事例 No.044 日比谷アメニス 特集 自律的に学ぶ仕組みづくり
(企業と人材 2016年1月号)

企業内大学

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

「社内大学プロジェクト」で社員に講座を提供し
自律的に学びながら気づきを得る場をつくる

ポイント

(1)以前から、委員会活動を積極的に実施。現在は社員の学びを支援するものとして、8〜10個のプロジェクトが活動中。

(2)プロジェクト活動の1つとして、社員が学び、気づきを得る場づくりをめざす、「社内大学プロジェクト」がスタート。

(3)2015年度は4つのカテゴリーで7講座を開講。終業後に集まり、社内外の講師の話を聞き、参加者同士でグループワークを行うことで、社員の積極性が高まり、社内のつながりも強まる。

以前から委員会活動で社内の課題を話し合う

フラワーショップの経営やフラワーギフトの企画・製作・販売などを行っている日比谷花壇グループ。そのなかで「、AmenityScapeCreation(快適空間の創造)」を掲げ、公園・緑地の施工管理やメンテナンス、屋上・壁面・室内の特殊環境緑化などの事業を展開している株式会社日比谷アメニス。コーポレート・メッセージは、「みどりと夢をみる」として、快適空間とゆとりある社会の実現に取り組んでいる(図表1)。

図表 1 企業理念とコーポレート・メッセージ

図表 1 企業理念とコーポレート・メッセージ

これまでに、羽田空港国際線ターミナルの屋内緑化や、首都高大橋ジャンクション屋上の目黒天空庭園の施工などを行ってきた。また、2015年4月にリニューアルオープンして話題を集めた東京・西武池袋本店屋上の「食と緑の空中庭園」も同社が手掛けたものだ。こちらは、印象派の絵画のように池と壁を彩る季節の草花が人気を集め、春から夏は来場者が10倍にも伸びている。

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そのほか、2004年に全国で第1号となる都市公園指定管理者となり、東京都夢の島熱帯植物館、大井ふ頭中央海浜公園、兵庫県甲山森林公園等の公共施設事業にも取り組んでいる。
同社では現在、社員の学びを支援する取り組みとしてプロジェクト活動が活発に行われている。これは、「部署や世代を超えた社員創出型の活動」といったものだ。
プロジェクトは一部トップダウンで始まったものもあるが、ほとんどは問題意識をもった社員の提案によってスタートした。この背景には、以前から行われていた委員会活動の存在があった。
プロジェクトの調整などを担当している取締役総合経営企画室長の矢嶋依佐夫さんは、次のように話す。
「プロジェクト活動が始まったのは15年ほど前ですが、それ以前から小集団活動として『委員会活動』が活発に行われていました。これは、社員が日ごろの業務のなかで感じている課題などからテーマを設定し、仲間を募って活動するというものです。活動のなかで出てきたよいものは、積極的に会社の制度などにも取り入れてきました。たとえば、全員で営業をしてみようという委員会や、QC活動に力をいれようという委員会などがあり、一時期は社員全員が何らかの委員会に入っていたこともあります。
このような委員会活動が活発だった背景には、同じ価値観をもつ社員が多くいたことがあげられます。社員は農学部を中心とした理系の出身者が多く、“緑とアウトドアが好き”という共通の価値観や問題意識をもっていて、『ここは改善の必要があるのではないか』と声をあげると、賛同者が現れて、みんなでいろいろ考えてみようとなっていたのです」

価値観が多様な人材に学びの場を提供する

委員会活動はその後、プロジェクト活動へと変化していった。ここで少し、同社で委員会活動が活発に行われてきた背景や、そこからプロジェクト活動に移行していった過程について述べたい。
1964年の東京オリンピックから高度経済成長期を経てバブルのころまで、都会に緑を多くしようという時代が続いた。それに伴い、公園づくりが活発に行われ、同社も成長。そのようななか、同質の社員が同じ価値観を共有して、委員会活動で自由に議論し、みんなの合意で改善策を提案していく社内風土が継続されてきた。このころ、環境全体をつくっていく会社をめざすとして「AmenityScapeCreation」を掲げた。
しかし、バブルが崩壊したあたりから、緑に対する社会の考え方が変わってきた。公園をまちづくり、地域住民のつながりをつくる核として、どのように位置づけ、運営していくかを考える時代になったのである。
そこで同社は、企業理念を再確認する「AmenityScapeCreation第2章」と呼ぶ活動を行い、コーポレート・メッセージ「みどりと夢をみる」を新たに設定した。先に述べた都市公園の指定管理者制度導入などもあり、公園管理が行政から民間企業に委託されるようになり、それまでのように行政から指示されたものをつくるだけではなく、自ら工夫・提案していくことが、より求められるようになってきたわけである。
その流れのなか、求められる人材像も変わってきた。たとえば同社では、それまでは正社員採用がほとんどだったが、公園などの管理事務所に常駐し、管理やメンテナンスをしてもらう人材として、パートタイマーやアルバイトを活用するなど、雇用形態が多様化。従業員数も一気に増えた。
「それまでは教育もOJTが中心でした。価値観が同じなので、いわば阿吽の呼吸とでもいったように、先輩の姿をみて学ぶという方法が効果的だったのです。しかし、事業内容が変化してくるに従い、これまであまりいなかった学部、たとえば社会科学について勉強をしてきた人たちも採用するようになりました。また、社員が仕事に求めることも変化してきました。これまでのように『公園をつくりたい』という社員ばかりではなく、『地域のコミュニティづくりに貢献したい』といった思いをもつ社員が増えるなど、短期間で多様化していったのです」(矢嶋さん)
環境や人材像が変化していくなか、どのように社員を育てていくか、多様化した人材をまとめ、気づきを与えながら自ら学んでもらうにはどうすればいいのか。そのための仕組みとして出てきたのが、委員会活動を進化させた社内プロジェクトなのである。

多くはボトムアップ型のプロジェクト活動

現在活動中のプロジェクトは8〜10個ほどである。仕事と生活のバランスについてアイデアを出し合い改善をめざす「ワークライフバランスプロジェクト」や、CSR活動を行う「CSRプロジェクト」、閉鎖空間における緑化技術と市場の創造をテーマに活動している「スペースグリーンプロジェクト」などがある。プロジェクトは、メインとなる社員とサブメンバーの社員からなり、合わせて20人前後である。
多くはボトムアップ型で、最初は日常のなかでの雑談からはじまることが多いという。面白いのは、プロジェクトの発起人が、活動に必要だと思われるメンバーを選ぶことだ。このとき、総合経営企画室がメンバー選定や企画についてアドバイスすることもあるそうだ。
そうやってメンバーを集め、活動プランをまとめ、矢嶋さんたちに提案し、役員会で承認が得られれば、社内プロジェクトとしての活動がスタートする。各プロジェクトには役員1人が担当としてつく。
活動内容や頻度はプロジェクトによって異なるが、メンバーは定期的に集まり、テーマについて議論を重ねていく。メンバーが固定のプロジェクトもあれば、1年ごとに交代しているものもある。そして、ここで取り上げる「社内大学プロジェクト」も、その1つである。

自律的な学びを促す社内大学プロジェクト

「社内大学プロジェクト」は、社員の自律的な学びを促し、気づきを与えるためのものである。発起人となったのは、景観環境一部担当課長の坂本哲さん。
「私は入社後、社会人大学院で社会システムデザインについて学んだときに、直接的な問題解決より、そのプロセスの重要性に気づかされました。つまり直近の人材育成のほかに、長期的な視点でみた人材育成も必要ではないかと考えるようになったのです。そして、その両方をミックスした『ものごとを考えるきっかけになる場が必要』だと思い、会社に提案したのです。
当時、当社代表の社長も、そういった視点での育成策が必要だと考えていたということで、社長に学長になってもらい、社内大学プロジェクトがスタートしました」
坂本さんが所属している景観環境一部は同社の営業部門にあたる。人材教育はもちろん、人事に関係する部署ではないが、部門外の社員からの提案であっても、合理的で会社に必要なものだと判断されればプロジェクトになる。これも、プロジェクト活動が継続して活発に動いている理由の1つだろう。
坂本さんが集めたメンバーは、オブザーバーをいれて11人。20〜30代の社員が多く、「同じような場の必要性を感じていた」という人もいた。
社内大学プロジェクトが目的として掲げたのは、「20年後に必要となる事業展開を視野にいれ、事業推進を可能にする知恵、教養をもった人材を育む場をつくり出すこと」である。
なお、社内大学は同社の教育制度のなかには位置づけられていない。社員教育については人事部が担当しており、社内大学はあくまで学ぶ意欲を高め、気づきを与える「場づくり」が目的となっている。

プロジェクトメンバーで講座を考案・運営

図表2 社内大学の告知ポスター

図表2 社内大学の告知ポスター

こうしてスタートした社内大学プロジェクト。役員会の承認を受け、約3カ月後の2013年7月に開講の運びとなった。開講までの間、プロジェクトメンバーは定期的に集まり、コンセプトなどを固めていった。「20年後に向けてどういう人材を育成していくか」というワークショップを何度も開催したそうだ。なお、初年度はトライアルと位置づけ、運用ノウハウの蓄積に力をいれたため、2014年度が実質的には1年目となる。
トライアル年の講座数は6つ。1カ月に1講座ずつ実施していった。社内大学は業務外の活動となるため、講座は終業後の18時スタートで1時間半ほど。受講対象者は総合職社員全員で、興味がある人ならだれでも参加できる。
告知は、社内インフラや社内に貼ったポスターで行った(図表2)。意外にポスターの効果が大きかったという。その結果、最初の講座は予想20人程度だったところ、50人を超す社員が集まり、急きょ椅子を増やすなどの対応に追われた。ちなみに、講座はどれも人数制限は設けていない。これは社員の自律性を促すためでもあり、事前の申し込みも必要としていないそうだ。そのため、いまも予想を超える参加者数となることも多いという。
トライアルで運営ノウハウを蓄積したあと、講座内容の見直しなどを行い、2014年度は「社外講師」講座を除く5講座を開講。そして2015年度は、4つのカテゴリーで7講座を開講した(図表3)。期間は繁忙期を避けた春から秋にかけてで、2015年度は5〜9月の間に3週間に1講座のペースで実施した。

図表3 社内大学の講座内容

図表3 社内大学の講座内容

「場づくり」が社内大学の目的のため、講座はどれもグループワークがメインである。また、東京本社以外の大阪などの支店からは、動画の同時配信で一緒に参加できるようにしたほか、録画をあとで閲覧できるようにもしている。
4つのカテゴリーは、「カタリバ」、「コミュニケーション」、「ビジネススキル」「、社外交流」である。
高校生へのキャリア学習プログラムを展開しているNPO法人カタリバから名づけた「カタリバ」は、あるテーマについて参加者同士で自由に話す場だ。たとえば「時短労働を考える」講座では、時短の工夫をしている社員の話を聞いたあと、みんなでどういう形で時短を進めればいいか話し合った。
部署にかかわらず必要なスキルとして設けている「コミュニケーション」では、営業部長から接待を切り口にしたコミュニケーションなどについて話してもらった。ふだんはなかなか聞けない話も多く、参加者からも好評だったという。2014年度の「ビジネススキル」の「財務諸表」では、同社の経理担当者が講師となり、クイズを交えながら経理について学んだ。そのほか、「社外交流」で、そのときどきのテーマを取り上げることもある。なお、「社外講師」は社外から経営者や専門家を招いて話を聞き、その後、みんなでセッションを行うというものだ。
講座内容を考えるのはもちろん、社内外の講師の依頼、会場の設営、当日の進行なども、プロジェクトメンバーが行う。
「社内大学の運営をとおして、プロジェクトメンバーのファシリテートは本当に上手になりました。もしかしたら、メンバーがいちばん成長しているのかもしれません」(坂本さん)
受講者数は毎回20〜40人ほど。講座終了後はアンケートを取り、次年度用にフィードバックして、ブラッシュアップしている。
「トライアル年も含めて3年やってみて、プロモーションの難しさを感じました。社内インフラで告知をするのですが、忘れられてしまうことも多い。そこでリマインドメールを出すなど、少しずつ工夫をしています」(坂本さん)

▲社内大学の 様子

▲社内大学の様子

社員の積極性が高まり集まり学ぶ場が醸成される

多くの社員が学びや気づきを得ている社内大学だが、とくに若手社員のコミュニケーション能力が高くなってきたという。
同社では約20年前に、CI(CorporateIdentity:企業文化を発信し存在価値を高めていくこと)を導入し、その後、2013年にコーポレートメッセージをつくったときから、すべての総合職社員を対象に、総合経営企画室が主催して、毎年20人くらいずつ、1泊2日の合宿を実施している。そのなかに「ドリームワーク」という時間がある。これは、将来、会社としてどういう仕事をしていくかをテーマにしたグループワークだ。合宿をはじめたころはほとんど意見が出なかったそうだが、最近は若手社員から活発に意見が出るようになったという。
また、毎年2回、グループ企業社員も参加する「アメニステック」という技術に関する発表会を実施しているが、経営幹部も出席するなか、若手社員が堂々と発表できるようになってきた。ここにも社内大学の影響があると考えている。先に触れたように、社内大学のプログラムは「場づくり」にこだわったものになっており、講師の話を聞くだけでなく、自分の考えも発信しなくてはならない。そのなかで、多くの社員が鍛えられてきたようだ。
「自分の意見を言い、相手の意見も受け入れながら、新しいものをつくり上げていく。社内大学をとおしてそういう頼もしい人材が増えていけば、20年後はいま以上にいろいろな事業展開が可能になっていると思います(」矢嶋さん)
環境の変化が激しいいま、これからはますます変化に対応できる人材が必要になってくる。その際には当然、いろいろな意見をもつ人と議論しながら、目標に向かって進んでいかなければならない。その点からいっても、社内大学の存在は同社の将来に大きなプラスになりそうだ。
また、社内大学の「場」では、部門や年齢を越えて受講者同士が話し合い、理解を深めていく。接点の少ない人同士が社内大学を通じてかかわりあっていくことで、日ごろの業務に関しても連絡や相談をするようになるなど、社内のつながりや一体感も生まれてきている。
「社内大学についていうと、講座内容はそれほど重要ではないと思っています。社内の人材教育に関しては、人事部が行っていますから、社内大学の一番の役割は、やはり場づくりです。それが物事を考えるきっかけにもなる。人事部の行う教育がオフィシャルなものだとすれば、社内大学はアンオフィシャルなものとして、研修では取り上げにくいようなテーマを取り上げたり、本音で話し合える場を提供したりしていくことが大事だと思います」(坂本さん)
もちろん、社内大学は今後も継続予定だ。1月以降に来年度のプログラムの検討に入る。「ノウハウ蓄積が目的だった初年度から数えると、今年は4年目となります。そろそろマンネリ化も心配になってくる時期なので、そうしないためにも、いかに変化をつけていくかが今後の課題になりそうです。いまあるカテゴリーはどれも当社に必要なものなので、ここを変えるのはあまり得策ではないと思いますが、外部の方々の協力も得ながら、ブラッシュアップしていきたいと思っています」(矢嶋さん)
以上、日比谷アメニスのプロジェクト活動と、そのなかの1つである社員の学ぶ意欲を高める社内大学プロジェクトについてみてきた。社員が自らの意思で制度や講座をつくっていくことで、自律的な学びや気づきを得ていく。それを支援する取り組みとして、示唆に富んだものといえるのではないだろうか。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社日比谷アメニス
本社 東京都港区
設立 1872年
資本金 3億円
売上高 92億9,000万円(2014年9月期)
従業員数 350人
平均年齢 41.0歳(2015月10日1日時点)
平均勤続年数 16.8年(2015月10日1日時点)
事業案内 公園・緑地等の施工管理、屋上・壁面・室内などの特殊環境緑化、公園・緑地等のメンテナンスなど
URL http://www.amenis.co.jp/

(左)
景観環境一部
担当課長
坂本哲さん
(右)
取締役
総合経営企画室長
矢嶋依佐夫さん


 

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