事例 No.225 三和建設 特集 中小企業の人づくり
(企業と人材 2020年8月号)

企業内大学

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

社内講師が教えるSANWAアカデミーやひとづくり寮での
新人の入寮生活などで「つくるひとをつくる」を
具現化する

ポイント

(1)経営理念「つくるひとをつくる」を具現化するために、2017年4月から、社内大学「SANWAアカデミー」を開校。まずは専門技術力(専門知識、専門技能)を磨き、その後、統合力(マネジメント力、リーダーシップ、人間力)を伸ばしていく。

(2)アカデミーでは、社員自らが講師をつとめ、実践的な知識や技能を教えていくなかで学びを得る。教える側・教えられる側がともに成長するための取り組みとなっている。

(3)新入社員は全員「ひとづくり寮」に入り、1年間共同生活を送る。同期の結束を強くするだけでなく、寮におけるルールをすべて新人にまかせることで責任の重さを感じてもらい、自律を促していく。

人づくりによって会社の永続をめざす

三和建設株式会社は、大阪に本社をかまえる総合建設会社である。食品工場、倉庫などの生産・物流施設をはじめ、オフィスビルや商業施設、官公庁など、さまざまな建物に携わっており、設計から建設、施工まで一貫したサービスを提供している。1947年に創業し、現在は4代目社長の森本尚孝さんが経営を担う。
建設業というと、「きつい・危険・汚い」のいわゆる3Kのイメージがいまだ残るなか、同社では「価値・感動・形」という新しい3Kを提示している。Great Place to Work(R) Institute Japanが実施する日本における「働きがいのある会社」ランキングでは、中規模部門(従業員100人~999人)において、ベストカンパニーに6年連続で選出されており、同社の人事施策に注目する企業やメディアも多い。
社員は150人で、うち3割が女性である。建設業界のなかでは女性比率が高いことに加え、多くの同業他社では女性社員は事務職やアシスタントが中心であるのに対し、同社では、営業や設計、現場管理など全職種に女性が配属されているのが特徴である。

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「戦略として女性を増やしたわけではなく、“当社で働いてほしいと思える人”を採用していった結果です」と森本さんは話す。
「同社でも、以前は女性社員全員が事務職でした。もっと多彩な場で活躍してほしいと考えていたところ、近年、建築を学び、現場に出て施工管理などをしたいと希望する女性が多くなってきました。さらに、結婚後も働き続ける女性が増えてきたことから、一定数の女性社員が定着してきたといえます。社会的な環境変化や女性の意識の変化、そしてわれわれの考えがマッチしたのです」
もちろん、活躍してほしいのは女性ばかりでなく、全社員に対しても同様に期待している。「つくるひとをつくる」という同社の経営理念にも、それは現われている。
「わが社は建物づくりを通じて、あるいは建物づくりのためにさまざまなものをつくっています。お客さま、仲間、技術、信頼など、すべては“ひと”がつくります。だからこそ、わが社は“ひと本位主義”なのです。社員とその家族を大切にし、人づくりによって会社の永続をめざしています。
そのため、社員一人ひとりの成長を経営上の最重点事項として位置づけ、会社が積極的に社員にかかわっていくようにしています。そして、社員にも“自分自身を育てる”といった主体的な成長意欲を求めています」
したがって、同社の人財育成は本人の成長意欲が出発点であり、採用時にも成長意欲を重視している。ただし、一度きりの面接でそれを測るのは困難なため、学生1人につき、多くの社員がかかわり、何度も面談を重ねる。
「雑談もしながら長時間接していると、本人からもいろいろなアウトプットが出てきます。そこから成長志向や、何をめざしているかが見えてきます」

理念を体現するためにSANWAアカデミーを開校

こうした経営理念を体現していくための取り組みとしてスタートしたのが、2017年4月に開校した社内大学「SANWAアカデミー」である。
「これまでは、OJTにおいて先輩の動きを見て学ばせることが多かったのですが、それでは先輩によって教え方が違うため、正解が見えなくなってしまいます。
また、教育体制が整っておらず、場当たり的な研修を実施していたため、このままでは“つくるひとをつくる”という経営理念を実現できないと感じました。全社的な教育体制を設けることは、喫緊の課題でした」
若手社員の“教えてもらいたい”という意欲に答えることも実現していきたいと、森本さんは話す。
「採用時にも感じることですが、いまの若者には、良くも悪くも、教えてもらいたいという意欲があります。言い換えれば“教えられることに慣れている”ということで、自分でぶつかって失敗して学ぶということに、恐れがある若者が多いと感じます。
とはいえ、コスト要件、働き方改革、法規制などさまざまな制約があるなか、社員の仕事は年々増えていて、失敗しながら学ぶという余裕がなくなってきているのも事実です。そうした時代に沿って、意欲ある社員を支援する仕組みが求められていると感じました」
ちょうど、社内大学が注目されていたことから、その形をとり、「SANWAアカデミー」と名づけてスタートさせることにした。

アカデミーで専門技術力と統合力を身につけていく

SANWAアカデミー(以下、アカデミー)開校にあたって真っ先に行ったのは、社内での意識づけである。アカデミー専用のロゴをつくったり、冊子を配布したりして会社の本気度をみせ、社員を巻き込んでいったという。
また、次の2つの能力を社員に求める能力として定義した。
・専門技術力
自分1人でも発揮できる力(専門知識、専門技能)
・統合力
プロディース力やマネジメント力を発揮して社内外の人財や情報を組み合わせて成果を上げる力(マネジメント力、リーダーシップ、人間力)
まず社会人としてスタートした当初は専門技術力を優先して磨き、その後、統合力を伸ばしていくというのが、同社が社員に求める成長曲線のイメージである(図表1)。

図表1 三和建設の人財成長曲線

図表1 三和建設の人財成長曲線

アカデミーでは、それに沿った流れで学んでいけるよう、講座体系を整えた。
2020年度に開講しているのは、全部で60講座。1コマ60分で、毎月第3土曜日に受講する。1講座につき受講者の平均人数は30人ほどだという。開講場所は、当初は大阪と東京2カ所だったが、現在はコロナ禍の影響もあり、オンライン会議システムを活用している。
講座は、大きく「必修講座」と「任意講座」の2つに分けられ、そのほとんどを社内講師が担当している(図表2)。

図表2 SANWAアカデミーの講座体系

図表2 SANWAアカデミーの講座体系

必修講座は部門・等級別に定められており、個々の成長段階に応じて上長が指定する。専門技術力を身につけることを目的としており、まず1~4等級社員を対象とした「基礎をつくる」(理論・概論中心)講座で、知識や技能をしっかりとインプットしてもらう。これは全部で24講座あり、たとえば、営業グループでは「秘書検定を用いた一般常識・ビジネスマナー講座(初級編)」、設計本部では「設備設計一般知識」など、部門別に必要な基礎知識を学べるようになっている。
そして、5等級以上の社員には、「実践に活かす」(実践・体験型)講座で、身につけた知識・技能をアウトプットしてもらう。全部で20講座あり、たとえば、工事グループを対象とした「食品工場現場での留意点」という講座では、食品工場特有の現場管理上のポイントについて過去の事例から学びつつ、同社が食品工場を中心に事業展開していることについて、なぜ事業領域を絞ったブランド戦略を行っているのか、どういう可能性を秘めているかについて、これまでに学んだ知識をもとに考えていく。
一方、任意講座は各人の問題意識にあわせて受けてもらうものだ。統合力を伸ばしていくために、知識の幅を広げる16講座を設けている。たとえば「FACTAS-TEC解説講座」では、同社の食品工場建設における技術情報について、実例を交えて学ぶ。新入社員を対象とした「私たちの給与」といった講座もあり、全社員にとって身近な賞与、昇級・昇格の仕組みに加え、実際の給与明細書を見ながら中身について理解していく。
なお、統合力を伸ばしていくものとして、研修会社によるプログラム(Biz CAMPUS)も導入している。こちらは、新入社員から経営幹部までの各階層のニーズや課題に合わせたラインナップとなっている。このうち若手社員向けのものをみると、円滑に仕事を進めるための計画性・実行力を養うものとして、「タイムマネジメント」や「マルチタスクの進め方」などがあり、ビジネスパーソンとして成長し自己を確立するために必要なスキル・マインドを養うものとしては、「仕事経験を成長につなげるコツ」や「キャリアデザイン研修」などがある。
このほかにも、新入社員研修、技術研修、全社研修、幹部研修を実施し、能力開発につなげている。
このように、同社では社内講師による講座と外部講師による研修をうまく組み合わせて、社員の成長につなげている。

シラバスをもとに、社員自ら学習計画を立てる

社員が受講するまでの流れについてもみていこう。
社員には、毎年3月にシラバスが配布される。ここには、講座体系図、講師、開講スケジュールなどが記載されており、社員は自分がどの講座を受けなくてはいけないか(必修講座)、また何を受けたいか(選択講座)を確認して、学習計画を立てる。その計画表(シラバスの冊子に付属している)を上長に提出したうえで受講するという流れだ。
一覧となっている計画表には、受講するごとに確認印が押されるので、いつどんな講座を受けたかがひと目でわかる。上長は半期に一度、これを見て進捗を確認する。

社内講師を指名し、教える側の成長も促す

前述のとおり、アカデミーでは、社内講師による講義が8割ほどを占めている。社員自らが講師をつとめ、実践的な知識や技能を教えていくことで学びが得られるため、教える側・教えられる側がともに成長するための取り組みとなっている。
講師は中堅クラス以上の社員が多く、全社員の3分の1強が講師を経験しているという。講師となった社員は、事前に講義の進め方を学んだり、森本さんや役員と相談しながら講義内容を決め、レビューを経て本番に臨む。
「テーマや基本方針は私や役員から提示しますが、コンテンツは講師を務める社員の裁量に任せています。ただ、多くの社員は講師の経験がないので、かなり大変だったと思います」
開講当初は、講師を打診された社員から「仕事が増える」、「面倒」との声があがったが、4年目を迎えた現在は、そうした声はほとんどないそうだ。
「講師に選ばれたからにはきちんと務めようという意識が高いことや、この取り組みが当社における人財育成の基本方針だということを社員が理解してくれていることが大きいと思います。実際に講師を務めた社員からは、自分の知識を振り返るよい機会になったという声をよく聞きます。自身の成長を実感しているのでしょう」
アカデミーのシラバスに「教えることは、二度学ぶことである」というフランスの哲学者、ジョセフ・ジュベールの言葉が掲載されているように、講師を務めることが、講師自身の成長に大きくつながっているのである。
2020年10月予定の人事制度改定では、講師を務めることをステップアップの要件としたり、評価に含めたりすることを予定しているという。

SANWAアカデミーにおける講義の様子

▲SANWAアカデミーにおける講義の様子

社員同士のつながり、相談しやすい関係を醸成

開校して4年目を迎えたいま、森本さんはアカデミーを運営するメリットとして、「社員同士のつながり」と「相談しやすい・されやすい関係の醸成」をあげる。
「ふだんは、自宅から各現場に直行して仕事をしているため、社員同士が集まる機会はなかなかありません。しかし、いまはコロナ禍の影響でオンラインが基本ではありますが、月1回、アカデミーで必修講座を受講するために一同が集まります。同じ場所で同じ勉強をして、休憩時間をともに過ごす。そうした場ができることの意義は大きいと感じています」
同僚同士の横のつながりだけでなく、若手と講師を務めた先輩社員との間につながりが生まれることも、大きなメリットだという。
「受講した講義の内容について疑問点などが出たら、担当講師に相談する理由ができます。これまでは、そもそもどの先輩あるいは上司に相談したらよいかわからなかったり、あの人に聞きたいと思っても、直属の上司でもないのに、と相談するのをためらっていた社員もいました。しかしアカデミーの講師と受講者という関係があれば、相談しやすいし、されやすい。そうした環境づくりに貢献していると思います」
また、現場業務が中心の部署では、人前で話す機会はあまりない。しかし講師を務めることで、人前で話す機会が増え、話すことに慣れてきた社員も多いという。
「説明スキルも身につき、よりスムーズに仕事を運べるようになってきています」と、森本さんは社員の成長を喜ぶ。

同期の結束を強くする「ひとづくり寮」

人財育成におけるつながる場として、もうひとつ欠かせないのが、「ひとづくり寮」という社員寮である。以前から新入社員への取り組みを強化してきており、その一環として、2018年に完成させた。コンセプトは、「つくるひとをつくりあう、みんなの寮」。新入社員全員がこの寮に入り、1年間共同生活を送る。
「当社に入社してもらったからには、働きがいを感じてほしい。そのためには、仲間との連帯感を高めることが最も効果的だと思いました。同期同士のつながりをつくったり、社会人1年目として軌道に乗るまでの支援をしたり、そんな環境整備ができないかと考えたのです」と、森本さんは寮をつくった理由を語る。
プロジェクトチームのリーダーは、設計担当の入社4年目の女性で、社員主導で進めていった。入寮する新入社員にとって、横のつながりを強くする大切な場となるため、1階には広い共用スペースを設けて、みんなが集まりやすい空間をつくった。また、本物志向の建材を使用し、階ごとにコンクリートの配合や部材を変えて、遮音性の効果を確認するなど、実験棟の役割も兼ねている。
初入寮は2018年入社組の9人で、当初は抵抗感のある新入社員もいたという。
「当初はしぶっていた社員も、1年後には『よかった』といって寮を出て行きます。仲間同士で、今日あったことや仕事の悩みなどを気楽に話し合ったり、共用スペースで誕生会やクリスマスパーティーをして、いい思い出になったようです」
同社では、東京出身者で配属先が東京の場合、異動はほぼなく、ずっと東京勤務であることが多い。そうなると、大阪や京都で働く同期に会うのは年2回の全社会議のときだけということになる。
「けれども、最初の1年間を同期と1つ屋根の下で生活することで、“同期の結束”が生まれます。離職防止にも少なからず寄与するでしょうし、何よりも、同じ会社で切磋琢磨していくなか、同期の結束は社会人生活の強い支えになります。研修や実際の業務においても奮闘できるようになると、期待しています」

新入社員は、ひとづくり寮での共同生活をとおしてつながりをつくる

▲新入社員は、ひとづくり寮での共同生活をとおしてつながりをつくる

責任の重さを感じさせ、個人の自律を促す

寮のねらいはもう1つある。共同生活のなかで学びを得ること、とくに責任の重さを感じてもらうことである。
「共同生活をするなかでは、寮の鍵を紛失するなど問題を起こしたり、ルールを破ったりする場合もあるでしょう。
そうしたときにどうするか。じつは会社側では細かいルールを決めていません。寮母さんのような管理人もいません。運用はすべて本人たちにまかせています。自分たちでルールを決めて、そのルールを自分たちで守る。ルールを破れば寮が使えなくなりますから、次の世代にはこの場を提供できなくなってしまいます。その責任の重さを感じてもらいたいのです」
じつは、寮はめずらしく男女共同である。
「一般的に考えれば、モラルハザードの可能性があります。それでもこうした形式にしているのは、われわれは新入社員を信頼しているし、期待もしているということの現れです。もし社会通念上、良くない問題が起これば、その被害は当人同士ではすまず、会社全体の責任になる。そうしたことを理解させたうえで入寮させています。その意味でも、寮生活は本人の自律を促す育成の1つといえます」
新入社員同士の横のつながりだけでなく、一人ひとりの成長を促す。まさに「ひとづくり寮」なのである。

人づくり施策のレベルを全方位的に高めていく

このように、社員の提案を柔軟に受け入れながら、さまざまな形と方法で「ひとづくり」に取り組む森本さん。最後に、今後の展開について伺った。
「アカデミーに関しては、コンテンツをより進化させたいと考えています。今後もアカデミーを学びの場として活用していくために、まずは各講座の質を向上させることが大切です。本年度は、講座数を絞り込んだうえで社内講師トレーニングや事前レビューの徹底により、質の向上を図りました。今後もこうした取り組みを続けていきます。
次に、講座ラインナップの充実です。現在は、社内講師による実務系講座が中心ですが、今後は、統合力や人間力、教養を高める講座を増やしていく予定です。
また、eラーニングコンテンツも作成予定です。繰り返し受講する価値のある講座については、そのエッセンスを数分の動画にまとめて、共有化する計画です。
そのほかに、アカデミーと人事制度の連動を進めていく計画もあります。講座で学んだことを現場で実践し、成果につなげ、それが評価されるという人財育成サイクルの構築をめざしています。
じつは、こうした学びの場を、外部にも開放することも考えていますが、まずは社内向けに、いま行っているさまざまな取り組みのレベルを全方位的に高めていくことに注力していきたいと思っています」
人を育てることに終わりはない。だからこそ、さらなるステップアップをめざして、ときには試行錯誤をしながら、一歩一歩前進していく。その結果、でき上がった仕組みや教育体制を受けて、社員はさらに成長していく。そうした社員たちがいるかぎり、同社の成長は止まらないだろう。

(取材・文/江頭紀子)


 

森本尚孝さんへの3つの質問

Q1 人材開発の仕事で、日ごろ大事にしていることは?
中身だけでなく形も大事だと思っています。SANWAアカデミーと名づける、シラバスをつくるなど、形をつくると、不思議なことにそこに向かって社員の意識が高まり、自然と「やろう」という雰囲気ができてきます。

Q2 仕事で凹んだときは、どうしていますか?
とくに何もしません。そもそも、落ち込むというより問題意識が高まるため、問題解決のためにどうするかを考えます。

Q3 いま関心があることは何ですか?
コロナ禍で、今後オンラインを含めたさまざまなIT技術が人財教育に取り入れられていくと思います。それらをいかに活用できるかが、企業の命運を分ける時代だと思います。

▼ 会社概要

社名 三和建設株式会社
本社 大阪市淀川区
設立 1947年5月
資本金 1億円
売上高 120億円(2019年9月実績)
従業員数 150人(2020年5月末現在)
平均年齢 38.5歳
事業内容 建設工事・開発・環境整備・その他建設に関する事業及びこれらに関する企画・設計・コンサルティング他いっさいの業務、不動産事業など
URL https://www.sgc-web.co.jp/

代表取締役社長 森本尚孝さん


 

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