事例 No.048 ベクトル 特集 これからのパート・アルバイト教育
(企業と人材 2016年2月号)

有期社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

パート・アルバイト社員にも情報開示を進め、
近隣店舗の見学や一般公開型の講演会で、気づきを促す

ポイント

(1)パート・アルバイトにも社員と同等の経営・業務運営の情報を提供。全スタッフが携帯する経営計画書には、「人生の夢・目標」シートをつける。

(2)アルバイトでも意見を出しやすいフラットな環境づくりに努める。社長らが毎月、各店舗を回る「環境整備」でもスタッフにヒアリング。

(3)貸切バスで近隣の店舗を見学して回る「バスウォッチング」や、一般公開型講演会「ベクトル大学」で、自分で考え、気づく人を育てる。

ITと店舗を活用したオムニチャネル展開

株式会社ベクトルは、ブランド衣料、バッグ、時計、宝飾品の買い取り・販売を手掛ける企業である。本社のある岡山を中心に、フランチャイズも含めて全国で93店舗を展開している。
同社の特徴はインターネットを活用している点だ。店舗で買い取った商品をインターネットで販売したり、逆にインターネットで買い取った商品を店舗で販売したりしているのである。
このように店舗とインターネットを連動させ、消費者がいつでもどこでもシームレスで買い物ができるようにする仕組みを、オムニチャネルという。最近、注目されているキーワードだが、リサイクル業界では、これを実現しているところはまだ少ない。同社代表取締役の村川智博さんは次のように説明する。
「リサイクルショップは大型化が進んでいて、ネットとの併売が難しくなっています。ネット展開を始めると実店舗の売上げが落ちる危険性があり、そうなると大型化した店舗を維持できなくなるからです」
同社の場合、従業員数名の小型店がほとんど。そのため、ネットとの併売による売上げの落ち込みを心配する必要はない。しかも、同社の店舗は買取業務が中心だ。
取扱商品としては洋服が7割。一般的に、洋服のリサイクル率は7パーセント程度だという。見方を変えれば93パーセントが箪笥の肥やしになっているか、ただ捨てられていることになる。これを市場に出しリサイクルすることによって、「ゴミバコのないセカイへ」というのが、同社のカンパニービジョンである。グループ企業の1つである、株式会社ベクトルキャリアCEOの児玉統さんは、これに関連して次のようにいう。
「当社では“スマイル・コミュニケーション”を重視しています。リサイクルとはだれかのいらないものをだれかのいるものにするということです。そのためにはコミュニケーションが不可欠。コミュニケーションをすることで、不要なものがなくなり、売るほうも買うほうも笑顔になるのです」
さて、そんな同社の業務では、パート・アルバイトが重要な戦力となっている。現在、パート・アルバイトは約80人である。年齢層としては20代から30代が中心だ。パート・アルバイトの担当業務は、大きく店舗スタッフとウェブ受注スタッフに分かれる。それぞれの業務内容についてみておこう。
まず、店舗スタッフの仕事としては、買い取り、販売の際の接客業務があるのはもちろんだが、そのほかにも商品の撮影、パソコンを使った商品登録、発送業務などがある。前述のとおり実店舗では買取業務のウエイトが高いが、買い取られた商品はすぐに撮影され、インターネット上に出品される。全国どこで買い取った商品でも、すぐにネット上の複数の市場で検索・閲覧可能になるのが同社の強みであり、これを担っているのが店舗スタッフである。
一方、ウェブ受注スタッフの仕事は、ネット市場からの注文に対するメールや電話でのお客さま対応と受注・入金確認、そして実際に商品を在庫する店舗に商品発送を指示する業務などである。

ノウハウを教えるよりも気づきを与える教育を

パート・アルバイトの教育については、考え方としては正社員の教育と変わりがないという。同社では、パート・アルバイトから社員になり、その後、店長、マネージャーと昇格していく人も多い。
雇用形態にかかわらず、入社すると最初の2カ月は研修期間とされる。基本的にはOJTを中心にそれぞれの業務を覚えていくが、店舗スタッフも受注スタッフも、同社のビジネスの全体を知るために、本部受注センターや店舗を見学して回り、理解を深める時間をもつという。
「配属に関係なく、商品を買って、売って、配送するというビジネス全体の流れをひととおり覚えてもらいます。それを知らないと、自分がやっている作業がなぜ必要なのかがわかりません。そうすると、やらされ感が強まるばかりとなります。それでは当社の理念や方針に共感してくれるはずがありません」(村川さん)
同社は、パート・アルバイトにも社員と同じように会社や業務に関する情報を与えることで、自分で考え、自分で気づく人が育つと考えている。そのなかで自然と身についた知識やスキルが発揮され、「スマイル・コミュニケーション」につながっていくことが理想だ。
同社では「経営計画書」も手帳化して、全従業員に配付している。経営理念や行動規範だけでなく、売上目標から、買取・販売に関する留意事項、朝礼のやり方や教育、クレーム対応の方針、社員の人事・評価に関する方針まで記載されている。これらを朝礼で唱和したり、折に触れて読むことで、理念や考え方を共有する。

図表1 ベクトルの行動規範10か条

図表1ベクトルの行動規範10か条

パート・アルバイトにも正社員と同等の情報開示をするということだが、その文章は平易で、だれが読んでも馴染みやすいように工夫されている。たとえば、経営計画書のなかで、経営理念、社訓に続いて記載されている「行動規範」の内容は、図表1のとおりである。また、「お客さまへの正しい姿勢」という項は、
「我が社とお取り引きのある方が『お客様』です。最初にお会いした人が『我が社の顔』です。最初に電話に出た人が『我が社の顔』です。」
という文章で始められ、
1.お客様に満足していただくことを第一に考える。
2.親しくなっても礼儀を忘れない。
3.どんなにこちらが正しくても、言い訳や反論は一切しない。
4.他のライバル会社の悪口は言わない。
などと続く。
さらに、ユニークなのが、一人ひとりが「人生の夢・目標」を記入するシートがついていることだ(図表2)。

図表2 「人生の夢・目標」シート

図表2「人生の夢・目標」シート

仕事、家庭、個人の3つの分野について、4年先までの夢・目標を書き入れられるようになっている。経営計画書は毎年更新され、配付される。パート・アルバイトを含む全スタッフは、そのつど、自身の夢・目標を見直し、更新することになるわけだ。
このように、スタッフは経営計画書をとおして、日常業務の背後にある経営陣の考えや事業計画に触れ、また自身の夢や目標にも考えをめぐらせる。パート・アルバイトであっても、漠然と日々の業務にあたるのと、その意義や目的を理解したうえで業務にあたるのとでは、モチベーションは大きく違ってくるだろう。それは、OJTの教育効果にも大きく影響するはずである。

パート・アルバイトが意見しやすい環境づくり

図表3 環境整備チェックシートの例

図表3環境整備チェックシートの例

同社では、毎月、社長や事業部長が各店舗を回り、店舗および業務の状況をチェックする「環境整備」という取り組みを行っている。業態によりチェックシートが分かれており、「社長室」用のシートもあるそうだ(図表3)。
これにより「改善の必要あり」となった項目については、後日、エリア担当のスーパーバイザーが店舗を訪れ、アドバイスをすることになる。もちろん、パート・アルバイトもチェックの対象だ。これもOJTの一環である。
ただし、チェックはかなりフレンドリーな雰囲気で行われるという。毎回、社長や事業部長と店舗スタッフが、店舗の現状についてざっくばらんに話し合うのである。そこではパート・アルバイトからも要望や意見が出る。
「日ごろからLINEなどを積極的に活用して、パート・アルバイトが意見を言いやすい、風通しのよい環境づくりを心掛けていま
す。いわゆる“飲みニケーション”にも補助金を出していて、月に1度は店長が声をかけて、スタッフと懇親の場をもつことを推奨しています」(児玉さん)
エリアミーティングなど、各種定例会議にパート・アルバイトが出席するのも同社の特徴だ。そこでは、パート・アルバイトも業務改善に関する意見を出すのである。
ちなみにエリアミーティングでは、3分間スピーチの時間を設けているそうだ。各自が「いま興味があること」など、仕事に関係のないテーマで話すというもので、お互いの理解を深めるのに役立っているほか、発表することでパート・アルバイトのコミュニケーション能力の向上にも役立っている。
「スタッフ同士が、フラットな関係のなかで気軽に話せる雰囲気が大切だと考えています。教育方針としていちばん重視しているのは主体性。ああしろこうしろと言われて動くのではなく、自分で『こうしたい』と思って動く。そういう願望というか、気持ちをつくっていくことが教育だと。
そのためには、やはり日常の会話が大切で、パート・アルバイトが気軽に店長や社長に話せる環境を整えることに力を入れています。そうしないと、彼らの気持ちを引き出せないし、彼らも自分たちの考えていることを発信できない」(児玉さん)

他店見学で気づきを与えるバスウォッチング

このほかにも、スタッフに気づきを与えるユニークな取り組みとして、「バスウォッチング」というものがある。パート・アルバイトや新入社員が、貸切バスに乗って、近隣の店舗を見学しに行くというものだ。店を回って、パート・アルバイトに気づいたことを話してもらうのである。

▲バスウォッチングでの他店舗見学の様子

▲バスウォッチングでの他店舗見学の様子

貸切バスを利用するのは多くの店舗を回るためだ。1日で20店舗を回ることも珍しくないという。また、店舗スタッフだけではなく、ウェブ受注スタッフも参加し、本部のネット関連の事業部にも見学に行く。
パート・アルバイトは、当然、自分が勤めているお店しか知らない。しかし、店によって扱う商品やブランドの傾向が違うなど、それぞれにカラーがある。業務の流れも微妙に違う。
「百聞は一見に如かずで、自分の目で見るのがいちばんわかりやすい。他の店舗をみることが刺激になり、自分たちのことを考えるきっかけになる。これも自主的に学ぶことがねらいです」(村川さん)
2014年からは、社外からも参加ができる一般公開型の講演会「ベクトル大学」もスタートさせている。テーマは「岡山から世界へ」。毎月1回、ベンチャー企業経営者や茂木健一郎氏などの著名人を招き、地元岡山で開催している。同社スタッフは強制参加ではなくなったが、店舗によっては早目にお店を閉めて全員で参加するといったケースもみられるという。

▲すでに50回以上開催されている「ベクトル大学」

▲すでに50回以上開催されている「ベクトル大学」

岡山を元気にする起業家が出てきてほしい

パート・アルバイトのなかには、社員になろうというだけではなく、独立したいと思うようになる人もいる。むしろ、そういう人がもっと出てきてほしいと村川さんはいう。
「将来、正社員になりたいから、まずはパート・アルバイトからという人はほとんどいません。そういう人は最初から正社員として応募してきます。
パート・アルバイトの採用面接をすると、10人のうち9人はこれといった目標をもって応募してくるわけではありません。しかし、働いているうちに、この仕事の意義や楽しさに気づいて、正社員になりたいと思うようになる人は少なくありません。独立してやっていきたいと考える人もいます。
だから、最初の一歩、まずは働いてもらうことが大事なんだと思いますね。そして、当社で働くなかで、何か将来像のようなものをつかんでくれたらうれしいですね」

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同社では、入社時にも一人ひとりに「夢・目標」を書いてもらっているが、漠然とでも自分の夢を書き表すことができる人は少ない。そんなとき、村川さんは「それなら、まずは夢をもつことを目標にしよう」と話しているという。最初はただ「働きに来ている」だけの人が、次第に何かしら夢をもつようになっていく――、そのためのきっかけをつくることが、同社の人材育成だという。
「東京と岡山とでは全然違います。情報格差がなくなったといわれますが、環境が違う。地方はどこもそうだと思うのですが、危機感がないというか、皆なんとかなると思ってしまっている。
お陰さまで当社はベンチャー企業を表彰する岡山アワードの2013年大賞を受賞することができました。しかし、岡山にはまだまだ起業して上場しようとか、世界をめざそうという人が少ない。そんな状況をなんとかしたいという気持ちがあります」(村川さん)
地方を元気にしたい──そんな想いが同社の人材育成の原動力にもなっているようだ。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要(2014年6月1日現在)

社名 株式会社ベクトル
本社 岡山県岡山市
設立 2003年2月
資本金 4,320万円(グループ計)
売上高 38億4,000万円(グループ計)
従業員数 185人
平均年齢 29.5歳(パート含む)
事業案内 ブランド衣料、バッグ、時計、宝飾品の買い取り・販売、ネットショップ・ネイルサロン等の運営
URL http://vector-enter.jp/

(左)
ベクトルキャリア
CEO
児玉統さん
(右)
ベクトル
代表取締役
村川智博さん


 

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