事例 No.219 メンバーズ 特集 ICTを活用した教育研修 (企業と人材 2020年4月号)

企業内大学

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

ビデオ会議システムにより、本社で講義し各拠点で受講
講座を社外にも公開し、多様性ある学びをめざす

ポイント

(1)2018年度から、ビデオ会議システムを使って各拠点・在宅で同時受講できる講座を実施する「Co-Creation Digital Lab.」を運営。それまでの企業内大学の進化版として、講座を社外にも公開し、多様な人びととの交流・対話を通じた学びをめざす。

(2)社員が次期ビジョンを考える「ビジョンワークショップ」も、ビデオ会議で実施。グループごとにビジョンシートを作成するセッションでは、他グループの進捗が画面上でひと目でわかるなど、リアル研修にはないメリットも。

(3)ビデオ会議で行われる研修では、講師も受講者も場の空気がわからないままプログラムが進行する。資料にプログラムの流れを明記するなど、独自の工夫が必要となる。

企業のCSV実践を支援するマーケティング会社

株式会社メンバーズは、デジタルマーケティング事業を展開する企業である。近年はTwitterやInstagram、LINEといったSNSでの情報発信によって、商品の売れ行きや企業イメージが大きく左右されるようになってきた。ユーザーがそれらのメディアをとおして商品やクライアント企業自体をどのように見ているのかを分析し、必要に応じてサイトのリニューアルや新たな発信の仕方を考えるのが同社の役目だ。
同社の特徴は、クライアント企業ごとにチーム編成をする点だという。同社執行役員でラーニングプラットフォーム室長の早川智子さんは、次のように説明する。
「A社のためのAチーム、B社のためのBチームというふうに、さまざまな職種の人材を組み合わせてチームをつくります。その企業の属する業界の特徴や動向、クライアント企業の強みや弱み、今後の方向性などを深く理解したうえで適切なサポートをするためです。そして、単に商品やサービスを魅力的に見せるというだけでなく、CSV(クリエイティブ・シェアード・バリュー)の考え方を基本に、ビジネス上の利益と社会貢献が重なるマーケティングのあり方を、企業と一緒に考え、実現していきたいと考えています」
同社は、ミッションとして「MEMBERSHIPでマーケティングを変え、心豊かな社会を創る」を掲げ、また、コアバリュー(共通価値観)として「貢献、挑戦、誠実、仲間」の4つをあげている。社名の由来も、企業と消費者とがメンバーシップの関係になることを支援したいということと、参加意識をもった社員の集団でありたいという2つの思いから来ているのだという。
じつは同社は、2008年のリーマンショック当時、倒産の危機にあった。離職率も一時は3割を超える水準に達していた。そこから、事業領域の見直しを図るととともに、社員の幸せを本質的に追求することを経営トップが決意。その一環として、「学び」の強化に取り組んできた。採用についても、中途採用中心から新卒定期採用に舵を切り、イチから社内で育成する方針でいるという。
現在は、「学び続ける仲間を増やす」を人材育成のキーワードに掲げ、CSVの視点も取り入れた独自の施策で、社員のスキル向上やキャリア開発を支援する。主な施策をいくつかみていこう。

Co-Creation(共創)をめざす社内講座

まず、同社の教育施策の核となるのが、「Co-Creation Digital Lab.」(以下、CCDLab.)だ(図表1)。それまで開設されていた企業内大学「Members University」の進化版として、2018年度にスタートしている。従来は指名制の研修が主であったが、CCDLab.では大部分を挙手制にしたという。また、講座の受講時間も、平均90分間とコンパクトにしている。後述するように、ビデオ会議システムを使うことで、多くの講座が複数拠点で、あるいは在宅で受講できるようになっている。

図表1 Co-Creation Digital Lab.の講座体系と開催講座例

Co-Creation Digital Lab.の講座体系と開催講座例

▲ 2018 年度の開催講座の例(抜粋)
『フォントを学ぼう』(全3回)、『コンセプトのつくりかたワークショップ』、『訪問者の心を動かすWebライティング』(全3回)、『クリエイターが数値的な成果を求められた日』、『人間中心設計スペシャリスト講座第一期&第二期』、『SDGs×Technology技術で創造する持続可能な社会』、『ディレクションスキルフェロー講座』(全4回)、『デザイン男子のルール』、☆『新卒&若手向けUXデザイン体験講座』(全2回)、☆『新卒&若手向けプランニング研修』(全2回)、☆『UXデザインアプローチ』(全6回)ほか(☆はメンバーズ内部講師)

CCDLab.のもう1つの特徴は、階層別研修など一部の講座を除き、社外にも公開されていることだ。その理由について、早川さんはこう述べる。
「多様な人びととの交流、対話を通じて学ぶことが、自社の社員の視野を広げると考えています。また、学生の方を含め学びの場を社会にオープンにしていくことが、よりよい社会づくりにつながると思っています」
CCDLab.をスタートさせるにあたり、早川さんは「社員の幸せとは何か」を追求しようと、デンマークに視察に出かけたそうだ。多様な意見をもつ人びとがお互いを尊重しつつ徹底的に議論する文化をもつデンマークでの学びが、社内講座の一般公開にもつながっている。2018年度の実績としては、180講座を開講し、延べ4,000人の受講者があったそうだ。
同社はまた、評価制度のなかでも「能力開発/ナレッジシェア評価」に大きなウエイトを置いている。
自己研鑽の取り組みはもちろん、自分のナレッジを後輩に伝えるなどの育成貢献についても評価しており、評価全体に占める能力開発項目の割合は4割にもなるという。そのため、「ラボ活動」や「メンバーズオープンカレッジ」と呼ばれる自主勉強会に参加したり、自ら開催することが推奨されている。ナレッジシェアすると同時に、教える側になることで自分が成長できることを経験してもらうねらいもある。
一方、「メンバーシップトレーニング」は、同社の役員メンバーが講師となって行われるプログラムで、社員全員が受講することになっている。同社のこれまでの歩みを振り返り、理念共有を図る場だという。取り組みのベースには、剣持忠代表取締役社長の「会社はあるものではなく創るもの」との考えがあるのだそうだ。

ビデオ会議による講座を複数拠点で同時に受講

もともと同社は、東京本社を含めて全国8カ所に拠点をもち、またグループ企業のなかには、社員全員がフルリモートワーカーという形態の組織もあるため、以前からビデオ会議システムなどを活用して業務を行っていた。
昨年の夏には、本社勤務の全社員を一時的にリモートワークさせる実験も行っている。同社の東京本社は、東京オリンピック・パラリンピックの選手村に近い中央区勝どきにあり、オリ・パラ開催期間は通勤が困難になると予想されている。そこで昨年は、オリ・パラ開催期間と同じ7〜8月の約2週間、本社への出勤をNGとしたのだ。結果としては、メンタル不調を訴える社員が出たり、回線速度の面で少し課題がみえたものの、大きな混乱もなく業務が行えたという。そのため、今年のオリ・パラ開催期間も同様の措置をとる予定だ。
このように、ふだんからICTを活用して業務を行っている同社だが、人材育成面ではどのように活用しているのだろう。

図表2 ビデオ会議システムを使った講座提供の代表的なパターン

ビデオ会議システムを使った講座提供の代表的なパターン

その1つは、先に触れたCCDLab.だ。講座の提供方法にはいくつかパターンがあるが、代表的なのは図表2のパターンA。講師は本社内の会議室でウェブカメラを前に講義を行い、仙台や博多のオフィスの社員は、それぞれ社内の研修会場(会議室など)に集まって受講する。在宅勤務中の社員が自宅で受講することも可能だ。だれが受講しているかは画面上に表示され、質問やコメントがあればチャットで投稿する。

会議室での講義の様子(左) 受講会場(仙台オフィスの会議室)の様子(右)

▲ 会議室での講義の様子(左) 受講会場(仙台オフィスの会議室)の様子(右)

受講者側から質問をして、講師がそれに答えることもできるし、必要に応じて図や写真、動画などを受講者のPCやスマートフォン画面に表示して説明するといったことも可能だ。講義は同社のサーバーに保存されるため、リアルタイムで受講できなかった人も、後日に聴講することができる。
パターンAの場合は、ウェブカメラに向かって話す講師と、質問をしたり、機器の操作をするアシスタント的な役割のスタッフの2人で講義の配信が行われる。実際の様子は、イメージとしてはラジオ放送のブースのようだという。講師とスタッフがやりとりをしながら講座を進め、参加者からの質問に答えたりもするという方法だ。
ビデオ会議のシステムとしては、一般的なGoogleハングアウトMeetを使用しているとのこと。スマートフォン用のアプリもあり、インストールすればパソコンを使用している人ともビデオ通話ができる。
ちなみに同社では、このシステムを採用にも使っているという。採用マーケティング&広報担当の上野晴菜さんはこう話す。
「新卒、中途ともにオンラインでの説明会・面接を実施しており、わざわざ会社に来なくても参加可能なので、全国各地から多くの方にご参加いただいています」
直近の新型コロナウィルス対策にも使用しているそうだ。
「予定していたイベントを中止せざるを得なくなったのですが、急きょオンラインでの開催に振り替えることで実施することができました。また、オンライン開催への変更を告知したあとに申込数が増えたことから、やはりオンライン開催はとても需要があると思いました」(上野さん)
ラボ活動などの自主勉強会でも、ナレッジシェアのツールとして、このシステムはよく使われている。
今後の課題として、早川さんは次のような話をしてくれた。
「リアルに1カ所に集まる研修とオンラインの研修をどう切り分けるかという点に関して、これまでは、マネジメント系の研修はリアルに顔を合わせて実施したほうが効果が高いと考えていました。たとえば、会話をしていて、間があくことがありますよね。そのとき、相手が何を考えているのか、言葉になる以前の気持ちをくみ取ろうとします。けれども、オンラインだと沈黙が気にならないというか、場の空気のようなものが伝わりにくい。
ただ、これからは、むしろオンラインでのマネジメントが増えていきます。そうなると、オンラインでマネジメントをするにはどうしたらよいかという方向で、マネジメント系の研修の内容や方法を見直していく必要があるだろうと思っています。働く場所や時間をもっと多様化していったときに必要となるコミュニケーションのとり方、オンラインを前提としたコーチングのあり方といったものですね」

非リアルでグループごとにビジョンを考えるワーク

同社は、グループワーク中心の研修も、ビデオ会議システムを使って実施している。先述のメンバーシップトレーニングの1つとして行われる「ビジョンワークショップ」研修がそれだ。自社のミッション、ビジョン、コアバリューについて、社員一人ひとりが「いま自分には何ができるか」を考えるために、年1回、全社員が参加して行われる。今期は、現在掲げている「VISION2020」の最終年にあたり、次期の「VISION2030」を構想するタイミングでもあるため、ワークショップではグループごとに10年後のビジョンを考え、1枚のシートにまとめるワークが行われた。
研修は、5〜6人ずつ、8グループ編成で行われた。全社員対象のため、計35回実施したという。全体で3時間30分のプログラムで、最初の1時間は、事業環境や経営陣の考える事業の方向性についてのレクチャー。その後、グループごとに集まってビジョンを考えるワークを行い、最後にグループごとに発表・共有するという流れだ。
プログラム自体はオーソドックスなものだが、参加者はほぼ全員が初対面で、所在地も北海道から九州までばらばら。自己紹介から始めて、ディスカッションし、自分たちのビジョンを1枚のシートにまとめるところまで、すべてオンライン上で行われる(図表2のパターンB)。まとめ方には決まりはなく、箇条書きにするグループもあれば、フローチャートのようにまとめるグループなどさまざまだ。
グループワーク中に各参加者が見ている画面のサンプルが図表3である。自グループのワークシートの左横に、他のグループのシートが一覧表示される点は、オンラインならではだろう。リアルな研修会場で行われるグループワークでも、他グループのホワイトボードを眺めて参考にすることはあるが、全グループのシートが一覧でき、しかも進捗状況が刻々反映されていく点はいままでにない感覚ではないだろうか。

図表3 講座受講中の画面のサンプル

講座受講中の画面のサンプル

「ほかのグループをみて、自分たちが遅れていることに気づいたり、まとめ方を参考にしたりと、相互に刺激を与えられる点はメリットだと思います」(早川さん)
この研修でまとめられたビジョンシートは、全部で250枚以上にもなるが、それらはネット上に保存され、社員はいつでも見ることができる。こうしたフィードバックが容易にできることもメリットの1つだろう。
同社では現在、これら全社員からのビジョンシートを分析し、キーワードを抽出するなどして、次期経営ビジョンや経営方針を練り上げているところだという。
以上、メンバーズのICTを利用した教育について紹介してきた。最後に、このようなリモート研修を導入する場合に留意すべき点を、早川さんにたずねてみた。

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「リアルな研修といちばん違うのは、やはり受講者の反応がわからないことです。オンラインだと、講師は参加者の温度感がつかめないなかで、熱量をもって話し続けなければならないので、長時間になると心が折れそうになります(笑)。ただ、登壇する社員に話を聞くと、比較的若い層はそれほど違和感がないようなので、世代的な問題なのかもしれません。
一方、受講者側も、画面上は資料のスライドしか表示されず、資料の後ろから講師の声が聞こえてくる感じになります。人は話している人の表情や仕草を見て話の内容を理解しているので、受講者側も最初は戸惑うでしょう。そのため、たとえば、いまこの時間から個人ワークを15分、その後、グループで共有を5分、最後に全体共有を10分などと、プログラムの流れや作業手順を資料に明確に書いておく、伝えたい言葉もすべて資料に書いておく。そうした工夫が必要だと思います」
一連のコロナウイルス対策を契機として、今後はリモートワークを導入する企業が増えていくと予想される。それに伴い、人材育成もリモートで行いたいというニーズが大きくなってくるのかもしれない。昔であればビデオ会議システムを導入しようとすれば大変な手間と費用がかかったが、いまや簡単に導入できるようになった。さまざまなある研修プログラムのうち、やりやすいところから始めてみてはどうだろうか。

(取材・文/小林信一)


 

早川智子さんへの3つの質問

Q1 人材開発の仕事で、日ごろ大事にしていることは?
「忍耐力」でしょうか。こちらが思うようなアクションや成長は、なかなかあるわけではないので。ただ、だれもが何らかの能力をもっているとは思っていて、それを引き出していくことが自分の仕事だと思っています。

Q2 仕事で気分が凹んだときは、どうしていますか?
失敗を失敗と思わず、やり方を変えればいいと考える。あとはしっかり寝れば、大体クリアできています。

Q3 いま関心があることは何ですか?
40代ひきこもりの問題。自分と同世代でこんなに多いことに考えさせられました。彼らがどうしたら社会に出るきっかけをもてるのかを、最近は考えています。


 

▼ 会社概要

社名 株式会社メンバーズ
本社 東京都中央区
設立 1995年6月
資本金 9億円(2019年12月末日現在)
売上高 88億5,700万円(2019年3月期)
従業員数 841人(2019年12月末日現在)
平均年齢 30.2歳
平均勤続年数 3.7年
事業内容 デジタルマーケティング事業
URL https://www.members.co.jp/

執行役員
ラーニングプラットフォーム室長
早川智子さん


 

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