事例 No.205 アイ・オー・データ機器 事例レポート(組織開発) (企業と人材 2019年11月号)

組織開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

社員意識調査データに基づく対話で
組織変革の施策を導き出す

ポイント

(1)2013年に従業員を2割削減するリストラを実施。そこから、「自分たちで考えて出した答えで行動する組織」への転換をめざし、人事部門として、対話合宿やカルチャーブック作成・配付などの取り組みを行う。

(2)外部コンサルティング会社の協力を得て、全社員対象の組織行動調査を設計・実施。調査結果を「人事スタッフ/課長/部下」の3つのセグメントで分析した結果、現場と人事スタッフとの価値観や意識のずれが明らかに。

(3)調査の分析結果を、人事+コンサルタント+リサーチフェローの三者で議論し、さらに分析を加え、その結果をまた議論するというサイクルを毎月行う。因果関係を表すループ図を作成し、それに基づいて人事・教育施策を立案。

ベンチャー気質でPC関連商品を開発

スマートフォンやテレビ、パソコン周辺機器の総合メーカー、株式会社アイ・オー・データ機器。「お客様の期待・社会の課題をINPUTに、持てるアイデア・技術・誠意を尽くし価値あるOUTPUTの創造を通じて、情報化社会の発展に貢献する」を経営理念に、変化の速い情報化社会に対応したさまざまな製品を作っている。たとえば、パソコンを使わずに、直接CDをスマートフォンに取り込める「CDレコ」などは、同社ならではの製品だ。

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同社は、現会長の細野昭雄氏が、1976年に自宅ガレージにて創業。ベンチャー気質を重視し、世の中の変化に対応しつつも、主流ではない「もう1つの選択肢」をいかに提供していくか、ということを大切にしてきた会社である。
同社取締役上席執行役員で、管理本部本部長の加藤啓樹さんは、自社の方向性について、こう述べる。
「最先端の技術を追求するのではなく、今ある技術を使ってより便利なものを作ったり、違う使い方の提案をしたりすることをめざしています。そのためには、自ら動く、自ら育つ人材を育てていかないといけません」
そして、管理本部管理部総務課長の由田敦士さんも、次のように続ける。
「市場の先をいかに読むかということよりも、あるツールやデバイスが手に入ったときに、生活がどう変化して、それにより生まれる隙間や穴は何かを洞察する力が必要です。それには、ものごとの本質を見極める目が欠かせません。それが当社の育成の大きなテーマです」

リストラを機に組織変革に取り組む

そんな同社に転換期が訪れたのは、業績が悪化した6年前のこと。2013年3月に大規模リストラを断行し、従業員を2割削減した。当時の状況について、加藤さんは次のように説明する。
「それまでは、“作れば売れる”時代にありました。それが、パソコン市場の成熟により売上げが減少。パソコンの価格低下に伴い、周辺機器の価格も低下しました。同時に、かつては周辺機器で補っていた機能がパソコンに組み込まれるようになったため、周辺機器の市場が縮小し、われわれの業績も縮小してしまったのです」
由田さんも「目の前の仕事を効率的にこなしていけば、売上げも利益もそこそこついてくるという時代が終わったのにもかかわらず、そのスタイルのまま事業を続けてしまったのです」と、変化に対応しきれていなかった様子を振り返る。
そして、リストラによってとりあえず状況は落ち着いたが、完全に回復したわけではなかった。
「われわれの製品は、どうしても市場の流れに左右されがちです。その状態から、いかに脱却していくか。そこを突き詰めて考えていくと、自分たちのありようが問われます。われわれは世の中でどういう存在意義をもつのか。そう考えたとき、だれかが用意した答えではなく、自分たちで考えて出した答えで行動する組織にならなくてはと、強く感じたのです」(由田さん)
また、これまでは、カリスマ的な創業者がアイデアを出して、組織を引っ張ってきたが、持続的な成長を考えると、一人ひとりが能動的になる必要がある。ところが社内では、「○○○があれば……」、「△△△△だからできない」と、環境のせいにするような会話が飛び交っていた。
「当社の社員は、『どこかのだれかが必要としている何か』に気づいて、それを形にする、という意識は、皆もっているんだと思います。ただ、それをどうやったらいいかがわからない」(由田さん)
加藤さんも、部門内の発想に終始していたことも一因だとして、こう述べる。
「当社では、期初に部門ごとに目標を設定しています。当時は、各部門では目標達成しているのに、会社全体の業績は改善しないという状況に陥っていました。どの部門も、自分たちは部門の目標さえ達成すればいいという考えだったのです」
そうした組織間の壁を壊し、いかに消費者に、“もう1つの選択肢”を提供していける人間の集団にしていくか——リストラ後、人事が方針を社員に説明し、マインドセットに向けた言葉を投げかけても、「それで、何をしたらいいんですか」、「それをやって売上げや利益が上がるのですか」といった言葉が返ってくるだけ。加藤さんたちは、大きな課題感を感じたという。

対話合宿やカルチャーブックで働きかける

そうしたなかでも、人事スタッフは自分たちなりに勉強したり、他社の事例をヒントにしたりして、社員が自主性を発揮できる組織づくりをめざして、さまざまな施策に着手していった。
まず、2014年11月に人事部門のメンバーが、コンサルティング会社のセミナーに参加。そこで組織改善のエッセンスを吸収し、社内にも徐々にレクチャーしていった。2015年1月には、執行役員向けの研修も行った。
2016年には、1泊2日の「対話合宿」を開始。「ビジネスとは?」、「働くとは?」など、哲学的なテーマを設定して、それについて話し合う、ワークショップ形式の研修である。最初は、人事メンバー内で実施し、マネジャー層、マネジャー候補と徐々に対象を広げていった。夜は、コミュニケーションを深めるための懇親会。部署も年齢も役職もばらばらな15人を1クールとして、多いときには月に数回も実施していった。
2巡目の社員も少なくなかったという。ところが、成果はあまり得られなかった。
由田さんは「この研修から何を得られるのか、受講者にはつかみにくかったようです」と分析する。
さらに2018年には、小冊子「カルチャーブック」を発行した。「いちばん大切にしたいこと」、「これまでとこれから〜私たちらしさとは〜」、「社会に提供している価値」、「どんな人と働きたいか」、「全員が心掛ける行動」といったことが、イラストともにわかりやすく説明されている。

アイ・オー・データ機器のカルチャーブック

▲ アイ・オー・データ機器のカルチャーブック

「会社が大事だと思っていて、これからも大事にしたいエッセンスを言語化しました。ところが、社員に配付しても『また何か押しつけてきて』とか、『言っていることは普通じゃないか』というような反応だったんです。
人事としては、これまで積み上げてきた当社にとって大切なこと、この先も大切にしたいことをあらためて共有し、また発信していきたいと思っていたわけですが、その歴史をつくり上げてきたはずの社員からもそうした反応があり、むしろ社外の方々に『(同社のイメージって)そうだよね』と言ってもらうことのほうが多いというような状況でした」(由田さん)。

3カ月かけて社員意識調査を設計

あの手この手で社員の意識を変えようとしても、手詰まり感が出てきた。そこで、以前からお付き合いがあったコンサルティング会社、株式会社ConsulenteHYAKUNEN(以下HYAKUNEN)に協力してもらうことにした。
HYAKUNENのコンサルタント、上野佐保さんは、こう話す。
「これまでの経緯をうかがい、問題が複合的だという認識をもちました。次に打つ手を考えるにしても、いま何が起っているか、現状を知らないとスタートできません。そこで、客観的に意識を測定することから始めました」
定量的に把握するため、2018年6〜7月に、全社員を対象にオンラインの組織行動調査を実施した。特筆すべきは、調査設計に3カ月かけたことである。
「汎用調査をそのまま使っても、本当に知りたいことが明らかになるかは疑問」と上野さんは、企業に合わせて調査項目を設定する大切さを指摘する。
社内調査を実施するにあたり、プロジェクトチームを結成。メンバーは、アイ・オー・データ機器の人事スタッフと上野さん、そして、HYAKUNENのリサーチフェローであり、武蔵野大学経済学部准教授でもある宍戸拓人さんが加わる。
上野さんは、外部の人間だからこそ、現状を客観的にとらえることができるとして、現場の社員へのインタビューを行っていった。また、学術研究の視点をもつ宍戸さんがチームに参画することにより、過去の研究で蓄積された調査項目に関する知見などを参照することもできるようになった。
宍戸さんは、「有効な項目をつくるには、研究者としての知見、コンサルタントとしての実績、そして人事部門の現場と、三者がそれぞれの立場でみていく必要があります」と語る。同じ立場の人たちが集まって分析・検証していても同じような見方しかできず、あまり効果は得られないからだ。
そうしてできた調査項目は、およそ150項目に及んだ(図表1)。社員はそれぞれの質問に対し、どの程度の意識なのか7段階で回答していく。

図表1 調査項目のイメージ

調査項目のイメージ

「じつは、社員インタビューの結果、当初設定していた質問項目を20%程度入れ替えました。社員の方々の悩みを聞きながら、かつ先行事例に近いこと、これまで積み重ねられてきた学術研究の知見などを盛り込みながら、アイ・オー・データ機器に必要だと思われる項目をつくり上げていきました」(宍戸さん)
なお、図表1では「変数(大項目)」として、「エンゲージメント」、「コミットメント」などとグルーピングして示しているが、実際の調査では、これらの表記はない。これは、「この質問はエンゲージメントに関するものだ」とわかると、回答者にバイアスがかかってしまうためである。

人事と現場との認識のズレがグラフに表れる

調査の結果は、どのようなものだったのか。由田さんはいう。
「最初にみえてきたのは、合宿やカルチャーブックなど、リストラ以降にやってきたことが、社員には効いていないということでした。自分たちが労力を割いてやってきたことだけに、受け入れがたい結果でしたが、それが数値となって出てきているので、受け入れざるを得ませんでした」
一方で、人事スタッフだけの集計結果でみると、めざすべき方向性は同じだという結果が出てきたので、「やれるかなと、光明がみえた気がしましたし、理解してくれるメンバーがいることが心強かった」ともいう。
調査分析の一部を、具体的にみてみよう。図表2は、調査回答から「行動規範」に関連する8項目を抽出して「行動規範に対する認識」とし、「人事スタッフ/課長/部下」というセグメントで、各項目に対する認識の違いをスパイダーチャートに表したものだ。

図表2 調査結果の分析の例

調査結果の分析の例

結果は一目瞭然で、課長と部下の認識はきわめて近いが、人事とは大きく異なっていた。
「つまり、われわれが重視していることと、現場が重視していること、あるいは実際にやっていることには、大きな乖離があるという結果でした」(由田さん)
現場は、課長も部下も「ルールや細部にこだわる」が高いが、人事スタッフはそれが2ポイント低い。他方、「柔軟な頭で気軽に実験してみる」は、人事スタッフは高いが、課長と部下はともに低かった。
由田さんは日ごろ、人事スタッフと「柔軟な頭で気軽に実験してみたり、ルールや細部にこだわりすぎずに、柔軟に発想できたり、実験できたりするのがいいよね。一緒に働いている仲間と情熱をもって、がっつり取り組めるといいよね」と話していて、「おそらくは現場の課長、部下も、そういう会社にいるんだという感覚をもっている」と考えていたという。ところが、現場では必ずしもそうではないことがみえてきた。
「この結果を見て、いままで人事がやってきたことが刺さらなかったのは当たり前だと納得しました。同時に、この状況を本当に変えられるのか、とも思いました」(由田さん)
ただ、人事スタッフのなかでも、結果の受け止め方はさまざまだった。管理部総務課課長代理の坂本友紀さんは、「予想していた結果だったので、むしろほっとしました。この結果を受けて、ここから始まるんだと感じました」という。そして、データ化の効用について、こう続ける。
「人事スタッフの間にも、何かを変えなくてはいけない、ではそれは何か、というとうまく言語化できず、もやもやした思いがありました。それが明確になり、取り組む対象がみえた気がしたのです」
同社では、分析結果が出たあとも、1カ月に1回程度、上野さん、宍戸さんと議論を続けている。
「膨大な調査データをそのまま見せられても、われわれにはどんな意味があるのかわかりません。それを解説してもらえるのが、ありがたかった。たとえば、先ほどの『ルールや細部にこだわる』の2ポイントの差はがどのくらいの違いなのかというと、『違う生き物、くらいの開きがある』と言われて驚きました。また、課長と部下のチャート図が同じ形をしているのは、上司が部下に大きく影響しているということの表れだということにも、気づかされました」(由田さん)
「逆に研究者だけの目線だと、課長と部下の線が同じなら『認識が統一されているということで、まとまったいい会社ですね』で終わってしまいます。しかし議論の場で、会社のこれまでの歩みなどを聞いていると、『これは、大変な結果ですね』となります。つまり、分析結果としての数字だけを見ていても、本質はわからないのです」(宍戸さん)
同社にとって、どのデータが本質的に重要なのか、それに影響を与えている要素は何か、そうしたことを議論し、その議論に基づいて、さらにデータを深掘りし、翌月の議論の場に持っていく。この間、そういうプロセスを繰り返しながら、議論を深めてきたのだという。
「どのデータに意味があるのかということは、三者で議論しないとみえてきません。とはいえ、全項目をクロス集計したりすれば膨大なデータになってしまって処理しきれません。そこで、まず私が仮説を立てて分析したものをもっていき、それに対してフィードバックをもらいます。それを、さらに分析して、次回の議論の場にもっていく。そうやって議論を深めていくと、さまざまなことがみえてきます」(宍戸さん)

因果関係を図で表し、そこから施策を立案

今回の調査では、人事の認識と乖離している人、または乖離していない人では、社内での行動にどのような違いがあるのか。調査回答の分析を重ねていった。
たとえば、行動規範が人事と一致していない社員のほうが、エンゲージメントが高く、一致している人のほうがエンゲージメントが落ちていた。それはなぜかを、コンサルタント、学者、人事スタッフの三者で話し合いを繰り返した。
その分析をもとに、因果関係をつなげて「ループ図」を作成(図表3)。「現状」と「望ましい姿」をそれぞれループ化し、「望ましい姿」にシフトするためにどういうアプローチをしていくか、施策を練った。

図表3 現状についてのループ図(一部)

現状についてのループ図(一部)

同社がめざすのは、「社員一人ひとりのエンゲージメントが高く、イノベーティブな行動が続々とわいてくる組織」である。
そこをめざして、現在3つの施策を開始するところだという。
1つは「OKRの導入」だ。同社にとってのオーダーメード的な、ワクワクするような挑戦的な目標と、その設定プロセスを展開中である。2つ目は「カンバセーション」。仕事や役割の価値・意識を感じられるような日常会話を奨励している。そして、3つ目は「評価制度の変更」である。由田さんはこう述べる。
「たとえば、実行力というような一般的な言葉ではなく、われわれが大事にすべき規範や価値観を、われわれらしい言葉、生々しい言葉で、評価項目に入れ込みたい。そういうふうに評価に織り込むことで、それを大事にしているというメッセージにもなります」
今後は、この3つの施策を展開し、組織に望ましい影響を与えることができているかを、定期的に調査を行って検証していく。次回は2020年6〜7月に、施策の効果や起こった変化を測定するための調査項目を設計し、調査を実施する予定である。その後も、「変化を測定し、データに基づいて仮説検証をし、議論する」サイクルを繰り返していくという。
「このプロジェクト自体が、“柔軟な頭で気軽に実験してみる”チャレンジです。メンバー自体が楽しみながら続けていきたい」と、坂本さんは意欲的だ。
宍戸さんは、成果が出るには時間がかかるので、1年後に再調査というのは珍しいが、同社の場合、何割の人に変化の兆候がみられるかによって、次の打ち手を考えるスタイルなので、むしろ早めに調査、分析、議論を繰り返すことが望ましいという。
「よりよくなるなら、施策や体制などをすぐに変えていこうと決めています。そして、これは人事施策ではありますが、経営改革を人と組織の側面から取り組んでいるという認識で進めています。これからも、実態を知るためデータを活用し、よりよい会社になっていくことをめざしたい」
由田さんもそのように話す。
「定量分析をしたうえで、深い対話を重ね、適切なデータの読み方をみつけ出す。そのことで、データは強力な経営ツールになる」と宍戸さんが説くように、データをいかに正しく読み取り、活用していくかが、勝ち残るための1つの鍵となりそうだ。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社アイ・オー・データ機器
本社 石川県金沢市
設立 1976年1月
資本金 35億8,800万円
売上高 592億2,300万円(2019年6月期)
従業員数 483人(2019年6月末現在)
事業内容 デジタル家電周辺機器の開発・製造・販売
URL https://www.iodata.jp/

(右から)
管理本部 管理部 総務課 課長 由田敦士さん
取締役 上席執行役員 管理本部 本部長 加藤啓樹さん
管理本部 管理部 総務課 課長代理 坂本友紀さん
株式会社Consulente HYAKUNEN コンサルタント 上野佐保さん
同社リサーチフェロー/武蔵野大学准教授 宍戸拓人さん


 

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