事例 No.043 武田薬品工業 特集 自律的に学ぶ仕組みづくり
(企業と人材 2016年1月号)

企業内大学

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

主体的・自律的な学びを支援する「スコラ・コギト」を開講
受講者はもちろん、企画・運営をとおして研修担当者も成長

ポイント

(1)学ぶ意欲のある従業員に機会の平等を図るため、日本独自の育成施策として「スコラ・コギト」を開講。

(2)集合セッション、ライブ型セッション、ビデオ動画(自己学習)の3つの手法を組み合わせて、最も効果的と考えられるコース内容を研修担当者がデザイン。

(3)従業員に学ぶ場づくりを提供し、意欲を高めるとともに、コースの企画・運営などをとおして研修担当者も成長。

「リーダーの育成」を 最優先課題に掲げる

創業以来230年を超える武田薬品工業株式会社。現在は、「優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献する」をミッションに掲げ、活動している。
2014年6月に、クリストフ・ウェバー氏が代表取締役社長に就任(2015年4月より代表取締役社長CEO)、その後、タケダの変革を推し進めるタスクフォースが開始された。その1つとして「多様性を活かす人材育成」が掲げられ、その最優先課題として示されたのが、グローバルビジネスを牽引する「リーダーの育成」である。
まず、タケダのリーダーにとって必要な行動・リーダー像を言語化した「リーダーシップ・ビヘビア」を明示した。そこで示されたのは、「会社全体の視野でストラテジックに物事を考え」、「人を巻き込みエネルギーを与え、パワーを引き出し」、「プライオリティを決め」、「個人の能力だけでなく、組織・チームの能力を上げることにコミットできる」リーダーである。
このようなリーダーを育成していくための取り組みとして、「グローバル」、「リージョナル/ファンクショナル」、「ローカル/ディビジョナル」の各レベルで、共通の基本的コンセプトのもと、それぞれのニーズや課題にあった育成プログラムを展開し、現職リーダーの育成はもちろん、次世代リーダーの早期発掘と育成も手がけている。
一方で、もちろん営業、研究・開発、製造などの現場の専門能力やマネジメントスキルを上げるための教育も実施している。これらは各組織の置かれているビジネス環境や職種等により育成課題が大きく異なるため、各地域や部門ごとに独自の育成体系が組まれているそうだ。

機会の平等を実現するため「スコラ・コギト」を開講

こうしたなか、日本独自の育成の取り組みとして2014年に開講したのが「スコラ・コギト」(ScholaCogito)である。これは、学ぶ意欲・意思のある従業員が、ITを活用しながら勤務地の制限を受けることなく受講できる研修だ。
スコラ・コギトがスタートした経緯について、グローバルHRタレントマネジメント&プランニング人材・組織開発(日本)ヘッドの上場啓司さんはこう説明する。
「人材育成のあり方については、いまの経営陣になる前、2013年ごろから見直しを進めてきました。日本では、それまではどちらかというと教育は従業員全員に幅広く提供するという、福利厚生的な側面ももっていましたが、このやり方ではグローバルで牽引できる人材はなかなか育ちません。そこで、日本における人材育成コンセプトとして打ち出したのが、『育成は投資である』という方針です。
投資である以上、投資効果を見込める対象を選んで、そこに資源を集中していくことになるため、選抜型の教育が中心になります。しかし、それだけでは日本企業としての強みを失いかねません。そこで、それと対になる概念として、『教育・育成の機会の平等は担保する』ということを明確にしました。この機会の平等というコンセプトを体現するための施策として、新しい“タケダ・スクール”のようなものができないかと考えたのが、スコラ・コギトが生まれるきっかけです」
これまでの研修では、研修所などを使うことにより場所や人数に制限が生じることもあった。しかし、いまはITの技術を使えば、勤務地などに関係なく、幅広い従業員に研修受講などの機会を平等に提供できる。その考えからできたのがスコラ・コギトである。
2013年11月ごろから、アイデアの具現化に向けて準備を開始。準備段階から携わってきたグローバルHRタレントマネジメント&プランニング人材・組織開発(日本)の宮原萌さんは、スコラ・コギト設立の目的やコンセプトについて、次のように話す(図表1)。
「これまでの当社の研修や人の働き方・育て方を振り返ってみたときに、自ら主体的に考え、自分で提案して行動を起こしていくというマインドセットやスキルの開発が、当時の人材開発担当の問題意識としてありました。とくに階層別研修や課題別研修などでは、上司から言われて参加し、研修を受けてそれで終わりというケースもあったと思います。そういうなかで、『自ら考え、議論できる人を育てる』、『自由にディスカッションし、互いを切磋琢磨しあう機会を提供する』、『主体的で自律的な成長を促す』といった設立の目的を掲げ、コンセプトを固めていきました」

図表1 スコラ・コギト設立の目的とコンセプト

図表1 スコラ・コギト設立の目的とコンセプト

さらに、Web会議システムなど運用面のシステム構築と並行して、講座内容の開発、講師の手配などを進め、2014年3月ごろに当時の人事部長からスコラ・コギトの趣旨と開講のメッセージを社内に発信。その翌月には受講者の募集・登録を行い、2014年6月に開講の運びとなった。
ちなみに、スコラ・コギトの名称は、人事部門内のプロジェクトチームのメンバーだった宮原さんたち若手社員が話し合って出した原案が、採用されたそうだ。
「スコラ=Schola」はラテン語で「学校」を意味する。そして「コギト=Cogito」は、デカルトの有名な言葉「我思う、故に我あり」のラテン語表記“Cogitoergosum”にも出てくる言葉で、「考えること」を意味する。なお、「Cogito」には、ChallengeandOpportunityforGrowthwithITOpencourses(ITによる公開講座で成長に向けたチャレンジの機会を提供)の略語といった意味もある。

3つの手法を組み合わせた4コースを開講

では、スコラ・コギトの概要について紹介していこう。コース内容などは後述するが、スコラ・コギトの全体像は、集合セッション、ライブ型セッション、ビデオ動画(自己学習)という3つの手法を組み合わせて研修を行う(図表2)。

図表2 スコラ・コギトの3つの手法

図表2 スコラ・コギトの3つの手法

たとえば、最初に受講者を集めて本社の研修室で集合セッションを実施し、その後、数回のライブ型セッションを経て、再び集合セッションを行ったり、集合セッションの後にビデオ動画を使った自己学習を行ってから、もう一度集合セッションを行ったりするなど、コースによってこの3つの手法を組み合わせて活用している。
なかでも特徴的なのが、コンセプトにもあるように、勤務地の制限なく学べる環境を用意するために取り入れた、ライブ型セッションである。ライブ型セッションでは、東京本社をハブの配信元とし、ここで行われた講義を全国3事業所の会議室のWeb会議システムを通じて、パソコンからライブで受講することができる。また、同時配信できる枠内(現行は20人まで)でPCでの参加も可能で、インターネット環境とパソコンさえあれば、北海道から沖縄まで国内ならどこからでも受講できるようにもなっている。
期間はコースによって異なるが、おおむね2~4カ月程度。集合セッションは原則として平日1日を使い、ライブ型セッションは平日の午後5~7時に、いずれも業務扱いとして実施している。
主な対象は、日本国内で働く組合員(管理職以外の一般社員)。講座内容や日時などは社内ホームページに掲示され、希望者はそこから応募する。応募内容は、自動的に上司にもまわるようになっている。優先順位の高い業務がある場合や講座内容が本人のレベルにあっていないと考えられる場合などは、ごくまれに受講が承認されないケースもあるが、基本的には、上司は個人の育成プランを考慮しながら、教育の一環として、また本人の自ら学ぶ意思を尊重するという点からも、受講を認めているそうだ。
ただし、コースごとに定員が決められているため、枠をオーバーした場合は抽選となる。それがクリアできれば、1人で複数のコースを受講することも可能だ。実際に、いくつかのコースを受講している社員も珍しくないという。
開講初年度の2014年度は、「財務会計」、「コミュニケーション」、「考える力を鍛える」、「イノベーションと変革」の4コースを開講した(図表3)。これらは、現在あるいは今後、同社でプロフェッショナルとしてキャリアを積んでいくために、部門や職種にあまり関係なく必要不可欠と考えられる知識やスキルとして選ばれた。4コース合計で650人の申込者があり、受講者は合計290人となった。
2年目となる2015年度は前期と後期に分けて実施。前期は、1年目の受講生の反応や企画側の反省などを踏まえて、コース内容を一部変更した。そして、「財務会計」、「アドバンスト・コミュニケーション」、「考える力を鍛える」、「セルフ・リーダーシップ」の4コースを開講。申込者は636人で、受講者は合計278人となっている。

図表3 実施コースと受講者数

図表3 実施コースと受講者数

最も効果的な方法で担当者が講座をデザイン

では、具体的な内容について、いくつかのコースをみていこう。
まずは、2015年度に実施された、コミュニケーションのスキルを高めるための「アドバンスト・コミュニケーション」について。こちらは、約4カ月にわたって全8回のセッションを実施した。1回目と4回目、そして最後となる8回目は集合セッションで、そのほかはライブ型セッションだ。
集合セッションは、グループ討議やロールプレイングなどを主とした実践的なものである。一方、ライブ型セッションはどちらかというとインプット中心で、理論や基本的な知識を学ぶ。ライブ型セッションでは、職場で実践してもらうための宿題も出る。
従来の集合研修では集まって一度学んで終わりになりがちだったところを、学んだことを職場でトライし、その結果を次回のライブ型セッションに持ち寄るというように、実践を繰り返しながら、学びを継続していける仕組みにしているのである。
思考力を高める「考える力を鍛える」は、集合セッションとライブ型セッションを計4回、それにビデオ動画を組み合わせて実施した。集合セッションが1回目と最後の4回目、ライブ型セッションが2・3回目で、各回の合間に自分でビデオを見て学ぶビデオ動画が入る。
集合セッションでは、ディスカッションを中心にロジカルシンキングを取り入れながらグループ演習を行った。またビデオ動画では、講義形式で理論などを学び、ライブ型セッションは、講義のほか、ビデオ動画で学んだことの復習や演習も含めた内容だ。
なお、初年度の4コースについては、原則として社員が講師を務めていたが、講師の育成が容易ではないことや、コースによってはプロ講師のほうが効果が高いといった理由から、2年目は基本的には社外講師としている。
各講座は、3つの方法のなかから最も効果的な学びにつながると考えられる組み合わせを選んでデザインしている。このようなコースの企画・デザインは、研修担当者が外部講師や社内講師と相談しながら考えているそうだ。
受講者の傾向としては、20、30歳代が多いものの、大きな偏りもなく、幅広い層が応募してきている。なかでも特徴的なのが、PCによる参加者が目立っていること。これはIT環境を整えたことで、これまではなかなか研修に参加できなかった地方の営業担当者などが、受講しやすくなったことの反映と思われる。

受講者は学ぶ機会を得て、企画・運営側も成長

開講2年目となるスコラ・コギトは、試行錯誤しながら随時変更を加えている。先に述べた社内講師から社外講師メインへの変更もその1つだ。今後は、いかに社内講師を育て、コンセプトにも明示しているような社内で人材を育てていく風土を醸成していくかが1つの課題である。
効果も着実に出ている。コーポレートビジネスセンターパーソネル&アドミニストレーション部採用・研修グループグループマネジャーの佐久間文恵さんはこう話す。
「手ごたえは感じていて、外部講師の方からも、受講者の学ぶ意欲がほかの研修とは違うといった声をいただいています。一方で、まだスコラ・コギトのことを知らない人にどうアプローチしていくかが今後の課題です。しかし、定員以上の応募者が出ている現状をみると、自ら学びたいという人が多くいるのではないでしょうか。
また、スコラ・コギトで他の事業所の人や、同じ部署でもこれまではあまり知らなかった人と一緒に学ぶことで、これまで以上に横のつながりやチームワークが密になっているとも感じています。自主的・主体的に参加する研修ということもあり、セッティングや後片付け、仕事などで受講できなかった人へのフォローなどは、受講者全員で役割分担をして、皆でクラスをつくっていきましょうと伝えています。そのようなこともあり、より効果が出ているのだと思います」
終了したあとも、受講者同士で定期的に集まっているケースもあるそうだ。
ITを活用した研修としてはeラーニングがあるが、スコラ・コギトはディスカッションを取り入れながら、よりインタラクティブに学べる場ととらえている。また、社員同士が机を並べて学んだり、先輩社員がファシリテーターとなることで、事業内容や社内の課題に対応した、より実践につながる学びが得られる。
受講する側だけでなく、企画・運営する研修担当側にも得るものは大きいようだ。佐久間さんと同じ採用・研修グループの入社3年目の前田望来さんは、スコラ・コギトという名称を考えたメンバーの1人でもあるが、担当者側のメリットについて、次のように話す。
「スコラ・コギトでは、外部講師の方にお願いする場合でも、コースデザインなどの企画や、当日のファシリテーターなどの運営は、私たちが担当します。スコラ・コギトができたことで、はじめてそういう経験をしたのですが、通常の研修とは違ったチャレンジができたので、とても良い経験になりました」
さらに、講義のなかに自社の具体的な事例を取り入れたり、企画・運営側が受講者の反応をみながら、随時内容などを微調整していくというように、手づくり感を大切にしながら、機動的にブラッシュアップしているのも、他の研修にはないスコラ・コギトの大きな特徴といえる。たとえば、1年目のあるコースでは、毎回終了後に簡単なアンケートを実施し、参加者全体のレベルを把握、社内講師と相談しながら、次回以降の内容を工夫していったという。
こうしたことも、企画・運営する側にとっての学びや成長につながっているのだ。

知の集積する広場として今後の活用が期待される

では、スコラ・コギトの今後の目標やめざす方向性については、どのように考えているのだろうか。
「ITの活用は、スコラ・コギトの大きな特徴の1つであり、土台を支える重要な部分です。ただ、動画が不安定だったりすることもあるので、今後改善を加えていきたいと思っています。もう1つの課題は、広報宣伝についてです。いまはまだ興味をもっている社員と、そうでない社員に分かれているので、より多くの社員にスコラ・コギトで学ぶ体験をしてもらえればと思っています。社内での認知が進めば、会社全体として自ら学ぶ、自分のキャリアは自分で築くという方向に、意識がシフトしていくのではないかと考えています」(前田さん)
多くの社員が自分から積極的に手をあげて学びを共有することで、社内全体の学ぶ意欲が向上していく。そういう学ぶ場づくりの1つとして、スコラ・コギトにかける期待は大きい。
「大きくいえば、スコラ・コギトが議論を通じた組織活性化の1つのきっかけになればと思っています。自ら考えて自ら提案・提言し、実際に行動していくというような組織風土につながっていくといいなと思っています(」宮原さん)

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「スコラ・コギトという名称からイメージを膨らませると、ここが“知が集まる学びの広場”になったらいいなと思っています。具体的には、ここにくればアーカイブがあって資料が取り出せるイメージです。ITシステムには、Web上でディスカッションできる機能もあるのですが、いまはまだ使いこなせていません。いずれは、だれかがそこに疑問や質問を投げかけると、受講者や修了生から回答やアドバイスがくるといったように、離れていてもお互いに知識や能力アップに向けて切磋琢磨できるような場所がつくれたらというのが夢です」(佐久間さん)
グローバルにみても、スコラ・コギトは日本独自のユニークな施策として注目を集めている。経営陣の関心も大きい。
そして、上場さんは現段階での私見と前置きしながらも、いまは非管理職対象となっているスコラ・コギトのフレームを、ほかに応用していく可能性に言及する。
「スコラ・コギトのITを活用したフレームワークは、さまざまなところに応用ができるはずです。今後いっそう重要になってくるマネジャー層の育成や、全国各地にいる従業員への研修、またそれ以外にも活用できると思います。せっかく投資をして、また企画・運営担当者の努力もあってフレームができ上がってきているので、いろいろな場面で活用できたらと考えています」
これまでにない研修手法として、また“知の集積する広場”として、武田薬品工業の「スコラ・コギト」のこれからの展開が注目される。

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 武田薬品工業株式会社
本社 大阪市中央区
設立 1925年1月(創業1781年6月)
資本金 636億円
売上高 1兆7,778億2,400万円(2015年3月期連結)
従業員数 6,792人 単体(2015年9月末時点)
平均年齢 39.4歳(2015年3月31日現在)
平均勤続年数 14.3年(2015年3月31日現在)
事業案内 医薬品等の研究開発・製造・販売・輸出入
URL http://www.takeda.co.jp

グローバルHR
タレントマネジメント&プランニング
人材・組織開発(日本)
ヘッド 上場啓司さん(左)
宮原 萌さん(右から2人目)
 
コーポレートビジネスセンター
パーソネル&アドミニストレーション部
採用・研修グループ
グループマネジャー 佐久間文恵さん(右)
前田望来さん(左から2人目)


 

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