事例 No.191 東急建設 特集 全社で取り組む安全衛生教育
(企業と人材 2019年7月号)

安全教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

階層別の安全衛生教育と現場でのコミュニケーションを生むKY活動などを通じて、作業員も含めた安全意識向上を図る

ポイント

(1)階層別に8段階の安全衛生管理講座を実施。座学よりもグループでのディスカッションやワークを増やし、実際の現場写真を見て危険箇所を考えたり、VR教材を取り入れるなど、多彩なプログラムで安全意識の定着を図る。

(2)「問いかけKYカード」を全作業所に配布し、朝礼時の唱和などに活用。多言語化やマンガ表現の導入など、協力会社の作業員にも見てもらえるように工夫。

(3)事故・災害防止にはコミュニケーションが大事として、年数回、経営陣が全国の作業所を巡視し現場の声を集めるほか、新規入場者らのヘルメットに蛍光シールを貼って周囲が声をかけやすくするなど、常に安全衛生活動の改善を続ける。

真価ある社員・組織をつくる人材育成マスタープラン

東急沿線の街づくりを原点に、総合建設業として発展を遂げてきた東急建設株式会社。現在は、再開発が進む東京・渋谷駅前をはじめ、全国で大型案件を多数手掛けている。

《デジタル雑誌》新型コロナ禍において、人事・労務部門として取り組むべき問題とは?

さらなる成長をめざし、同社は2020年に向けた企業ビジョン「Shinka2020」を、2011年に策定。「Shinka(深化×進化=真価)し続けるゼネコン」として、新しい事業領域や地域展開に挑戦し続けることを標榜している。
その実現のために力を入れているのが、同社が「人材育成マスタープラン」として掲げる「真価ある社員」と「真価ある組織」づくりだ(図表1)。

図表1 東急建設の人材育成マスタープラン

東急建設の人材育成マスタープラン

ゼネコンとしてものづくりに携わる同社にとって、企業の成長のためには人材の成長が欠かせない。建設の現場には、協力会社も含めて日々多くの専門業者が集まってくる。大きな現場では、80〜100社の協力会社、2,000人を超える作業員が出入りすることになる。
そのなかで、同社の社員は元請会社として協力会社の作業員を取りまとめ、安全・円滑に作業を進められるよう、目配りしていくことが求められる。若手社員であっても、必要があれば、自分の親と同じくらいの年齢のベテラン作業員に指示を出すこともある。管理本部人事部採用育成グループのグループリーダー、石藤昭徳さんはこう語る。
「そのためには、誇り・情熱・向上心はもちろん、的確に施工管理できるプロフェッショナルとしての能力が重要です。事業領域が世界に広がっているなか、グローバル対応力も求められますし、生活の基盤となる社会インフラ整備の事業を担っているという社会貢献意識も欠かせません。そして何より、さまざまな困難があるなかでも、それをやり抜く力が必要になります。
企業ビジョンに掲げる『真価ある社員』とは、高い志と自立心をもち、自ら課題を設定し、キャリア形成をしていける個人のことです。こうした人材を育てることを目標にしています」
また、「真価ある組織」とは、共通の理念のもとに互いを認めあい、個人のやりがいを組織としての一体感へと変える生産性の高い集団のことを指す。行動理念である、自立、スピード、チームワーク、信頼の4つを高めることによって、より強い組織へと改革を進めている。
「真価ある社員と真価ある組織が相互に影響しあい、進化し続けるゼネコンをめざしていく。人材育成のマスタープランは、すべてここに基づいて設計しています」(石藤さん)
なお、人事制度としては、2017年度から役割等級制度を導入。各等級に必要な能力を身につけられるように、教育体系も整理した。
「いま、大きな課題となっているのは、若手社員層の早期戦力化です。当社の場合、30代半ばから40代前半の層が薄くなっているため、その下の世代をなるべく早期に育成して、より早く責任のある役割を担ってもらいたい。
そこで教育研修では、次の等級に求められるものを視野に入れ、前倒しで能力を身につけてもらえるよう工夫しているところです」(石藤さん)

階層別の安全衛生教育で安全意識・感度を高める

安全衛生教育については、安全環境部が中心となって、安全衛生教育計画体系を策定している。大きくは「本社安全衛生教育」と「支店・事業部・建設事務所安全衛生教育」に分かれ、本社安全衛生教育はさらに、「必須型研修」と「自由参加型研修」に区分される。
いちばんの柱となる必須型研修では、安全環境部長が実施責任者となり、新入社員から28年目社員まで、8段階の階層別に安全衛生管理講座を行っている。それぞれのステージで求められる役割に応じてプログラムを策定すると同時に、何度も繰り返して安全衛生に対する意識をもたせることを大事にしているという。
また、自由参加型研修では、危険性認識教育や安全衛生マネジメントシステム(MS)内部監査員研修などを実施している。
建設現場における安全衛生管理の難しさは、常に現場の状況が変わっていくところにあるという。工事が進むにしたがって現場の様子も変わり、協力会社も変わるため、作業員の顔ぶれが変わっていく。2,000人規模の大きな現場だと、最盛期には1日に100人から150人もの作業員が入れ替わるそうだ。
昨日朝礼で注意喚起したことでも、今日になれば、それを聞いていない人がいる可能性もある。そうしたなかでは、作業に従事する一人ひとりが安全への感度を高め、どこに危険が潜んでいるか自ら気づいて、回避していくことが重要となる。
安全意識を効果的に高めるため、研修では、座学よりも実習型の教育を拡充している。今年度の安全衛生管理講座では、「バズセッション」と呼ばれるグループディスカッションや、グループワークを多く取り入れた。テーマについては、入社2年次(初級)、4年次(中級I)の研修では「危険予知」、7年次(中級Ⅱ)、上級10年次では「作業計画書の作成」、上級15・20年次では「リスクアセスメント等の検討」、28年次では「災害事例の研究」というように、実践的なものを設定した。
図表2は、7年次(中級Ⅱ)研修のプログラムである。今期は、環境管理・マネジメントシステム(MS)講座を2日目に組み入れ、3日間の研修とした。3日目にDVDを視聴したうえで作業計画書・打合せ書の意義についてバズセッションを行い、さらに続けて、実際に自分たちで作業計画書・打合せ書を作成するグループワークを行った。

図表2 安全衛生管理講座、環境管理・MS講座(中級Ⅱ)の研修プログラム(2019年5月)

安全衛生管理講座、環境管理・MS講座(中級II)の研修プログラム(2019年5月)

「当社の社員は、実際の現場では協力会社が作った作業計画書をチェックする立場になるわけですが、ただ『ここをチェックしましょう』と教わっても、なかなか身につかないものです。
そこで、まず自分で作って、何がポイントなのかを理解して、それを現場で活かしていってほしいというのが、このグループワークのねらいです。実際に、自分たちで作ってみることで、ヌケモレの多い箇所はどこか、どんなところに重点を置いてチェックすればいいのか、体得できるのではないかと考えています」(和田さん)
このほか、作業現場の写真を見ながら、事故発生につながりかねない状態や、安全を阻害する要因を探していく「好事例と問題点」のプログラムも好評だ。労働基準監督署のOBに講師になってもらい、行政側から見た安全管理のあり方や、書類送検される事例などを詳しく解説。実際の現場の写真を使っているので、受講生からは「イメージがわかりやすく集中できた」との声が多く聞かれたという。また、これらの写真は、研修後にイントラネット上に公開され、受講生が職場に戻ってから見返したり、部下や後輩の指導に使えるようにもしているそうだ。
さらに、近年はバーチャルリアリティ(VR)技術を活用した体験型教育も取り入れている。建設現場で起こり得る事故や災害を疑似体験するものだが、このVRプログラムを実施する際、受講生には「事故・災害の疑似体験」であるとは伝えずに体験してもらうのだという。
手順としては、まず受講生にVR機器を装着してもらい、実際の現場での作業(たとえば「足場に立って、ネットを固定してください」など)を課題として与える。しかし、じつは足下に、足場板がずれているところがあり、作業に没頭して周囲への注意を怠っていると、そこから転落してしまうなどの仕掛けになっている。周囲確認を怠らないで作業を進めるといった基本動作を徹底した人は、最後まで安全に作業ができるというわけだ。
すでに、「墜落・転落災害」編、「重機・クレーン災害」編、「崩壊・倒壊災害」編という、死亡災害に直結する三大災害に対応したコンテンツを製作しているという。
「体感するという意味では、作業所長の体験談も印象深いようです。過去に死亡災害を経験した所長に、自らの体験談を話してもらい、安全管理の重要性を心に刻んでもらっています。受講者も『聞いていて心が痛くなった』、『素晴らしい講義で、非常に参考になった』など、強い印象をもつようです」(和田さん)
このほか、石綿作業や酸素欠乏危険作業など、資格取得につながる特別教育も充実させている。
「研修の最後には理解度確認テストを実施しています。合格点に達しない受講生には個別面談を行い、全員に研修効果が上がるようにフォローしています。また、2018年度からはアンケートとともに『安全の誓い』を書いてもらい、自分がどのように安全を確保していくのかという宣言を、受講者本人、直属上司の名前および所属部署名入りで公開しています」(和田さん)

現場で見てもらうため、KY活動をマンガ化

研修以外にも、さまざまな安全衛生管理活動を通じて、意識づけを図っている。
「研修をやっておしまいではありません。研修で学んだことを現場で実践し、現場で実践してみての課題を、また教育に反映する。何よりも大切なのは、そのPDCAをまわしながら、常に改善を加えていくことだと思います」(和田さん)
現場での安全管理を徹底させるため、力を入れているのが「KY(危険予知)活動」だ。社員が実践するのはもちろん、協力会社の作業員にも展開し、一丸となって安全を確保できるように取り組みを進めている。

図表3 問いかけKYカード

問いかけKYカード

2017年度には、「問いかけKYカード」を作成して全作業所に配布した(図表3)。「重機に挟まれないか?」、「物が落下してこないか?」など、問いかけ項目を確認することで、危険予知の意義や具体的な対策の実行を促すのがねらいだ。
朝礼時に全員で唱和したり、今日の対策について確認し合うなど、日常的に現場で使われるツールとなっている。毎朝、ポケットから取り出して唱和するなどして、ラミネート加工したカードがボロボロになっている作業所もあるそうだ。
さらに、朝礼時の標準的なKY活動の進め方をまとめたマニュアルも作成した。協力会社の作業員にもわかりやすく伝えるため、マンガをふんだんに取り入れている(図表4)。

図表4 「東急建設KYのすすめ(玉掛編)」の一部

「東急建設KYのすすめ(玉掛編)」の一部

「最近では外国人の作業員も増えており、意識の共有がますます重要になっています。言葉が通じなくても、直感的に理解できるようマンガを取り入れるほか、作業所内の掲示も、ひらがなを振ったり、各国語に訳しています。問いかけKYカードも、中国語、ベトナム語、英語、韓国語、インドネシア語のバージョンを用意して配布しています」(和田さん)
このほかにも、直近の取り組みとして、渋谷駅前の現場では、新規入場者は最初の1週間、ヘルメットに蛍光色の大きなシールを貼付することにしている。また、経験1年未満の作業員のヘルメットにも別の色のシールを添付し、だれが見てもすぐわかるようにした。
「一見、ベテランに見える人が、まったく別の職種から転職してきた経験の浅い作業員ということもあります。大きなテープで目立つようにしておけば、ちょっと危ないなというときに声をかけやすくなります。周囲にも意識して声がけしてもらうことで、その人を危険から守ることができるわけです。」(和田さん)
2018年度からは、東急建設「安全の日」を開催。これは創業以来、業務中に労働災害で亡くなった協力会社の作業員を追悼するというものだ。社長以下、経営層も全員集まり、供養とともに、今年1年間に発生した事故や災害を振り返り、これからの安全を誓う場となっている。
これに加えて、安全週間など災害防止強化の時期には、年に4回ほど、経営層が全国の作業所に出かけていき、巡視を行っている。できるだけ朝礼から参加し、社員、作業員に対して訓話を行うのだ。経営層が現場で直接話をすると、やはり作業所長や作業員のモチベーションが高まるという。
巡視を行ったあとには、作業所の社員らとの意見交換の場も設けている。現場の実態や課題について、経営層が直接聞き取りを行い、また次の施策へとつなげていく。ユニークな取り組みなどがあれば、吸い上げて好事例として全国に展開する。
「上から一方的に、ああしろ、こうしろと押しつけるのではなく、現場の実体を見ながら改善を続けています。安全衛生管理に終わりはありません。マネジメントの部分についても、無駄な作業は削り、帳票類を使いやすいものに改定するなど、試行と検証を繰り返しながら、スパイラルアップをめざしています」(和田さん)

安全衛生教育は人づくりそのもの

近年は技術の進化もあり、設備などハード面を原因とする事故・災害は大幅に減っている。いま起こる事故・災害はヒューマンエラーが要因となっているものが多い。たとえば、作業のために一時的に外した手すりを、元の状態に戻さないまま昼食に出かけ、別の作業員が知らずにもたれかかって転落してしまうなどのケースである。
最初はしっかりした計画があっても、人が介在することによって、改編されてしまうことがある。『これくらいなら大丈夫だろう』と手順を省略し、それが修正されないまま続いてしまうと、ある時、大きな事故につながったりすることもあるのだ。

今村社長(取材当時)による訓話

▲今村社長(取材当時)による訓話

とりわけ、大勢の背景の異なる人びとが出入りする建設現場では、全員で安全意識を共有し、実践していくことが必要だ。同社の社員にとっては、自分自身が安全な行動を実践するのはもちろん、現場の作業員の安全意識を高めていくことが重要な使命といえる。
「とはいえ、作業員一人ひとりに張りつくわけにもいきません。大切なのは、やはりコミュニケーションです」(和田さん)
毎日あいさつを交わしていれば、声の調子の変化にも気づくはずだ。朝礼時には全員の顔色をチェックし、体調が悪い人がいれば業務分担や配置を変えるなど配慮も必要だろう。
自分と相手の価値観が違うことを前提にするなら、指示を出して満足するのではなく、自分の指示が相手に正しく伝わっているか復唱してもらうなど、ていねいに確認を取ることも大切だ。
ベテランの作業員に対しても、必要な指示は明確に出し、意図を理解して動いてもらわなければならない。そのためには、日ごろからコミュニケーションを重ね、信頼関係を築き上げることだ。
「安全衛生を守るには、関連法規や業務の知識だけでなく、コミュニケーションも含めた幅広いスキルが必要になります。その意味で、安全衛生教育は人づくりそのものといえます。
やがて、それが信用につながり、会社の財産になっていくのです」(和田さん)

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 東急建設株式会社
本社 東京都渋谷区
設立 2003年4月
資本金 163億5,444万円(2019年3月31日現在)
売上高 2,930億円(2019年度)
従業員数 2,523人(2019年3月31日現在)
平均年齢 45.8歳
平均勤続年数 20.7年
事業内容 総合建設業
URL https://www.tokyu-cnst.co.jp/

管理本部 人事部 採用育成グループ グループリーダー 石藤昭徳さん(左)
安全環境本部 安全環境部長 和田伸一さん(右)


 

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