事例 No.138 さくらインターネット 特集 根づかせる! 研修の内製
(企業と人材 2018年4月号)

組織開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

社内のニーズを踏まえ、半年かけて社内講師を育成する
「寺子屋プロジェクト」で教え合う組織風土を醸成

ポイント

(1)人材育成の基本方針は「“やりたいこと”を“できる”に変える」。上司との1on1ミーティングなどを通じて、一人ひとりがやりたいと思っていることをサポート。

(2)多種多様な業務、人員構成をふまえ、お互いに教え合う組織風土をめざし、研修の内製化をスタートさせる。

(3)アンケートでリサーチした「教えてほしい事柄」をもとに、講師を公募。立候補した社員は、半年かけて講義のためのスキルを高める。

上司と部下のパートナーシップを重視

さくらインターネット株式会社は、レンタルサーバー事業、データセンター事業などを展開している企業である。同社のデータセンターは北海道、大阪、東京に計5カ所あるが、とくに北海道・石狩のデータセンターは寒冷地に建設することで、サーバーを冷却するための電力の大幅削減に成功したことでも話題になっている。
また、そのほかにも近年はIoTに関する事業を展開しており、昨年は通信環境やデータの保存、連携処理に必要なシステムを一体で提供するIoTのプラットフォームサービスなども開始した。これはオープンなインターネットを介さず、閉域網と呼ばれる閉ざされたネットワークを利用することで高いセキュリティ機能をもたせているのが特徴だ。

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同社の従業員数は約450人で、男女比は男性8割に対し女性2割。また、従業員の9割はエンジニアだが、前述のように幅広く事業を展開しているため、新しいインターネットサービスの開発、クライアントのデータ管理、ホームページの作成など、業務は多岐にわたる。そのため、求められるスキルや経験も人によってかなり違うという。
人材育成の基本方針は「“やりたいこと”を“できる”に変える」。これは、同社の事業を表すキャッチコピーでもある。顧客の「やりたいこと」を、インターネット技術でサポートして「できる」に変えるという意味だ。
社員に対しても同じで、一人ひとりがやりたいと思っていることを実現させるためのサポートは惜しまない、というのが人材育成の基本的な考え方だ。そのために、上司と部下のパートナーシップを重視していると管理本部人事部の金山早希さんは話す。
「1on1ミーティングを月1回は行うように推奨しています。上司と部下が1対1で話し、上司は部下のやりたいことの実現に向けて、たとえば、次のプロジェクトではこんなことをやってみようかというように提案しています」

自社の特徴を踏まえた結果研修内製化を図る

では、人材の育成にあたり、同社ではどのような研修を行っているのだろうか。
これまで、同社では新入社員の研修や昇格時の研修などは行うものの、階層別研修などは行わず、そのときどきに重要と位置づけた育成テーマに基づき、階層などに関係なく必要なスキルを身につける形を取ってきた。
「業界のトレンドや会社の方向性が早いスピードで変わるため、毎年、同じ研修を実施するということが、なかなかできません。その年ごとの重点育成テーマに応じて、都度効果が期待できそうなものを企画・実施しています」
たとえば近年では、対話力向上を目的としたコーチング研修や、計数感覚を磨くための経営シミュレーション研修などを実施してきたそうだ。
そうした経緯をふまえて、現在、取り組んでいるのが、研修の内製化だ。2015年10月にスタートした「寺子屋プロジェクト」である。
じつは、階層別研修を実施していない背景として、中途採用が多いという事情もある。これも内製化に取り組む理由の1つだ。
「社員の約9割が中途採用です。そのため、それぞれバックボーンが違い、スキルもさまざまです。たとえば、同じシステム開発担当者でも、大企業にいてアルゴリズムの基本から学んできた人もいれば、4人くらいの小さな会社でいきなりプログラムを書くところから始めたという人もいるので、前提となる知識がバラバラなんです。
年齢層も広く、高校を卒業してすぐに入社してくる人もいれば、定年後の再雇用で働いている人もいます。そのため、階層別研修をやろうとしても、研修対象者をここからここまでと、勤続年数などで切り分けられないのです」
金山さん自身も中途で入社している。前職では研修開発や人材コンサルティングを担当していただけに、階層別研修がないことに驚いたという。
こういった環境下にある同社において、どのような研修をすればいいのか――。悩み、考えた末に辿り着いたのが、社員が社員に聞く、つまり研修の内製化だった。
より活躍するためにどのようなスキルが必要なのかは、現場の人たちに教えてもらったほうが、話が早い。また、確実に業務に役立つ情報が得られる。
しかも、同社には外部研修やIT関連のイベントなどで講師を務める従業員が数多くいる。それなら研修の内製化も可能ではないか。それに内製化すれば、そのときどきのニーズに合わせて内容を改定することも比較的容易にできる……と考えたのだ。
加えて、内製化にはさまざまなメリットが考えられる。「外部研修に比べて心理的に参加しやすい」、「経費の面での負担も減る」、といった実利的な面ももちろんだが、教わる側の社員の成長だけではなく、教える側の社員の成長や社内風土の変化も期待できる。
風土の変化で期待できるのが、1つには社内のコミュニケーションやお互いの仕事への理解がいま以上に活発になることだ。たとえば、開発部門と経理部門では、日ごろほとんど接点がない。開発部門にとっては経理部門は「月末に書類を出せとうるさいことを言ってくる部署」程度の認識かもしれないが、経理部門の社員が経理に関する内製研修を行えば、決算とはこういうもので、毎月こういう処理をしているといった、経理の仕事に対する理解が深まる。また、人と人としての交流が深まることも期待できる。
さらには、社員が講師として教えている姿を見ることで、自分も同じように人に教えられるようになりたいという意識も芽生えることだろう。そう感じる従業員が増えれば、お互いに教え合う風土が醸成される。

アンケートでニーズを探り、社内のニーズを調査

こうしてはじめた内製化だが、最初のステップとして、まず社内アンケートを実施した。
「アンケートは、何を学びたいと思うか、社内講師に何を求めているのかを明らかにすることがメインの目的でした。同時に、講師になり得る人をみつけるという目的も兼ねていたんです」
回答をみると、「受講者が少なく講師がつらい思いをするのではないか」、「業務に役立つとは思えない」、「シフト制の勤務では受講できない」、「自分には講師は無理だと思う」といった反対意見もみられたが、「挑戦してみたい」という賛成意見も多かった。
また、「外部研修に比べて気軽に参加しやすい」という意見もあった。外部研修は、いまの業務にすぐに役立つものでなければ、上司に言い出しにくい。
しかし、内部研修であれば、すぐに役立たなくても、気軽に言えそうだというのである。まさに内製化導入のねらいどおりである。
アンケート結果に手応えを感じた金山さんが次に行ったのが、社内講師の募集だ。アンケートで明らかになった、教えてほしい分野や事柄を公開し、自分だったら教えられると思う人に手をあげてもらったのである(図表1)。

図表1 社内アンケートとそれを踏まえた社内講師の募集要項

図表1 社内アンケートとそれを踏まえた社内講師の募集要項

ちなみに、教えてほしい分野・事柄としては、ビジネススキルに関するものと、自社のサービス内容に関するものが多かったという。
「技術に関するものもありました。ただ、専門的なものより、エンジニアの仕事を知りたい、データセンターの設備について知りたいなど、エンジニアではない人たちからの概論的なものを学びたいという意見が多く寄せられました」
逆にエンジニアの人たちからは、経理などふだん接点のない部署の仕事を知りたいという声も寄せられたという。
公募の結果、最終的に講師に応募してくれたのは13人。彼らが1期目の講師となった。

半年かけて徹底したスキル磨き

とはいえ、「では明日から講義をお願いします」というわけにはいかない。準備期間が必要だ。寺子屋プロジェクトでは、10月から半年間みっちりと時間をかけて、講師としてのスキルを学ぶ。
まずは、講師立候補者を対象に、「寺子屋ブートキャンプ」と呼ばれる集合研修を行った。ここでは講師養成を専門にしている外部のコンサルタントにも協力してもらい、カリキュラムの作り方や講師に必要なスキルなどを学ぶ。
たとえば、テキストの作り方や時間配分、講義の際にどのように話すのか、といった内容だ。
その後、講師候補は、各自カリキュラムや講義で使用するツール、テキストなどの作成に取り掛かる(図表2)。普段は経理の事務をしていたり、プログラムを組んでいて、人を集めて講義をするなんてしたこともないという人が、資料を一から作るのはなかなかにハードだ。

図表2 講師候補が作成するカリキュラムやツールの例

図表2 講師候補が作成するカリキュラムやツールの例

▲左はプログラムの概要。これに加え、「オープニングとしてアイスブレイクなどで5分」など、当日の内容や時間配分についても詳細 を固める。右の写真は、同じく研修で使うツール。「暗号の鍵」を具体的な形で表現することで、イメージしやすくしている

内容が固まったところで、レビューを受け、講義内容について精査されることになる。たとえば、特定のプログラミングに関する講義であれば、そのプログラミングに詳しい人と、あまり詳しくない人、そして金山さんや外部のコンサルタントなど研修の専門家がチェックし、アドバイスする。
この結果に基づき、カリキュラムや講義ツールに修正を加えることになるが、12月に「プレカリキュラムレビュー」、1月に「カリキュラムレビュー」の2つのレビューを経ることになる。
これらをクリアすると、次は「社内ファシリテーションレビュー」に入る。ここでは作成したツールなどを利用し、実際にどのように講義をするのか、その様子を審査される。ビデオに録画して、目線が泳いでいないかなどを、講師候補同士でもチェックするのだ。これが1月下旬である。
そして、2月末に最終審査となる「カリキュラムレビュー」に進む。これにパスすると、晴れて4月から講師デビューということになる(図表3)。なお、審査に落ちた場合は、ここまでの努力を無駄にしないためにも、認定されるまでレビューを行う。

図表3 研修までに講師が学ぶプロセス

図表3 研修までに講師が学ぶプロセス

「カリキュラムなどについては失格となった人はいませんでしたが、プレゼンテーションの部分で、もう少し練習したほうがいい、といった評価を下したことはありました。しかし、実際の業務に役立つスキルであり、候補者の意欲も高いので、再挑戦するのが自然な流れになっています」
ちなみに、第1期の講師候補は全員1回でパスしたそうだ。
この半年間の準備についてはは、仕事が終わってから、あるいは仕事の合間に行ってもらう。
「基本的には業務時間外に行ってもらうというルールにしていますが、仕事と関連する内容の場合は、上司の許可を得て仕事中に準備するケースもあります。この辺りのさじ加減は現場に任せましたが、候補者の上司には、社長から部下が挑戦しようする思いを汲んでほしいというメッセージを出してもらい、理解を促しています」
取材時は3期目の募集を終え、レビューの最中。講師は23人になっていた。部署も年齢もさまざまだが、モチベーションが高い点は共通しているという。
ちなみに講師になったからといって手当などは出ず、直接的には評価の対象にならない。
「そのことに了承していただけることを前提として募集しました。ただ、講師になれば確実にプレゼンテーション能力は向上しますし、カリキュラムをまとめる過程で自分の知識も整理することができます。講師になりたいと手をあげてくれたのは、やはり自分の成長につなげたいという気持ちが強い人たちでした」

お互いに教え合う組織風土を醸成

では、実際の講義はどのように運営されているのだろうか。
講師は必ず半年に1回、年間では2回講義を行うことが義務づけられる。もちろんスケジュールが許せば、何回開催してもいい。
「他拠点に出張するときに、せっかくだからやろうというリクエストが、講師から出ることもあります。その場合は、私から拠点に確認して実施を決め、運営は拠点に任せています。反対に、ある部署からぜひ受講したいと要望を受けて実施することもあります」
受講希望者が講義に参加する際は、同社のイントラネットで申し込む形を取っている。イントラネットには「受講ガイド」が用意されており、どんな講義をだれが行うのかが告知されている(図表4)。希望者はボタンをクリックするだけで受講可能だ。申し込みは初年度が100件以上。複数の講義を受ける人もあり、社内の評判は上々だった。3年目を迎えても、社内の関心は相変わらず高く、企業風土も変わり始めたという。

図表4 同社内で告知される受講ガイド例

図表4 同社内で告知される受講ガイド例

「受講者のなかから次の年、講師に応募する人も出てきました。講師はちょっと……と尻込みしても、何かを発表することに挑戦したいという社員も増えています。社外にも、もっと積極的に情報を発信していこうという動きが活発化してきました。部門の垣根を越えたコミュニケーションという点でも良い影響が出ています」
お互いに教え合う組織風土は、確実に醸成されつつある。さらに進んで、社内で自然発生的に勉強会が開催されるようになれば、理想的と、金山さんは話す。
「これまでは、何か疑問や問題が発生してもだれに聞けばいいかわからなかったり、よく勉強会を行っている部署もあれば、そうでない部署もあったりと、かなりバラつきがありました。
しかし、寺子屋プロジェクトにより、この分野はこの人が詳しいといった情報が社内に広がり、さらにそこから他の人につながるというように、自然と声を掛け合うようになってきました。寺子屋ほどの規模でなくても、社内にたくさんの勉強会が生まれていけばいいなと思っています」
こうした反応や手応えを受け、同社では今後も「寺子屋プロジェクト」を継続していく予定だ。講師となる社員を増やすと同時に、1人の講師が内容の違う複数の講義を行えるようにもしていきたいと考えている。
もし、現在の研修が思ったほど効果を上げていないと感じたら、他の研修を探すのも手ではあるが、内製化も考えてみてはどうだろうか。

▲研
修の様子。担当業務外の知識を学ぶと同時に、同僚とのコミュニケーションも生まれている
▲研
修の様子。担当業務外の知識を学ぶと同時に、同僚とのコミュニケーションも生まれている

▲研修の様子。担当業務外の知識を学ぶと同時に、同僚とのコミュニケーションも生まれている

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 さくらインターネット株式会社
本社 大阪市北区
設立 1999年8月
資本金 22億円
従業員数 495人(連結)
事業案内 インターネットへの接続サービス、サーバ設置および管理、各種情報提供サービスなど
URL https://www.sakura.ad.jp/

管理本部
人事部
金山早希さん


 

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