識者・人材教育コンサルタントに聞く 人材育成のあり方と育成施策

回答者
氏名 中井 嘉樹
所属 フェアウィンド
肩書き・役職 代表取締役
専門分野 人材育成 経営管理 組織開発 マーケティング 

T 人材育成のあり方・スタンスについて

問1
社会や経営環境の変化に伴い、組織と個人の関係が変わりつつあるいま、企業における人材育成のあり方やスタンスの置き方にも、大きく2つの考え方が現れています。以下の3つのテーマについて、どのように考えていますか。2つの選択肢うち、あなたの考えにより近いものに〇をつけ、その理由や考え方についてご記入ください。
(1)
人材育成は「企業責任」か「個人責任」か――能力開発の主体・責任について
A 企業が責任をもって行うべきである
B 個人が自分の責任で行うべきである

【回答】

  1. Aに近い
  2. Bに近い
【その理由や考え方についてご記入ください】

会社は本来は自分の能力を発揮する場であって、そのための能力は個人に由来することになると考える。もちろん、新入社員研修や新任管理者研修に代表されるような基礎的な研修や、あるいは階層別研修等については、基本的な知識付与のために企業が行うものと思うが、それ以上の個人の能力アップの責任は各個人に帰するものであり、自分で自分に投資を行っていく姿勢が基本スタンスと考える。

(2)
育成対象は「選抜重視」か「全体底上げ」か――育成対象者について
A 社員を選抜して育成するべきである
B 社員全体の底上げをはかるべきである

【回答】

  1. Aに近い
  2. Bに近い
【その理由や考え方についてご記入ください】

スタートラインに立つに際しての基礎的な教育(新入社員研修や新任管理者研修等)は、企業が全対象者に対して一律に行うといったスタンスからみれば「全体底上げ」ということになる。ただし、スタートを切ってからは各個人の責任であり、そのための努力や自己投資は個人によるものであ。とはいえ、自己投資をしてでも勉強したいという社員のために、そのための環境整備(例えば、通信教育の補助等)やチャンスを準備しておくことは必要。同時に、自分の能力を高めたいと思っている社員からの個別相談を受け、能力アップのためになにをどう学んだらよいのかといったような、個別的なアドバイスを行うことも社員育成の一環として求められることになる。

(3)
育成の施策は「短期重視」か「中長期重視」か――育成施策の考え方について A 変化に対応するため、なるべく短期的な成果を重視した育成施策を行うべきである
B 変化に関わらず、なるべく中長期的な成果を重視した育成施策を行うべきである

【回答】

  1. Aに近い
  2. Bに近い
【その理由や考え方についてご記入ください】

これはバランスが大切と思うので、どちらか一方を選択することは難しいと考える。教育効果という点から考えれば、教育内容によってはすぐに効果が表れるものもあれば、逆に数年を経てはじめて教育を受けた効果に気がつくものもあるからである。例えば、スキル的な教育であれば短期的な成果が目的になるし、考え方や価値観にまで入り込む研修であれば長期的な視点に立っての教育になる。

U 人材開発部門が抱える問題点について

問2
日ごろの指導等を通じて感じる、企業の人材開発部門が抱えている問題点は何でしょうか。該当すると思われるものを3つまで選択して○をつけ、そのうち最も重要と思われる項目について、お考えやコメントをご記入ください。
  1. 経営トップとの意思疎通が弱い
  2. ミッション・役割が不明確
  3. 部門の重要性が社内に認識されていない
  4. 人事部門との連携が不十分
  5. 現場の教育ニーズ把握が不十分
  6. 事業展開が速く、必要とされる能力要件に教育施策が追いついていない
  7. 前例踏襲型の研修になっている
  8. 外部研修機関頼りになっている
  9. 研修効果の測定が不十分
  10. 教育予算不足
  11. 業務が多忙である
  12. 人材開発スタッフ同士の情報共有・意見交換が不十分
  13. 人事異動が頻繁でスタッフの知識・経験が深まらない
  14. スタッフが現場の実情を理解していない
  15. スタッフの能力開発が不十分
  16. スタッフとして適性のある人が配置されていない
  17. 人材開発部門のノウハウの伝承がうまくいっていない
  18. その他()
【その理由や考え方についてご記入ください】

教育を受けることのできる価値・ありがたさを理解していない社員が多いというのが、人材開発部門が抱える悩みではないのかなと思う。教育の価値やありがたさが実感できていないということは、これまでに受けた教育を十分に活かしきれていないということの現れでもあり、ひいては教育を行っている部門の存在価値そのものが理解されていないということにもつながっていく。このような流れから、「部門の重要性が社内に認識されていない」ということが問題点ではないかと思う。

V 効果的な育成施策について

問3
人材開発が抱える課題は多岐にわたっていますが、以下の古くて新しい4つのテーマについて、どのような育成施策が最もふさわしいとお考えですか。
(1)
ミドル・マネジャー(管理者)の育成施策
(2)
人材開発スタッフの育成施策
(3)
研修ニーズの把握の仕方
(4)
研修効果測定の考え方と方法

 各テーマごとに、重要・効果的だと考える育成施策や方法を選択肢からそれぞれ3つまで選択して〇をつけ、その理由や考え方、具体的な方法等についてご記入ください。

(1)ミドル・マネジャー(管理者)の育成施策について(3つまで選択)
  1. 管理職研修(Off-JT)
  2. 自己啓発支援
  3. 国内留学
  4. 海外留学
  5. 海外研修
  6. ジョブローテーション
  7. 子会社・関連会社への出向
  8. 目標による管理(MBO)
  9. 社内公募・FA制度
  10. 自己申告制度
  11. ヒューマンアセスメント
  12. プロジェクトへの参加
  13. アクションラーニング
  14. 社外セミナー・講座への参加
  15. eラーニング
  16. 異業種交流研修
  17. 管理職任用前研修
  18. 経営幹部との定期懇談
  19. その他()
【その理由や考え方、具体的な方法等についてご記入ください】

ベースを作る「管理職研修(Off-JT)」とさらなる能力アップのための「自己啓発支援」が教育の二大柱と考える。管理者育成の場合は、そこに加え「経営者目線」の育成が必要になってくる。ただ、管理者といえども現実には経営者ではないので、経営者とまったく同じ意識になることは難しいと思うが、管理者である限りは少なくとも、「経営者ならこう考える」、「経営者ならこう行動する」という経営者の立脚点を理解しておくことが必要だ。この視点を醸成するための手段の一つとして「経営者との定期懇談」が挙げられる。

(2)人材開発スタッフの育成施策について(3つまで選択)
  1. 人材開発スタッフの能力要件の策定
  2. 人材開発スタッフの教育計画の作成
  3. OJT計画の作成・実施
  4. 外部研修機関のセミナー・講座受講
  5. 自己啓発への支援
  6. ジョブローテーション
  7. 人材開発部門への長期的な配置
  8. 資格取得の援助
  9. 異業種交流会への参加
  10. 目標による管理(MBO)
  11. 人材開発スタッフ同士での情報共有
  12. 現場との情報交換
  13. その他()
【その理由や考え方、具体的な方法等についてご記入ください】

人材開発スタッフの顧客は、会社(経営陣)と現場になる。したがって、まずは自社理解が第1と考える。管理者と同程度の経営者目線を持つことが重要になるので、経営者との懇談等も必須の育成施策になる。次は、現場理解のためのスキルを高め、現場に接し、今現場で起きている事実を理解できるようになること。最後に、それらのニーズに対して最適な教育メニューを提供する必要があるので、そのための知識(教育コンテンツ・教育手法・他社の成功例等)の付与。

(3)研修ニーズの把握の仕方について(3つまで選択)
  1. 経営戦略上の要請に基づく人材開発計画
  2. 経営トップからの情報収集
  3. 人事部門との情報交換
  4. 現場の管理者からの情報収集
  5. 社員からの情報収集
  6. 顧客からの情報収集
  7. 外部講師・外部研修団体等からの情報収集
  8. 研修後のアンケート調査
  9. 従業員満足度調査
  10. 人材開発委員会など特別機関の設置
  11. その他()
【その理由や考え方、具体的な方法等についてご記入ください】

教育ニーズは、会社の求める人材レベルと現場における人材レベルの乖離にある。会社の求める人材レベルは、中長期計画、あるいは短期計画の推進状況と達成見込みから導き出されるので、研修ニーズを把握するためには、会社の求める人材レベルと現場における事実としての人材レベルを知る必要がある。したがって、経営トップが考えていること、目指していることを理解し、同時に現場における現実を把握することが必要である。社内の現場の実情は管理者に聞き、社外の現場の実情は顧客から聞くことによって、事実を正しく理解することができる。

(4)研修効果測定の考え方と方法について(3つまで選択)
  1. 研修の観察による把握
  2. 研修後のアンケート
  3. インタビュー(受講者、上司、研修講師)
  4. 理解度テストの実施
  5. 成果発表会
  6. 効果測定のためのフォロー研修
  7. 独自測定ツールの開発
  8. 既存測定ツール・メソッドの活用(具体的に:)
  9. 外部機関への委託
  10. その他()
【その理由や考え方、具体的な方法等についてご記入ください】

短期集中的に行われるごく一般的な企業教育は、その目的や対象者のレベル、あるいは提供する教育の難易度や内容そのものが異なっており、短期的な成果を図るものもあれば、長期的にしか効果が表れないものもある。あるいは、会社としては大事な教育であっても、受講者個人個人にとってニーズの強さにバラツキがあり、あるいは、自分の所属する現場ではほとんど関係ない場合もある。したがって、一律固定的な手段で効果を測定することは難しい。こういったことを踏まえ、研修の効果測定について大きく2つに分けて考えれば、知識やスキルの付与的な研修(例えば、ITスキル研修等)については、学校教育と同じように理解度テストの実施である程度の教育効果は測れると考える。それ以外の教育については、実施者である研修講師の感想や研修同席者の感想が妥当な効果測定と考える。経験豊富な講師であれば、研修実施中の反応や手応えでおおよそは把握できる。

W 今後、求められる人材開発スタッフ像

問4
今後、求められる人材開発スタッフ像とはどのようなものでしょうか。取り組み姿勢、意識や能力などについて、お考えやアドバイスをご記入ください。

教育スタッフは、次の5つのスタンスが必要である。
・人材戦略そのものを見据えて、教育を有効なツールとして位置づけている
・教育の価値を信じ、信念を貫く意思を持っている
・他部署、特に現場部門の管理者とのコミュニケーションに優れている
・教育の実施場面から多くの課題を拾い上げ、次へのテーマにつなげている
・外部の教育会社や教育コンサルタントとの信頼関係を築くことができる

X 企業の人材育成に関わるにあたって「大切にしていること」

問5
あなたが企業の人材育成に関わるにあたって「大切にしていること」は何でしょうか。

人材力を高めるためには、個人能力と組織能力という二方向からのアプローチが必要。受講者の成長と、それによる企業変革の加速。この2つがデュアル(二元的)に流れる教育を行うこと

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