事例 No.080 モリタ 特集 暗黙知を見せる営業教育
(企業と人材 2017年1月号)

営業社員教育

社内教育機関「MDBS」と自社独自の営業資格制度で
営業社員のテクニカル・ビジネス両方のスキル向上をめざす

ポイント

(1)2002年に社内教育機関「MDBS(モリタデンタルビジネススクール)」を設立。「スーパージェネラリスト」の育成をめざし、2012年から再構築に取り組み、人事部門で行っていた階層別研修も統合、社員への教育を推進。

(2)歯科業界、営業、ビジネスマナーなど、モリタの営業社員として知っておくべき知識を体系的に学べるオリジナルのテキストを整備。それをもとに「営業資格制度(社内検定)」を2016年度からスタート。

(3)営業資格制度は3段階に分けられており、3級は同社社員として仕事をするうえでの基本レベルとなる。2、1級はテクニカル・ビジネスの両スキルをみるものであり、自社試験と外部の公的試験によって判定。

オーラルヘルスを支える歯科医療の総合商社

歯科医療器材の輸入商社として1916年に創業し、2016年に100周年を迎えた株式会社モリタ。オーラルヘルスをハード・ソフト両面から支える歯科医療の総合商社であり、いまや歯科業界におけるリーディングカンパニーとして確固たる地位を築いている。
創業当初から、海外の最新の医療器材と情報をいち早く日本に紹介し、わが国の歯科医療の発展に大きく貢献してきた。患者が横になり歯科医師が座って診療する水平位診療システムなど、同社が先陣を切って発売し、業界のスタンダードとなった機器やシステムも数多い。

図表1 モリタの企業理念と組織運営指針

図表1 モリタの企業理念と組織運営指針

経営に関する基本的理念としては、創業者・森田純一氏の遺訓「四恩の精神」がある(図表1)。四恩とは天地・国家・父母・衆生であり、日常より恩を思い、感謝の気持ちをもって良心的な商いをせよという意味である。それを具体化したものとして、6つの組織運営指針とそれに対応する6つの個人行動指針を定めている。
めざす人材像として掲げているのは、「スーパージェネラリスト」。自分の業務以外の知識やノウハウも習得し、顧客の問い合わせに、担当部門でなくても対応し、顧客満足を実現できる人材だ。
とはいえ、歯科医療と一口にいっても非常に幅広く、日進月歩で技術が進化しているため、個人任せでは求められるレベルの能力はなかなか身につかない。そこでできたのが、社内教育機関「MDBS(モリタデンタルビジネススクール)」と、自社独自の「営業資格制度(社内検定)」である。
同社の教育体系は図表2のとおりである。OJT、階層別教育、職能別教育に大別され、職能別教育は営業部門系と管理部門系に分かれる。創業100周年を機に、教育体系についても見直す予定だという。

図表2 モリタの教育体系

図表2 モリタの教育体系

膨大な商品の知識が求められる営業職

同社の営業職にはいくつかの種類があり、大きくは、卸営業と直接営業に分かれる。卸営業には、歯科医院の開業やリニューアルをサポート・情報管理システムを支援する器械情報営業、ディーラー(代理店)と連携して販促のサポートを行う商品営業がある。直接営業には、歯科大学や歯科衛生士・歯科技工士学校を対象とする学校営業、歯科診療所や歯科技工所などエンドユーザーを対象とする小売営業がある。
それぞれの職種ごとの研修は、各部門で主体的に企画・運営されており、たとえば新商品が発売された際に、説明会とあわせて販売研修を実施するといったものがある。しかしここでは、MDBSが全社的な視点で実施しているプログラムに絞って紹介する。
MDBSや営業資格制度を設けた背景の1つには、歯科医療業界における客観的な知識レベル判定の仕組みに関する課題がある。製薬会社におけるMR(医薬情報担当者)については、業界の自主的な認定試験「MR認定試験制度」があり、現在は必須の資格といえるまでに浸透している。
これに対して歯科医療の業界では、仕組みが厳しく運用されていないのが現状である。かといって、MRのような知識が不要かというと、そんなことはまったくない。人事総務部MDBSマイスターの吉田惠一さんは、次のように話す。
「営業社員はほとんどの場合、歯科の分野に10年以上身を置いている歯科医師などを相手に仕事をするわけで、対等に話ができるようになるには、相当な知識が必要です。取り扱う商品も材料、器具、薬品など多岐にわたり、その数は10万点ほどに上ります。しかも、膨大なアイテムのなかから、それぞれの症状に応じて顧客の要望に最も適したものを選び出さなければなりません。
近年の歯科医院は、先端機器を1つでも導入して高度な治療を提供し、患者さまによろこんでもらおうという流れになっています。都市部では消耗品系と設備機械系の担当者を分けて、2人1組で同じ先生を担当するといったこともできますが、地方ではそれも難しい。そのため、各人が広い知識をもっていないと先生方に受け入れてもらえないのです」
これまで同社は、時間をかけて顧客との信頼関係を築いていくことで事業を続けてきた。しかし、いまは信頼関係がなかなか構築できない時代になっており、ビジネスライクな関係にならざるを得ず、知識のない営業からは商品を買わないということも起こる。「知識をもっていなければ、信頼関係を築くうえで第一段階となるドアも開かない」と吉田さんは話す。
MDBSと営業資格制度は、歯科医師など専門知識を有する顧客と対等な立場で話せるための知識を体系的に習得し、スーパージェネラリストというめざす人材像に近づくための、客観的な判断の「ものさし」となるものだ。それに加えて、吉田さんはもう1つのねらいを明かす。
「営業社員は先生方など顧客の都合にあわせて動くため、仕事の時間が不規則になったり、なかなか休みがとれなかったりという状況になりがちです。MDBSや資格制度を通じて得た知識を活かして仕事の効率を上げ、ワークライフバランスをうまく保つようになってくれたらと思っています」

2012年にMDBSを社内教育機関として再整備

MDBSは2002年、森田晴夫社長の命名によって設立された。その際、立ち上げに携わったのが吉田さんだ。
「社長の肝いりでスタートしたはじめての全社プロジェクト『STK21(最適化推進プロジェクト)』で検討された長期経営戦略の1つとして、『これからわが社は人財育成に注力すべき!社員教育が最重要課題!』との提案から新設されたのが、人材育成機関であるMDBSです。私はそのプロジェクトの中心メンバーの1人でした」
長く営業畑を歩み、現場を知り抜いていた吉田さんは、MDBSの意義を深く理解し、仕組みを構築していった。しかし、その後、MDBSの活動は停滞。営業部門がきわめて多忙な職場であることも手伝って、集合教育としては階層別研修くらいという状況が続いた。
それらを変えるべく、2012年に吉田さんが再びMDBSの担当となった。100周年を目前に控え、次の100年を担う人材をきちんと育てなければならないという危機感もあったのだろう。こうして2012年のリニューアル以後は、MDBSは全社員対象の教育機関として再構築された。従来は人事部門が行っていた階層別研修も、現在はMDBSに移管されている。
MDBSでの研修は、前述した(1)階層別研修、(2)職能別研修に、(3)代理店研修を加えた3領域で構成されている。それぞれについて、2016年上期を例に簡単にみてみよう。
たとえば、「階層別研修」では、「新入社員研修」、「新入社員フォローアップ研修」、「相談役講話」、「再雇用予定者MDBS研修」、「ライフ・キャリアデザインセミナー」などを実施している。
「MDBS研修」とつく研修は、吉田さんや再雇用者などMDBSのスタッフが運営する。「相談役講話」は、同社相談役が講師となって行う、いわば人間教育の場だ。かつての経営が厳しかった時期も含めて、同社の歴史を知り尽くしている人物の話だけに、「先人たちのがんばりがあったからこそ、いまのモリタがある」とう教えが深く心に入ってくると好評だ。
「ライフ・キャリアデザインセミナー」は、35歳、45歳、55歳、59歳という10年ごとの節目と定年直前のタイミングで、自らのキャリアを振り返るとともに今後の職業人生について考える場だ。2015年度から現在の形で実施しており、吉田さんは「従業員寄りの立場で、働き方だけでなくこれからどうやって生きていくかを見つめる機会」だとする。
会社自体が歯の健康をテーマとしていることもあり、仕事以外にも健康や経済といった充実した人生にとって不可欠な要素を入れているのも特徴だ。それは名称を、単に「キャリアデザイン」でなく「ライフ・キャリアデザイン」としていることからもうかがえる。
35歳の研修では、自分のキャリアを振り返り、自分の強みを再認識したり、ロールモデルとなる部長やOBの経験談を聞き、今後の職業人生の方向性を探ったりする。45歳の研修では、これまでの職業人生を振り返り、成功事例を通じて自らの強みをあらためて認識するとともに、キャリアの後半を思い描く。その際は、仕事面だけでなく、健康や経済といったライフスタイルについても見つめ直す。
55歳の研修では、定年後の再雇用を意識した内容となっており、1日目は再雇用制度や外部環境の変化、年金などについて講義中心に理解を深め、2日目はワークショップや再雇用者の体験談を通じて、再雇用後の働き方に関する意識改革を促すといった内容だ。59歳の研修では、再雇用予定者を含む定年退職予定者を対象に、再雇用制度、退職金、年金などを中心に、退職後の健康・経済・生きがいについて考える機会としている。
「職能別研修」の多くは営業社員向けの研修である。2016年上期は、営業資格制度がスタートする時期にあたったため、全国各拠点で制度説明会を開催した。このほか、「クリニカルスキルアップベーシック研修」、「器械営業テクノセンター研修会」などを実施している。テクノセンターとは2年前に完成した施設で、同社が取り扱う設備・器械を備えており、それらを実際に使っての技術研修が行われている。
MDBSは基本的には同社社員のための研修機関だが、代理店の社員の能力開発にも活用してもらおうと有料で行っているのが、「代理店研修」である。後述するMDBSテキストは、一部を除いて代理店社員も使えるように作り込まれているため、これを活用して代理店の新入社員研修や歯科基礎知識研修、営業力養成講座などが開催されている。

社員として必要な内容をまとめたテキストを作成

MDBSを再構築する際、吉田さんは社長から「営業資格制度の構築を検討してほしい」という指示を受けた。そこから足かけ5年、2016年度に社内検定の形で営業資格制度がスタートした。
その間に最も時間を費やしたのが、資格制度の検定試験のベースともなるMDBSのテキスト作成だ。コンサル会社に任せる案もあったが、同社の営業実務に即したテキストは社内でしか作成できないと考え、吉田さんのほか定年再雇用となったベテラン社員など計3人でチームを組み、テキストの編纂にあたった。

▲ MDBS のテキストとビジネスマナーパスポート

▲ MDBS のテキストとビジネスマナーパスポート

じつは、2002年のMDBS設立当初にも4~5冊セットのテキストを作成し、全社員に配付している。しかし、それを用いた研修などは行われず、あまり活用されることはなかったそうだ。そこで今回は、以前のテキストをベースとしながらも、現場で活用できるものにするため大幅に見直したり、新しい内容を盛り込んだりした。執筆や内容の監修にあたっては、歯科医師の協力を得たほか、現場の営業社員の力も借りたという。
こうして整備されたテキストは、現在以下の6冊。
『社内編』……経営理念・指針、沿革、組織、請求書と回収、契約など
『会社の数字』……会社の数字と利益のしくみ、貸借対照表、回収の基礎知識など
『歯科業界編』……歯科業界の流れや組織、メーカー、一次卸(元卸)、二次卸(小売商)、エンドユーザー、歯科関連団体、歯科における法務の基礎知識など
『歯科基礎知識編』……歯科診療、施設・設備・器械・器具、歯と口腔の知識、歯科の主な疾患と歯科診療の実際、歯科技工など
『歯科営業編』……歯科用品の市場環境と歯科営業、歯科用品の流通経路と営業の役割、商談の進め方、販売実績管理方法など
『歯科器械情報基礎編』……器械情報営業の仕事、歯科医院、歯科医院設計・施工・設備の基礎知識、歯科用エックス線装置と関連機器の基礎知識など
これらオリジナル6冊のほか、パスポートサイズのマナーブック『モリタビジネスマナーパスポート』がある。これに、近々発刊する『歯科器械情報実践編』を加えた全8冊で、ひとまず営業担当者向けテキストは完成するが、引き続き、モリタ社員として最低限の知識を網羅する間接部門向けテキストの作成に入る予定とのこと。これらは前述したように、モリタの営業担当者として知っておかなければならない会社と歯科業界の知識、ビジネスの基本が網羅された内容となっており、まさに、スーパージェネラリストの養成をめざしたテキストだ。
またテキストづくりと並行して、昨年にはeラーニングによる基本的なスキルの理解度を知るテストを、管理職も含めた全社員に実施した。これは社内検定の前哨戦のようなもので、ビジネスマナー、歯科業界、会社の数字に関する基本的知識を問うものだ。テスト結果で特徴的だったのは、上の役職にいくほど点数が高い傾向がはっきり表れていたことである。
「上の立場になるほど、テクニカルスキルよりもコンセプチュアルスキルやヒューマンスキルが重視されるようになります。テスト内容はテクニカルスキルの分野が主であり、本当なら営業現場で日々動いている若手のほうが点数は高いはずですが、結果は違っていました」
つまり、テスト結果は予想外だったのだ。これも、営業資格制度を導入する強い理由づけの1つとなったという。

テキストの内容を基に、独自の営業資格制度を導入

営業資格制度は、営業部門および営業部門に準ずる部門の総合職社員のうち、管理職以外の若手・中堅社員を対象に、テクニカルスキルとビジネススキルを判定するものである。資格レベルは、次の3段階に分けられる。
(1)MDBSエキスパート3級(初級):入社3年目までが対象。
(2)MDBSエキスパート2級(中級):3級合格者のうち、おおむね入社10年未満の社員が対象。
(3)MDBSエキスパート1級(上級):2級合格者のうち、管理職(課長級以上)未満の社員が対象。管理職登用までに合格をめざす。
3級はテクニカルスキルだけをみるため、社内試験のみで合否を決める。2級と1級は、テクニカルスキルとビジネススキルの双方をみるため、ビジネススキルは自社試験と公的試験によって判定する。
2級の場合は、社内試験に加えて、中央職業能力開発協会が実施する「ビジネス・キャリア検定」の営業3級かマーケティング3級のいずれかに合格する必要がある。1級の場合は、社内試験に加えて、同じく「ビジネス・キャリア検定」の営業2級かマーケティング2級、または日本商工会議所が実施する販売士(リテールマーケティング)2級のいずれかに合格しなければならない。
検定試験の1回目となる3級試験は、2016年8~9月に、全国の各拠点で実施された。ビジネスマナー、社内の基本ルール、歯科業界が主な出題内容で、ビジネスマナーはマナーブックから、それ以外はMDBSテキストの各編から出題された。試験時間は50分。設問は50問で、4つの選択肢から1つを選ぶ形式。100点満点のうち70点が合格ラインだ。
結果は、86人が受験し、81人が合格。94.1%という高い合格率について、吉田さんは、「3級は落とすための試験ではなく、モリタの社員なら全員合格してほしいレベル」だと説明する。不合格となった社員は、合格するまで再受験する。
今年度内には、2級試験(243人対象)、1級試験(76人対象)も実施する予定だ。2級、1級については、今後、合格が昇進条件の1つとするため、難易度は格段にアップする。
また、前述したように、自社の試験だけでなく外部検定などの合格も必要であり、社内試験の出題範囲も増えるという。合格率も、2級については6~7割、1級については5割程度を想定しているそうだ。

営業社員以外にも広げ、スーパージェネラリスト育成

このように、MDBSの再構築や営業資格制度の整備などにより、営業社員のテクニカル・ビジネス両方のスキルアップに力を入れてきた同社。
来年度以降は、営業部門の社員だけでなく内勤の社員についても、資格制度の導入を検討している。実施するとなれば、営業向けの3級試験の内容を内勤向けに多少アレンジして出題することになりそうだ。外部検定もビジネスキャリア検定などを活用し、それぞれの職種に即した2つの分野を選択し、受検してもらうという。
「スーパージェネラリストは全社員がめざす人材像です。当社の社員である以上、管理部門などの事務部門だからといって、歯科のことを何も知らなくていいということにはなりません。全社員の知識の底上げをめざします」
これまで歯科医療業界のトップを走ってきたモリタ。それだけに、どちらかというとおっとりした社内風土が根づいているという。「これは決して悪いことではありませんが、それだけだと創業110年、120年とこれからを考えたときに、競合他社に勝ち続けられるかどうかわかりません」と、吉田さんは危機感をあらわにする。
今回のMDBS再構築と営業資格制度導入も、こうした認識に立っての取り組みといえるだろう。これらが浸透し、社員の多くが有資格者になったとき、どのような変化が現れているか楽しみだ。

(取材・文/北井 弘)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社モリタ
本社 大阪府吹田市/東京都台東区
設立 1916年10月
資本金 5億8,455万円
売上高 804億2,500万円(2016年3月期)
従業員数 1,026人(2016年3月末現在)
事業案内 歯科医療器械・器具・材料・情報機器などの歯科医療全般にわたるハードウェアの流通、歯科医療情報などのソフトウェアの紹介、歯科医院開業・経営などの支援業務
URL http://japan.morita.com/
人事総務部
MDBSマイスター 吉田惠一 さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ