事例 No.085 ポラスグループ 特集 研修施設のいま、そしてこれから
(企業と人材 2017年2月号)

技術技能教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

“社員大工”を育てる建築技術訓練校をリニューアル
グループの総力を結集し、「木」をコンセプトにした施設を建設

ポイント

(1)将来の技能者不足を予見し、建築業界を担う人材育成のために、1987年に「ポラス建築技術訓練校」を設立。社員大工の育成をスタート。

(2)2016年に手狭になった訓練校を移転・新設。「木」の素材感や質感を体感しながら学べる施設に。

(3)自社開発の部材を用いて、柱でさえぎられない大空間や建築費用のコストバランスを実現。中・大規模木造建築物の実例モデルとして、自社の事業にも活用。

30年も前に社員大工の養成校を設立

ポラスグループは、1969年に創業。埼玉県、千葉県、東京都を中心に、一戸建て分譲住宅や注文住宅の設計・施工・販売、建築資材の加工・販売、リフォーム、不動産管理など、住まいにかかわる多彩な事業を行っている。

図表1 ポラスグループとポラス建築技術訓練校

図表1 ポラスグループとポラス建築技術訓練校

エリアを限定した事業展開による地域密着型サービス、あらゆる工程を下請け任せにしない独自の直営責任一貫施工体制と、グループ内の研究所が開発した独自技術などが特徴で、業界内外から高い評価を得ている。
こうした同社の成長を支えてきたのが、高い技能をもつ社員大工であり、その育成拠点が、今回紹介する「ポラス建築技術訓練校」である。
訓練校の設立は1987年。木造建築の技能者が不足するなか、グループ内で大工を独自に養成するため、当時の経営トップ(創業者中内俊三氏)の決断でスタートした。従弟制度の下、経験や勘を頼りに“盗んで覚える”のがあたり前だった大工の技術を系統立てて教育し、旧来の「大工の棟梁」がもつ伝統的な建築技術を継承するとともに、新しい工法・技術開発にも対応でき、かつ施工精度の高い技能者を育成してきた。職業訓練法人ポラス建築技術振興会ポラス建築技術訓練校・課長の加藤敏子さんは、当時の状況について次のように話す。

▲独自開発の「合せ柱・合せ梁・重ね梁」の見本

▲独自開発の「合せ柱・合せ梁・重ね梁」の見本

「訓練校を設立した当時、すでに深刻な技能者不足が始まっていました。建築現場は、きつい、汚い、危険の『3K職場』といわれ、大工さんが自分の息子を『大工にしたくない』というような状態でした。また、お客さまの品質に対する意識の高まりから、建築物にも高い精度が求められるようになってきていました。そうしたことから当社は、建築業界の将来を見据え、工場で精度の良い部材を加工するプレカットを進めるとともに、それを現場できちんと組み立てられる大工を、自社で育成していくことにしたのです」
職人を自社内で抱え、一から育てることは、大きなコストとリスクを伴うが、グループ各社が出資して職業訓練法人ポラス建築技術振興会を設立(図表1)。現在はグループ企業のうち7社が正会員となり、グループ全体で育成を支える体制を築いている。

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現在、訓練生は、グループのポラスハウジング協同組合に社員として所属し、そこから訓練校に派遣される。ポラスハウジング協同組合というのは、同グループの“施工部隊”であり、グループ各社から委託を受けて住宅建築などを行う組織。訓練生は1年間、給料をもらいながら建築技術を学び、卒業後は、ポラスハウジング協同組合の社員大工や内装施工者として活躍する。

自社技術を活かし、施設をリニューアル

2016年3月、同社はこの訓練校の施設をリニューアルした。JR越谷レイクタウン駅から徒歩圏内の、調整池と国道に面した場所に、事務所棟と実習棟からなる研修施設を新たに建設したのである(図表2)。

図表2 ポラス建築技術訓練校の1階配置平面図

図表2 ポラス建築技術訓練校の1階配置平面図

事務所棟は3階建て、最大10m×12mスパンの木造建築物で、講義形式の研修を行う事務室が大小合わせて6つ設けられているほか、専任講師らが常駐するオフィス機能も備える。他方、実習棟は平屋建てで、最大30m×12mスパン、天井高6mという広い空間を設けた木造建築物である。いずれも、1時間準耐火構造としての性能を備える。
加藤さんは、訓練校を新たに建設した理由を次のように語る。
「以前は、隣接する草加市内に寮と一体で訓練校を設置していました。移転の最大の理由は、施設が手狭になったためです。
2015年度に、内装仕上げができる人材をつくる『建築内装系インテリアサービス科』を開講しました。じつはしばらく休止していたのですが、内装分野の人材不足も深刻な問題となっており、人材育成の必要を強く感じていたことから再開しました。その結果、社員大工を養成する『建築施工系木造建築科』と『建築内装系インテリアサービス科』とを合わせて45人前後と、かなり訓練生の人数が増加したのです。旧施設の実習室も30人程度は収容できましたが、2科同時には作業ができず、作業途中の実習課題の置き場所がないなどの問題が生じていました。
さらに、旧訓練校は住宅地にあり、経営トップは音が出て近隣にご迷惑をおかけすることを気にしていました。そこで、2年ほどかけて構想を練り、ようやく新しい場所に施設を建てることができました」
新しい訓練校は、すべてポラスグループで施工したそうだ。建物の構造となる柱や梁も自社加工したものを使っており、中・大規模木造建築の実例モデルとしての役割ももたせている。高校生の採用が厳しくなるなか、充実した学習環境をアピールするねらいもあるという。
ポラス株式会社経営企画部経営企画室の広報チーム係長青栁孝二さんは、建物の特徴をこう説明してくれた。
「いちばんの特徴は、自社で開発した『合せ柱・合せ梁・重ね梁』を使用していることです。一般に流通している木材を活用し、大断面集積材と同等の強度の梁や柱を実現しました。これによって、柱でさえぎられることのない広い空間が可能になっています。これらを用いたポラスフレームシステムは、2016年度のグッドデザイン賞にも選ばれました」
建物は、木造建築に携わる技能者を育成する環境として、「木」の素材感や質感、触感を体感しながら学べることをコンセプトに設計された。実習棟はガラス面に合板パネル、事務所棟もテラス外周部に木製格子パネルを設置し、木質感あふれる外観に。建物内部も、木の風合いを活かしたデザインになっている。実際に建物のなかに入ってみると、本当に木造なのかと思うほど、空間が広々している。それでいて、木の柱や梁が壁や天井に露出している教室には、新鮮な印象を受けた。
「木材は鉄骨などより軽いため、建物の基礎部分のコストを低く抑えることができます。また、『合せ柱・合せ梁・重ね梁』は一般住宅で使われる流通材を集束させたものなので、材料のコストも抑えられます。木の温かみや柔らかい質感をもちながら、柱でさえぎられない広い空間は、ショールームや倉庫、事務所などにも幅広く活用できると思います」(青栁さん)
なお、同施設は、国土交通省の2015年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)に採択されている。

社員が講師役となり、1年かけて訓練生を教育

訓練校は1年間の全寮制で、前述のとおり、建築施工系木造建築科(以下、「木造建築科」)と、建築内装系インテリアサービス科(以下、「インテリアサービス科」)の2科制。前者は大工の養成が目的で、設立当初から30年続く科。後者は、屋内の電気配線や壁・天井のクロス貼りなど、内装施工について学ぶ科で、しばらく中断していたが、2015年度に復活した。
訓練生になるには、同社の社員になる必要があるので、“入学試験”ではなく、“入社試験”を受ける。
「専門学校に入学するのとは性格が異なることを、事前の見学会で強調しています。『1年間学んだあとは、こういうところで働く』、『ノミやカンナの使い方から学ぶが、実際の仕事はこう』と説明し、納得したうえで採用試験を受けてもらいます。工業高校だけでなく、普通科や商業科からの応募もありますが、技能は一から教えるので問題ありません」(加藤さん)
年ごとの訓練生の採用人数は、グループ各社の採用計画を基に決定する。近年は、木造建築科30人、インテリアサービス科15人程度を定員としている。採用倍率は2倍弱だが、求める人材でなければ、定員未満でも採用しないという。

図表3 建築施工系木造建築科の訓練内容

図表3 建築施工系木造建築科の訓練内容

では、訓練の具体的内容について紹介しよう。木造建築科の授業内容は図表3のとおり。年間1,400時間に及ぶ充実したカリキュラムだ。教室で学ぶだけでなく、卒業が近づくにつれて現場実習を増やし、現場に出てからのギャップがないようにしている。

▲事務所棟の事務室(研修ルーム)

▲事務所棟の事務室(研修ルーム)

▲実習棟の屋内研修室

▲実習棟の屋内研修室

教えるのは、主に一級建築士や電気工事士など、資格と経験を兼ね備えた自社グループの社員。一部の短期課程(防水、足場講習など)で外部に依頼するものもあるが、基本的にはグループ内で行っている。訓練校に所属する専任指導員は8人で、加藤さんを含め9人体制で運営している。専任指導員はいずれも訓練校出身。技術だけでなく、人も育てられる人を選任している。「指導員になりたい」と立候補する人もいるという。専任講師は実技を教えるほか、寮生活や身だしなみなど、生活指導も担当する。
「建築の仕事は1人ではできません。コミュニケーションが重要なので、同じ釜の飯を食べ、気心が知れていることを大事にしています。しっかり食べて安全に作業するため、寮生活を通じて生活改善の指導もします」(加藤さん)
座学の講師を担当するのは、グループ各社の第一線で働くプロフェッショナルたちだ。一人ひとりの負担が重くならないように、30~50人の社員に分担して受け持ってもらっている。
「実学を教えたいという思いがあり、『基本はこうだが、実際はこうなっている』といった実践的な話もしてもらいます。講師役の人には負担はありますが、人に教えることは本人の勉強にもなります。また、他部門の人に接することは、訓練生の視野を広げたり、ポラスの理念教育にもつながっています」(加藤さん)

資格取得、多能工化をめざし卒業後も施設で学ぶ

訓練校を卒業したあとは、グループの仕事を担当しながら、さらなる成長をめざす。同社では、標準的なキャリアプランとして、木造建築科であれば6~7年で一人前の大工になれるようにステップを踏んで育てている(図表4)。

図表4 卒業後のキャリアプラン(木造建築科)

図表4 卒業後のキャリアプラン(木造建築科)

一口に大工といっても、骨組みなど家の基礎をつくる躯体工事(フレーミング)、雨仕舞いなど外側をつくる外装工事、天井や床など内側をつくる造作工事という大きく3つの工程があり、これらを順に経験し、学んでいけるようにしているのだ。一定の経験を積み、希望と適性があれば、現場監督や設計など他の職種に移ることもできる。なお、一人前の大工になったあとは、独立する人もいる。「匠会」という組織が設けられており、独立後も同社の仕事を請け負うことができる。
「大工の世界では、能力があれば、若くてもどんどん仕事をして稼ぐことができます。一方、社員大工の待遇に魅力を感じる人もいますので、そこは本人に選んでもらいます」(青栁さん)
訓練校卒業後も、1級技能士などの資格取得や技能五輪、技能グランプリにチャレンジする社員が、訓練校に学びに来る。またOBたちが自ら手をあげて、就業時間外に参加する講座も用意している。取材当日も、実習室の一角に技能グランプリに参加する若手社員らの練習スペースが確保されていた。
同社がめざすのは多能工化だ。社員大工に電気工事士の資格を取得させたり、インテリアサービス科で電気工事とクロス施工の2種類を学ばせるのはそのためだ。さらに、足場組み立て等作業、木造組み立て作業、電気工事士、安全体感、防水、外装など、単発や短期コースの講座を実施または計画している。
「以前は施設が手狭でできませんでしたが、今後は、会員企業の要望に応えられる訓練を積極的に開発していきます」(加藤さん)
ちなみに、資格取得をめざす自主参加の講座は、費用を本人負担とするものが多い。国家資格を取得することは、自らの仕事の幅を広げ、顧客の信頼を得ることになる。訓練校のカリキュラムにも資格取得のための授業が組み込まれており、卒業後、学科・実技試験の免除を受け、申請のみで最短で入社2年目の冬に、2級技能士の資格を取得できる。
なお、事務系社員の研修は、基本的に別の研修施設で実施する。

いまや卒業生が中核人材に、今後は採用強化が課題

人材育成を進めるうえでの課題は、技能者になる意欲のある人材をいかに採用するかだ。訓練校を長く続けてきたことや、技能五輪などに積極的に参加することで、全国から応募が来るようになったが、応募者の“質”と“量”の確保は簡単ではない。
「専門学校感覚で来られると、続きません。訓練期間中に退職するのは、そうした学生です。事前によく説明していますが、『勉強しながらお金をもらえる』という意識で応募してくる学生も多く、見極めに苦労します。100パーセント卒業させて会員企業に戦力として送り返したいので、厳しいことも言います」(加藤さん)
社員採用ではなく、授業料を取って学ばせ、卒業後に採用する方法も考えられるが、安全・安心の住まいの要の人材育成のためであり、建設業界の将来を危惧して始めた取り組みなので、そうしたやり方にするつもりはない。

▲ポラス建築技術訓練校事務所棟の外観

▲ポラス建築技術訓練校事務所棟の外観

過去には社員大工の採用枠で大卒採用を行っていた時期もあるが、いまのところ大卒採用を復活する予定はないという。
「20年前は『とりあえず就職』でしたが、いまは『とりあえず大学進学』になっているように感じます。なので高卒で就職しようという人は総じて意識が高く、優秀です。とりあえず大学に行き4年を過ごした人が一緒に試験を受けに来ても、おそらく高卒の人を採ることになるでしょう。
ちなみに経営トップは、訓練生に対し『ポラス大学に入ったと思ってください』と言っています。私たちも、4年後に大卒で入社してきた人たちよりもずっと先にいる人材に育てる考えです」(加藤さん)
女性の活躍も進めたいところだが、これも容易ではない。
「門戸は開いており、過去には女性の訓練生がいたこともあります。しかし、1年間の寮生活を課していますし、現場は力仕事の厳しい環境です。現場監督には女性も多いのですが、訓練生はインテリアサービス科も含め、現状は男性のみです」(加藤さん)
訓練校は今後も継続し、積極的に人材育成を進めていくという。
「30年前に将来を見据えて大工の育成を開始し、いまでは、自社の理念や考え方を理解した人が、まさに会社の屋台骨を支えています。自社で大工を抱えることは、お客さまへの安全・安心につながります。それを根底で支えるのが、訓練校です。研究や設計の道に進む卒業生もいますし、管理者になる人も増えました。要所要所で会社の中核を担う人材に育ってくれています。
卒業生の活躍は社内でも周知し、経営トップが技能五輪の会場に足を運んで応援するなど、訓練生を支え、成長を見守る体制が社内に浸透しています。訓練生もそれを感じるので、一生懸命に学ぶのだと思います」(青栁さん)
「損得だけでなく、グループ全体で支えているのが、幸せなことと感じます。大工については、おかげさまで良い人材が育っており、建物の基本フレームの建築は、100%卒業生が担当しています。一方、それ以外の職種が手薄です。内・外装業者の人手不足や高齢化も深刻で、危機的な職種もあります。大工以外の職種についても、会員企業の要望を踏まえ、今後の各業種の技能者不足に備えたいと考えています。
『ポラスのやっていることはいいよね。でも、なかなかまねできないよね』と言われるくらいをめざし、自負をもって取り組んでいきます」(加藤さん)

(取材・文/崎原 誠)


 

▼ 会社概要

社名 ポラスグループ
本社 埼玉県越谷市
創業 1969年
資本金 4,000万円(ポラス(株))
売上高 1,742億円(連結)
従業員数 4,022人(グループ 2016年6月現在)
平均年齢 33.9歳
平均勤続年数 10.4年
事業案内 住宅・不動産・建設に関する事業全般
URL http://www.polus.co.jp/

(左)
ポラス
経営企画部 経営企画室
広報チーム 係長
青栁孝二 さん
 
(右)
ポラス建築技術振興会
ポラス建築技術訓練校
課長
加藤敏子 さん


 

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