事例 No.124 ダイニチ工業 特集 現場主体の若手技能者育成
(企業と人材 2018年1月号)

技術技能教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

徹底したQCサークル活動の継続によって
社員の意識を高め、フレキシブルな生産体制を確立

ポイント

(1)全社的な取り組みとして、35年にわたりQCサークル活動を継続。現場の社員の意識を高め、品切れを起こさないフレキシブルな生産体制を確立。

(2)QCサークル活動では、「自分たちの職場の問題」について、創意工夫で改善していく。また、月1回の報告会や、社長による現場巡回も実施される。

(3)QCサークル活動以外の若手育成施策として、新入社員研修でもQC活動体験学習を実施し、QC発想を実感してもらう。また、TPM活動による設備に強い人材育成や、部門をこえた多能工化などを図る。

繁閑の差がある季節商品。フレキシブルな生産体制を確立

家庭用石油ファンヒーターの販売台数が10年連続第1位で、約5割のシェアを持つダイニチ工業株式会社。業界に先駆けて取り組んだ気化式石油燃焼技術をベースに、長く支持される製品を世の中に送り続けてきた。近年では、石油ファンヒーターで培った技術を展開した加湿器も、4年連続で販売シェア第1位を獲得している。

《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」 《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」

新潟に本拠を置き、社員数は512人。少数精鋭でありながら東証一部に上場しており、業界トップの実績を長く維持している。その強さの理由は、高度な技術開発力に加え、「品切れを起こさないフレキシブルな生産体制を確立している」点にあると、総務部人事課・課長の皆木伸介さんは話す。
石油ファンヒーターのように季節によって需要が変動する商品は、生産計画が立てにくい。一般的には、ある程度計画生産をして、そのなかから注文に応じて出荷する形を取る。ただし、この体制では売れ筋のものから品切れとなってしまう。
これに対して同社では、年間を通じて標準的な製品を生産しておき、シーズン時には、在庫の状況や今後の受注予想にあわせて、随時生産計画を変更する。このように臨機応変に対応することによって、シーズンの最後まで品切れを起こさずに製品を供給できるのだ。販売店からの評価も高く、同社の強みの1つとなっている。
しかし、実際にフレキシブルに対応するのは簡単なことではない。職人的な高度な技能が必要とされるわけではないが、一人ひとりが自律的に動けるかが、きわめて重要になる。
「生産する機種が変われば、段取り替えといって、機械につける金型をつけ替えるなど、組み立てラインの設定も変更する必要があります。もちろん、段取り替えの間はラインが止まってしまいますから、いかにその時間を短縮するかが重要になります。
いまや多くの生産現場で10分以内の段取り替えが常識になっていますが、大手企業のように多額の設備投資が難しい当社では、現場の社員が意識を高くもち、お互いに協力しあって進めていくしかありません。いまの体制も、現場での地道な改善の積み重ねのうえにできたものです」
こうした現場での積み重ねを象徴するのが、QCサークル活動である。国内の企業において、2000年代よりQCサークル活動が低迷した時期が長く続いたことがあったが、同社では、35年ほど前に導入して以来、現在にいたるまで途切れることなく取り組みを継続している。

会社全体でQCサークル活動。各職場の問題に取り組む

同社のQCサークル活動は、生産部門だけでなく、開発、営業、事務などの部門も参加する全社的な活動である。部門によっては運営体制が若干異なるが、基本的には、職場ごとに年齢や年次の異なる5〜6人ずつのサークルを組み、メンバー全員で職場の問題解決に取り組む。現在、約40サークルがそれぞれテーマを掲げ、活動に勤しんでいる(テーマの詳細については後述)。
各サークルでは、作業の分担と年間のスケジュールを自分たちで決め、調査や分析、議論を進めていく。当初は「自発的な活動」であるとして昼休みや就業時間後に作業が行われていたが、その後、同社において「通常の業務の1つである」との考えに大きく変わり、いまでは業務時間内に行うよう奨励している。どうしても業務時間内に終わらなかった場合は、その分の残業代が支払われる。
こうしたQCサークル活動の成果は、月1回行うQC報告会で発表される。どんなに忙しいときでも全社員が集まり、各サークルで取り組んだ改善内容について報告している(基本的に、1回の報告会で3サークルが発表)。
特徴的なのは、QCサークル活動や報告会に、経営トップが深くコミットしていることだ。毎月の報告会に先だっては、吉井久夫社長が自ら現場を訪ねて各サークルの取り組みを確認する。そのうえで、発表資料を読み込み、審査員とともに検討会を行い、報告会では個別に講評も行う。どれだけ繁忙期に入っても、現場巡回や報告会での講評を毎月欠かさず実施してきたという。
「社長は『自分たちにとっては毎月のことでも、発表する社員にとっては年に一度のことだから気を抜けない』と述べており、社員にもその熱意が伝わっていると思います。
経営トップがわざわざ現場に足を運び、自分たちの取り組みを細かく見てくれる機会はそうそうありません。現場巡回や講評の場では、発表内容について『これではわかりにくいな』などと厳しいことも言われるのですが、それはそれで、社員にとってはより意欲がわいてくるようです」
なお、QCサークル活動の主体は管理職を除く一般社員である。グループリーダーや部課長などの管理者層は、自分のマネジメント範囲における改善内容について、年に2回、TQC報告会にて成果を報告する。
また、QCやTQCの活動を円滑に進めるため、全社的な運営組織も整備されている。事務局をはじめ、活動の具体的な運営を決定するQC運営委員やQC活動報告会で審査員を務めるQC審査員など、それぞれ役割を果たす(図表1)。

図表1 主なQC組織と役割

図表1 主なQC組織と役割

QCサークル活動のテーマは、創意工夫で改善できるもの

QCサークル活動において取り組むテーマは多岐にわたるが、設備投資をしなければ解決できないような大きな課題ではなく、自分たちの創意工夫で改善できるようなものが中心となる。生産現場であれば、特定の工程で不良率が高くなっている原因を調査し改善を図ったり、手のかかる作業を省力化・効率化するために知恵を出しあう。
たとえば、あるサークルでは、組み立て工程においてパイプをセットしたあと、手作業で角度をつけなくてはいけなかった。1cmほど曲げるだけなのだが、その作業が1日6,000回も発生するため、多くの作業者が「手が痛い」と訴えていた。そこで、ひとつ前の工程において、機械で自動的に角度をつけられるように改善。すると、手の痛みから解放されると同時に、手作業で角度をつける必要もなくなったので、わずかながらも作業時間の短縮につながったという。
また別のサークルでは、新たな設備が導入され、最後に完成した製品を梱包する工程が自動化されたが、製品の入った箱は重量があるため、人力で運び出すのに苦労していた。そのため、箱詰めした製品を簡単に動かせるようローラーの上を滑らせるようにして、作業を軽減したという。
このように、QCサークル活動で取り組むのは、すべて「自分たちの職場の問題」である。
「QCサークル活動は、コスト削減や作業時間短縮など会社の業績に寄与するのはもちろんですが、自分たちのためにもなるのです。真剣に活動に取り組めば、実際に職場の困りごとが解決していく。そんな経験を通じて、社員は改善していく面白さを知り、自分の仕事への関心もさらに高まる。こうして、自分で考え、行動するという姿勢がすっかり根づいてきたように感じています」

新入社員研修でQC活動体験学習を実施

こうした長年の積み重ねにより、いまやQC的な発想やQCストーリー(問題改善のための基本的な手順)に則った行動が社内に定着している。全社的に業務を進めるうえでの共通言語となっているため、新入社員研修でも、QCサークル活動についてのプログラムを実施している。講義や体験学習をあわせて3日間もの時間を割いていることからも、その重要性がうかがえる。
2017年度の新入社員研修のうち「QC新人教育」(図表2)では、同社の新入社員および協力会社の新入社員の合計34人が受講。前半では、QCの考え方やQCストーリーについての講義のほか、グラフや図を使った分析手法などの実習を行った。

図表2 2017年度 QC新人教育のスケジュール

図表2 2017年度 QC新人教育のスケジュール

後半では、新入社員を5〜6人ずつのサークルに分けて、QC活動体験学習を実施。これは、QCストーリーにしたがって問題解決する過程を実際に学んでもらうのがねらいである。
体験学習では、以下の課題が与えられた。・参加者らは、工場でボルトとナットの組立工程を担当しているQCサークルである、という設定。
・作業内容は、合計30本のボルトに、ワッシャー、スプリングワッシャー、ナットを取りつけること。
・この作業を50秒以内に終わらせなければいけない。
こうした課題をもとに、サークルごとに役割分担や改善するテーマを決めて作業をする。一見、単純作業のようだが実際はなかなか難しく、最初はどのサークルも90秒以上の時間がかかったそうだ。
作業が終わると、まず現状の把握から始まる。作業時間のグラフやヒストグラムを作成して問題を見える化し、「どの作業に一番時間がかかったのか」、「なぜ時間がかかるのか」、「どうすれば時間が短縮できるのか」などを分析したうえで、改善案を考える。
そして、サークルごとに分析内容と改善案を発表し、最後は制限時間内に終わるよう、実際に部品を組み立ててみるという流れだ。
「ボルトをナットで締める際には、板から何ミリの高さにそろえるという規格が決まっています。最初は1つずつ作業して、そのつど高さを測るチームが多いのですが、より時間を短縮するために、あらかじめボルトに印をつけたり、規定の高さが一目でわかる道具を作るなど、皆でアイデアを出し合っていました。
自分たちでは思いつかなくても、他のチームの提案を聞くことで新たな気づきが生まれることもあります。新人たちは、実際に体験してみることで、標準化する、PDCAをまわすなど、QC発想とはこういうことなのかと実感できたようです」
なお、新入社員研修では、前述のQC新人教育プログラムのほかに、「30kmウォーク」というユニークなプログラムがある。これは、新入社員のほかに4〜5人の若手先輩社員がつき、仕事を含めさまざまな話をしながら30キロを歩くというもの。同僚のみならず、先輩社員との交流が深まると同時に、新人が業務についての基本的な知識を得るのにも役立っている。

▲QC活動体験学習の様子
▲QC活動体験学習の様子

▲QC活動体験学習の様子

社員の多能工化とスキルアップに注力

こうした新入社員研修を経て各職場に配属されると、若手の育成は、OJTと日常のQCサークル活動を中心に行われる。
QC活動以外での若手育成施策としては、自己啓発制度があげられる。業務に関連した勉強や資格取得は奨励されており、各部署で毎年教育計画を立てて、上司が個別にサポートしている。通信教育費用や資格試験の受験費用などは基本的に会社負担となっている。
また、生産部門の場合は機械を操作することが多いので、各設備の担当者を中心に社内勉強会を開催し、設備に強い人材を育成している。2006年にスタートしたTPM活動では、設備の故障や不良などのロスを発生させない予防保全に取り組んでおり、機械の構造の理解、保守、点検などを学ぶ勉強会を行っている。
このほか、社員の多能工化にも力を入れている。1人の社員が複数の工程を担える技能を身につけることで、需要の変化や生産計画の変更にも柔軟に対応できるようになるからだ。社員にとっても同じ作業を延々と続けるよりも、複数の作業を担当したほうが、意欲や集中力が途切れない。また、1つの作業を別の視点をもって見ることで、より課題や改善策がみつけやすいというメリットもある。
「さらに一歩進めて、3、4年前から部門を超えた多能工化も進めています。シーズンになると、受注や出荷などの事務作業や、全国のお客さまからの問い合わせに応えるコールセンター業務が多忙をきわめます。そうした繁忙期には、生産部門のうち一部の社員に、他部門の応援に行ってもらうのです。
繁忙期だけ派遣社員に来てもらう手もあるのですが、やはり会社や製品のことをよくわかっているのは社員のほうですから」
他部門に応援に行く社員は、主に他の業務に関心がある人や適性があると判断された人である。そして、現在では30〜40人ほどの社員が、部門を超えた多能工として活躍している。他部門の業務を経験したことで、社員自身の成長にもつながっているのだ。また、同社では部門を超えた異動はあまり行われてこなかったが、他部門への応援をきっかけに、新しい仕事に挑戦したいという社員も出てきた。
今後は、社内の新たなキャリアパスとして定着していくことも期待される。

自分の仕事は自分が一番詳しい。改善するのも自分しかいない

QCサークル活動の取り組みがこれほどまでに浸透した理由の1つは、トップのコミットメントが非常に大きい点にあるという。QCサークル活動を導入したのは創業者である佐々木文雄前社長であるが、現社長に代わってからも活動を継続。むしろ「以前よりも力を注いでいる」という。
そもそも同社の文化として、QCサークル活動を受け入れる土壌があったといえるだろう。
「創業者がわれわれ社員に対して常に言っていたのは、“それぞれの仕事に関しては、あなたが専門家だ”ということです。担当している仕事や製品について一番詳しいのは、課長でも部長でも経営者でもなく、担当者である社員自身であり、課題や不具合を見つけて改善するのは自分しかいないという意味です」
この精神は、同社の人材育成の基本的な考え方として、現在も受け継がれている。少数精鋭の会社では、一人ひとりが責任のある仕事を任される。企業成長のためには、それぞれが専門家として自分の仕事に誇りをもち、自ら考え、自ら行動すると同時に、仲間と知恵を出し合い、力をあわせることが重要だ。
同社では、どんな場合でも、問題を指摘することが奨励されている。過去にはある社員が、石油ファンヒーターの炎の長さが通常より長いと指摘したことがあった。生産ラインを止めて調べたら他機種のポンプがついてきたことが判明し、表彰を受けたという。
生産ラインを止めることになっても、社員総出で全数検査をすることになっても、問題を指摘した人が称賛される文化がある。最悪なのは問題を隠すことであり、仮にそれが自分のミスであったとしても、申告するのが正義だとされている。
これらはまさに、自分たちの職場の問題を自発的に改善していくQCサークル活動に通じる姿勢といえる。
「経営資源の限られた小さな会社が、大企業と伍して戦っていくには、QCサークル活動を徹底することが大切なのではないかと感じています。活動自体は珍しいものではありませんが、他の目新しい施策に飛びつくことなく、これを徹底して突き詰めてきたことが、いまのわれわれの強みになっていると思います」

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 ダイニチ工業株式会社
本社 新潟県新潟市
創立 1964年
資本金 40億5,881万円
従業員数 512人(2017年4月1日現在)
事業案内 家庭用石油ファンヒーター、業務用石油ストーブ、セラミックファンヒーター、加湿器、コーヒーメーカーなどの製造・販売
URL https://www.dainichi-net.co.jp/

総務部人事課
課長
皆木伸介さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ