事例 No.177 小太郎漢方製薬 特集 広がる働き方とその人材育成
(企業と人材 2019年2月号)

有期社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

雇用形態にかかわらず全社員に共通した教育制度で
パートタイム社員も正社員と同様の研修に参加

ポイント

(1)雇用形態にかかわらず、全社員に対して職場に応じた同一の教育研修を実施。すなわ ち、パートタイム社員にも、同部署の正社員と同様の教育研修を行うこととなる。

(2)すべての研修プログラムについて、対象となる社員全員の受講を義務づける。参加でき なかった社員には、講義DVDの視聴による振替受講を義務づける。

(3)年に2回の人事評価に基づく賞与や昇給、表彰制度のほか、パートタイム社員から正社 員への転換制度など、パートタイム社員のモチベーション向上につながる仕組みが充実し ている。

安全安心にこだわり、漢方薬を多くの人に届ける

小太郎漢方製薬株式会社は、主に漢方医薬品の製造・販売を行う医薬品メーカーである。本社および物流拠点を大阪府に、工場・研究所を石川県に、営業拠点を全国7カ所に持っている。
1957年、日本で初めて、生薬から有効成分(エキス)を抽出して飲みやすくした漢方エキス製剤(35処方)の製造・販売を開始。1967年には、漢方エキス製剤では他社に先駆け、同社の5処方6品目が初めて健康保険薬価基準に収載された。また1986年に、医療用漢方エキス製剤として初めてのカプセル剤を世に送り出した。近年は、長年にわたって培った漢方のノウハウを活かして、漢方専門薬局向けに、業界初の製品を多数発売している。
東洋医学は、患者の自覚症状や症候を重視して治療するので、自律神経にかかわる更年期障害などの改善に漢方薬がよく使用される。また、漢方薬は疾病の予防的側面をもっているため、超高齢化社会の日本においては、さらにニーズが高まっていくことが期待される。
このことは、医薬品の生産金額全体に占める漢方薬の比率が2008年の1.9%から2015年には2.5%と、少しずつではあるが、着実に伸びていることが示している。
社是は、「漢方をよりよくより多くの人に」。1929年に大阪の地に上田忠太郎が「上田くろやき店」を創業。家業を継いだ上田太郎は1952年「株式会社くろやきや小太郎」を設立した。以来、安全安心にこだわり、漢方薬をより多くの人びとに届けようという姿勢は変わらない。
前述のとおり、漢方薬が身体全体の症状や症候を重視する点、病気ではないけれど、病気に向かいつつある状態を予防するという特性上、製品の効果や使用法を理解してくれる漢方専門薬局や漢方メインで診療を行う医療機関での活動を重視している。したがって、営業職であるMR(医薬情報担当者)は、漢方の本質と最新の医薬情報を提供するために、専門的知識を日々習得していかなければならない。
また、製品の安全性は、同社にとって生命線ともいえる最重要事項だ。原料となる生薬の調達にあたっては、最新の測定装置を駆使して万全の検査体制を整えるとともに、石川県白山市の美川事業所(工場と研究所を併設)にて、原料である生薬の検査から、漢方エキス抽出、製品の包装に至るまで、すべてを一貫生産している。
雇用形態にかかわらず、開発・生産・品質保証に携わるすべての社員の意識と行動が、製品の安全性を左右することになる。
こうした背景から、同社では、以前から「人が会社をつくる」という考えのもと、人材育成に力を注いでいる。詳細は後述するが、正社員のみならず、嘱託社員(いわゆる契約社員)やパートタイム社員にも、積極的に活躍推進を図っているのが大きな特徴だ。
厚生労働省による「パートタイム労働者活躍推進企業表彰」では、平成29年度の奨励賞を受賞した。本稿では、同社におけるパートタイム社員の育成施策について紹介する。

パートタイム社員がさまざまな職場・多様な業務で活躍

全社員の2割近くを占めるパートタイム社員は、1日6時間・週5日勤務が原則で、主に正社員の補助的役割を担っている。美川事業所勤務者は、製品の箱詰め・器具洗浄・文書整理など、本社・物流・営業所勤務者は、受発注業務をはじめとする事務作業(補助)全般に従事し同社の運営を支えている。約20年前と現在の従業員数はほとんど変わっていないが、正社員が9割近くを占めていた20年前に比べ、現在は7割という比率になっている。その要因として、次の二つのことがあった。
1つ目は、漢方薬の副作用報道である。1980年代後半から多くの医療機関で肝機能障害に投与されてきた小柴胡湯の副作用報告が、1996年3月の全国紙朝刊に掲載されたことである。これまで漢方薬は安全という「安全神話」が一挙に崩れ落ち、翌年に同社は、いままでに経験したことのない赤字決算になった。経営トップは、従業員の雇用を守るため、役員報酬カット、労働組合の同意を得たうえでの従業員給与・賞与カットで急場をしのいだ。また、経営再建まで人員は原則不補充とした。以後、経営危機の打開策として、営業拠点のスリム化、工場・品質管理部門の統廃合を行った。
2つ目は、IT(情報技術)革命である。同社は1980年代からIT化に注力し、自社開発も行っていた。そうした背景から、1990年代半ば以降は、パソコンの普及に伴う事務部門でのIT化に積極的に取り組み、機械の操作方法さえ修得すれば、事務熟練者でなくてもミスのない効率的な仕事ができるシステムを構築した。これにより、事務部門の正社員定年退職者の補充をパートタイム社員で対応することが可能になった。
こうしたことから、かつてパートタイム社員は工場における製品包装工程など、限られた業務で活躍していたが、嘱託社員も含めて各部署で幅広く活躍するようになった。
同社管理部総務課次長の鳥谷泰史さんは、次のように話す。
「パートタイム社員を安価な労働力と考えているわけではありません。弊社は早くから多様な業務でのシステム化を進め、だれもが均一の仕事がこなせるような環境を整えてきました。パートタイム社員の増加は、その結果なのです」
また、2008年4月の「改正パートタイム労働法」施行前年の2007年に、各部・各課の業務全体を個人別に洗い出した。まず、同じ職場で重複する業務があっても、責任の重さ、担当業務の内容や比重を確認し、不透明だった雇用区分ごとの職務を明確に区分した。このように、区別をつけるべきところを明確にして、雇用区分によって不公平感が生まれないように配慮しているという(図表1)。

図表1 小太郎漢方製薬の雇用区分

小太郎漢方製薬の雇用区分

そのほかにも、賃金制度の体系化、雇用転換や評価制度導入など、社員全体の労働環境を改善してきた。現在、パートタイム社員の平均勤続年数は10年を超え、高い定着率を実現している。

雇用区分にかかわらず、教育研修は全社員を対象

同社の教育研修制度は、雇用形態にかかわらず、全社員に共通している。すなわち、パートタイム社員にも、同じ部署に所属する正社員と同様の教育訓練を行うこととなる。雇用区分ごとに職務を明確に分けているが、どの社員も現場で必要な存在であり、スキルアップが期待されている。
「とくに工場で生産にかかわっている部門や品質管理部門は、正社員であってもパートタイム社員であっても、大きなミスがあれば、商品の回収につながります。当社ほどの規模だと、それが会社の存立そのものを脅かすことにもなりかねないので、全社員に徹底した教育を行っています」
もう1つの特筆すべき点は、どの研修プログラムでも必ず対象者全員の受講を義務づけていることだ。全員の出席状況を必ずチェックし、仕事や家庭の都合などで研修に参加できなかった社員には、講義の様子を録画したDVDの視聴により、振替受講することを義務づけている。これも全社員を必要な戦力としてとらえていることの証といえよう。
同社には、全社的な人材育成を推進するための中核組織として、「教育研修委員会」があり、全社員共通の教育スケジュールを組んでいる。同委員会は会長・社長をはじめ、各部門の幹部クラスで構成され、毎年2月に次期1年間の教育スケジュール表を策定する。期が始まると、四半期に一度、委員会を開催し、受講者の理解度はどうであったか、各研修の良かった点・改善点等の課題を抽出して次に活かしている。
同社の主な教育内容は、1全社教育(自社製品に関するもの、倫理・コンプライアンスなど社会人マナー関するもの)と、2各部門に応じたものになっている(図表2)。

図表2 主な教育内容

主な教育内容

各部門に応じた教育には、本社全部署・課の従業員を対象とした「本社スタッフ教育」、営業職を対象とした「MR教育」、工場・研究所部門へのGMP(GoodManufacturingPractice)省令に基づく「GMP教育」があげられる。GMP省令には医薬品を製造する者が守るべき内容が定められており、工場・研究所の全従業員を対象に定期的に教育を実施している。
一方、全社教育は、倫理・コンプライアンスなど、社会人として遵守しなければならないこと、当たり前のことを継続して実施している。
内容は「挨拶」、「身だしなみ」、「ほう・れん・そう」、「コンプライアンス」、「正しい敬語」、「メールマナー」、「メンタルヘルス」、「ハラスメント」など。
本社では、パートタイム社員を含む全社員に対して、年4回、研修を実施している。そして、毎年2月に、1年間の復習を兼ねた確認テストを行っている。
また、MR(医薬情報担当者)は営業車でお得意先を訪問することから、営業拠点では、内勤のパートタイム社員も含み、年に2度「安全運転啓蒙DVD」を視聴してレポートを提出している。
同社には、人数は少ないものの、パートタイムの営業職として、漢方専門薬局を中心に訪問するFA(FieldAssistant)が4名いる。
仕事内容は、新製品や研究会の案内、商品の陳列提案、先生のご要望等を確認して上席に伝えることである。正社員(MR)との違いは、クロージング(お得意先との契約締結)をしないことである。
しかしながら、漢方専門薬局の先生と面談するには、一定の薬学知識と漢方知識をもっておくことが必要である。
したがって、正社員のMRと同様に、毎月の「拠点内MR教育」と年に2度の「集合教育」に参加し、薬学知識や漢方知識を高め、教育終了後の確認テストも受けている。なお、昨年から1人のFAが登用嘱託社員に転換した。
また、同社では、GMPに基づき漢方薬を製造しているため、工場・研究所の勤務者は、医薬品の製造および品質管理に関する基準の教育を実施することが義務づけられている。そのため、同社の美川事業所では、毎月1回の全体朝礼時に、パートタイム社員を含む全社員を対象に教育を実施している(図表3)。

図表3 GMP 教育のスケジュール(2018 年度)

GMP 教育のスケジュール(2018 年度)

前述したように、全員の出席状況を必ずチェックし、仕事や家庭の都合などで研修に参加できなかった社員には、講義の様子を録画したDVDの視聴により振替受講することを義務づけている。
また、8月のお盆休暇前日と12月の年末年始休暇前日には、終日「全体集合教育」を実施している。
直近の品質情報の朝礼では、包装課のパートタイム社員が、その原因と考えられる情報提供をしたことで、工程改善につなげることができたという事例があったそうである。

人事考課や表彰制度にも社員を大切にする姿勢現れる

同社では、正社員だけでなく、嘱託社員・パートタイム社員にも人事考課を年に2回(3/16~9/15、9/16~3/15)実施している。
考課項目は、職務、執務態度、能力の合計10項目としており、項目ごとに5段階で考課を行う。
直属の課長が一次考課を行い、さらに上席管理職が二次考課を行う。結果は賞与や昇給に反映され、また登用制度(パートタイム社員→嘱託社員→正社員)の転換候補者になりえるかどうかの判断にも用いられる。
考課方法は良い点や優れている点を積み上げていく加点方式であることが特徴である。会長・社長が確認して最終決定することから、各考課者は項目ごとに具体的なコメントを記載している。
また、2009年度に導入された「社内表彰制度」も、正社員だけでなく、嘱託社員・パートタイム社員を含む全社員が対象となっている。
表彰は各部(管理本部・研究開発本部・医薬事業部・生産事業部)で月ごとに実施される「部門長表彰」のうち、とくに優れた案件については、年に2度開催される「賞罰委員会」という登録会議のなかで審議され、承認されれば、「全社一般表彰」となる。
2017年度年間の「部門長表彰」では57案件・102名が受賞。そのうち、パートタイム社員は6案件・15名が受賞した。このなかには、増産に伴う時差出勤(早出・遅出)を3週間にわたって対応した10名が含まれている。
さらに、そのなかから3案件・5名が「全社一般表彰」され、表彰状と賞金が授与された。表彰内容は、1新製品の販売促進物作成、2管理書類の不備発見、3異常カプセルの発見であった。
これらは、同社の全社員教育による賜物であることはいうまでもないが、急な時差出勤であっても対応するパートタイム社員が多数いることから、会社とパートタイム社員との信頼関係が構築されているといえよう。

正社員への転換制度等、キャリアアップを支援

雇用形態によって職務を区分したこと、評価制度の導入など、社員全体の労働環境を改善し、待遇面の充実をはかったことで、同社パートタイム社員の平均勤続年数は10年を超えている。2018年4月1日施行の5年を超える有期雇用契約者の「無期労働契約」は、対象者全員が転換している。
パートタイム社員から登用嘱託社員に、登用嘱託社員から登用正社員への転換制度を就業規則に明記したのは2010年であるが、実施は2004年からである。2004年から2017年までに、パートタイム社員から登用嘱託社員に転換したのが17人、さらに登用嘱託社員から登用正社員に転換したのが6人になっている。そこからさらに2人が係長に、1人が主任に昇格・昇進している。以下に3人の活躍ぶりを紹介する。

生産企画管理課係長

2004年にパートタイム社員として入社。子育てが落ち着き、2008年に登用嘱託社員に、2012年に登用正社員に転換。2015年には主任に、2017年には係長に昇格・昇進した。
製品の生産計画段階から次工程への作業指図記録等を担当。品切れ・工程の妨げが発生しないよう、生産効率を高める重要な役割を担う。
また、一昨年に入社した大学卒の新入社員教育も行う。

生産購買課係長

2007年にパートタイム社員として入社。2009年に登用嘱託社員に、2014年に登用正社員に転換。2016年には主任に、2018年には係長に昇格・昇進した。
全部で約300種類の製品があるが、医薬品包装資材の購入を一手に引き受ける。価格、使いやすさ、印刷に間違いはないか、薬事変更に伴う資材入替等、非常に細かく間違いが許されない業務である。
また、中国の生薬輸出公司(日本での商社)との取引にも意欲的に取り組み、中国語を勉強して、春と秋に広州で開催される「中国輸出入商品交易会」に参加して生薬の取引事情を視察してきた。

営業企画管理推進課主任

2003年にパートタイム社員として入社。2004年に登用嘱託社員に、2007年に登用正社員に転換。2016年には主任に昇格・昇進した。
漢方専門薬局を対象とした推売商品のプロモーターとして活躍。昨年実績の2倍以上の目標を達成するため、広告媒体の選定、HPのリニューアル、取引をしている日本各地の漢方専門薬局を訪問して試飲会の実施、陳列・のぼりの提案等、女性観点を活かした積極的な取り組みをしている。

パートタイム社員の意欲は企業の成長に不可欠

「雇用区分による業務の違いを明確化することは、正社員との不公平感をなくし、安心して長期的に働いてくれる一因になっていると思います。そのうえで、パートタイム社員にも人事考課による昇給・賞与システムや正社員と同じ表彰制度を導入することで、モチベーションアップにつながります。
さらに、パートタイム社員も正社員と同じ教育研修を受講することで、スキルアップができます。スキルアップにより、登用嘱託社員から登用正社員に転換するチャンスにもなります。
今後も全社員で力を合わせて、さまざまな課題に取り組みます」

“失敗談”や“改善点”まで踏み込んだ記事を掲載。研修の立案に活用できる『企業と人材』

どの雇用形態の社員も分け隔てなく貴重な人材としてとらえ、大切に育成しようとする徹底した姿勢は特筆に値する。こうした企業姿勢を貫いているからこそ、パートタイム社員にも優秀な人材が集まり、正社員への転換制度もうまく機能するという好循環が生まれているのであろう。

(取材・文/北井 弘)


 

▼ 会社概要

社名 小太郎漢方製薬株式会社
本社 大阪市北区
設立 1952年1月
資本金 5億1000万円
売上高 72億5300万円(2018年3月期)
従業員数 347名(2018年9月30日現在)
事業内容 漢方製剤等医薬品の製造販売、化粧品・健康 食品の製造販売
URL http://www.kotaro.co.jp

管理部 総務課 次長
鳥谷泰史さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ