事例 No.125 ダイセル 特集 現場主体の若手技能者育成
(企業と人材 2018年1月号)

技術技能教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

プラントオペレーター全員に基本動作を振り返る研修を実施
メンテナンス技術力強化をめざし、「道場」を開設

ポイント

(1)生産革新の取り組みを機に、教育訓練センター(TRC)を設立。オペレーター全員を対象に、3年間かけて基本動作振り返りコースを実施するなど、基本動作教育を重視。

(2)世代交代などによるメンテナンス技術の低下を補うため、2015年度よりメンテナンス道場をスタート。独自に開発した訓練装置を活用し、協力会社も含め実践的な教育を展開。

(3)専門技能に秀でた人材にスポットを当てるべく、2016年度より卓越技能者認定制度をスタート。認定者には役割手当を支給し、技能伝承、社内の課題解決などの役割を担ってもらう。

生産革新の取り組みで知られる化学品メーカー

株式会社ダイセルは、1919(大正8)年、セルロイド8社の合併により、大日本セルロイド株式会社として誕生した。間もなく創立100周年を迎える化学メーカーである。グループとして、国内に主要7工場を有し、海外は中国を中心としてアジア、ヨーロッパ、北米など13カ国に拠点をもつ。
創業以来、セルロース化学、有機合成化学、高分子化学、火薬工学をコア技術に研究・技術開発、生産革新に取り組み、事業の拡大、新規分野への進出、グローバル化を推し進めてきた。液晶表示向け光学フィルム用酢酸セルロースやエンジニアリングプラスチック、自動車エアバッグ用インフレータ(ガス発生装置)などで、世界的にも高いシェアを誇る。
同社は、グループの存在理由である「企業目的」と全世界のグループ企業で働く人びとが共有すべき価値観である「ダイセルスピリッツ」からなる基本理念を制定している。企業目的:「社会の求める機能を形に変えて、人々の生活の豊かさ向上に役立ちます。」
ダイセルスピリッツ:
(1)誠実さと地道な努力の積み重ね
(2)モノづくりへのこだわり
(3)存在感と達成感の尊重
また同社は、「ダイセル式生産革新」でも知られる。兵庫県の網干工場をモデル工場として開発されたもので、東京ドーム17個分の工場敷地の中心部に統合生産センターを設置。最新のIT技術と長年培ってきた製造技術を組み合わせた知的統合生産システムにより、1班20名(4班3交替制)で工場全体のコントロールを行うことができるようになっている。この生産システムは経済産業省からも評価を受け、大手化学メーカーなどでも導入が進んでいる。
人事制度の全体概要としては、MBO(目標による管理)が中心に置かれ、社員個々人は役割形成/目標設定、自己研鑚、自己評価を行い、会社側としては配置/ローテーション、評価/進級制度、教育研修制度により、社員の成長を支援する仕組みとなっている。
特徴的なのは、配置/ローテーションの仕組みだ。
同社では、全社員が年1回、職務満足度、職種や配置の希望などについて申告する「人材育成ノート」、および社員一人ひとりの強み弱みや今後の育成計画について部門意見を集約した「人材計画書」が作成されている。そして、これらをベースに、月に2回、社員の異動について話し合う「適正配置委員会」が開催されている。
事業支援センター人事グループ人材育成担当部長の元坂道郎さんは、次のように話す。
「他社の方に、社員の配置やローテーションに関して、毎月、会議を行っているというと、たいてい驚かれますが、一人ひとりの配置・育成についてていねいに検討しているということと、事業環境の変化にスピーディーに対応するために、継続して開催しています」

オペレーター全員を対象に基本動作の確認研修

以下では、同社の技能者育成の取り組みについてみていくことにする。
図表1は、同社の技能者育成の体系図である。職能等級および入社年数に応じて研修のカリキュラムが組まれており、企画運営の中心的な役割を担うのは網干工場内にある生産技術本部教育訓練センター(以下、TRC)である。
TRCは、2000年にダイセル式生産革新の取り組みがスタートしたのを受けて、2002年に全社組織として設置された。主としてプラントのオペレーター(運転者)として必要な知識・経験・行動の各要件を満たすための体験型教育を行うが、オペレーターの上司にあたる職制に対する教育も実施する。体験型教育は、反応・蒸発・蒸留の各工程を備えた小規模プラントや操作室を使用し、行っている。
スタート時は新人やベテランに対する研修が中心だったが、ニーズに合わせて少しずつコースを増やし、現在は30コース余り。多くのコースは3日間の日程でプログラムが組まれている。新人から中堅、ベテラン、現場の指導者層と、全階層を網羅する形になっており、正社員のほかグループ会社の社員も対象としている。

図表1 技能者育成の仕組み(概略図)

図表1 技能者育成の仕組み(概略図)

TRCでは、教育訓練の目標とするところを図表2のように掲げている。基本動作、原理原則を理解したうえで、実際にオペレーションを体験させ、さらに進んで非定常、異常時の操作など実践的な技能を習得させて自信をもって操作ができるレベルをめざす。研修は3〜6人の少人数、各工場からの混成グループ編成で行い、インストラクターとの対話を重視しているという。

図表2 教育訓練センター(TRC)での教育訓練の目標

図表2 教育訓練センター(TRC)での教育訓練の目標

このうちの「自信」について、生産技術本部教育訓練センター所長の福西邦男さんはこう語る。
「『生産革新』以前は、工場やプラントごとにオペレーションの仕方や非定常時の操作の仕方などが異なっており、ローテーションで別のプラントに異動した社員は、操作を覚え直さなければなりませんでした。生産革新はそれらを標準化・統一する取り組みでもあったわけです。TRCでは、その標準化されたオペレーションを体験的に学ぶことになります。そのため、どの工場へ行っても通用するという自信がつきます」
前述のとおり、新入社員(初級職)から始まって中級職1級・中級職2級など各段階ごとにコースが設定されている。高卒の新入社員については、入社後約3カ月間はTRCにおいて新人研修を行うこととなっており、基本的なマナーから始まってプラントの運転がひととおりできるようになるまで教育している。
「単に言われたことを覚えればいいというのではなく、それぞれのコースで何をねらいとしているのか、きちんと理解してもらうことを重視しています」(福西さん)
TRCでは、新人研修にかぎらず、すべてのコースについて「基礎技術、基本動作、原理原則」を重視しているが、慣れてくるとどうしても自己流になってしまいがち。そこで、3〜4年前から、オペレーションを担当する社員全員、職制も含めておよそ900人を対象に、もう一度、基本動作を振り返る研修を実施してきた。
「TRCができて15年、この間の延べ受講者数は、約6,000人に上っています。これだけやれば、基本動作に関する理解、実践は浸透するだろうと思っていたのですが、そうではありませんでした。指導者層を対象とするコースも設けて、現場指導の徹底を図っていますが、それでも基本動作がおろそかになってしまう部分があります。そこで、もう一度きちっと振り返りをやろうということにしたのです」(福西さん)
振り返りコースのカリキュラムは、図表3のとおりだ。受講者は6人までとし、講師2人体制で実施する。まさに「一緒に考える」体制といえるだろう。

図表3 基本動作振り返りコースの概要

図表3 基本動作振り返りコースの概要

ここでいう「基本動作」とは、たとえば、挨拶や仕事の段取り確認といった社会人としての基礎から始まって、3S、指差呼称など安全確保のためのルール、バルブの開閉やポンプ起動停止、非定時の操作といったオペレーションの基本などを指す。同社では、上司であっても職名で呼ばず、「さん」づけで呼ぶことが全社的に行われており、そうした社内文化も含まれる。
一つひとつの行動をみれば簡単なことばかりだが、「なぜそうするのか」という根本の理解をあいまいにしたままだと、ついいい加減になってしまう。2日間の集中コースで、「なぜ」の部分を丁寧に説明しながら体系づけて実施することで、「ああ、この作業の意味はそういうことだったのか」と、あらためて理解した人も多かったという。また、職制クラスも対象とすることで、どの部署でも同じ目線で指導ができる体制づくりをめざした。
振り返り研修では、受講者は事前に職場の上司と自身の改善ポイントなどを話し合い、シートを提出。これにTRC側でコメントをつけてフィードバックし、そのうえで受講してもらう。
さらに受講後は、一人ひとりについて評価シートを作成(図表4)。担当インストラクターがチェック項目を5点満点で評価し、「総合評価と指導のポイント」を書き込んで、職場の上司に送っている。これを見れば、どこが評価され、どこが足りなかったのか、今後、何を努力すればいいのかが一目でわかるようになっている。受講者が職場に戻ると、この内容について、上司からフィードバックを受けることになる。インストラクターも職場の上司のほうも、相当に手間暇をかけているといえるが、事前・事後の評価シート作成はこの研修だけの取り組みではなく、TRCが実施するコースすべてに共通するものだという。

図表4 基本動作振り返りコースの評価シート

図表4 基本動作振り返りコースの評価シート

なお、TRCの年間研修計画は各工場の人材育成計画と連動しており、毎年、各工場から提供される3年先までの受講予定者リストをもとに、単年度の実施計画を策定しているそうだ。

協力会社とも連携し、メンテナンス道場を開設

次に、2015年春から始まった「メンテナンス道場」について紹介しよう。これは、プラントの保守管理業務を担う同社と協力会社の社員を対象に、ボルトの締め付け作業など、基本的なメンテナンス技術を伝授し、誰が作業を担当しても一定の水準を保てるようにしようという取り組みだ。
メンテナンス道場開設の背景には、世代交代などによるメンテナンス技術の低下がある。具体的にいうと、まず同社では、近年、施工会社の工事品質を検収、評価する能力や、トラブル原因の調査、解析能力の低下が生じていた。また協力会社や設備メーカーにおいても、ベテラン技能者、熟練工の減少やメンテナンス業務の下請け化が進んだことから、同様にトラブル原因の調査、解析能力が低下していた。
こうした状況のもとで、メンテナンス・施工不良によるトラブルが増加傾向にあったことから、同社社員だけでなく協力会社作業者まで含めて幅広くメンテナンス技能を伝承する場をつくることになったものである。
道場の体制づくりにあたっては、まず講師やその候補者となる「コアメンバー」を、各工場の設備診断技術者のなかから選出した。現在14人いるコアメンバーは、ISO機械状態監視診断技術者、HPI圧力設備診断技術者、JPI設備維持管理士、NDI非破壊検査技術者などの資格を有している。
教育内容は、大きく機械系と電気計装系に分かれる。まず機械系は6つの柱で構成される。
(1)腐食・劣化損傷解析技術
(2)溶接管理技術
(3)非破壊検査技術
(4)シール技術
(5)潤滑管理技術
(6)振動診断技術
「たとえば、(2)溶接管理技術では実際に溶接作業を行い、形状を計測したり、(4)シール技術ではフランジボルトの締付訓練を行ったりと、それぞれの技術分野でメンテナンス道場の取り組みが始まっています。年1回の法定点検(シャットダウン・メンテナンス)の際には、そこで身につけた知識や技能を活かして点検・修理作業の検収を行い、実践をとおしてさらに技術力を上げていくという流れになっています」
エンジニアリングセンター装置監査グループのグループリーダーである、和泉谷博雄さんは、現状についてそのように説明する。
ここでは、6つの柱のうち、「(4)シール技術」のなかの「配管フランジボルト締め付け訓練」について紹介しよう。フランジとは強度の高い配管継手のことで、プラントなどでは数多く使われている。フランジボルトの締め付けが不良であれば、配管を通る原材料や蒸気が漏れ、重大な事故につながる危険もある。
同社では、センサーを内蔵したフランジ締付け訓練装置を独自に開発し、これを使ってボルトの締付状態を客観的に測定・評価し、技量認定している。
フランジボルトの締付け手順は、ASME(米国機械学会)規格では、8本のボルトをまず対角に目標締付けトルクの20〜30%、50〜70%、100%と3段階で締めていき、その後時計回りに100%でもう一度締めるという方法が示されている。しかしダイセル方式は、最初に軽く締めるときだけ対角で、あとはすべて時計回りに、10%、20%、30%……と100%まで10%刻みで締めていく。
1ラウンドあたりの締付け量を抑えることがポイントで、これにより全面を均等な力で締め付けていくことができる。時計回りを繰り返すのは、対角だと次の順番がわからなくなって飛ばしたりする可能性が高まるからだ。このように1回あたりの締付け量を抑える方式だと、時間がかかるのが難点と思われがちだが、慣れれば13ラウンド締め付けても3分以内で完了できるという。
ただ、10%刻みで少しずつ締め付けていくのは非常に微妙な力加減が求められ、きちんとできているかどうかを判断することも難しい。そこで訓練装置を開発し、一つひとつのボルトの1回ごとの締付け具合を即時的にグラフで表示できるようにしたのだ。熟練者は、横軸に時間、縦軸に締付け強度をとったこのグラフの形が一直線になり、ばらつきがない(図表5)。

図表5 フランジボルト締付けの測定グラフ

図表5 フランジボルト締付けの測定グラフ

この方法で、同社エンジ(設備管理)部門、生産部門の社員と協力会社の作業者の技量認定を行い、次の4段階で評価している。
[1]3つ星…単独でうず巻型ガスケットのフランジ締付け作業ができる。
[2]2つ星…単独でシートガスケットのフランジ締付け作業ができる。
[3]1つ星…1人でフランジ締付け作業ができず、上位者との共同作業のみ可。
[4]NG…フランジ締付け作業ができない(フランジ等の手入れは可)
協力会社全体での評価結果は3つ星が30%、2つ星が42%、1つ星とNGが計28%であった。しかし、このうち常駐協力会社作業者だけでみると、NGがゼロ、3つ星認定者が86%という優秀な成績だった。

電気・計装系の分野でも、今年度から道場を開設

メンテナンス道場の電気計装系については、昨年度から準備を始め、今年度開設した。開設の背景には、技術力の低下に対する懸念があった。エンジニアリングセンター電気計装グループ、グループリーダーの岡田正也さんは、こう話す。
「電気・計装系は化学プラントのモーターや計器関係、制御システムなどを扱っています。いま50歳くらいまでのメンバーは現場の計器を取り外してメンテナンスしたり、ちょっとした電気工事や計装工事をやっていたり、システムのなかのソフトウェアを自分たちでつくったりした経験があるのですが、近年はそうした業務を外注化してきているため、若い人たちは自分たちではやったことがないという状況です。
そのため若いメンバーには、内部構造の理解が足りなかったり、工事の際にも施工会社に指示・指導ができないケースがあったり、またトラブルが発生しても問題の本質がどこにあるか、懸念事項は何かといったことがなかなか解析できないといった事象がみられるようになっていました」
こうしたことから、ベテラン技能者のノウハウをメンテナンス道場で体系的に伝えようということになったわけだ。
教育カリキュラムとしては、「電気・計装編」と「システム編」のそれぞれについて、(1)施工/製作実習、(2)検収/チェック実習、(3)分解・整備/メンテナンス操作実習、(4)原因究明実習という4つのステップが構想され、今年度は「(1)施工/製作実習」の教育を実施。電気・計装編では、電気機器や配管、バルブなどの部品を渡し、グループ単位で実際に組み立てる実習が行われる。
「計装配管を曲げる工程1つとっても、どのくらい曲げたらいいかは経験しないとわかりません。講義も交えつつ、実際に手を動かしながら覚えてもらいます」(岡田さん)

卓越技能職認定制度で技能伝承を促進

手厚く技能者育成を行っている同社だが、これ以外にもその他の技能系人材育成の仕組みとして、2016年度から始まった卓越技能職制度がある。
同社は2015年度、専門技術に秀でた人材を発掘・育成する仕組みとして、管理職以上を対象とする「プロフェッショナル職制度」を設けた。これに続き、専門技能に秀でた人材にもスポットを当てることによって、モノづくりを支える技能で社業に貢献する人材を育む風土を醸成しようというのが、卓越技能職認定制度だ。ここでいう「技能」は、「経験や訓練の蓄積によって特定の個人に身につく、モノをつくる能力や知識」と定義され、「技術」(客観化・形式知化された、モノをつくる方法や手順)と区別される。

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卓越技能職に求められる人材像は、次のとおり。
・特定の分野で卓越した技能を有すること。
・実戦で培った経験や実績をもち、その技能で問題解決ができること。
・たゆまぬ創意工夫で技能のさらなるレベルアップを図るとともに、技能伝承の重要性を理解し、指導・育成に熱心であること。
このように認定者には、その秀でた技能をさらに磨くとともに、次の世代へ伝承する役割を担ってもらい、それに対して役割手当を支給する。人材像に適合した社員を各工場から推薦してもらい、審査・認定する仕組み。現在、生産部門、エンジニアリング部門、研究開発部門などから68名が認定を受けている。TRCの講師やメンテナンス道場のコアメンバーとして活躍している社員も多いという。
以上、ダイセルにおける技能者育成の仕組みを紹介してきた。よく知られるダイセル式生産革新も、世代交代問題を前に「できるだけわかりやすい技能伝承の仕組みが必要」という発想から始まったと知り、モノづくりの技能とそれを担う人材を大切にする同社の姿勢にあらためて共感を覚えた。

(取材・文/北井 弘)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ダイセル
本社 大阪市北区
設立 1919年9月
資本金 363億円
売上高 4,401億円(連結 2017年3月期)
従業員数 2,248名(2017年3月末現在)
平均年齢 41.2歳
平均勤続年数 16.3年
事業案内 セルロース事業、有機合成事業、合成樹脂事業、火工品事業など
URL https://www.daicel.com/

(左から)
エンジニアリングセンター
電気計装グループ
グループリーダー
岡田正也さん

事業支援センター
人事グループ
人材育成担当部長
元坂道郎さん

エンジニアリングセンター
装置監査グループ
グループリーダー
和泉谷博雄さん

生産技術本部
教育訓練センター
所長
福西邦男さん

エンジニアリングセンター
装置監査グループ
主任部員
吉本博之さん


 

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