事例 No.066 カネカ 特集 混ざり交わる技術者教育
(企業と人材 2016年7月号)

技術技能教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

約1年にわたる選抜型研修プログラムで
製造中核リーダーと製造部門の幹部職候補を養成

ポイント

(1)人事・処遇制度において学歴・コース別、技術職・技能職などの区分を設けておらず、高卒から院卒まで多様な社員が共通の教育プログラムで学ぶ。

(2)1977年から続く「技術学校」。製造中核リーダー養成を目的として、毎年15人程度を選抜し、月に5日間のセッションを8回実施。課題研究では、チームごとに製造課長がサポート役について、指導・支援を行う。

(3)製造部門の幹部育成を目的とする「木鶏塾」では、「高い志・広い視野・変革の思考」をテーマに10回の宿泊研修を実施。期末には、工場経営層に改革提案を発表。

変革と成長の実現に向け、全社員を同じ体系で育てる

「カガクでネガイをカナエル会社」――企業名をうまく織り込んだこのキャッチフレーズは、テレビCMですっかり有名だ。化学、高分子技術、発酵技術という中核技術からさまざまな事業が生まれ、株式会社カネカの製品は、いまや私たちの暮らしの至るところで活躍している。海外展開にも積極的で、アメリカ、ベルギー、シンガポール、マレーシア、中国などに製造・販売拠点を有している。

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カネカは2009年9月、創立60周年を契機に、新しい企業理念・企業像・CSR基本方針を表した「KANEKAUNITED宣言」を制定した。「人と、技術の創造的融合により未来を切り拓く価値を共創し、地球環境と豊かな暮らしに貢献します」との企業理念の下、重点戦略分野として「環境・エネルギー」、「健康」、「情報通信」、「食料生産支援」の4つを掲げ、経営資源の重点配分を行うとしている。そして、変革と成長の実現に向けた経営施策の1つとして「カネカスピリットの継承と発展」をあげ、その具体策として、次の4項目を軸に人材育成を促進するとしている。
・チャレンジすることを大切に
・多様な人材を求め、育成し、活躍できる場づくり
・個々の力を結集、融合した強い組織づくり
・自由闊達な風土を大切に
会社全体の教育研修体系は図表1のとおり。「階層別研修」と、事業場主催の職種別教育研修および機能部門主催教育研修で構成される「専門・実務能力開発」を柱とし、それを補完する形で「自己開発支援」プログラムがある。なお、「技術振興基金」は、主に研究・事業開発分野の社員を対象とする海外派遣・海外留学の制度だ。

図表1 カネカの教育研修体系

図表1 カネカの教育研修体系

同社の人事制度の大きな特徴の1つは、入社時から一貫して学歴別やコース別といった区別がなく、処遇制度が一本化されていることだ。一昨年までは女性社員を中心として総合職/地域職という区分があったそうだが、現在はそれも撤廃され、すべて総合職とした。したがって、以下に紹介する研修プログラムについても、基本的にはさまざまな学歴の社員が一緒に受講することになる。
2011年に、同社は次のような「カネカ生産・技術(モノづくり)ポリシー」を制定した。
・私たちは、「安全」を何よりも優先します!
・私たちは「、付加価値の高い製品」を生み出します!
・私たちは、「技術革新」の実現に挑戦し続けます!
・私たちは、「改善活動」に「全員参加」で取り組みます!
・私たちは、世界で活躍する「人財」を育成します!
同社の生産技術部門では、このポリシーに基づいて技術者を対象とした研修を実施している。
図表2は、部門独自の教育研修体系図である。新入社員から幹部職までの「網羅性」と、社会人としての基本からリーダーとしてのあり方までの「一貫性」をベースに組み立てられている。職種としては、製造部門、エンジニア、安全、そしてグローバル教育の領域にプログラムを設定し、職位に応じて計画的に教育するシステムである。
本稿では、このなかの「技術学校」と「木鶏塾」を中心に、具体的な研修内容を紹介していきたい。

図表2 生産技術部門の教育研修体系

図表2 生産技術部門の教育研修体系

中堅製造オペレーターに工場管理の視点をもたせる技術学校

技術学校は1977年にスタートし、40年近く続く同社伝統のプログラムである。目的は、製造中核リーダー、つまり製造ラインの職長候補、シフト長候補を育てるための選抜研修だ。テクニカルスキル教育を柱とする選抜型リーダー教育であると同時に、ヒューマンスキルを鍛えるための「自己成長の場」としても位置づけられる。
対象となるのは、2交代あるいは3交代の製造ラインに入っている、30歳前後の中堅製造オペレーターである。全工場およびグループ会社の部門推薦によって選ばれた15人前後が、1年間かけて取り組む。現在は第38期が開講中であり、これまでの卒業生は534人にも上るという。
前述のとおり、同社の人事処遇制度は基本的には全社員共通で、技術職/技能職という区分そのものがない。受講者は高卒・高専卒の社員が中心だが、同社生産技術部教育グループリーダーの大森幹治さんは、次のように話す。
「そのなかから職長やその上の係長、さらに課長になっていく人が出てきてほしいと思っています。また、対象年齢層についても、今後は、できれば20歳代後半まで引き下げたいと考えています」
プログラムの具体的内容としては、5月から12月までは毎月5日間(月曜日から金曜日まで)のセッションが合計8回実施される。そして、翌年3月に修了セッションとして2日間の課題研究発表が行われるという流れだ。会場は兵庫県高砂市の同社教育訓練センターで、全セッションが宿泊研修で行われている。毎月5日間も製造ラインから抜け、研修に来るのは大変そうだが、本人たちもその間は職場の仲間がカバーしてくれていることをわかっているので、皆、非常に強い使命感をもって研修にやってくるのだという。

図表3 技術学校のプログラム概要

図表3 技術学校のプログラム概要

全体のプログラムは図表3のとおりだ。工場の管理・運営に関する知識を網羅的に学ぶ内容となっている。受講者たちは、日常業務としては製造ラインのオペレーションを担当しているが、こうしたプログラムによって工場管理の視点を身につけ、他社では大卒技術職が担っているような工場全体から考えたコストダウン策などを提案できる人財になっていくことが期待されている。
各セッションでは、講義と実習・工場見学などを組み合わせながら知識の習得を確かなものにするというのが、基本的な進め方だ。また、1カ月ごとに連続5日間の研修があるので、身につけた知識を現場にもち帰って実践するというサイクルが自ずとできてくる。ちなみに同社では、技術学校にかぎらずほかの研修でも、こうした研修と現場実践とのサイクルを重視している。
指導にあたるのはすべて社内講師である。現役社員や専門性の高いシニア社員から選ばれる。
なお、「課題研究」については、ほかのセッションと並行する形で、年間を通して進めていくことになる。セッションIで研究テーマの設定について指導を行い、各自が自分の職場で何が課題なのかを考えて、たとえば「不良率を下げる」のようにテーマを決める。そして、1年間でどのように課題解決をしていくかを実行計画に表す。この実行計画に沿って、現場で実践しながら、セッションのたびに進捗状況のチェックと必要に応じた計画の見直しをする、という方法だ。
この課題研究でもう1つ特徴的なのは、受講生3〜4人に1人の割合で、各セッションの講師とは別に、アドバイザー役の専任講師がつくことだ。
専任講師を担当するのは、全員、製造課長だ。計画の進め方や見落としがちな点をアドバイスするほか、メンター的な役割も果たしている。直属の上司・部下でないぶん、視野の広い、客観的なアドバイスが期待できるという。
第一線で活躍する製造課長にこうした役割を頼むとすれば、当人や現場の負担は小さくないだろうが、「皆、『自分や自分の部下もお世話になったから』と言って、快く引き受けてくれています」(大森さん)という。また、ふだんとは異なる職場の課題とその解決策について考える機会ともなり、自らが得ることも多いようだ。

製造部門の幹部候補に対し、視野を広げる木鶏塾

木鶏塾の名称は、闘鶏が訓練を積み重ねて、ついには木でできた鶏のように何事にも動じなくなったという中国の故事に由来する。そんな卓抜したリーダーを育てようと、2005年にスタートした。
こちらも選抜型の研修で、製造部門の30代前半から40代半ばまでの係長クラス(主任層)が対象だ。毎年9人程度が選ばれる。大卒・大学院卒が3割程度、残りが高卒・高専卒だという。入社以来ずっと製造の最前線で仕事をしてきたキャリアを、ここで一度、大きく広げてみることがねらいだ。すなわち木鶏塾は、「高い志・広い視野・変革の思考」を練り込む場であり、教育目標として以下の3点が示されている。
(1)組織問題の思考の「蓄積」…組織問題を考えるための枠組みを一人ひとりがもった状態をめざす。
(2)マネジメントチームの一員として「議論ができる」人材の育成…一人ひとりが製造部門のリーダーとして他部門との議論をリードできる人材をめざす。
(3)事業の一機能分野を「任せること」ができる人材の育成…製造部門の問題について、確信をもった解決案を主張することができる人材をめざす。
全体のコーディネートは、外部講師が務める。受講期間は技術学校と同じく約1年間。12月から翌年3月までの第1学期と4月から10月までの第2学期で構成され、2泊3日のセッションが合わせて10回開催される(図表4)。

図表4 木鶏塾のカリキュラム概要(第11期)

図表4 木鶏塾のカリキュラム概要(第11期)

まず第1学期は、「自らの所属する職場の変革」を目的に掲げ、マネジメントやリーダーシップの知識を学んだうえで、上長と話し合いながら1人ずつ職場改革案を作成・提案し、現場で実践を行う。
続いて第2学期は、「カネカグループ生産技術部門の変革と成長に向けた課題と提案」を目的として、第1学期よりもさらに高い視点で経営や工場組織について考え、カネカの生産技術部門のあり方について工場の責任者や役員に提案を行う。第2学期については、3人1組のグループで活動することになる。
各セッションでの進め方は、グループでのディスカッションと発表、それに事前課題の図書についての討議が中心だ。第2学期になると、相手のいうことをきちんと理解して、それに対する自分の意見を伝えるスキルを習得させるため、ディベートのトレーニングも行う。また、第2学期には、セッション以外の時間でも頻繁にグループミーティングが開催され、メンバーが集まってリサーチを行ったりすることもあるという。
ここでも、各セッションの外部講師とは別に、OB社員や塾の卒業生などがメンター的な役割を担い、受講生をフォローする体制が敷かれているという。木鶏塾卒業生(現役社員)がアドバイザーとして参加し、多面的に考えるための視点を提供するなど、議論を活性化させるための手助けをしている。
そして、10月に終了報告会を開催し、第1学期のテーマに対する個人の発表と第2学期のテーマに対するグループ発表を行う。この報告会には、各工場の工場長と担当役員で構成する工場経営会議のメンバー、コーポレートの生産技術系責任者、人事部長が出席し、「発表に対して厳しい質問を投げかけながら修羅場を経験させています」(大森さん)。
木鶏塾を修了した社員のうち、2012年の第7期修了生までを対象とすると、約6割が工場部門幹部職や本社スタッフ部門幹部職(課長級以上)に昇格しているそうだ。

タイミングをとらえて気づきを与えるエンジカレッジ

エンジカレッジは設備技術者を対象とする研修で、階層が上がっていくタイミングをとらえて3段階で実施している(図表5)。

図表5 エンジカレッジの概要

図表5 エンジカレッジの概要

第1ステップは、入社した年の「ルーキープログラム」。他の新入社員は導入研修後各職場に配属されるが、設備技術者については入社後1年間を基礎教育期間と位置づけ、全員がコーポレート部門で集合教育を受ける。内容は、エンジニアとしての基礎知識やマインドの習得、先輩社員についての現場実践、そして海外短期研修である。
海外短期研修は1カ月間で、現地(製造拠点)のエンジニアの仕事ぶりを見て学ぶことが中心となる。大森さんは、「エンジニアは国内工場だけでなくアメリカ、ヨーロッパ、アジアの製造拠点でも仕事をすることが当然考えられるので、1年目からそういう意識をもってもらうことも目的の1つです」と語る。
第2ステップは、30歳手前くらいの中堅社員の段階で行われる「設備技術者基礎教育」である。新入社員研修後、現場に配属され、いったん役割を与えられると、選抜型教育を除けば体系的な教育を受ける機会はほとんどなく、目の前の仕事に追われる日々が続くことになる。そこで、このタイミングであらためて会社の諸手続きや仕事の進め方について学ぶとともに、マインドを再度高めたり、視野を広げたり、人的ネットワークをつくる機会とするのがねらいだ。
そして第3ステップは、主任2級に昇格して間もない段階での「チャレンジプログラム」。設備技術者の場合、他部門への異動がほとんどなく、現在の職場と仕事に埋没してしまいがち。これから幹部やエキスパート人財へと羽ばたいていくためには、一度刺激を与えたほうがいいという考えから、文字どおり新しいことに挑戦させる内容となっている。具体的には、約1年間、自分の所属を離れ、国内外のほかの事業所に派遣し、課題解決にあたらせているという。

早い時期から海外の経験を積ませる

カネカは世界各地に製造・販売拠点を有しており、生産ラインについては現地化が進んでいるものの、現地法人のマネジメントやフォローなどさまざまな形で日本から海外に赴任する社員も多い。そのため、全社的に海外派遣研修を実施しており、次のようなメニューが用意されている。
・海外トレーニー制度…入社2年目から30歳前後までの社員が対象。1カ月の語学研修後に海外現地法人に派遣し、1年間の実務研修を行う。
・海外短期トレーニー制度…30〜35歳前後の社員が対象。派遣期間は3カ月間で、海外現地法人において自らテーマを設定して実践したり、異文化での生活を体験することで、海外ビジネススキルを強化する。
・海外外部研修派遣制度…30〜35歳前後の社員が対象。短期ビジネススクールへの入学など。
このほかにも、前述したエンジカレッジ・ルーキープログラムや30歳前後の社員が対象の語学留学プログラムが用意されており、さらに国内研修として、語学力向上のためのグローバル社員登録制度がある。

課題は「つながり」と「自ら動く人づくり」

今後の課題に関しては、どのように考えているのだろうか。この点について、人事部教育グループ幹部職の畑昭さんは、「横の連携」をあげる。
「それぞれの領域で“蛸壺化”している人も少なくないように思います。横断的な交流が盛んになれば、そこからイノベーションが起こることも期待できますが、まだそこまではいっていないと思っています」
大森さんも次のように話す。
「部門間、職種間、工場と本社の連携をもっと進めることで、それぞれの社員に応じて必要な経験を積ませることができ、現場で補えないことを本社コーポレートがフォローすることもできるようになると思います。そのためにも、人材情報の共有を進める必要があります」
一方、従来から行われている人事部主催の階層別研修については、ここ数年で、定型的なプログラムから「自分がどうありたいのか」を考えることを重視した内容に大きく変えてきたという。同社では、早くからキャリア開発支援に取り組んでおり、階層別研修でも自分でキャリアを築いていく意識の醸成が大きな柱になっている。そこでの課題として、畑さんは「自分で考え、行動できる社員を増やすこと」をあげる。
「そういう社員がたくさん出てきて、『自分にはこれが必要だ』と声をあげるようになってくれたら、われわれもどんどん機会を提供していきたいと思っています」(畑さん)
以上、カネカの技術者教育について紹介してきた。「教育の網羅性と一貫性」を追求する一方、技術学校や木鶏塾のようにリーダー養成に特化した選抜研修も充実させている。OJTとOff-JTとの連動もうまくなされているように感じられた。今後は残された課題、部門間・職種間の連携推進によってどうイノベーションを起こしていくのかを注目したい。

(取材・文/北井弘)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社カネカ
本社 大阪・東京
設立 1949年9月
資本金 330億4,600万円
売上高 5,552億2,700万円(連結、2016年3月期)
従業員数 9,376人(連結、2016年3月末日現在)
事業案内 化成品、機能性樹脂、発泡樹脂製品、食品、ライフサイエンス、エレクトロニクス、合成繊維等
URL http://www.kaneka.co.jp/

生産技術部
教育グループリーダー
大森幹治さん


 

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