事例 No.076 コニカミノルタ 事例レポート(技術技能教育)
(企業と人材 2016年10月号)

技術技能教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

技術経営の視点で変革を推進できる
技術リーダー育成プログラムを多層展開

ポイント

(1)事業マインドをもった次世代技術リーダーの育成を目的に、部門横断的に「チャレンジ技術者フォーラム(CGF)」を実施。受講者を公募し、論文と面接で選抜。1年間、合宿研修を重ね、最終的にはチーム単位で自社の技術を応用したビジネス構想提案をまとめる。

(2)CGFの企画・運営は、技術関連部門の管理職20人からなる運営委員会が担う。合宿研修にも参加し、日常的にもメンターとして受講者をサポート。

(3)MOT(技術経営)視点の強化を図る企業風土改革の一環として、管理職とその候補者層を対象に「MOT選抜プログラム」を展開。研修後の変革推進アクションにつなげることを重視し、上司を巻き込んだ行動宣言やフォロー研修も組み入れる。

新事業への業容転換に貢献できる技術者の育成をめざす

1873年創業のコニカおよび1928年創業のミノルタ以来の歴史を有するコニカミノルタ。2003年に両社の経営統合により新たなスタートを切り、現在に至っている。
いまでは世界150カ国で販売とサービスの体制を構築している同社では、約4万3,000人のグループ社員共通の礎となる“コニカミノルタフィロソフィー”を定め、経営理念である「新しい価値の創造」や、同社の信条である6つのバリュー(Openandhonest、Customer-centric、Innovative、Passionate、Inclusive and collaborative、Accountable)などの共有を図っている。
近年、同社を取り巻く業界構造や事業の環境は激変している。2006年には創業以来のカメラ事業・フォト事業を終了。そこで培ったコア技術を活用しながら、現在では、情報機器事業、ヘルスケア事業、産業用材料・機器事業の大きく3分野で事業を展開している。今期最終年度を迎える中期経営計画「TRANSFORM2016」の下で、さらなる業容転換を進めている最中である。
同社のめざす人材像は、「失敗を恐れず高い目標にチャレンジし、『コニカミノルタフィロソフィー』に沿った行動をとりながら常に成長し続ける人財」だ。人事部人財育成グループ マネジャーの宮澤一宏さんは、こう語る。
「企業変革を推進していくためにいちばん大切なのは人であり、それゆえ社内では“人材”ではなく“人財”という表記を使っています。社員に対しては、“プロフェッショナル&ビジネスアスリート”をキーワードに、そういう人財をめざして主体的に行動するということを、メッセージとして強く打ち出しています」
同社の場合、人材育成の基本は、OJD(OntheJobDevel-opment)だ。単なるトレーニングではなく、能力・成果を客観的に評価し、本人が納得しながらキャリアアップを図っていくことをめざすという点が一般的なOJTとの違いで、そのために「キャリア開発支援」も年2回実施している。こちらは、能力開発に主眼を置いて、3年後の目標、1年後の目標、そのために何をするかを本人が考え、上司がアドバイスや支援をする仕組みである。
人材育成体系の全体像は図表1のとおりで、技術者教育としては、今回取り上げる選抜型の「チャレンジ技術者フォーラム」および「MOT(技術経営)選抜プログラム」のほか、全社員対象の「コニカミノルタカレッジ」のなかの「技術カレッジ」がある。この技術カレッジの多くのコースは社員が講師を務めており、とくに入社3年目までの若手技術者の基礎力強化を目的としている。専門技術7分野、汎用技術5分野を合わせて約90コースあり、昨年度は延べ1,800人が受講したという

図表1 コニカミノルタ人財育成体系

図表1 コニカミノルタ人財育成体系

管理職が運営を担う約1年間のチャレンジ技術者フォーラム

ここからは、同社の選抜型の技術者教育について詳しく紹介していこう。
まず、若手優秀層を対象にしているのが、約1年間かけて実施される「チャレンジ技術者フォーラム(CGF)」だ。これは1997年にコニカでスタトした「選抜技術者フォーラム」を引き継いだもので、歴史は長い。
そのねらいは、次世代技術リーダーの育成だ。経営理念に掲げる「新しい価値の創造」を実現したいという志をもつ技術者が、技術開発提案を創り上げることを通じてともに研鑽し合い、コニカミノルタの力強い成長を実現する技術リーダーになることを目的としている。
CGFでは、めざす技術リーダー像を次のように表現する。
・夢と強いこだわりを持ち、広い視野で自ら先頭に立って挑戦する人
・議論を恐れずに自己の想いを伝え、共鳴共感を得て周囲を巻き込みながらやり抜く人
・ダントツの技術で新しい価値の創造をする人
CGFにおける技術開発提案も、世界を変える技術、将来コニカミノルタの柱となる技術、ジャンルトップを獲得する技術、夢・希望・感動を与える技術をめざすものとされている。
では、2014年9月から2015年9月にかけて実施された前回第7期を例に、プログラム内容をみていこう。セッションは原則月1回、木曜日から土曜日にかけて2泊3日で行われる合宿形式が中心。対象者は、同社技術関連部門の20代後半〜35歳くらいまでの技術者で、概ね20人前後。そのうち1割程度が女性であった。
CGFは選抜型教育ではあるが、入口の部分は技術関連部門を対象に、全社的に公募する。「主体的に行動する」人材を重視する一環であり、また、ある種「変わり者」のユニークな発想をもつ人材が出てくることを期待するためでもあるという。そして、エントリーした人には論文提出と面接でプレゼンテーションをしてもらい、職場の合意も得て選抜する。例年、応募者数は募集の2倍程度だそうだ。第7期はこのプロセスを経て21人が選ばれた。CGFの運営委員を務め、次期第8期の運営委員長に就任した情報機器事業事業企画本部課長の武部浩太郎さんは次のようにいう。
「参加する技術者たちは、集合研修以外にも、最終提案に向けて技術テーマのブラッシュアップをしなければなりません。業務もこなしながらですから、相当なハードワークになりますが、それが彼らの成長につながると思っています」
武部さんが属するCGF運営委員会が、この研修のもう1つの特徴ともいえる。同委員会は、技術部門および開発部門から選出された管理職約20人で構成されており、それがCGFの企画・運営を直接手がけているのだ。
「これまでは、運営委員は原則3期務めるということでやってきました。こちらもかなりの負荷がかかるわけですが、運営委員にとっての成長の場でもあるととらえています」(武部さん)
なお、CGFで提案された技術開発テーマのなかには、研修終了後も継続して取り組んでいるものもいくつかある。運営側では当初から、出てきた技術のタネをきちんと育て上げていこうという思いをもって続けてきているのだという。
図表2は、第7期CGFの各セッションの内容を表したものである。

図表2 チャレンジ技術者フォーラム(CGF・第7期)実施概要

図表2 チャレンジ技術者フォーラム(CGF・第7期)実施概要

研修は、経営トップが直接、技術者マインドや起業家マインドについて語るセッションで始まる。第2回目以降は、アイデア発想、発想力、プレゼンテーションスキル、シナリオプランニングといった手法・スキルを学ぶセッション。参加者はそれらを学ぶのと並行して、次のセッションまでの間に、各自、技術テーマの提案に向けたブラッシュアップを行う。そして、次のセッションでまた新しい手法・スキルを学び、それを活かしてテーマの検討を続けるというサイクルだ。
5回目のセッションあたりから、各人がテーマをすり合わせ、最終的に3〜4人でチームをつくる。チームとして取り組むテーマは1つだけなので、このチームビルドのプロセスは毎回、大変だという。自分が数カ月にわたって練ってきたテーマをそこで諦めなければならない参加者もいるのだ。それでも、最終的にはどのチームも1つにまとまり、テーマの深掘り作業に入っていくそうだ。
こうしたこともあり、5回目のセッションにはチームパフォーマンスを学ぶ講座を設けている。今期は、駅伝の強豪として知られる同社陸上競技部の酒井勝充総監督を招き、話を聞いた。
ユニークなのは終盤に行われる異業種交流会で、7期の場合は4社のスタートアップのベンチャー企業に来てもらった。技術を事業にするプロセスを実践している20代、30代の技術者・経営者らの情熱とスピド感を間近に感じ、その起業家マインドを学ぶことがねらいだ。このセッションの内容については、参加者たちが自ら企画することになっているのだそうだ。参加者だけでなく、管理職の運営委員たちにも、大いに刺激になっているという。
運営委員は、ほぼつきっきりでセッションに参加する。研修プログラムの企画立案だけでなく、はじめは参加者各人で、その後チームごとに進める技術テーマ作成のサポートも、運営委員の大きな役割である。
「約20人の参加者に対して、ほぼ同数の運営委員がサポートにつくわけですが、たとえば、各テーマの分野に詳しい人や地域的に近い人が何人かずつメンターになって支援します。合宿期間以外にも相談を受け、内容面だけでなく提案書作成の進め方や、『○○さんに聞いてみたら?』といった人脈の面でもアドバイスを行います」(武部さん)
「CGFはこれだけ手厚くやっているものですから、上からもよく費用対効果を聞かれるのですが、運営委員の人たちにはCGF終了時に、参加者それぞれの成長度合いを技術リーダー・コンピテンシーで評価してもらっています。また職場に戻ってからは、上司が参加者と面談し、同様に研修前後の変化をみてもらうなど、効果の検証には腐心しています」(宮澤さん)
そして、CGFが終了してからも、CGF卒業生と運営委員経験者の組織を越えたつながりは続くという。とりわけ、同じチームで提案発表を行った仲間とは「場合によっては同期よりも深いかもしれない」(武部さん)くらいの絆が生まれ、交流が続く。それは、新事業へのトランスフォームをめざす同社にとっても、大きな財産といえよう。

顧客価値視点の強化を図る風土改革の一環、MOT選抜プログラム

もう1つの選抜型技術者教育が、管理職および管理職候補者層を対象にした「MOT選抜プログラム」だ。ねらいは、技術経営の視点を強化した変革推進リーダー(技術系コア人財)の育成である。
本研修が始まったきっかけは、2011年に技術者育成について検討した際、各開発部門トップから「技術者に事業マインドが足りない」という声が多く聞かれたことだった。カメラや写真の時代はスペックの高度化を考えることが第一で、しかも競合相手も限られていたため、技術開発の方向性が明確だった。しかし、これからは顧客や社会課題を起点とした新しい価値創造に社内の技術力を結集して取り組まなければ、会社の持続的成長は望めない。そんな危機意識があらためて強く認識されたのだ。
そこで、イノベーションの型として独自の技術経営フレームワークを策定し、技術経営の視点を全社的に展開・浸透させていこうという取り組みが始まった。具体的には、まず1つ目の柱が「風土醸成」で、基本的な概念や言葉を共有しようということで、講演会を開催するなどした。2つ目が「組織改革」で、イノベーションを創出できる組織の変革をテーマにワークショップを実施。そして3つ目の柱が、変革を推進する「技術リーダーの育成」であり、MOT選抜プログラムがこれにあたる。
実際の研修は約半年間、全6回で実施される。プログラム概要は図表3のとおり。このうち第1・4・6回の計3回が2日間のセッション、残る3回が1日間のセッションである。
受講者は、将来、技術部門の幹部として期待されるキーパーソンを、全社の各部門から選抜。現在、2つのコースがあり、1つは管理職(課長〜部長クラス、45歳±5歳目安)を対象としたコース、もう1つが一般職(管理職候補35歳±5歳目安)を対象としたコースで、それぞれ25人程度を選抜し、同一のプログラムで実施している。プログラムはほぼすべて内製だという。

図表3 MOT選抜プログラム概要

図表3 MOT選抜プログラム概要

この研修の企画・運営を担当する技術戦略部課長の田口久美子さんは、こう語る。
「研修当日は、なるべくインプットは少なめにして、議論する時間を多くとるようにしています。その議論を踏まえて事後課題をやってもらい、また次回に備えるというサイクルです。
どちらのコースも、いまのポジションよりも2つくらい上のイメージをもって議論するということにしています。同じプログラムでも、管理職コースの受講者は、次は自分たちが経営層だという意識ですし、一般職コースのほうはまだリーダー層なので、それぞれ課題認識が異なり、そこで行われる議論の中身はかなり違ってきます」
管理職対象のコースは2012年度から実施しており、今年度に第5期を開催する予定だ。今年度を含めて受講者の累計は約120人となる。一方、一般職コースは2014年度からの実施で、今年度に第3期を迎える予定。受講者の累計は約70人となっている。
プログラムの全体像は、図表4のとおり。この研修は、いわゆるMOTのスキルだけを習得してもらうことが目的ではなく、前述のように変革推進リーダーの育成が目的なので、それを意識したプログラム内容となっている。

図表4 MOT選抜プログラムの全体像

図表4 MOT選抜プログラムの全体像

まず、研修に入る前に、同社を取り巻く世の中の環境や事業環境を認識して、問題意識を共有化してもらう。「だから自分たちはこういうことに取り組んで、変革をしていかねばならない」というところが腑に落ちてもらえるように、第1回はとくに重視して時間をとっている。
そして第2回では、事業提案の肝になる顧客価値提案(CVP)で、顧客課題をどうつかむのか。第3回はビジネスモデルの構築と進んで、第4回では中間発表と同時に、仮説検証、探索型戦略の策定と実行。新規事業の場合には、仮説を立てては検証して、どんどんブラッシュアップしていくというサイクルが大事といった、既存事業との違いもここで学ぶ。
その後、第5回にはMOTだけでなく、持続的成長ということでグローバル企業の事例も取り上げながら、「では自分たちはどういう変革に取り組むのか」を考える。第6回は最終発表で、MOTのイノベーションプロセスに沿った事業提案と併せて、自分がこの研修の後、組織をどのように変革していくのかという具体的なアクションを各個人で発表してもらう。
「組織変革のためのアクションとしては、たとえば、本来、顧客のことをよく知らなければ顧客にとって価値のある技術開発をすることはできませんが、技術者の大多数はなかなか顧客と接する機会がありません。それに対して、どういうアクションを起こし、自分の部署をどういうふうに変えていくかを発表してもらうといったイメージです。
研修後に職場で実践してもらうことが重要なので、職場・上司を巻き込んで実践につなげる仕組みも用意しています」(田口さん)
研修開始前には、受講者が上司と面談して、現状の課題認識や研修で取り組みたいことを話し、上司からも本人への期待を伝える。そして研修後には、変革のためのアクションプランを上司にも宣言し、上司からアドバイスをもらう。そうして各職場での実践をスタートさせ、半年後にはフォロー研修を実施。受講者全員で集まり、その状況を確認する。
「その後の状況変化などもあり、なかなか思いどおりに進んでいないことも多いので、その場合は現状の課題を解決するための取り組みを再設定して提出してもらい、次のアクションを起こしてもらうようにしています」(田口さん)

課題は教育を新規事業創出につなげる環境・体制づくり

こうした技術者選抜教育の今後の展開については、まずCGFでは、新たにスタトする第8期で、その目的を次世代技術リーダーの育成から、次世代イノベーターの育成に変える方針を打ち出そうとしている。
「新しい価値を創造していくためには、新しい技術を立ち上げ、技術を事業につなげるためのコアになる人財をつくっていくというところを明確にしていこうと考えました。また、かつてCGFで学んだ卒業生が、新たに運営委員として加わるというサイクルが回り始めており、これが企業の力になってくると思っています。
さらに、社内の技術者がこういう研修を受ける機会を増やすためにも、研修期間を9カ月程度にしてサイクルを速めることも検討しています」(武部さん)
また、CGFのテーマをその後も継続して取り組むとなったときに、どういう体制で取り組んだらよいかも大きな課題だという。現状は、各人がボランティア的に進めるといった形にならざるを得ないが、それが本当に有望なテーマだった場合に、組織としてより柔軟な対応がとれないものか、今後検討していきたいという。
「逆に、そこまでいけば人財育成としては成功で、うれしい悲鳴なのかもしれませんが、悩ましい問題ではあります。それでも、兼業でもいいから一人二役でとか、企業内ベンチャー、あるいは外部と一緒に進めるなど、可能性としてはいろいろ考えられるのではないかと思っています」(武部さん)

《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」

一方、MOT選抜プログラムでは、管理職コースは今年度第5期になり、当初予定していたとおり、ほぼ全社主要部門にキーパーソンを配置することができたという。
「風土醸成や組織変革の取り組みと相俟って、共通の言語・概念でコラボレーションできる基盤もできてきたので、部門の壁を越えた活動でより大きな成果を出し、経営に貢献したいと思っています」(田口さん)
今後も環境変化や経営方針に合わせて、さらに内容を進化させ続ける予定だという。
最後に、コニカミノルタの技術者教育全体の課題と方向性について、宮澤さんはこう語る。
「われわれの喫緊の課題は、最終的には新しい事業の創出であり、これを実現するためにも、研修を単なる研修で終わらせるのではなく、そこで学んだことを事業に結びつけていかねばなりません。また、グローバルに実践力を極めることも重要です。本人のやる気以外にも、職場の上司や関係者の巻き込みも必要で、『新しい価値の創造』に向けて全員が同じ方向をめざすような環境づくりを、これからやっていく必要があると考えています」

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 コニカミノルタ株式会社
本社 東京都千代田区
設立 1936年12月
資本金 375億1,900万円
売上高 連結1兆317億円 (2016年3月期)
従業員数 単体6,198人、連結43,332人(2016年3月現在)
事業案内 情報機器事業、ヘルスケア事業、産業用材料・機器事業分野における開発・製造・販売
URL http://www.konicaminolta.jp/

(左)
情報機器事業
事業企画本部 課長
武部浩太郎さん
(中)
技術戦略部 課長
田口久美子さん
(右)
人事部
人財育成グループ マネジャー
宮澤一宏さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ