事例 No.133 理想科学工業 特集 チームビルディングの活かし方
(企業と人材 2018年3月号)

組織開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

チームワークやリーダーシップの大切さを学ぶ
クロスフィールド研修で、意識と行動に変化をもたらす

ポイント

(1)毎年2回、クロスフィールド研修を実施。5人1組のチームで山中を歩き、時間内にターゲットを見つけ出す。2泊3日のなかで2回実施し、最終日の3日目は、グループごとに振り返りをする。

(2)自然のなかで、仕事や境遇の違うメンバー同士で協力しながら課題をこなす。また、チーム内で役割を何度も変えることで、チームワークやリーダーシップの重要性を学ぶ。

(3)クロスフィールド研修を受けることによって、意見を言う勇気をもつことやチャレンジする大切さを実感。また、問題を一人で抱え込まず先輩に相談するようになるなど、受講生の意識と行動に変化が表れる。

自ら考えて行動し、積極的に挑戦する人材へ

「世界に類のないものを創る」を開発ポリシーに、印刷機器メーカーとして独創的なものづくりを進める理想科学工業株式会社。戦後間もない1946年に、謄写印刷(ガリ版)業を営む「理想社」として創業した。社名には、焼け野原で人びとが落ち込んでいるなかにあって、「理想を失ってはいけない。どんなときでも理想を貫いていこう」という創業者の思いが込められている。
1954年には、輸入品頼みだったインクを安定的に供給しようと、国産初のエマルジョンインク(水分と油分で構成されるインク)を開発。これを機にインクメーカーへと歩み出す。1977年に空前のブームとなった家庭用簡易孔版印刷機「プリントゴッコ」を、1980年には自動孔版印刷機「リソグラフ」を誕生させ、2003年には、世界最速で低コストのインクジェットカラープリンター「オルフィス」を発売。培った技術を融合させて画期的な商品を次々に生み出してきた。
現在、同社の商品は国内だけでなく、世界180以上の国や地域の教育機関や官公庁、企業などで活用されている。
コーポレート本部人事部長の船木正和さんは、同社の特徴について次のように話す。
「大手がすでに手がけているモノをつくるのではなく、オリジナリティがありユニークな製品を開発していくのが当社の姿勢です。そこに共感をもって働く社員が多いのです」
そんな同社が求める人材像とは、「理想を追求し続けて実現することができる人材」である。船木さんは、「自由な風土で積極的に挑戦する人材を育てていきたい」と話す。
新入社員は毎年約50人を採用、中途入社は20人ほどで、社員数は約1,700人。国内2社のほか、海外26社の子会社を合わせると、約3,600人に及ぶ。
社員にさまざまな経験を積んでもらおうと、部署間の異動も多く、技術者として入社しても、数年後に本社の管理部門や営業部門に異動となることもある。船木さん自身も、営業、総務、広報などを経て、2年前に人事部長に就任した。
「当社では、皆がどの仕事も理解できるようにしよう、という中小企業的な風土があります。そうしたなか、異動することによって1つの部署に長くいるよりも視野が広がり、また製品のことだけでなく会社全体のことを知ることができるのです」
このほか、教育研修にも注力している。市場がグローバル化し、競争が激化するなかで「世界に類のないものを創り、新しい市場を生み出す」ためには、自ら考え行動できなくてはならず、そのためのスキルやマインドを、研修によって鍛えるのだ。
同社では、入社3年目までの間に継続的に研修を実施するほか、ロジカルシンキングやファシリテーション、グローバル研修などを行っている。なかでも、「自ら考えて行動し、積極的に挑戦する人材」を育成する名物研修として25年以上の歴史があるのが、今回紹介する「野外研修」である。

クロスフィールド研修でチームワーク等の重要性学ぶ

同社の野外研修は、「クロスフィールド研修」と呼ばれている。これは株式会社ブレーン・ダイナミックスが提供するもので、限られた道具を使って山中に設置されているターゲットを見つけ出し、時間内にどれだけ高い得点をあげられるかを競うプログラムだ。
この研修の目的は、日常の業務から離れ、自然に囲まれたフィールドに出て、仕事や境遇が違うメンバーと協力しながら、チームワークやリーダーシップの重要性を学ぶこと。さらにいえば、チームとして組織運営をしていくうえで、それぞれが必ず役割を果たすこと。そして、チーム対抗のため勝利しなくてはならないことである。
同社で本研修をスタートしたのは、1992年の新入社員集合研修のときで、当初は1泊2日で実施した。現在は2泊3日になり、受講対象者も「全国の管理職になる一歩手前の等級に昇格した社員」とされ、入社10年前後の社員が多い。該当者は全員受講することとなっている。毎年5月と11月に行い、各回25人なので、年間受講生は50人となる。

▲クロスフィールド研修で、山中を歩く受講生たち
▲クロスフィールド研修で、山中を歩く受講生たち

▲クロスフィールド研修で、山中を歩く受講生たち

新入社員向けにスタートした研修が、管理職一歩手前の等級を対象とするようになった背景について、コーポレート本部人事部人材教育課長の谷萩正晴さんは、次のように説明する。
「クロスフィールド研修は、体力、知力を使いつつさまざまな作業をこなすため、社員にとって得るものが大きい研修です。
最初に新入社員研修に取り入れてみたら好評で、新入社員だけではもったいないとの声が出たため、すぐに20代後半の社員を対象に実施しました。これも手応えがあり、翌年には管理職向けに行うなどして、対象を広げていきました。
そして、ある程度の人数が経験した段階で、現在の層を対象にすることになったのです」
本研修の評判がよく、それを聞きつけた管理職らが「自分たちにもやらせてほしい」と希望してきたため、管理職にも実施することになったそうだ。
現在は、定年近い社員まで全社員の約7割が経験しており、世代を超えた話題となっている。

研修でのプロセスは「仕事そのもの」

「野外の研修というと根性が必要なイメージがありますが、実際には、ロジック思考が重要視される研修です」と、船木さんはクロスフィールド研修の特徴をあげる。
詳細な内容を紹介したいところだが、じつは、この研修内容について体験者は「口外してはいけない」のが決まりだ。もちろん、受講生同士で内容について話すことは許されているが、未経験の社員に話してしまうと、対策を立てられてしまいかねず、それでは研修成果が十分に得られないからだ。事前情報がなく、当日にミッションを知らされてから取り組むことに意義があるという。
したがって、本誌では、差し障りのない部分のみ紹介することにしたい。さっそく、クロスフィールド研修の全体的な流れをみていこう(図表1)。

図表1 クロスフィールド研修のスケジュール

図表1 クロスフィールド研修のスケジュール

開催場所は、過去には勝浦、鹿島、八ヶ岳、秩父などで実施したこともあったが、近年は箱根で定着。ここに、全国各地から受講生が集まってくる。
まず、初日は午前中にチーム分けを発表し、各5人ずつ5チームに分ける。1チームのメンバー構成は、部門も年齢もタイプもばらばらで、なるべく多様な顔ぶれになるように工夫している。このメンバーは、3日間変わらない。
その後、基礎的なレクチャーを行ってから、すべてのチームに同じ課題を出題する(例:山中に仕掛けられているターゲットの場所は、〇〇から南へ〇メートル、など)。それを基に、チームメンバー同士で地図上にターゲットをプロットし、作戦を練るのだ。
午後からは、2時間のショートコースとして山中を歩く。各ポイントには記号が書かれたプレートが設置されているので、その記号をメモする。ただし、近くにはダミーの記号がいくつも存在するため、そのなかから正解の記号(ターゲット)をみつけなければならない。
「最初は、多くの人が簡単にできるだろう、と軽くみています。しかし、実際にやってみると、うまくいかないことがほとんどです。役割分担ができておらず、手の空いた人が出てしまったり、時間どおりに進まなかったり、リーダーが指示できていなかったり、思わぬ状況に戸惑う受講生が多く出ます」(谷萩さん)
山から戻ってきたあとは、なぜ計画どおりにできなかったのか、チームごとに振り返りをする。そして、その日の課題の解答や解説を受け、あらためて時間配分など作戦を練る。
さらに、その作戦が成功するには、一人ひとりが何をすべきか、どう攻めていくかを考える。その過程で、日ごろの自分自身の思考や行動特性を自覚し、さらに自己変革について考察することになる。こうして、自分とチームがめざす姿を再確認し、翌日に備えるのだ。
2日目は、午前中に各チームでアタックするルートなどを最終確認し、午後に山中へ向かう。この日は4時間のロングコースで、17時前に戻ることが原則だ。
戻ってきてからは、良かった点、悪かった点などをチームごとに話し合い、その後、正解の記号および順位が発表される。
3日目はグループ討議が中心だ。チームごとに分かれ、研修の総括としてチームの振り返りを行うほか、自分はどうだったか、客観的に自分の強みや弱みは何かを内省し、チームメンバーからフィードバックを受ける。
「他者評価により、自分の知らなかった強み、弱みがわかります」と船木さんがいうように、自己変革を促すよいきっかけとなっている。
なお、本研修では、チーム内の役割分担を何度も変えるため、どのメンバーもリーダーシップとフォロワーシップの大切さを実感できるようになっている。
「5人が連携しないと的確に動けませんし、リーダーがしっかりリーダーシップをとらないと、チームが動きません。山中に設置された正解の記号にたどり着くには、仲間でアイデアを出し合うのはもちろん、さまざまな選択と決断を迫られます。
また、中途採用の50歳社員がメンバーだったり、体力差があったりするので、当日はそれぞれのチームで行動力に違いが出てきます」(船木さん)
チームの行動がバラエティに富むなかで、個人の思考や行動力なども透けてみえてくる。そして、この過程こそが「仕事そのもの」だという。
「クロスフィールド研修で起こるさまざまな問題や決断、判断は、実際の仕事に置き換えると日常的にあることなのです。
たとえば、納期が決まっていてやるべきことも決まっているのに、トラブルが起きて間に合いそうもない。では、どのように解決していけばよいか。そんな仕事につながるような課題設定がいくつも仕掛けてあるのです」(船木さん)

意見を言う勇気をもち、チャレンジする大切さを知る

では研修後、受講生にどのような変化が生じるのだろうか。船木さんは、「自分の意見を積極的にいえるようになっていく」ことを第一にあげる。
「山中ではさまざまな難問にぶつかります。そこで1人が『これが正解だ』といっても、逆に『それは違うのでは』と思う人もいます。けれども、そこで何も言い出さず、結果が出せなかった場合、『あのとき意見を言えばよかった。そうすれば、別のアプローチで検証して正解が導き出せたかもしれない』と悔しがることになります。
この研修でそうした思いを実体験することで、じつはいままでとは違うアプローチをしてもいいし、そのほうが優れている場合もある、ということに気づきます。
そして、仕事でもこうした思考を発揮できるようになります」
さらに、リーダーシップのあり方についても、気づきが得られているという。
「自分がリーダーになったとき、メンバーの意見をきちんと聞くことができなかった、と反省する人も多いようです。
自分でなんでも決めることがリーダーシップだと思い込みがちですが、そうではなく、皆の意見を聞き、違う意見が出たらそれも試してみるべきだったということに気づきます。それは、仕事においても同じです」(船木さん)
谷萩さんは、「この研修があったから自分を変えられた、と実感しています」と自らの体験を話す。
「研修を受けた当時、国内営業部だった私は、なかなか結果を出せずに悩んでいました。しかし、研修で結果をしっかりと出せたことで、仕事への取り組み姿勢が変わりました」
研修でチャレンジする大切さを実感したことで、何事にもトライしてみようと考えるようになった。また、困難なことがあったら1人で抱え込まずに上司や先輩に相談するなど、意識と行動に変化が表れたそうだ。
「クロスフィールド研修には時間の制限があるので、『あそこでチャレンジしておけば勝てたのに』という結果で終われば、悔しさが残ります。その悔しさを味わうと、『一度はトライしておく』大切さが身にしみます。
その背景には、『勝ちたい』という気持ちがあります。勝つということに徹底的にこだわるようになることも、この研修の良さです」(船木さん)。
他者からいわれたことを、ふだんの仕事のときに思い出す社員もいるという。
「さまざまな研修を実施していますが、社員が本当に理解してくれているのか、仕事に活かされているかは、なかなかみえにくいものです。
しかしこの研修は、山を歩いたという実体験を伴うので、何年経っても受講生の記憶にしっかりと残り、学んだことも身につきやすい。とくに雨のときなどは、目標達成のための障害が増えるのでさらに印象が強くなり、より記憶に残ります。
もちろん、安全第一に実施していますが、困難な状況になればなるほど知恵も絞らねばならず、参加者の成長につながると実感しています」(船木さん)
3年に1度実施される同社の社員意識調査では、「上司の力になりたい」、「上司のフォローをしたい」という声が多いという。
「その意味では、リーダーシップとフォロワーシップが同じようにかみ合う意識ができあがっていると感じます。クロスフィールド研修の影響を受けているのでしょう」と、船木さんは研修成果の手応えを語る。
多様な部門、属性のメンバーとともに行動するため、社内のコミュニケーション活性化にも貢献しているという。

新人のフォローアップ研修等でもチームワーク構築を図る

このほかに、チームワーク構築のために実施している研修は、主に若手向けのものとなる。
1つは、入社9カ月目に2泊3日で行う「新入社員フォローアップ研修」(図表2)だ。初日は製造や開発、営業など現場を訪問し、各部門の仕事内容を理解してもらう。そのうえで、2日目にそれぞれのチームを会社に見立てて、仮想の顧客から営業を獲得していくという内容だ。「会社」のなかで製造部長、企画部長、営業部長など、各自役割を決め、営業獲得のための戦略を練り、プレゼンテーションを行う。
もう1つは、入社2年目に1泊2日で行う「スキルアップ研修」だ。コミュニケーションに重点を置き、チームワーク構築力を磨く。

図表2 理想科学工業の教育体系(入社〜3年目)

図表2 理想科学工業の教育体系(入社〜3年目)

「コミュニケーションにもいろいろありますが、いわれたことを理解したうえで実行する、自分からわかりやすく伝える、ロジックを組み立てて話す、ということに留意しています」(谷萩さん)
ここでも、チームを編成して仮想顧客を用意し、1年目よりも複雑な状況設定をして、ロールプレイを行う。相手の意図することをくみ取りながら、こちらの考えをいかに伝えるか、グループ討議をして発表する。
このように、同社ではさまざまな取り組みをしているが、育成に関する今後の課題として、船木さんは「キャリアアップにつながる人事ローテーション」をあげる。
「研修は、個人のスキルを上げていき、組織の力を高めていくものです。社員の育成だけでなく、素質のある人の発掘の場でもあります。そして人材育成の一番のカギは、仕事で実践していくこと。ですから、キャリアアップするための人事ローテーションをいかに考えるかが重要になってきます。
とくに、経営幹部を育てるのは研修ではなく実践の場であると考えています。素質があると思える人材には、思い切った配置で新たな仕事にチャレンジさせることも必要です。こうして、さまざまな視点で考えられるようになることが『世界に類のないものを創る』発想につながると期待します」
とはいえ、各社員の持ち味や伸びしろを見極めながらの仕事配分は、容易ではない。同社では、「この人にこんな体験をさせよう」と、各部門と人事とが連携をとりあって進めている。
理想科学工業というチームが一丸となり、各自がリーダーシップ、あるいはフォロワーシップをしっかり身につけることで、これからも画期的な商品開発を実現していくに違いない。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 理想科学工業株式会社
本社 東京都港区
創業 1946年9月
資本金 141億1,498万円
売上高 829億9,500万円(2017年3月期・連結)
従業員数 1,716人(2017年3月31日現在)
事業案内 高速カラープリンター、デジタル印刷機のハードおよび関連機器、消耗品の開発・製造
URL https://www.riso.co.jp/
(左)
コーポレート本部
人事部人材教育課
人材教育課長
谷萩正晴さん

(右)
コーポレート本部
人事部長
船木正和さん


 

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