事例 No.137 LIFULL 特集 根づかせる! 研修の内製
(企業と人材 2018年4月号)

組織開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

社員が自発的に講師を務める「LIFULL大学」で 主体的に教えたい人と学びたい人がともに成長

ポイント

(1)内発的動機=社員自身が「やりたい」という意思を大切にし、自ら「やりたい」と手をあげた人に対して、より多くの挑戦の機会を提供する。また、「70:20:10の法則」に基づき、経験・実践を第一に人材育成を行う。

(2)社員一人ひとりの能力開発を目的に、企業内大学(LIFULL大学)を設立。選択プログラムでは、講師のほとんどが社員で構成されており、講師を経験することが、社員が学び直す機会になっている。なお、教え方などは社内講師にまかせることで、意欲を高めてもらう。

(3)研修内製化にこだわることなく、必要に応じて外部の研修と使い分けをし、短い時間で最大の効果が得られるよう心がけている。

「内発的動機づけ」を重視挑戦する機会を提供する

株式会社LIFULLは、掲載物件数No.1の不動産・住宅情報サイト「LIFULLHOME’S」の運営などで知られる東証一部上場企業だ。1997年に株式会社ネクストとして設立し、不動産情報サイト「HOME’S」(現「LIFULL HOME’S」)のサービスを開始。その後、業容を拡大するとともに、2017年4月には社名を現在の“LIFULL(ライフル)”へと変更した。

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ちなみに、LIFULLとは“LIFE(暮らし、人生)”と“FULL(満たす)”から生まれた造語で、あらゆる人の暮らしや人生を満たすサービスを届けたいという想いが込められている。この社名が示すように、いまでは子会社も含めて住まい関連以外にもさまざまな事業を手がけており、2025年にはグループ会社100社、海外100カ国への展開もめざしている。
また、LIFULLという社名の発想の源にあるのが、同社の社是である「利他主義」だ。この社是の考え方をもとに、「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」を経営理念として事業活動を行っている。この社是や経営理念について、執行役員人事本部本部長の羽田幸広さんは、こう話す。
「私たちの会社のベースとなっている社是の利他主義とは、他人の利になることを行う、すなわち、自分を中心とした全方位の人にアクションをして相手に笑顔になってもらう。それが自分自身の幸せにもなるので、会社としても社員一人ひとりとしても、そういう行動をしていこうという考え方です。
経営理念は、これを事業に落とし込んだものといえます。常にイノベーティブなことをどんどんやっていき、世界の人たちが幸せになる仕組みを創出する。そのためには、人びとが安心と喜びを得られることが不可欠というわけです。新社名にもあるように、暮らしなどの、人が生まれてから死ぬまでの間になくてはならない事業を展開していきたいと思っています」
一方で人材開発・育成に関しては、まず組織づくりの中心に据えているのが「内発的動機づけ」だ。社員一人ひとりの内側から出てくる、こうありたいという欲求や、これをやりたいという意思を大切にしている。
「会社の理念やビジョンなども明確にしているので、会社のめざす方向と合っている社員を採用するようにしています。その人たちが会社の方向性に対して、内発的動機づけに基づいて挑戦する機会をつくり、どんどん新しいことに取り組んでもらう。それが結果として成長につながっていくというのが、人材開発・育成の基本的な考え方です」

「70:20:10の法則」に基づき経験・実践を第一に育成

同社では、こうした考え方のもと、いかに社員各人のビジョンやキャリアビジョンを実現していくか、というところに力点を置いて、さまざまな育成施策を用意している。
その1つが年2回の「キャリアデザインシート」だ。まずは、本人の内発的動機づけを明確にするために、各人が自身のキャリアビジョンをシートに記入。同時に、そのビジョンを実現するために、そこから逆算して5年後・3年後の姿や、半年後に希望する仕事などを書いてもらう。
また、自身のキャリアビジョンを踏まえて経験したい仕事への異動を申請する「キャリア選択制度」も設けている。年間で社員の約1割が制度に応募し、そのうちの約5~7割は実際に希望に沿った異動を果たしている。
あるいは、新規事業をやりたいという社員(および内定者)には、“Switch”という新規事業提案制度がある。これは、経営人材をつくることを主な目的としたもの。新規事業を提案したい社員が、会社の支援を受けながら、事業プランのつくり方などを学んでプランを磨き、コンテストに参加する。そして、優れたプランとして会社が認め、本人も事業化の意思があれば、原則として子会社で起業できるというものだ。年間100~150件の新規事業提案があり、ここから実際に子会社がいくつも誕生している。
また、エンジニアなどのクリエイターの場合、新しい技術が開発されたときには、その技術や手法に取り組みたいという人もいる。そこで同社では、「クリエイターの日」を設けている。これは新技術に触れたいと希望するクリエイターが、個人またはチームで特設プロジェクトを提案し、承認されたプロジェクトについて4半期のうち7営業日は、自分の業務から完全に離れて合宿形式で研究・開発を行えるという仕組み。年間でみれば、全業務の1割程度は新技術にあてられるわけだ。
人事部が主導するもの以外にも、組織の活性化を図るような全社横断のプロジェクトが動いているのも同社の特色だ。たとえば、前述のクリエイターの日を運営するクリエイターの日実行委員会をはじめ、表彰系のイベントである「クリエイティブ・アワード」の運営、経営理念の浸透を図る「ビジョンプロジェクト」、介護や育児をしながら働く社員が働きやすくするためのプロジェクトなど、有志社員が多数のプロジェクトに携わっている。こうしたプロジェクトについては、社員の挑戦への機会をできるだけ用意しようという観点から、会社としては業務時間内に自由に立ち上げや参画ができるようにしている。
さらに直接業務にかかわる以外の部分では、「OneP’(sワンピース)」という社会貢献活動支援制度もある。社員が特別有給休暇を活用して社会貢献活動に参加することを支援するプログラムで、社員の年間総労働時間の1%、そしてLIFULL単体の前年度税引き後利益の1%を原資とし、活動費用の一部を会社が負担するという仕組みだ。

図表 「70:20:10 の法則」に基づいた育成法

図表 「70:20:10 の法則」に基づいた育成法

羽田さんは人材育成についてよくいわれる、経験70%、薫陶20%、座学(研修)10%の「70:20:10の法則」(図表)をあげて、次のように話す。
「当社で最も大切にしているのは、70%にあたる経験=実践の部分です。基本的には、自分がその業務を実際に手がけることが最も成長につながると思っているので、さまざまな形で挑戦機会を設けて、実践してもらうということを心がけています」
このほか、人材開発に関する会議を半年に1回開催。次世代の経営陣・部長候補などの人材について、階層別に長期的な育成プランを個々に考えて、本人と話し合って希望を聞きながら配置や異動を決めている。

社内大学の講師はほとんどが社員

経験・実践を第一に人材開発・育成を進めている同社だが、教育研修の部分では、“LIFULL大学”という企業内大学を設けている。
LIFULL大学には、「ビジネス」、「営業」、「ものづくり」という3つの学部がある。そして、そのなかにそれぞれ、全社員が必ず受講する「必須プログラム」、経営者育成のための「選抜プログラム」、受講した講座を選べる「選択プログラム」という3つのプログラムが用意されている。
「当社ではだれもが働きたい会社づくりをめざす『日本一働きたい会社プロジェクト』を2008年に行い、そのなかで日本一の教育とは何かを、社員の意見をもらいながらいろいろ話し合いました。
その結果、社会の変化のスピードがどんどん速くなり、かつ複雑な動き方をするようになっているなかでは、画一的な研修では一人ひとりの成長ニーズに応えられないのではないか。会社が提供するプログラムはありつつも、どちらかというと本人がこれを学びたいというものを学べる仕組みが必要ではないか、との声が強いことがわかりました。
そこで2009年に設立したのが、このLIFULL大学なのです」
このような経緯で生まれたこともあり、必須プログラムは必要最低限に絞り、あとは選択プログラムで自ら主体的に学んでもらうというのが基本スタンスだ。
具体的な内容として、必須プログラムでは、クリティカルシンキング、マーケティング、ファシリテーション、マネジメントなど、基本的なフレームワークや社内で共通言語として必要な知識・スキルを学ぶ。
選択プログラムは、社内では「ゼミナール」と呼ばれている。現在、約60の講座があり、半年に1回、20~30講座程度の入れ替えを実施している。内容は、たとえばAWS、ブロックチェーンなどのテクニカルスキル系およびデザイン、営業、マーケティング、ディレクションといったスキル系、不動産業界をはじめとする業界研究系、同社の井上高志社長が塾長を務めるビジネスプランのつくり方などを教える経営塾、マインドフルネスや合気道、ランニングといった心身系など多岐にわたる。
この選択プログラムについては、講師はほぼすべてマネジャーを中心とした社員で構成されているのが大きな特色だ。なお、この選択プログラムは業務や雇用形態に関係なく、どの社員も好きな講座を選んでかまわないという。
選抜プログラムは、「LIFULL WILL」と呼ばれる。次世代経営人材候補を対象にした1年間のプログラムで、社長が講師となり、選抜したメンバーに研修を行う。初回の研修では、選抜メンバーに対して、将来役員になる意思があるかどうかを確認し、ない人にはその段階で帰ってもらう。そして、残ったメンバーに、経営陣が抱えている全社課題について取り組んでもらうといった内容だ。
「前半では、たとえば、これからグループ代表に就任するものとして就任演説を考えてもらい、そこで自分に欠けている部分などの気づきを促したり、経営者やリーダーとしての価値観を学んでもらったりします。
後半は実践編として、会社が抱える経営課題にその人をアサインして、実際にその人に取り組んでもらうわけです。たとえば技術戦略やデータ戦略など、さまざまなテーマで提案してもらい、その提案が課題解決に向けて良い内容だと認められれば、それを実践してもらいます。
じつは、2017年に移転して新しくなったいまのオフィスの構想も、この選抜プログラムから生まれており、『当社らしいオフィス』というテーマで、コンセプトを決める段階から実際に移転プロジェクトを進めるところまで、プログラムの参加者がかかわりました」
この選抜プログラムについては、実際の経営課題に取り組むため、研修期間自体は1年間ながら、3~4年間そのテーマに携わるケースも珍しくないという。

社内講師の経験が学び直す機会になっている

前述のように、研修の内製化が進んでいる同社だが、内製化自体には、それほどこだわっているわけではないと羽田さんはいう。
「人材育成というのは、あくまでも会社が経営理念や事業目標を実現し、社員が成長するために行うものなので、その手法にこだわる必要はないと思います。
教育・研修担当者も、やはり経営者と同じ視座で、会社や社員の幸せを考えて、そもそも研修が必要なのかそうでないのか、必要だとしたらその手法はどうすべきかを判断すべきだと思うのです。
そこで、われわれは研修を行う際に、社員が成長していくうえでいちばん効率的かつ効果の高い方法は何か、を考えて決めています。したがって、内部で行ったほうが速いし効果も見込めるものは内製化しますし、専門的な内容などで外部のプロに入ってもらったほうがいいと判断した場合は外部に依頼する、というのが基本的なスタンスです」
ただ、選択プログラムの場合は、通常の研修というよりも自主的な勉強会に近いこともあり、結果としてほとんどの講師は社員が務めている。
この講師については、「こういう講座を開いてほしい」という社員の声に応えてマネジャーなどが探すパターンと、「こういうことを教えたい」と社員が自ら手をあげるパターンがあり、前者が全体の約7割、後者が約3割となっている。
「もともとわれわれのような業界では、クローズドな勉強会は盛んなので、選択研修については、それをもっとオープンにして、全社でノウハウを共有できるようにしたいという思いもあります。
また、なるべく自発的に『教えたい』とか『学びたい』という気持ちを継続することが、成長につながるいちばんのポイントだと考えているので、研修を行ううえでの形式や教えるスキルなどは、あまり重視していません。
とはいえ、事前に外部の講習を受けたいという人には費用を出す、教科書として本が必要であればそれを提供する、などといった支援はしています」
このような観点から、選択研修の場合は、アンケートを取って講師の社員に結果のフィードバックはするものの、会社から教え方などにあまり細かい注文をつけたりはしない。なるべく講師を務める社員それぞれに任せることで、教える意欲を高める、あるいは損なわないようにするという点に最も配慮している。
ちなみに講師を務める社員は、それによって人事評価がプラスになるなどのメリットはなく、完全なボランティアだ。それにもかかわらず、マネジャーなどから講師を依頼された場合でも、社員は皆快く引き受けているという。
「当社の場合、社是に利他主義を掲げていて、おかげさまでそれが企業文化として定着しているということが大きいと考えています。
業務は忙しいので、おそらく講師を頼まれた社員は、内心負担には感じていると思います。でも、それを口には出さず、仲間のためだから貢献するという姿勢が、自然と身についているのでしょうね」
実際に講師を務めた社員からの反応としては、「学びになった」との声が目立っている。教えるために一生懸命勉強したり、研修内容を整理したりしたことで、自分なりのフレームワークができるなど、人に教えることで自分もさらに学びを深めたというわけである。
そうしたこともあり、1度だけにとどまらず、2度、3度と連続して講師を務めている社員も珍しくない。

▲LIFULL大学で研修を行う様子
▲LIFULL大学で研修を行う様子

▲LIFULL大学で研修を行う様子

必要に応じて外部に研修を委託することも

一方、必須プログラムや選抜プログラムに関しては、選択プログラムとは異なり、内容や形式を事前にしっかりとつくり込んで研修を行っている。ただ、これらに関しても、前述のような方針の下で内製化しているものもある。
一例として、必須プログラムのなかの「ミドル・セッション」と呼ばれる全管理職対象の研修は、井上社長が講師となり、たとえば生産性やモチベーションといったテクニカルな話から価値観についての話まで、その時々で管理職に学んでほしいことを教えるものだ。基本は年間2回で5~6クラス、毎回20~30人程度が参加する。この研修については、羽田さんたち人事と講師となる社長が細部まで事前に話し合い、内容などを固めて研修本番に臨んでいる。
また、研修を外部に依頼する場合も、決して丸投げはしない。
「当社らしさや当社の社員にふさわしい内容という部分は大切にしていますので、外部のプログラムに関しても外部講師の方とお話をして、かなり変形させてカスタマイズすることが多いですね。
たとえば、社外に依頼しているプログラムと内製化しているプログラムがあり、内容がかぶるなど整合性が取れない場合も出てくるので、そんなときは外部の講師とかなり綿密に打ち合わせをして、コンテンツを整えるなどの調整をしてもらうこともよくあります。
社員は、通常の業務も多忙ななかで研修に参加していますから、ダブりがあったりしたら申し訳ないですし、研修の効果が薄くなってはいけないので、そこはなるべく短い時間で最大の効果が得られることを人事としても心がけています」
今後、同社では、研修の成果を業務プロセスのなかで実践していくというスタイルをめざしている。
「今期の人事のテーマは『イノベーション&ウェルビーイング』となっており、たとえばイノベーションについては、仲間同士で知恵を組み合わせることでイノベーションが生み出せるかというところを研修と実践でやっていく。
また、ウェルビーイングについては、まずウェルビーイングに関する外部の専門家やプロフェッショナルを講師に招いて、講演を何度かやってもらい、社員にもウェルビーイングの考え方を理解・浸透させていきたいと考えています」
LIFULLでは、これからも社員の成長を第一に考えて、必要に応じて社内と外部の研修を使い分けながら、研修をより進化させていこうとしている。

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社 LIFULL
本社 東京都千代田区
設立 1997年3月
資本金 39億9,900万円(2017年3月末現在)
売上高 299億2,000万円(2017年3月期)
従業員数 1,140人(2017年3月末現在)
事業案内 不動産情報サービス事業、その他事業
URL https://www.lifull.com/

執行役員
人事本部 本部長
羽田幸広さん


 

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