事例 No.146 PwCあらた監査法人 特集 五感を活かした研修の試み
(企業と人材 2018年6月号)

組織開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

サステナビリティ・サービスチーム独自のイベントとして
「アイマスクをつけて食事をする」研修にトライ

ポイント

(1)サステナビリティ・サービスチームでは、若手2人の提案で、2016年にコミュニケーションの活性化とクリエイティビティに刺激を与えるイベント「DREAMDAY」がスタート。

(2)2018年は、アイマスクをして精進料理を食べる「暗闇ごはん研修」を実施。味覚や嗅覚を研ぎ澄ませてワークに取り組む。

(3)「見えないほうがよくわかる」体験を通じて、先入観や固定観念にとらわれている自分を知る。そうした気づきの共有から、新しいメンバーも含めてチーム内の交流が深まる。

サステナビリティ関連ビジネスの専門家集団

PwC Japanグループは、世界最大級の会計事務所、PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の日本におけるメンバーファームとその関連会社を指す。監査およびアシュアランス(保証)業務のほか、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務、法務と、それぞれ専門業務分野を担当する法人で構成され、有機的に協働してクライアントのニーズに応えている。
今回、取材にうかがったのは、グループの中核であるPwCあらた有限責任監査法人のサステナビリティ・サービスチーム(以下、単に「チーム」)だ。チームは、長期的な企業価値を向上させるためのサステナビリティやCSRを踏まえた専門性の高いコンサルティングサービスを、さまざまな企業に提供している。
同チームのマネジャー石川剛士さんは、チームが行っている業務について次のように説明する。
「企業の戦略とサステナビリティを考えた活動を、どうマッチさせるか、それがわれわれのミッションです。たとえば、新興国に進出する日本企業に対して、現地で持続的にビジネスをするためのサポートをしたり、再生可能エネルギーファンドの組成、評価などのサービスを提供しています」
その際、必要に応じて、ほかのチームやグループ内他法人と一緒に仕事をすることもある。各人が「やりたい」、「必要だ」と思えば、自分で一緒に組みたい相手と交渉してプロジェクトを立ち上げ、クライアントにベストな方法を探っていくというワークスタイルだ。だれとどのように仕事をするかは、基本的には各人の裁量に任されているという。一人ひとりの専門性を最大限活かすためにそうした手法をとっているわけだが、反面、ほかの人がどんな業務をしているかがわかりづらい面もある。
そうした組織的な特徴から、石川さんは「チーム内のコミュニケーションをいかに促進するか」に課題意識をもっており、グループ全体で実施されている「アウティング」という制度を利用し、さまざまなイベントを企画・実施してきた。アウティングとは、監査法人のプロフェッショナルを対象に、各部門・各チーム内のコミュニケーションの向上を目的としたもので、社外でのアクティビティに対し、一定の枠で費用が補助される制度で、具体的な活動内容は各チームに任されている。

コミュニケーション活性化とクリエティビティのためのイベントをスタート

前述のとおり、それまでは、石川さんがアウティングの企画をしてきたが、2016年から、同チームアソシエイトの羽鳥徳郎さんと木川菜都子さんが提案して、「DREAMDAY」と名づけられたイベントをスタートさせた。具体的な内容についても、2人が中心になってアイデアを練っている。
木川さんは、DREAMDAYのねらいをこう説明する。
「サステナビリティ関連のコンサルティングサービスを、企業に提供していくなかでは、新しいビジネスアイデアを創出していくことが求められます。ロジックだけでなく、クリエイティビティを活かして新しいビジネス機会を生み出していきたい。けれども、目の前の業務に追われて、なかなかそういうことを考えたり、話したりできていない現状もあります。DREAMDAYはそうした問題意識から、“新しいことを創出するカルチャーの醸成”をめざして企画しました」
その具体策の枠組みとしては、(1)アイデアや情報を共有できる場の創造、(2)創造力を湧き上がらせる職場環境づくり、(3)アイデアのタネとなる新しい知識・情報への露出、の3つを掲げている。
たとえば、 (2)創造力を湧き上がらせる職場環境づくりとしては、昨年の新オフィスへの移転に伴い、ハード面・ソフト面について、クリエイティビティおよび作業効率向上のためにはどんな職場環境がよいのかを提言した。
また、(3)アイデアのタネとなる新しい知識・情報への露出に関して、昨年は「ドローン大学校」を受講した。そこで、ドローンの安全な運航に必要な知識と操縦技術を修得し、実際の業務においてもその経験が活かされたという。
ちなみに一昨年は、チームビルディングに重きを置き、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、DID)を体験したという。
木川さんと羽鳥さんは、口コミやネットなどさまざまな媒体から情報を得て、予算やスケジュールをにらみつつ内容を検討していくが、石川さんが強調するのは「コミュニケーションが図れるイベントが重要」ということだ。
「その過程で、たとえば趣味が一緒の小さなコミュニティが生まれてくれば、そこから結果的にビジネスアイデアも湧いてくると思っています。チーム内のスタッフが仲良くなることが第一の目的。毎年、新しく入ってくる人も何人かいるのですが、このイベントが親しくなれるきっかけにもなっています」(石川さん)
羽鳥さんも「チームの性質上、ふだんは専門に分かれて業務をしています。もちろん知識として共有されていることもありますが、イベントでコミュニケーションをとって、はじめて知ることもたくさんあります」と、DREAMDAYが絶好のコミュニケーションツールになっている様子を語る。

アイマスクをつけて料理に向き合う暗闇ごはん研修

そうした背景のもと、3年目のイベントとして、2018年3月上旬に行われたのが、「暗闇ごはん研修」だ。その名のとおり、目の見えない状態で食事をしながら、味覚や嗅覚、触覚を使ってさまざまなワークを行う研修である。
羽鳥さんと木川さんが、研修を行っている株式会社なか道・代表の青江覚峰さんに伝えたのは、日にちと人数、そして「コミュニケーション促進とクリエイティビティを磨くこと」という2つの目的だけ。「自分たちも、当日、新鮮な体験をしたい」と、打ち合わせはとくに行わなかったという。なお、青江さんは、緑泉寺というお寺の住職でもあり、研修もそのお寺のなかで行われる。
では、当日の流れを紹介しよう(図表)。今回の参加者は、チームのスタッフ約30人中、20人ほどであった。今年の1月、2月に入社した新しいメンバーや、インターンの外国人留学生も参加した。そもそもDREAMDAYは、立場や職歴に関係なく、全スタッフに参加を呼びかけているものだが、出張と重なるなど、どうしても仕事の都合で参加できない人も出てきてしまうため、このような人数となった。
当日は昼過ぎに会社を出て、実施会場である浅草・緑泉寺へ。研修スタートは午後2時半である。

図表 暗闇ごはん研修のタイムスケジュール

図表 暗闇ごはん研修のタイムスケジュール

まずは1階の控え室でアンケート調査に答え、イベント参加時の注意点など簡単な説明を受ける。その後、全員アイマスクを着用し、完全に視覚を遮断された状態で、階段を使って、数人ずつ2階のごはん会場へ向かう。席はとくに決まっておらず、会場に入った順に向かい合わせに着席する。
料理を食べる前にアイスブレークとして行われたのは、自分の前に座る人との暗闇ジャンケンだ。とはいっても、相手が何を出したか見えないので、右手でジャンケンをして、そのまま左手で相手の手を触り、相手が何を出したかを発見して、勝ち負けを確かめる。同じチームの同僚であっても、ふだんは手を触る場面は滅多にないだろう。照れや違和感などなかったのだろうか。
「住職の促し方が上手だったこともあり、違和感なくすっとできました」と石川さん。羽鳥さんも「触ると距離が近くなると感じました」という。
次は、これもアイマスクをつけたままでの1分間スピーチ。テーマは「学生時代の取り組み」だった。
「同じ1分でも、長く感じた人と短く感じた人がいました。住職からも、目を閉じていると時間の感覚もいつもと違う、というお話がありました」(羽鳥さん)
このあと、精進料理が1品ずつ提供され、食べるごとに、その料理が何を表しているか、食材は何かといった問いかけや説明が行われていく。そのような進行でアイマスクをしたまま8品ほど提供され、さらにアイマスクを外して1、2品を食して終了となる。所要時間は2時間半ほどだ。
なお、研修のあとは、場所を変えてチームの懇親会が行われ、珍しくほぼ全員が2次会に行くほど盛り上がったということだ。

▲触って確かめる暗闇ジャンケン(写真提供:なか道)

▲触って確かめる暗闇ジャンケン(写真提供:なか道)

▲食事中の様子(写真提供:PwC あらた監査法人)

▲食事中の様子(写真提供:PwC あらた監査法人)

先入観にとらわれないことの大切さに気づく

「とくに面白かったのは、豆のお料理です」と、木川さんは印象に残ったシーンをあげる。食べる前に「豆がいくつ入っているか、数えながら食べる」という課題が出され、向かい合わせになった人と組になって、正解を発表するというものだ。
「2人の答えが違う場合、どちらかを代表として発表するということになるわけですが、自分の主張を曲げない人、他の人の意見を尊重する人に分かれました。日ごろのコミュニケーションスタイルや性格が、暗闇のなかでいっそう顕著に出たと感じて面白かった」(木川さん)
「1つのお皿にインサイトが詰まっていました」と、羽鳥さんがあげたのは、「ナスの煮物」だ。
「一皿にナスの煮物が3種盛られていて、見えない状態で1つずつ食べてみて、同じ食感だけれども味が違うと感じました。しかし、じつは味付けは3つとも同じ。しかも、3つめに食べたのはナスのへたの部分でした。まさかふだんは捨ててしまう部分を食べていたとは思いもよらず……。つまり、不要だと思い込んでいるものも、料理の仕方次第でおいしく食べられるわけです。固定概念にとらわれてはいけないと、あらためて気づきを得ました」(羽鳥さん)
羽鳥さんは、トマトでつくられているのに、見た目が透明なスープについても、「食べている最中は見えないので、驚きはないのですが、終了後にタネ明かしをされて驚きました。そうした時間差攻撃も面白かった」と感想を語る。
木川さんも、「いかにふだん、既成概念や先入観をもって生活しているかを教えられました。先入観にとらわれるなということは、ビジネスでも重要なこと。課題を前にしたとき、立ち戻ってゼロから解決策を考える良いトレーニングになりました」と満足そうだ。
石川さんは、「見えないからこそ、味覚、嗅覚などの感覚が研ぎ澄まされていたと思います」と話す。そして、このイベントの手応えを次のように語る。
「イベント前は、真っ暗ななかでどうやって食べるのだろうと不思議に思っていましたが、料理を運んでくる人の気配、空気の流れを感じましたし、視覚がないので、聞こえるもの、人の話を一生懸命聞こうとするようになりました。そしてなにより、そのあとの懇親会にほぼ全員が参加し、とても盛り上がったのがうれしかったですね。ねらいは達成できたと思っています」

ほかのチームにも伝えたい、参加率向上が来年の課題

青江さんから「すごくよくしゃべるチームですね」と驚かれたほど、参加者は皆、食べてすぐに感想を言い合っていたという。3人とも、「あらためて、このチームは物事に対する興味が強い人が多いなと感じた」と口を揃える。それは、「ふだんからフィードバックをすることや、他人に間違いを指摘されることへの恐怖心がない」(羽鳥さん)、「業務上もフラットで、下の人だからできないということはなく、自由にやりたいことを提案できる」(石川さん)ことが土壌としてあるためだそうだ。
「社内では常に“speakup”ということがいわれ、自分の意見を自由に話そう、声をあげよう、という風土があります。そうしたカルチャーがあるので、暗闇状態のなかでも自由に話し合えたのだと思います」(羽鳥さん)
参加者からも、「1品1品にトリックがあって面白かった」、「次は何が出てくるのかとワクワクした」と好評で、「2年前に体験したDIDとはまた違う気づきを得た」という感想もあったという。
木川さんは、2つの暗闇体験に共通しているのは、コミュニケーションの仕方をあらためて考えるということ、としたうえで、「暗闇ごはん研修では、既成概念や先入観にとらわれないようにという点が意識されたと感じます」と話す。
羽鳥さんはそれぞれの気づきを次のように述べる。
「DIDの暗闇体験では、未知のことに対してどう動くのか、暗闇のなかで相手に何かを伝えるときにはどうしたらいいのかを考えさせられました。一方、暗闇ごはんは、自分のもっている概念を問うもの、自分の感覚を確認するものだと感じました」
石川さんは「こうした気づきにつながる体験を、グループ内のほかのチームにも知ってもらいたい」と、グループ内への広がりを期待する。社内SNSへの投稿などはしているが、もっとしっかり伝えられないか、検討中だという。
また、タイミングによっては参加できない人もいるので、チーム全員参加に近い参加率になるような工夫をすることも課題だ。多忙な人の繁忙期がわかれば、参加しやすい日が設定できる」と改善を計画中だ。

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チームで非日常の体験をすることによって共通の話題ができ、新しく加わったスタッフも含めて、コミュニケーションが円滑になる。それが、新しいアイデアを生み出したり、チーム内のつながりを豊かにしていくことにもなっている。
サステナビリティ・サービスチームでは、今後も感性を刺激するさまざまな体験型研修に取り組んでいく予定である。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 PwCあらた有限責任監査法人
本社 東京都千代田区(主たる事務所)
設立 2006年6月
資本金 10億円(2017年7月1日現在)
売上高 42,321百万円(2017年6月期)
人員数 2,858人(2017年6月30日現在)
事業案内 アシュアランス(財務諸表監査、内部統制監査、その他の証明業務)、財務報告アドバイザサステナビリティ・サステナビリティ・サステナビリティ・リー、リスク・アシュアランスなど
URL https://www.pwc.com/jp/assurance/

(左)
サステナビリティ・
サービス チーム
アソシエイト
羽鳥徳郎さん

(中央)
サステナビリティ・
サービス チーム
アソシエイト
木川菜都子さん

(右)
サステナビリティ・
サービス チーム
マネージャー
石川剛士さん


 

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