事例 No.046 カインズ 特集 これからのパート・アルバイト教育
(企業と人材 2016年2月号)

有期社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

導入教育は店舗に慣れ親しんでもらう時間
パート社員も商品知識勉強会や新商品の展示会に参加

ポイント

(1)導入研修では、最初の2日間に各店舗でDVD映像と業務マニュアル「テンキショ」を教材とする研修を実施。「チーム・カインズ」のメンバーとして、まずは広い店舗と挨拶・受け答えの仕方に慣れてもらうことを重視。

(2)入社後は、メーカー担当者を招いて行われる「商品知識勉強会」や、年2回本社で開催される自社開発の新商品展示会に参加してレベルアップを図る。展示会での現場の意見を商品の改善に反映することも。

(3)「テンキショ」の拡充を進めるとともに、店舗で実際に使われるよう置き場所にも工夫を凝らす。

“FortheCustomers”を掲げ、人材育成に注力

1989年の会社設立以来、今年で27年目を迎える、ホームセンター業界大手の株式会社カインズ。いまでは24都道府県下に200店舗(2015年4月末時点)を擁し、売上高では業界2位、単独企業としては業界トップの座を占める。
近年はオリジナル商品の開発にも積極的に取り組んでおり、年間約9,000点のPB商品を開発。また、物販チェーン6社を中心に28社からなるベイシアグループの中核企業でもある。
同社が経営理念として掲げているのが、“FortheCustomers”。これは文字どおり、顧客第一の姿勢を表わしたもので、その中身をもう少し詳しく示したのが、以下の3つである。
・チェーンストアイズモアディスカウントビジネスに徹する
・地域格差を解消し国民の豊かな生活づくりに貢献する
・人をつくって商で文化を創造する
この3つ目の理念にもあるように、同社は人づくりを重視してきた。人材育成の基本的な考え方について、人事・教育本部トレーナーグループ、グループマネジャーの齊藤祐吾さんは、こう説明する。
「“FortheCustomers”は、人がいなければ実践できません。どれだけ機械やシステムが発達したとしても、それを使うのは人です。経営理念のなかにもあるように、人を育成することで良い文化をつくり、それをとおして地域に根差した存在になっていくことをめざしています」

非正規も人物重視で採用、基本は1対1の面接選考

同社の場合、業態の特性もあり、人材のなかでもパート・アルバイトが占める割合はきわめて高い。全従業員1万人強のうち、正社員は約2,400人、リフォーム・サイクルなどの専門売場で知識を発揮して活躍するプロフェッショナルの専任社員は約700人で、パート社員は約2,700人、アルバイト社員は約4,300人と、約7割程度をパート・アルバイトが占めている(2015年11月時点)。
こうしたなかで、1つ特徴的なのは、正社員もパート・アルバイトも含めて、従業員全員を「メンバー」と呼んでいる点だ。ここには、同社を含めたベイシアグループ全体の考え方が反映されている。パート・アルバイトの採用も、これに沿った形で行われているそうだ。
人事・教育本部カインドネス向上グループ、グループマネジャーの齋藤宏之さんは、こう語る。
「カインズの店舗では、お客さまを自宅に招き入れる感覚でお迎えするという姿勢を徹底しています。そこでは、私たち従業員は、全員一丸となってお客さまを迎え入れる『チーム・カインズ』のメンバーであるという考え方です。
そのため、人材の採用は基本的に人物重視で、書類選考はせず、必ず応募者と面談するようにしています。パート・アルバイト社員の採用では、応募者の都合に合わせて各店舗でスケジューリングして、必ず直接会って採否の判断をするようにしています」
パート・アルバイトは主婦・学生層が中心であるため、卒業・入学シーズンの春先には、例年、大規模な募集・採用を行っている。そのほかにも、状況に応じて各店舗で随時採用を実施している。
面接官は店長、もしくはマネジャー以上の管理職が担当する。基本的には面接官と応募者の1対1で、1人あたり30分弱程度かけて面接を行っているそうだ。面接に際しては、採用業務専用マニュアルがあり、面接官はこれに沿って面接を進める。また同社では、マネジャーに昇格する前後に実施されるマネジャー研修のなかで、コンプライアンス面などを含めた採用面接の実務を学び、ロールプレイングを行っている。
パート・アルバイトの採用基準として大事にしているのは、「挑戦していける」、「あきらめないで愚直に前向きに物事をとらえられる」といったマインドをもっているかどうか、そして「どれだけお客さま本位で行動できるか」ということだ。同社は新商品開発や新システムの導入などを積極的に進めていることから、そうした社風に合う人材が求められているともいえる。こうした点は、面接において、過去の職歴や現在のこと、あるいは今後自分をどうしていきたいかなどについて質問を投げかけ、話を聞くなかでみているという。
近年は景気回復で企業の採用意欲が高まり、とりわけパート・アルバイトの採用難は顕著になっている。同社も例外ではないが、そのようななかで心掛けていることは、人物選考はしっかりと行う一方で、勤務時間などの条件面で当初の募集枠と合わない場合でも、その応募者が活躍できる場がないかどうか、可能性を探ること。また、応募者に何らかのマイナス面がみられたときにも、それをカバーするプラス面を入社後の教育で伸ばしていけるか検討するといったスタンスをとっている。採用面接は必ずマネジャー以上が行うこととしているのは、こうした判断を求められるためでもある。

2日間の導入教育で店舗に慣れてから実務へ

図表1 カインズの導入研修(パート・アルバイト社員向け)

図表1カインズの導入研修(パート・アルバイト社員向け)

パート・アルバイトには入社後に導入教育を行う。まず、最初の2日間は各4時間ほどを目安に、店舗ごとに共通の教育研修を実施している(図表1)。
入社初日の導入教育の目的は、店舗に慣れてもらうこと。朝礼などでの新メンバー紹介やオリエンテーションを行った後は、後述する業務マニュアル「テンキショ」やDVD「ウェルカムトゥカインズ」を使って、会社概要から基本的なルール、店舗業務の心得などの共有を図ると同時に、事務的な連絡も行う。
また同社の場合、1店舗に約6万〜10万点という膨大な商品が置いてあるため、どの商品がどこの売り場・エリアにあるのかを実際に見ながら店舗内を回る「店内クリニック」も実施している。
2日目もテンキショやDVD資料を使い、基本的な売場での応対、電話応対や店内放送の仕方などを身につける。その後は、レジ、品出し、販売(売場)と大きく3つの部門に分かれ、それぞれが配属される現場でOJTを中心に、上司や先輩が指導をしていく。この期間はおおむね2~4日間程度だ。
「かつては、パート・アルバイト社員は入社すると、いきなりそれぞれの配属先で実務を学ぶといった形が中心でした。しかし、お客さまをわが家へお迎えするような感覚になってもらうためには、まずメンバー自身が店舗を自分の家だと思い、その家が住みよいところだと感じて、慣れてもらう必要があります。したがって、とくに初日は、そうした住みよいわが家=店舗に慣れるという部分に力点を置いています。
また、学生あるいは主婦の方たちは、たとえば『いらっしゃいませ』といった、われわれ小売業が使うような独自の言葉を私生活で使う機会はほとんどありません。
そうした言葉や挨拶を学ぶことを通じて、小売業に身を置いたという意識をもってもらうというところも、導入教育では大切にしています。そして、業界にも店舗にも慣れてもらったうえで、実務を身につけてもらう段階に進んでいくわけです」(齋藤宏之さん)

商品知識勉強会を開催、パート等も自主的に参加

入社後にパート・アルバイトのレベルアップを図る機会としては、「商品知識勉強会」があげられる。これは、社員を対象に業務の一環として行われているものだが、多くは手あげ式でパート・アルバイトも参加できる。講師にはメーカーの社員を招くほか、ときには同社の社員が担当することもある。
勉強会の回数や内容は、年によっても異なるが、2015年は図表2のように開催されている。サイクル、カー用品、DIYといった売場ごとに、商品知識や取扱方法などを実践的に学ぶ。通常は半日から丸一日程度をかけて、本部あるいは地域ごとに店舗に集まって開催している。

図表2 2015年商品知識勉強会一覧

図表22015年商品知識勉強会一覧

サイクル関連の勉強会のように、初級、中級、上級とレベル分けして実施しているものもある。参加人数は10人から20人程度で、パート・アルバイトの比率はかなり高い。お客さまに聞かれたときにすぐ答えられるようにと、自主的に参加するパート・アルバイト社員も多いという。
じつは、この勉強会を前出のテンキショ上で再現する試みもスタートしている。これは、家庭の事情や会場が自店から遠いといった理由で勉強会に参加できないというパート・アルバイトの声に応えたもの。たとえばテンキショのサイクルの商品知識に関する項を開くと、写真を豊富に入れながら自転車整備の手順等がわかりやすく解説されている(図表3)。現在、テンキショの商品知識に関する項目は、作成中のものも含めて100項目ほどあり、いずれも絵や写真を使い、これを見ながら実践するとひと通りの業務はこなせるくらいの詳細な内容となっている。

図表3 テンキショ「自転車の整備・点検手順」(一部)

図表3テンキショ「自転車の整備・点検手順」(一部)

“テンキショ”を教育に活用、改善を重ね設置場所も工夫

同社のパート・アルバイト教育のなかでも、重要な役割を果たしているのが、先ほどから出てきている「テンキショ」だ。
テンキショは、もともとは「店舗運営基準書」の略称で、同社業務の作業手順が記されている業務マニュアルである。現在は「教育者用」、「売場に出る前に」、「商品知識」、「店長用」など、全16冊、3,000ページにおよぶ。
作成を担当している店舗業務改善部マニュアルグループグループマネジャーの大熊直希さんは、次のように語る。
「テンキショについては、以前は4冊程度のファイルのなかにさまざまな内容が詰め込まれていました。それを、2013年12月に現在のような形に整えたのです。作成した後も次第に現状に見合わなくなっていくので、不具合が生じていないかなど、各現場からの声を集めたうえで、いまも年間200~300業務の見直しを行っています。
テンキショ自体は、必要なメンバーが必要なときに、知りたい部分を見て調べるという形で社内に浸透してきました。けれども、完全に定着して全員が活用しているかというと、まだ十分とはいえません。そこでいまは、その定着を第一にめざしているところです」
テンキショは、現在各店の事務所の入り口周辺に置いているほか、社内イントラネットでも検索できるようにしている。テンキショの設置場所についても、担当者である大熊さんたちが店舗に足を運び、どうすれば多くのメンバーに手にとって見てもらえるかと考えて、工夫を重ねているという。以前は、店長が座る机の背後のキャビネットに大切にしまってある店舗が多かったが、より活用してもらうために、事務所の入口や共有パソコン付近に設置しているという。
さらに、実験的に各売場に置くことも検討中とのことである。さらに、このテンキショとも連動する形で近年構築したのが、改善起案できるシステム「MIERU(ミエル)」だ。
「MIERUを通じて、各店舗から起案があった内容をもとに、たとえばレジの打ち方や品出しの仕方といった業務手順やシステムなどを改善・改修し、それをテンキショにも反映させて、店舗に配信しています。このほか、新商品の企画提案も、全メンバーからMIERUで起案があがります」(大熊さん)
なお、休憩室にボードや意見用紙を置いたり、テーマを決めて行われるスモールミーティングのときに意見を聞いたりして、アルバイトメンバーでも積極的に改善提案ができる環境を用意している。

商品展示会にも多数参加、商品開発に現場の声を反映

このほか、本社で年に2回、2月ごろと8月ごろに開催している商品展示会にも、パート社員を含めて全国から年間約3,500人の従業員が参加している。展示会のオリジナル商品の新商品説明会では、バイヤーなどからの説明を聞くだけではなく、パート社員により現場からの提案をすることもある。それが、新商品開発にも結びついているという。

▲展示会でのミーティングの様子

▲展示会でのミーティングの様子

▲テンキショの設置場所

▲テンキショの設置場所

「店舗のメンバーは、なかなかバイヤーや開発担当者と直接話をする機会がないわけですが、この場では現場からの意見をいろいろぶつけられ、提案もできます。しかも、それが実際に新商品開発につながった例も多数出ているので、モチベーションアップを含めたとても貴重な機会になっているといえます」(齊藤祐吾さん)
また、今夏からは、通常の説明会の席とは別枠で、事前に商品開発に関するテーマを決めて、あらかじめメンバーにその商品に関する意見を考えてもらい、バイヤーと現場のメンバーが話し合う場も設定している。
「たとえば、ペットフードのパッケージについてのミーティングでは、ある地域の担当者からはマンションが多いので大袋よりも小分けのほうがいいという意見が出たかと思うと、別の地域の担当者からは番犬も多いし、買い物も車で来るのが当然なので大袋のほうがいいなど、地域による特性も出て、開発担当者も非常に参考になったようです」(齋藤宏之さん)
同社ではこのほか、パートからの正社員登用制度も設けている。同社のパートは、短時間勤務(扶養範囲内)の「ショートパート」、社会保険適用の「ロングパート」に分かれ、ロングパートのなかでも人事評価・面接等で能力が認められると「マスター社員」に昇格する。
このマスター社員のなかで、さらに人事評価・面接等を経てマネジャーの代行業務を手がける「マスターチーフ」になると、正社員登用試験の受験資格ができる。本人が希望して試験に合格すれば、正社員になれる仕組みで、これまで10人程度の正社員が誕生している。

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同社のパートの場合、原則として1年の雇用契約で、双方の合意により更新するという雇用形態であり、長期間勤務を続けているケースも珍しくない。すでに定年を迎えた、あるいは会社設立間もない頃からずっと勤務しているパート社員もいる。こうしたなかでマネジメント的な仕事に興味がある人にとっては、正社員への登用は1つのキャリアアップのルートであり、やはりモチベーションを高める要因になっている。
ここまでパート・アルバイトに関して、教育やそれに準じるさまざまな取り組みを続けてきた同社。これからもその充実を図っていく方針だが、その1つの具体策として計画しているのが、テンキショを評価に取り入れていくことだ。マニュアルどおりに作業を実施しているかどうかを評価項目に入れて、テンキショの内容を徹底させる。同時に顧客に対しては、だれが作業をしても同じようなサービスを提供できるようにしていくわけである。
ただし一方で、マニュアルだけにあまりに依存し過ぎてしまうと、接客に際してのマインド面をはじめ、目に見えない部分がおろそかになりやすいことから、そういうマニュアルからこぼれる部分の教育も、並行して取り組んでいこうとしている。
教育効果はなかなか目に見えにくいところも多いが、このようなきめ細かい教育が浸透して、パート・アルバイトも文字どおりチーム・カインズの一員として成長していけば、自ずと同社が追求する顧客満足や企業の成長にもつながっていくに違いない。

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要(2014年6月1日現在)

社名 株式会社カインズ
本社 埼玉県本庄市
設立 1989年3月
資本金 32億6,000万円
売上高 3,871億円(2015年2月末)
従業員数 10,289人(2015年11月末)
平均年齢 34歳
平均勤続年数 10年(2015年9月時点)
事業案内 ホームセンターチェーンの経営
URL http://www.cainz.com

(左)
店舗業務改善部
マニュアルグループ
グループマネジャー
大熊直希さん
(中)
人事・教育本部
カインドネス向上グループ
グループマネジャー
齋藤宏之さん
(右)
人事・教育本部
トレーナーグループ
グループマネジャー
齊藤祐吾さん


 

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