事例 No.227 タマノイ酢 特集 中小企業の人づくり
(企業と人材 2020年8月号)

組織開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

産学連携でリーダーシップ開発の授業を実施
社員と学生がともに課題に取り組み、
各人がリーダーシップを発揮

ポイント

(1)横浜市立大学と連携して、学生と社員が一緒に参加するリーダーシップ開発の授業を実施(全15回のうち社員は4回参加)。若手社員の知見を広げるとともに、お互いにリーダーシップを学ぶ場とする。

(2)授業では、3チームに分かれて同社が提示したビジネス課題に取り組む。社員は、各チームに1人ずつメンターとして参加し、議論を整理したり適切なタイミングで学生に質問するなどして、質問力、ファシリテーション力、コーチング力の習得をめざす。

(3)第11回の授業において、チームごとに新規事業のプレゼンテーションを実施。他チームからのフィードバックをもとに再度プランを練り、最終発表(第13回)に臨む。

社員一人ひとりの自立と成長をテーマに人材を育成

タマノイ酢株式会社は、大阪に本社を置く酢の醸造・販売を中心とした食品メーカーである。奈良県に本社工場と中央研究所をもち、東京や大阪、札幌など主要都市に支店および営業所をもつ。
同社は、1963年に世界で初めて酢の粉末化に成功し、「すしのこ」を発売。1994年には、菓子飲料事業部を新設し、本格的に飲料業界に進出していった。近年では、「はちみつ黒酢ダイエット」や「はちみつりんご酢ダイエット」がヒット商品になるなど、醸造酢以外の分野においても積極的に商品開発を行い、成功につなげている。
では、そんな同社の人材は、どのように育まれているのだろうか。
同社では、「社員一人ひとりの自立と成長」および「社員の個性を大事にする」をテーマに、人材育成を行っている。このことについて、同社の広報や人事関係を担う部署である、社長室ドリームクエストのチームリーダー原田優里子さんは、次のように話す。
「たとえば、若手社員に大きな仕事を積極的に任せることで、成長を促しています。ただし、任せきりにせず、周囲がしっかりとサポートするため、仕事を任された若手社員は、安心して取り組むことができると思います。
また、学歴や専門性、男女にとらわれることなく頻繁にジョブローテーションを行い、キャリアの早い段階で多くの職種を経験させたり、都度開催される教育研修などで社員の可能性を広げています。さらに、キャリア制度や、医師、弁護士などを育てるフューチャー制度といった人材育成の制度によって、多様な人材を育成しています」今後も、社員を成長させる仕組みを発展させていくという。

産学連携でリーダーシップ開発の講座を実施

そうしたなか、同社は、2019年の秋から冬にかけて、横浜市立大学と連携して、リーダーシップ開発プログラムの授業を実施した。
きっかけは、横浜市立大学国際商学部准教授の小泉大輔さんのもとに、たまたま同社の社員が訪問したことだった。小泉さんは、人材の多様性をキーワードとし、性別、年齢、雇用形態、キャリアなどと人事管理、パフォーマンスとの関係を理論的・実証的に研究しており、リーダーシップ開発の授業にも取り組んでいる。そして、同社が人材育成の観点で神戸大学の研究対象になるなど注目されていることから、小泉さんより、同社社員と学生が一緒に学ぶ本プログラムの説明と企画の提案がされたという。
その後、原田さんは小泉さんとともに、他大学で実施された産学連携のリーダーシップ開発プログラムを見学したことで、自社での活用に前向きな気持ちになっていったそうだ。
「大学に当社の社員を派遣することで、学生とのつながりができます。それによって、さまざまな気づきや刺激を得られると思いました。
また、当社では、リーダーシップとはリーダー資質のある人が引っ張っていくのではなく、だれもが発揮できる能力であるという考えのもと、人材育成を行っています。若手社員にとって、そうしたリーダーシップを学べる良い機会になると考えました」こうして、横浜市立大学と連携した授業が実現することになったのである。

社員と学生がお互いにリーダーシップを学ぶ

リーダーシップ開発プログラムによる授業は、同大学の2019年後期・毎週金曜日に実施(全15回)。同社の社員は、そのうち4回(10月25日、11月8日、12月6日、12月20日)授業に参加した(図表1)。

図表1 授業のスケジュール

図表1 授業のスケジュール

授業名は、「Global Human Resource Development」。指導者はもちろん、小泉さんである。参加者は、同大学国際総合科学部2、3年生12人および、同社1、2年目社員3人の計15人。同社が提示したビジネス課題に対して、社員と学生が協力しあって課題に取り組み、発表するという内容である。課題を通じて、グループ内で各個人がリーダーシップを発揮することがねらいだ。
まずは、社員も学生も、事前に以下の教材を使って学習し、同社の理解を深めておく。
・書籍『関わりあう職場のマネジメント』(鈴木竜太著・有斐閣)第1章
・ケース教材「タマノイ酢株式会社―助け合い、支えあい、成長する職場」(神戸大学大学院教授・鈴木竜太/甲南大学教授・尾形真実哉共著)
社員はそのほかに、同社が提示したビジネス課題について、学生からこんな質問がされるだろうと想定し、それに対する回答をあらかじめ用意してから授業に臨む。
ビジネス課題は、「タマノイ酢の経営資源を使った新しい事業を提案してください」というものだ。授業では、社員を含む5人1組×3チームで、その課題に取り組む。社員はメンターとして各チームに1人ずつ参加し、具体的には次の3つの行動を行うことで、目標とするスキルを身につけていく。
1つめは、取り組む課題について、学生からの質問に答えることである。これにより、自社や業界の知識の深化・整理ができるとともに、わかりやすく伝える力が養成される。
2つめは、学生が取り組んでいる議論の道筋を整理すること。ファシリテーション力の向上を期待するものだ。
3つめは、議論において、適切なタイミングで学生に質問をして、主体性、モチベーション、思考の幅を広げる。これにより、後輩や部下を育成する力(コーチング力、質問力、モチベーションアップ)を養成する。
また、学生については、リーダーシップとはだれもが発揮できるものだということを理解したうえで、それぞれが自分なりのリーダーシップを発揮していくことを本授業の最終目標としている(図表2)。

図表2 本授業の最終的な目標

図表2 本授業の最終的な目標

チームごとに新規事業のビジネスプランを練る

それでは、授業の詳細についてみていこう。
社員(メンター)が初めて授業に参加したのは、2019年10月25日に実施した第5回である。社員と学生がはじめて顔を合わせることから、まずはアイスブレイクでリラックスしながら、1人ずつ自己紹介をした。
その後、各チームで、情報カードを用いた地図作成ワークを行った。これは、各自に与えられた情報カードの内容を伝えあい、情報を整理し、最終的には地図(架空のもの)を完成させるというグループワークである。たとえば、「A駅から図書館に行くまでに、2回右折します」といった断片的な情報(カード情報)を手掛かりに、各チームでコミュニケーションをとりながら、協力して町の地図を完成させていく。
各人がもっている情報は、必ず口頭で伝えなければならず、ほかのメンバーの情報を見ることもできないので、情報の伝え方や聞き方、伝えるタイミングなど、チームで課題に取り組むときのコミュニケーションについて学ぶことができるという。
「協調性の向上に大きな効果があると感じました。また、地図を完成させるために必要な複数の情報を整理し、どのように進めれば完成に近づくことができるかを考えるため、論理的思考力の向上も期待できます」
そして、第7回(同年11月8日)から、いよいよ本題に入る。課題について各チームでディスカッションをしつつ、新規事業のビジネスプランを練っていった。
「ここで大事なのは、参加するという意識をもってもらうことです。そのように意識できると、話し合いの進行状況に応じて、自分がどんな役割を求められているかを考えられるようになるでしょう。それが、各人のリーダーシップ開発につながっていくのだと思います」
第11回(同年12月6日)では、チームごとにビジネスプランを発表した。提案内容は、以下のとおりである。
・お酢とフルーツを用いたドレッシングの開発、販売
・お酢をつくるときに出る酒粕を使った入浴剤の開発、販売
・オタクをターゲットとした開拓事業
プレゼンの時間は、1チーム数分ほど。メンバー全員が前に出て発表した。代表で1人が話すチームもあれば、全員が順番に話すチームもあったという。
1チームがプレゼンテーションを終えると、他のチームからフィードバックされる。その内容をもとに、チーム内で課題や改善ポイントを相談したうえで、再度プランを練り、最終発表に臨む。
最終発表および審査は、第13回(同年12月20日)にて行われた。審査員は、小泉さんと、原田さんをはじめとする同社社長室メンバーだ。審査基準は、以下の4点である。
(1)影響力
提案した新規事業が、社会にどんな影響をもたらすか
(2)持続可能性
持続可能なビジネスとしての将来性があるかどうか
(3)独自性
他社にはない独自の競争優位性があるか
(4)表現力
発表時のブレゼンテーションがわかりやすいか
3チームのうち一番評価が高かったのは、「お酢をつくるときに出る酒粕を使った入浴剤の開発、販売」を提案したチームで、最優秀クライアント賞を受賞した。実際に事業化されることはなかったが、参加社員は、学生とともに課題に取り組んだことでよい刺激を受け、経験したことを今後の仕事に活かしていこうと前向きな気持ちになったという。

図表2 本授業の最終的な目標

▲(左)地図作成ワークで、コミュニケーションのあり方を学ぶ
 (右)チームごとに新規事業のビジネスプランを発表

横浜市立大学 国際商学部 准教授 小泉大輔さんのコメント

本リーダーシップ開発プログラムを企画・開発したきっかけ
本学では、100周年に向けた教育ビジョンとして「ヨコハマから世界へ羽ばたくグローバル人材の育成」を掲げており、そのビジョン達成に向けて一翼を担うプログラムになると考えたからです。すでに語学、データサイエンス、少人数制のゼミ(専門性)という3つのプログラムが充実しているのですが、ここにリーダーシップのスキルを加えることで、多様な専門性をもった学生がデータに基づきながら、チームで意思決定・合意形成を率いていくことができるYCU発のグローバルビジネス人材を育成できるのではないか、と考えました。

タマノイ酢社と連携して実施した際の感想や気づいたこと
同社の社員の方たちは、議論のなかで、学生からの提案にはポジティブに返答しながらも、傾聴し、適切な質問を適切なタイミングで投げかけることで、学生の気づきとモチベーションを引き出し、ファシリテーターとしての役割を務めていました。プログラム開始前に時間をとって目的を共有できたことに加え、同社は元来、職場で人とかかわり合うことを大切にしている職場風土があるためか、スムーズに進めることができました。参加した学生も、社員の皆さんの的確なファシリテーションによってチームの議論をうまく整理できたと語っていました。

リーダーシップ開発や産学連携における現状の課題や今後の展望
課題としては、受講者の受け入れの拡大です。今年度は履修希望者が増え、履修制限をせざるを得ませんでした。そのため、履修希望者が受講できるような体制を検討しています。
今後の展望としては、データ分析を意思決定の手段としてより使用することと、たとえば、グループ内で情報の遮断を意図的につくり出すなど、現実の経営組織における問題に即した困難さを設計したなかで、どのようなリーダーシップや相互作用が有効かを学べる環境を設計したいと考えています。

今後も、産学連携での 取り組みに前向き

4回にわたる学生との合同授業が終了すると、参加社員と配属先の上司、社長室メンバーによる報告会を行った。参加社員は、課題に対してどのようなプレゼンテーションがあったのか、参加してスキルにどのような変化があったのかなどを話し、課題に対するアイデアや行動改善のフィードバックをもらう。
そのときの参加社員の声は、「やってよかった」というもののほか、「どうしても学生と同じ立場でやりとりをしてしまう。メンターとしての自覚をもっともち、学生の考えをうまく引き出すことをやるべきだった」と反省する声もあったという。
一方、参加した学生らにはアンケートを実施し、感想をもらった。なかでも、「参加してよかった」、「議論が停滞したとき、メンターに声掛けをしてもらったことがとてもありがたかった」といった声が多かったそうだ。
「学生の意見をうまく引き出せるような質問力や、リーダーシップを発揮させるためにどんな働きかけをするかという点で課題はありましたが、学生さんと協力して、それぞれが主体的に取り組んだことは、とてもよかったと思います。
今年の春に新入社員が入社し、参加社員たちが指導している様子をみましたが、明らかに成長していると感じました。参加社員たちもまだまだ若手ですが、それなりに自分らしいリーダーシップスタイルをみつけて実行しているようです。横浜市立大学での授業が活きていますね」
産学連携での取り組みについては、今後も前向きに考えているという。
「ただ、いまは新型コロナウイルスの影響で、実際に学校へ足を運んで授業を行うというやり方は難しい状況です。
もちろん、産学連携で当社がお役に立てることがあれば、可能な限り積極的に参加させていただきたいという思いは変わりません。
じつはこれまでにも、当社の代表が大学に赴いて講演を行ったり、他大学の商品開発プログラムに社員が参加したこともありました。また、実際に当社の商品開発を考えてみようというプログラムも毎年行っています。
今後は、これからの時代に沿ったやり方を考えていかなければならないと感じています」

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最後に、若手社員の育成について、今後の展望をうかがった。
「先ほど申し上げたように、当社では、専門性のない人を配置したり、大きな仕事を任せるため、職場の先輩や上司は、その社員をサポートしなくてはなりません。また、新人や若手社員は、それらの助けがなければ、自分の役割を果たせません。そのため、当社では、助け合い、つながりを大事にする組織文化があります。
今後もその文化をより浸透させつつ、新人や若手をはじめ、社員が働きやすい環境づくりに注力していきたいと思っています。日々高いモチベーションを維持しつつ、楽しく仕事をしてもらうことが、何よりも大切なのです」

(取材・文/編集部)


  

原田優里子さんへの3つの質問

Q1 人材開発の仕事で、日ごろ大事にしていることは?
社員への声掛けを大事にしています。新人のとき、先輩方から声をかけてもらったことで、自分を気にかけてもらえる、自分はここにいていいんだという安心感につながりました。今度は私から積極的に社員とかかわっていきたいと思っています。

Q2 仕事で凹んだときは、どうしていますか?
以前所属していた部署の先輩と、いろいろなことを話したり食事に行ったりすることで、リフレッシュしています。

Q3 いま関心があることは何ですか?
当社は出社しないとできない仕事が多いのですが、リモートワークが主流になりつつあるなか、これからのオフィスのあり方が気になります。

▼ 会社概要

社名 タマノイ酢株式会社
本社 大阪府堺市
設立 1907年6月
資本金 2億円
売上高 非公開
従業員数 250人
事業内容 醸造酢、粉末酢、各種調味料、レトルト食品および菓子・健康飲料などの製造・販売
URL http://www.tamanoi.co.jp/

社長室ドリームクエスト チームリーダー
原田優里子さん


 

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