事例 No.150 多摩運送 事例レポート(安全教育)
(企業と人材 2018年7月号)

安全教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

最新技術の導入や教習の拡充など
多彩な施策で一人ひとりの安全意識を高める

ポイント

(1)会社全体として、交通安全を最重視。安全衛生委員会が中心となり、毎月の職場会議、ドライブレコーダーの点数、無事故無違反の手当など、多彩な意識づけ策を実施。

(2)ドライバーには、入社時、3カ月後、1年後の教習を行うほか、全員に3年に1回教習を行い、安全に対する意識が薄れるのを防いでいる。

(3)教習では、受講者の特性に合わせた教官選びや、指導後に面談でメンタル面のフォローをするなど、社員に寄り添い、意見を取り入れながら、よりよい施策を常に模索している。

全社一丸となって交通安全を推進

多摩運送株式会社は、食糧配給公団東京都支局の輸送部門が独立して、1949年に創業した。当初は食糧輸送を得意としていたが、次第に業容を拡大。いまでは、国内13社、海外2社からなる多摩ホールディングスグループとして、一般運送だけでなく、荷物の梱包や保管、重量物や精密機械の設置、珍しいところでは化粧品の加工などまで手がける総合物流企業グループとなっている。
グループ総人員は約1,100人。多摩運送単体では、687人が働いており、大きくわけると、事務職、運転職、作業職(倉庫、搬入・搬出)の3職種がある。そのうち350人ほどが、運転職(トラックなどのドライバー)である。事務職や作業職にはパート・アルバイトもいるが、ドライバーは皆、正社員である。
同社の経営理念は、1)社会への責任、2)荷主への責任、3)従業員とその家族への責任の「三つの責任」を果たすこと。これらすべてに求められるのが、従業員一人ひとりの高い安全意識である。自社の方針について、常務取締役管理本部長の星野浩司さんはこう語る。
「公共の道路を使って事業を営んでいますので、社会への責任として、事故のない安全運転が欠かせません。また、荷主さまへの責任として、お預かりした荷物を安全・確実にお届けすることも重要です。そして、これらを満たして初めて、従業員とその家族への責任を果たすことができます。運送業は危険なイメージがあり、当社への就職を家族が反対することもあります。しかし、当社が事故ゼロであれば、『この会社は安全だ』と思ってもらうことができます。こうした考えから、創業時より、安全の徹底に努めてきました」
人材育成の面でも、経営理念である三つの責任を果たせる人材の育成をめざしている。
「問題が起きてどっちに行こうかと考えたとき、三つの責任を基準に判断すれば、おかしなことにはなりません」(星野さん)

最新機器も活用し日ごろから安全運転を徹底

同社およびグループ全体の安全管理を統括するのは、本社の安全衛生委員会だ。星野さんが委員長を務め、副委員長は労働組合長。社長、副社長を顧問とし、組合執行部、営業所代表(店・所長)、本社管理職をメンバーとする全社的組織である。経営陣がリーダーシップを発揮し、かつ、労使一体となって取り組んでいるところに、力の入れようが感じられる。
委員会は毎月開催しており、安全に関する自社の現状を確認し、今後の取り組みなどを話し合う。ドライバーが事故を起こした場合は、事故に至った経緯を検証し、再発防止策を検討する。
従業員への安全教育を担当するのは、安全衛生委員会の事務局でもある安全品質管理グループ。事務職の教育は人事部が中心となって行うが、ドライバーについては、同グループが教育全般を担当し、人事部は主に採用やメンタル面のフォローを担っている。
同社は、1967年に運転に関する情報を記録するアナログタコグラフを全営業車に導入。翌1968年には、新入社員用の教習所を設立するなど、早くから安全への取り組みに力を入れてきた(図表1)。1992年に、事故防止3カ年計画の一環として導入したバックアイカメラは、先進的な取り組みとして、テレビにも取り上げられている。

図表1 同社の安全に対する主な取り組み(抜粋)

図表1 同社の安全に対する主な取り組み(抜粋)

安全に対する徹底ぶりがよくわかるのが、1996年から実施している「運転記録証明書」だ。運転職は年2回、事務職・作業職は年1回認定を受ける無事故無違反の証である。仕事中の事故・違反だけでなく、プライベトでの運転も対象とする。
「当初は、『仕事中はちゃんとやるので、プライベートは自由にさせてほしい』という人もいましたが、交通安全というのは、やはり、プライベートの運転も含めて意識づけをしないと徹底できません。ドライバーだけでなく、われわれのような管理部門であっても、事故を起こそうものなら、大きな顔はできません」(星野さん)
ちなみに、交通事故・違反があった場合は、全社に事故違反速報が流れ、だれが事故や違反を起こしたかが、全社に知れわたる。
また、運転中の携帯電話の使用は固く禁じており、「違反者は、上司とともに本社に来て勤労奉仕をしてもらい、そのうえで、3日間の出勤停止(無給)にする」と、全社員に同意書を取っている。
さらに2006年には、全営業車にドライブレコーダーを導入した。このドライブレコーダーが、同社の安全に対する取り組みにおいて、大きな役割を果たしている。
ドライブレコーダーというと、運転中の映像を記録するものというイメージがあるが、同社のドライブレコーダーは、前方・後方・車内の録画だけでなく、加速度センサー、ジャイロセンサー、GPSを搭載。急ブレーキや急発進、加減速、旋回時の負荷、段差での揺れ、場所・時間・速度も記録する。
「皆、『自分は安全運転をしている』と言いますが、実際のところはわかりません。このドライブレコーダーは、上司が常に隣に乗っているようなものです。安全運転を意識させるうえで、大きな効果があります」(星野さん)
また、細かい事故検証ができるのも、大きな利点だ。安全品質管理グループグループ長の萩原淳一さんは、「事故を起こしたときは、そのときの状況をよく覚えていないことが多いものです。嘘をつくつもりはなくても、勘違いや見落としもあります。ハンドルをどのあたりで切ったか、どこでブレーキをかけたかといった原因が究明でき、再発防止に活かすことができます」と説明する。
ドライブレコーダーが急ブレーキなどの危険挙動を検知すると、自動的に指導書のシートが出力され、ドライバーは、そのときの状況を記入して提出しなければならない。たとえば、「前方のトラックの前にいたタクシーが止まったため、トラックも止まり、自分も停止しました。車間を空けていたため追突せずにすみましたが、急ブレーキをかけなくてもよいように、安全運転に努めます」などと書いて提出し、それに対して上司もコメントを記入する。事故に至らなくても、こうしたことを常日ごろから行っているので、危険な運転はほとんどなくなったという。
ドライブレコーダーの記録は、運転診断結果として、100点満点で点数表示される。満点に近づけるため、同社のドライバーは、どんどん安全運転になっていく。ドライブレコーダーを導入した当初は80点台だった平均点は、最近では94点まで向上した。
また、10トン車は97点以上、4〜7トン車は90点以上など、車両別に目標点数を定め、達成者には、「安全優良ドライバー」として、毎月、オリジナルのクオカードを贈呈している。ドライバーにとってうれしい臨時収入であるが、なにより自身が努力した結果が形になって返ってくることや、「コンビニでクオカードを使って買い物をしたとき、レジの女の子に『すごいですね』と言われた」、「家族に渡したら見直された。毎月子どもに渡したい」など、金銭面以外の効果が大きいそうだ。

職場会議や評価への取り入れで意識づけ

各支店・営業所では、毎月、「職場会議」を実施し、安全意識の徹底を図っている。社長と星野さん、萩原さんが、毎年、すべての職場をまわって職場会議に出席し、安全意識の浸透具合いや職場の雰囲気を確認している。
星野さんたちが各職場をまわり始めた当初は、同じ会社と思えないほど、取り組みレベルがバラバラだったという。そのため、「通知を出して指示するだけでは、安全の徹底は図れない」と判断し、2012年ごろから、教育用の資料を作成して各職場に配布することにした。実際の自社の事故をケーススタディとして取り上げ、ドライブレコーダーの記録やグーグルのストリートビューの写真を活用し、わかりやすい資料に仕上げている。
また、安全品質管理グループでは、毎月、安全教育のための動画を作成している。たとえば、坂道での停車中、車輪に輪止めをしていないとどうなるかを映像にまとめ、職場会議で視聴させている。
「言葉だけだとなかなか自分事として認識しづらいものですが、映像で、自分たちが乗るのと同じクルマで実際に起きた危険挙動を見せると、皆食いついてくれます」(萩原さん)
会社が社員の安全意識をいかに重くみているかを示すため、職場会議は毎月必ず実施し、各職場には、議事録を提出するまで督促することを徹底した。現在ではどの現場も、どんなに仕事が忙しくても、そのための時間を確保するようになってきたという。四半期ごとの営業会議でも、安全への取り組み状況の総括をしている。
また、各営業所全体の事故の有無は、営業所長の手当や賞与に直結し、評価においても、部下の育成に関する取り組みを重視する方針を貫いている。運転職と作業職も、半期に1度、「無事故無違反手当」(個人賞、グループ賞)が支給される。
安全運転を心がけるのは、ある意味当然のことであり、あえて手当を支給しなくてもよい気もする。しかし、星野さんは次のようにいう。
「会社のメリットと本人のメリットが同じ方向に向くようにしています。厳しくするだけでなく、真剣に取り組めば本人にも報いるからこそ、社員も自然と会社と同じスタンスになり、『安全運転が大事』という考え方になります」

新人からベテランまで充実した教習を実施

教習制度についても充実を図っている(図表2)。新しく入社したドライバーは、入社時、入社3カ月後、入社1年後に教習を受け、さらに、3年に1回、教習を受けることが義務づけられる。

図表2 同社の運転教習制度

図表2 同社の運転教習制度

以前は、入社時の教習を終えれば、事故を起こさないかぎり、教習を受ける必要はなかった。しかし、自社の事故の傾向を分析したところ、その大半が入社したばかりの運転手であり、90%弱が入社4年未満であることがわかった。そこで、新人への対応が急務と判断し、2014年から、入社3カ月後、1年後にも、教官による添乗指導を行うことにしたのだ。2017年には3日間だった入社時教習を4日間に増やし、荷物の固縛など運転以外の教習についても充実させた。
一方、交通事故をなくすためには、新人の経験不足・技術不足を補うだけでなく、ベテランの慣れによる確認不足や手抜きの防止や、クセの矯正も重要だ。そのため、2013年から、3年に1度、教官による1日の添乗教習をドライバー全員に実施している。教習の概要は、図表3のとおり。身だしなみチェックや教官による面談をしたあと、まずはフリーで運転してもらい、本人の運転特性を把握する。そして、適性診断とその結果について、アドバイスをする。そのうえで、同社が推奨しているコメンタリー運転(運転中に指差し確認をするのは危ないので、口頭で「右よし、左よし」などと言う安全確認方法)について解説し、教官による添乗指導、ビデオ視聴をして教習の感想を書き、決意表明をして終了となる。これを定期的に実施することで、安全意識が薄れるのを防いでいる。

図表3 定期一般適性診断および添乗教育のスケジュール

図表3 定期一般適性診断および添乗教育のスケジュール

「皆、悪気なく、『自分は安全運転をしている』と思っています。しかし、人の運転する車に乗る機会はあまりないので、どうしても自己流になるところが出てきてしまい、話を聞いてみると『もっといい方法があるのに』といったことが少なくありません。他人の目が入る教習を行うことは、よい意識づけになります。従業員の家族からも、『教習を受けて、うちの亭主の運転が変わった』という話を聞きます」(星野さん)
教習のあとは、人事部部長の小作紀久さんをはじめとする人事部のスタッフが、面談を行う。
「メンタル面のフォローとして不満や悩みを聞き、職場に問題があれば、早めに対策を行います。『身の上相談にも乗ってもらって安心した』という従業員も多く、以前と比べて離職率もかなり低下しました」(小作さん)
定期的な教習のほか、交通違反者に対しては、3日間の教習を実施する。講習会では、本人だけでなく所属長も呼び、1日目は、上司と一緒に指導を受ける。これにより、上司も職場に戻って指導しやすくなる。2日目は、模範ドライバーと定めた同僚の運転に1日同乗させる。模範ドライバーの運転をみて、「自分はあそこまでできていなかった」、「ここまで徹底するのか」と、気づかされるという。そして3カ月後に再度、教官による添乗指導を行っている。
また、交通違反者には1日の安全講習会を実施して、地元の立川警察署の協力で安全講話をしてもらったり、グループディスカッションなども行い、自分に足りなかった点を自覚させ、決意表明をしてもらう。

受講者により添った添乗指導で気づきを促す

模範ドライバーとして受講者と同乗する人は、小作さんや萩原さんが適任者を選んでいる。
「教官や模範ドライバーは、腕前はもちろんですが、人格者であることを第一にお願いしています。人間的に魅力がない人が理路整然と説明しても、従う気にはなれませんから。また、受講者の個性に合わせた人選も心がけていて、相手の心情を汲みながら、的確にアドバイスしてもらっています。
たとえば、学生時代にはいわゆる札付きのワルでしたが、社会に出てからは真摯に働き、いまは顧客からの信頼がとても篤いといった経歴の社員がいます。ちょっと調子に乗ってしまっている若手とその人とで組んでもらうと、若手の気持ちを理解しながら、うまく導いてくれます。違反者の講習で同乗する模範ドライバーには、安全に対する信念のある人を選んでいます。それぞれの長所や年齢差もみながら、どういうことをいってくれるかも考えて依頼します」(星野さん)。

人材の定着と育成に向けさらなる取り組みを推進

さまざまな取り組みに加え、安全ポスターの作成、交通標語コンテストの開催、IT点呼システムの導入、ドライバーコンテストへの参加などにも取り組んでおり、同社の事故や違反件数は、年々減少している。地域貢献活動の一環として、交通安全教室や自転車教室、通学路での街頭指導も行っている。
また、これまで紹介してきたのは主にドライバーへの取り組みだが、倉庫作業などを行う作業職でも常に取り組みを続けており、1983年から続くQCサークル活動では、毎年大会を開いて取り組み内容を発表・共有している。
2016年には、本社内にフォークリフトの教習所も開設。創業70周年となる来年には、本社の建て替えに伴い、教習施設を充実させる構想もあるという。

▲本社内にあるフォークリフト教習所

▲本社内にあるフォークリフト教習所

「安全にはお金がかかります。教習は、地方の事業所やグループ企業からも呼びますので、かなりのコストになります。しかし、ただ『安全運転を心がけろ』というだけでは効果が薄い。あの手この手を考えるのが、私たちの役割です。
安全意識の低い従業員に対しては、『この先も続けたいなら、こういうことを守ってもらわないと困る』といった厳しいことをいう場合もあります。それでも、長年取り組んできたことで、社員も理解してくれるようになりました。風土として根づいてきています」(星野さん)
そもそも、今回紹介した安全に対するさまざまな取り組みは、会社側だけで決めているわけではなく、前述のように、安全衛生委員会にも組合執行部が深くかかわっている。それ以外でも、物事を決める際には、常に社員の意見を取り入れることを心がけている。
「事業所をまわっていると、意見のある人は自分から声をかけてきます。役員相手だから気後れしていわないというような雰囲気はありませんね」(星野さん)

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そして現在、同社が力を入れているのは、従業員の定着率の向上と人材育成だ。定着率は、現時点でも93〜94%と高いが、各営業所では、半期に1回、所長が全員と面談をし、必要なフォローをしている。人事部としても全員と面談をしたいそうだが、残念ながらそこまで手がまわっていないのが今後の課題だそうだ。
「定年退職したあとに、『この会社を選んだけど、おれの人生、失敗ではなかったな』と思ってもらえるように取り組んでいます。そのためには、無事故で働いてもらうことが一番です。あの手この手で現場教育をしながら、われわれも成長していこうとしています。会社としては収支も大事ですが、運送業である当社では、まず人ありきという考えでいます。これからも安全の徹底を図っていきます」(星野さん)

(取材・文/崎原誠)


 

▼ 会社概要

社名 多摩運送株式会社
本社 東京都立川市
創業 1949年9月
資本金 5,000万円(多摩ホールディングスは3億円)
売上高 117億(2017年3月末)
従業員数 単体687人、連結1,094人
事業案内 総合物流業(輸配送、保管、荷役、流通加工、梱包、情報管理)
URL http://www.tamaunsou.co.jp/

(左)
人事部
部長
小作紀久さん
 
(中)
安全品質管理グループ
グループ長
萩原淳一さん
 
(右)
常務取締役
管理本部長
星野浩司さん


 

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