事例 No.038 千代田設備 特集 元気な中小企業の教育施策
(企業と人材 2015年12月号)

技術技能教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

「社員成長制度」でのオープン・公平な評価と
技能大会参加への支援で社員の技術力を高める

ポイント

(1)求める社員像と基準・処遇のルールをオープンにした「社員成長制度」で、社員一人ひとりの成長を促す。

(2)「成長シート」で社員の技術・技能レベルを確認し、管理職全員で行う成長支援者会議で透明・公平に評価する。

(3)会社をあげて技能大会への参加をサポート。多くの入賞者を輩出しており、社員の技能向上、モチベーションアップにつなげる。

直施工にこだわり顧客の信頼を得る

株式会社千代田設備は、新潟を中心に水道工事、空調工事、営繕工事、災害復旧工事などを手がける設備工事会社である。今年創業50年を迎えた老舗企業で、「手づくり」作業にこだわっている。
手づくりというのは直施工のことを指す。同社は下請会社や協力会社に任せるのではなく、すべてを自社で行っている。その結果、顧客からも「対応が確実で速い」との評価を受け、業績を伸ばしてきた。

《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」

また、水道などのライフラインにかかわる仕事に携わっているという使命から、365日24時間体制をとり、社会・地域に貢献している。
しかし、すべての工事を自前で行おうとすれば、社員数を増やさなくては対応できない。社員を増やせば、経営理念や経営方針が浸透しにくくなったり、仕事に対する意識や技能にバラつきが生じたりするおそれがある。そこで仕事に対する意識を高めるため、同社は全員を正社員雇用とし、人材育成に積極的に取り組んでいる。
同社の人材育成の基本方針は、「企業は人なり、社員を成長させ、企業が成長する」。そして、技術だけでなく、仕事に対する姿勢や考え方の教育にも力を入れている。たとえば、新築住宅を建設するとき、自分たちにとっては日常的な仕事でも、顧客にとっては、一生に一度の可能性もある。それだけ大事な仕事をしているということ、顧客に喜ばれる仕事をしていくためには、作業者の人格も重要であることなど、人間性を含めた教育訓練を新入社員のうちから積極的に実施しているそうだ。
これらの取り組みにより、同社は2014年、厚生労働省の「キャリア支援企業」に表彰された。表彰理由は、(1)人事考課制度の透明化による社員の意欲向上と離職率の低下、(2)新入社員の企業内訓練校での基本技術習得、(3)会社のサポートによる各種技能大会出場による技術力向上への取り組みの3点である。

社員成長制度で透明・公平に評価する

先に述べた「キャリア支援企業」の表彰理由は、そのまま同社の教育施策の特徴といえる。一つひとつ説明していこう。
まず、(1)人事考課制度の透明化についてである。
同社の人事考課は、もともとは社長をはじめとする少数の経営幹部によって行われていた。しかし、社員が増加するにつれて、一人ひとりをしっかりみて評価することが難しくなり、公平性が低下。加えて、雇用環境や社員の職業観の変化などもあり、苦労して育てた優秀な人材が退職するといった現象も起きるようになっていた。
そこで、新たな人事考課制度を導入することになり、コンサルタント会社などに相談したが、しっくりこなかったため、自前でつくることにしたという。新制度は単なる人事考課制度ではなく、社員を育てる仕組みにしたいと考えた。そこで、「社員成長制度」と名づけたそうだ。
社員成長制度は、会社が求める社員像と基準・処遇のルールを明確・オープンにすることで、社員一人ひとりが自ら積極的に目標に取り組んで成長し、結果として会社の業績も向上することを目的とした、体系的な人事制度である。
公平で透明な人事考課のシステムを中心に、賃金制度、教育制度、ステップアップ制度、退職金制度をリンクさせて、総合的に社員の成長を促す仕組みとなっている(図表1)。

図表1 「社員成長制度」の仕組み

図表1 「社員成長制度」の仕組み

この「社員成長制度」の基盤になっているのが、「成長シート」である。これは、「新入社員シート」、「リーダーシート」、「基礎工事シート」などの職種・階層別に作られた基準で、1年間、どのような勤務態度で、どのような知識・技術を習得し、どのような業務を行い、どのような成果を上げればよいかをまとめたものである。現在、成長シートは15種類あるという(図表2)。
社員は全員、自分の職種・階層のシートに基づき、半期ごとに目標を上司に提出する(図表3)。評価は半期ごとに、シートに記載された各項目のウエイトを基準として、本人、上司が点数をつけ、その後、管理者全員が出席する「成長支援者会議」によって決定される。

図表2 成長シートの全体像

図表2 成長シートの全体像

図表3 成長シートの例(技能・技術職 配管部門 リーダー 社員成長シート)

図表3 成長シートの例(技能・技術職 配管部門 リーダー 社員成長シート)

成長支援者会議は、経営幹部、部長、課長など、部下をもつ人すべてが出席する会議で、ここで最終的なすり合わせを行い、評価を決める。つまり、社員一人ひとりについて、他の部署の管理者も全員が意見を述べ、質問をして、評価を決めていくのである。
第一工事部部長の和澄淳一さんは、成長支援者会議について、次のように話す。
「管理者によって評価に微妙な違いが出ることがあります。そういうときには、『なぜこの人がこの評価になるのか』といった質問が、部署の垣根を越えて出ます。質問された人は、『こういう行動を評価した』といったように具体的な理由を示し、それにみんなが納得すれば評価が決まります。
もちろん、全員が他部署の社員について知っているわけではありません。だからこそ、『なぜそういう評価をしたのか教えてほしい』という質問が出るのです。それに対して答えることは、マネージャー教育にもなっています」
会議で話し合われた内容は、部署に戻ってからの部下指導にも役立っているという。
成長支援者会議では、社員の総合評価ではなく、成長シートの一つひとつの項目について、評価理由や妥当性が話し合われる。社員全員についてこれを行うため、大変な労力を伴う。2005年の制度ができた当初は、1日かけて話し合っていたそうだが、10年がたったいまは、半日で全社員の評価を終えられることもあるそうだ。

自社に合った制度を作り変更を加えていく

実は、社員成長制度の要となる成長シートをはじめに作ったのは、さまざまな部署からメンバーを集めた「社員成長プロジェクト」だった。人事部門だけで作成したのではなく、まさに社員目線で作成された評価シートなのである。
そのため、最初のシートを作るのに1年ほどかかったという。作成後もさらにメンバーを広げて、2年、3年と時間をかけてブラッシュアップしていき、ようやく自社に合った実用可能なものができ上がった。
このプロジェクトチームは現在も存続しており、月1回集まって、社員教育、福利厚生、給与など、人事労務全般について話し合っている。新入社員の採用についても、プロジェクトで話し合われているという。
「メンバーはいまも、人事部門の人は少なく、現場の人が多いですね。そうでなくては、工事会社である当社のなかで、公平な人事制度は作れないと思います」。こう話すのは、業務部部長の山崎直喜さんだ。
成長支援者会議のなかでは、一人ひとりの成長シートの記述についても話し合い、必要に応じて変更を加えている。
「たとえば、『完璧にできる』と書いてあれば、完璧とはどういうことかを話し合います。それによって記述が変わることもありますし、場合によっては、シートの項目自体が変わることもあります。以前、成長シートの内容が実際の業務とマッチしていないということがありました。その業務をやっていない人は、やっていないことで評価が低くなっていたのです。成長支援者会議のなかで、『それはおかしい』ということになり、評価項目を変えました(」山崎さん)
成長シートの作成や見直しで注意していることは、理想を追わないことだという。
このような評価システムでよくあるのは、ある職種・階層における理想的な人材をイメージして、「知識やスキルはこうあるべき」、「行動はこうあるべき」と作成してしまうことだ。同社はそうではなく、実際に社内で働いている優秀な人材をイメージして、その人の勤務態度、知識に基づいてシートを作成している。見直しも同様の視点で行っているという。理想を追いすぎると、現実から乖離してしまうからだ。
なお、成長シートは昇格の際にも活用している。シートの各項目の合計点で、80点以上を1回取れば昇格、60点以上なら3回取れば昇格といった具合である。ただし、成長シートの点数で機械的に昇格するということではなく、そのほかに、実技試験、面接、必要な資格の有無の確認などが要件となる。しかし、基本はやはり成長シートの点数であり、社員にとってみれば、非常にわかりやすいシステムといえるのではないだろうか。
成長支援制度の導入により、社員のモチベーションは向上。また、どのような知識・技術を身につければ昇格できるかがひと目でわかるようになったことから、社員が自ら進んで学ぶようになったという。

新人向けの企業内訓練校と柔軟な研修プログラム

次は、(2)新入社員の企業内訓練校での基本技術習得についてである。ここでいう企業内訓練校とは、「千代田テクニカルスクール」のことだ。
テクニカルスクールでは、新入社員を対象に1年間、土日などに全96時間をかけて、業務遂行に必要な基礎知識や技術を教えている。講師は先輩社員たち。新入社員には工業高校卒もいれば普通高校卒もいるが、カリキュラムは同一である。これは、新入社員のコミュニティをつくることも、大きな目的としているからだ。
スキル以外の人間力もここで学ぶ。新入社員はまず、自ら学んでいくこと、「教えてください」と声をかけていくことなどを含めて、素直に相手のいうことを聞き、感謝できる社員になるための人間力を磨くのだ。
テクニカルスクールは新入社員教育のみだが、それ以外の社員については、随時、研修プログラムを実施している。
同社では社員を、管理職(A・B)、5年目までの若手社員(C)、中堅社員(D)の4区分に分けて、研修を実施している。
たとえば管理職を対象にしたものでは、「二宮翁夜話」がある。これは、江戸時代後期の農政家・思想家の二宮尊徳を優れたリーダーとしてとらえ、どのように人心をつかみ、どのようなことを行ったかなどを学ぶもの。
興味深いのは、専門的な技術や知識を教えるプログラムを、それを専門分野としていない社員も受講する点だ。これは、たとえば水道工事を担当している社員も、空調や太陽光、エネルギーなどの知識がなければ顧客の信頼を得られないという思いから行っていることだという。
研修内容を必要に応じて柔軟に変えているのも、同社の特徴だ。
「年間スケジュールは決めていますが、やっていくうちにしっくりこなければ、変更しています。講師の意見で変わることもあれば、成長支援者会議や社員成長プロジェクトからの意見で変わることもありますし、社員の提案で変わることもあります。
たとえば、申請業務を担当している社員から、法令に関する研修をやろうという提案があったり、安全委員長から安全衛生週間だから安全についてやろうという提案があったりします。基本的には、毎週木曜日には何らかの研修をやろうということになっています」(山崎さん)
山崎さんは、これらの研修プログラムを取りまとめているが、さまざまな部署・社員から提案が上がってきており、内容や時期などを調整しながら、実施しているという。
面白いのが、研修に参加するとスタンプがもらえる「研修スタンプカード」という取り組みだ。これは、1回研修に参加すると1つスタンプをもらうことができ、10点たまると1万円相当のインセンティブになるというもの。ポイントをためる面白さ、楽しさもモチベーションとなり、社員の研修参加意欲を促進しているという。

技能大会への参加で技術力の底上げを図る

(3)技能大会出場による技術力向上への取り組みは、同社の人材育成の柱の1つになっている。
「もともとは、社員から『全国大会に出たい』という話があり、1983年から熟練工を対象にした技能グランプリ(中央職業能力開発協会)に参加するようになりました。その後、1989年からは若手を対象にした技能五輪にも参加するようになりました」(和澄さん)

▲技能大会に向けた練習風景

▲技能大会に向けた練習風景

和澄さんは、同社で最初に技能五輪に出場した1人だ。そのときは、現社長の佐藤信久氏も一緒に出場したという。
同社の社員が初めて技能グランプリで優勝したのは1993年。以来、技能グランプリ、技能五輪の両方で次々と優勝者を出している。技能五輪については、日本代表として国際大会に出場した社員もいる。
技能五輪への出場は立候補制だが、手をあげればだれでも出場できるものではなく、候補者の意思や技量を確認したうえで、社内予選を行い、出場者を決めている。技能グランプリも立候補制だが、こちらは熟練工対象のため、社内予選は行っていない。
技能五輪への出場者を決めるのは、大会の6カ月前。出場者は約3カ月前から、主催側から事前に出された競技課題について、就業後に毎日のように練習を行う。しかし、競技課題はあくまで参考であり、大会本番で出される課題はそのままではない。大会当日には、それも踏まえた応用力が求められるため、出場者はそこまで考えて練習をする。
なお、同社には歴代の技能競技大会上位入賞者で組織する「千輝会」という技術委員会があり、ここのメンバーが大会までの間、つきっきりで指導にあたりサポートする。また、大会出場にかかる費用はすべて会社が負担しているほか、入賞者には、毎月「技能エキスパート手当」を支給している。
「大会に参加することにより、確実に社員は成長します。また、とくに一級技能士の大会、技能グランプリの出場者は、忙しい仕事の合間を縫って練習しなくてはならないので、仕事の段取りを調整する力もつきます」(山崎さん)
「練習で先輩社員たちに見てもらい、また、大会という公開の場で審査員や参加者・観客にみられるわけですから、若手にとっては、自分の仕事のやり方を見直すいい機会になります。参加者の技術レベルは確実に上がります」(和澄さん)
技能グランプリに出場するベテラン社員はもちろん、技能五輪に出場する若手社員が大会に向けて努力する姿をみることは、他の社員にとってもいい刺激になっている。
以上、千代田設備の人材育成の取り組みについて紹介してきた。今後も、これらの取り組みを続けていくことが大事だと山崎さんはいう。
「新しいことをやるのも大切ですが、それ以上に続けていくことが大切だと思います。それによって、先輩社員の技術だけでなく、仕事に対する姿勢や考え方が継承されていくことになるのです」
企業にとって人は財産。とくに中小企業にとっては、最大の財産といってもいいのではないだろうか。その財産を大きくするのも小さくするのも教育制度次第。同社は、新しい制度とサポートによって、その財産を増やしているのだ。

(取材・文/小林信一)


 

 

技能にかけるトップの思い

人材育成は経営トップの考え方に大きく左右される。千代田設備が技能大会への出場に積極的なのは、経営トップの理解があればこそだ。代表取締役社長の佐藤信久さんは、同社が初めて技能五輪に参加したときの出場者の1人だ。同社が技能大会への参加を継続し、優秀な成績を上げ続けている背景にはトップの熱い思いがある。
佐藤さんは同社の50周年誌のなかで、技能大会へ積極的に参加する理由を次のように書いている。
「千代田には素晴らしい資産があります。その最大のものが“直施工体制”であると言っていいでしょう。外注に極力頼らずに、自社内で職人を育て、“千代田設備”という看板を背負ったプロたちが現場へと赴き、自ら作業にあたる。目標到達と結果責任、そのすべてを一手に負うことです。
技能五輪や技能グランプリへの継続的なチャレンジは、こうした“技術”への希求から生まれました。肩書きは千代田の一社員でありながら、実は日本一、あるいは世界有数の技術力を身につけた名工である。そんな自信とプライドが個々を高め、職場の士気を高めていく。チャンピオンがゴロゴロいる社内の雰囲気が、現場に緊張感を生み、技術レベルを底上げし、また彼らに憧れる新入社員を呼び込む、という好循環につながっていくのです」
同社の技能大会へのチャレンジは、今後も途切れることなく続きそうだ。


 

▼ 会社概要

社名 株式会社千代田設備
本社 新潟県新潟市
設立 1972年8月(創業1965年)
資本金 8,000万円
売上高 33億215万円(2015年3月31日現在)
従業員数 245人(2014年3月 関連会社含む)
平均年齢 36.0歳(2015年3月31日現在)
平均勤続年数 11.0年(2015年3月31日現在)
事業案内 管工事、空調工事、営繕工事、災害復旧工事、産業廃棄物処理など
URL http://www.chiyodasetsubi.com/

(左)
業務部 部長
山崎直喜さん
 
(右)
第一工事部 部長
和澄淳一さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ