が1997、8年ぐらいだと思いますね。当時の編集長に取材に来たら、「取材だけじゃなくてうちの原稿も書いてくれ」って言われて、逆に取り込まれちゃったんです(笑)。
この企画が始まって、人事部に対する取材がやりやすくなりましたね。そのあと大体同じ時期に労務行政でもお声がけいただいて。そうすると一応「表」の取材でいろんな人事制度を取材するじゃないですか。

編集部

「表」(笑)。

溝上氏

はい。表取材のついでにいろいろな話を聞けて、そのいろいろな話のネタをもとに週刊誌やビジネス誌で書いて。1 粒で二度美味しいってやつですね(笑)。
そうこうしていると、表の取材しか受けない人もいれば、匿名なら OK だよっていう「裏」もできてきたりして、いろいろな会社の人事部とのネットワークが組みあがっていくんです。

このテーマに関して話をしてくれる人は――っていうのが出来上がって、こっちも聞かれると「こんな話があったよ」って、情報が相互にリレーしていく。裏というか、飲み屋で知り合ったりもしましてね。

編集部

ありますね。私も旅行先で思い付きで入った居酒屋で飲んでいたら、隣に座った人がかなり大きい会社の OB で、意気投合してぜひ取材させてくださいなんてこともありましたし。
そういう「縁」というのもありますよね。

溝上氏

プライベートな空間だから作れるネットワークもありますね。正面から取材して、それは
それでいい話が聞けるんだけれど、皆さん構えちゃいますから。

編集部

ちなみに『News & Report』はお名前を出さないけれど、「○○業大手の人事部長は~」なんてコメントも結構載りますよね。

溝上氏

本音ベースで喋っていただくというか、「自分のところの社員には言えないけど、社会に向けて言いたい」という人事部長さんは結構いらっしゃるんですよ。人事部長ってどうしても経営と従業員の間に挟まれた中間管理職的な立場なので。 そういう意味で、社会に対してや、社会を通じて自社の社員に言いたいことを僕が代弁しているというのはありますね。

ある新聞の連載で、銀行の人事の人から聞いた情報をもとに「銀行の世界では出世コースのセオリーが変わってきた」という記事を書いたんですが、そうしたらある銀行の広報部から連絡が来てね、こんな情報どこからでてきたんだって言われたんで、お宅の人事部から聞いた話ですと返したら黙っちゃいまして。

編集部

ちょ……(笑)。

溝上氏

いや~、迷惑かけるかなと思ってその情報提供先の人に連絡を取ったら、「いやあ、あれこそ溝上さんのペンを通じて言いたかったことなんです。全然気にする必要ありませんよ」と言われたこともありましたね。

編集部

まあ、内部告発とかそういうダークな話ではないですけど、業界のお話なんかはなかなか記名だと言いづらいお話ではありますよね。弊社の『News & Report』に関しては、そういうところも企画としての個性になっていますので、何か物申したい人事部の方は、ぜひ溝上さんにコンタクトを取っていただきたいと思います。よろしくお願いします(笑)。

潜入取材と飲み屋の出会い

編集部

ジャーナリストとして 30 年。今までの仕事で、こんなエピソードがあったとか、すごく記憶に残っていることはなんでしょう。

溝上氏

やっぱり極めつけは潜入取材ですね。2000 年ぐらいでしたか、追い出し部屋の潜入取材にいったんですよ。
当時、キャリアデザイン室とか人材開発室といった名前で、実質的には何にも仕事をさせず、自分から辞めるように仕向ける「追い出し部屋」というのがありまして、あるゲームメーカーに行ったんですが、途中で迷っちゃいましてね。

焦って部屋を開けたらゲーム開発中の若い人と目があっちゃって、「すいません人材開発室はどこですか」って聞いたら、すぐ近くなんです。つまりバリバリ仕事してる人の近くに追い出し部屋があるってことですよね。そんなことを思いながら部屋に入ったら、机とパイプ椅子がコの字型に並べてあって、それ以外本当に何にもない。

そこに 10 数人座っていて新聞とか本を読んでるだけなんです。そんな空間で皆さんボーッとしてる感じで。いやこうやって閉じ込められたらそりゃたまらないだろう、人権侵害もいいとこだなと思いましたね。

あと、倒産した企業の記事を書いたことも印象に残ってますね。
ある時、荒川区の下町で戦前からガラスを作っていた中小企業が倒産したんです。倒産したけど社員たちで再建しようって話で、埼玉に引越して営業を再開するんですが、なかなか仕事を受注できない。そんな時に、たまたま居酒屋に入ったら、その会社の営業をやってる方が隣で飲んでたんです。

編集部

ここでも居酒屋ですか(笑)

溝上氏

何度か出くわすうちに、今再建中でスポンサー企業を探してるんだ、って話を聞きましてね。その時ちょうど、プレジデントで「復活」というテーマで何か企画やりませんか、って言われてたんで、それでピッタリだと思って取材したんですよ。

実は、その会社が手掛けてたのは、ちょっと特殊なガラスだったんですよね。
そのうえプレジデントというまさに経営者が読む雑誌で、しかも結構大きく取り上げたものですから、読んだ経営者の人から問い合わせが来たりして、まさしく「復活」できたと。それでその会社にすごく喜ばれましてね。あの時は記者冥利に尽きるなと思いました。

編集部

それは確かにうれしいでしょうね。溝上さんがずっとやってこられた中で一番嬉しかったり楽しかったのはどういう時ですか? やっぱり取材している時ですか?

溝上氏

そうですね。やっぱり取材して、それなりに反響があると嬉しいですよね。週刊誌の場合は、景品付きのアンケートがあったんです。正直人事の記事なんて、エロくもない地味な記事じゃないですか。それでも結構支持をもらっていたみたいで、ビリじゃなかった(笑)。

その後もあの週刊誌の記事読んでましたよって結構言われて、楽しかったり達成感はありましたけど……やっぱり記事を書いた後の一杯が一番ですかね(笑)。

Episode 3 へつづく