事例 No.068
オムロン
特集 経営理念を土台に組織を強くする

(企業と人材 2016年8月号)

組織開発

企業理念実践活動に1年間チームで取り組み
グローバルで評価し表彰する「TOGA」

ポイント

(1)1959年に定めた社憲をベースに、1990年に企業理念を制定。2015年にはグローバル化に対応する形で、より実践的な内容に改定した。

(2)企業理念と日々の業務の結びつきを意識し、理念の実現へ向かって成長できる組織風土を醸成するため、「TOGA」と銘打った表彰制度をスタート。チームごとに企業理念をどのように実践していくのか、チャレンジ宣言をし、1年を通じて活動・実践する。

(3)「TOGA」は、企業理念にある3つの価値観を軸に5つの観点で評価し表彰する。選考で他のチームの取り組みを知ることで、あらためて企業理念の実践とは何かを深く考えるきっかけとなる。また、地域や組織、事業を超えたつながりをもつこともできている。

「とがり」と「つなぎ」が人材育成のキーワード

オムロン株式会社は1933年に立石電機製作所として創業し、レントゲン写真撮影用タイマの製造を始めた。オートメーション機器の電子化を加速させた無接点近接スイッチ、いまや世界のスタンダードとなった無人駅(自動改札)システムやオンライン現金自動支払機など、世界で初めて世に送り出した製品やシステムは少なくない。
現在は6つのセグメントで事業を展開、そのすべてに共通するのは、身の回りにあるさまざまな情報をオムロン独自の「センシング&コントロール+Think」の技術で商品やサービスに変換し、社会の課題解決に貢献しているということだ。
2011年には、2020年を目標年度とする10カ年の長期ビジョン「ValueGeneration2020(VG2020)」を策定した。「質量兼備の地球価値創造企業」をありたい姿として掲げ、売上高1兆円以上、営業利益率15%を目標数値に設定している。
同社が求める人材は、まず、企業理念を実践できる人。オムロンの発展の原動力である企業理念に理解・共感するだけでなく、各人の仕事のなかで実践することを重視している。
グローバル人財総務本部グローバル人事部人事企画グループマネージャの有澤暢敏さんは、加えて次のように話す。
「『自律』、そして『とがり』と『つなぎ』も人材育成におけるキーワードです。『とがり』とは、何か1つでも高い専門性や秀でた長所、その突き抜けたところを活かして、新しい価値の創造にチャレンジすることが期待されます。一方、『つなぎ』は、チームワークや周囲を巻き込んでいく力のことです。『とがり』をもつ個々の社員がその特性を『つなぎ』合わせることで、組織としての力が最大限に発揮されることをめざします」

社憲の精神を発展させ、企業理念を策定・改定

同社では、事業が軌道に乗りつつあった1959年、「社憲」(われわれの働きでわれわれの生活を向上しよりよい社会をつくりましょう)を制定した。さらなる成長を遂げるには、会社としての確固たる理念が必要と考えたためである。事業を通じて社会的課題を解決し、社会の持続的発展に貢献し続けることが、オムロン社員としての存在価値であることをうたったものだ。
こうした企業の公器性を追求し続けてこそ、社員も幸せになれると説く。同社はこの精神を経営の拠りどころ、また社員のアイデンティティとして尊重し、前述のような数々の世界的なイノベーションを実現していった。
1990年には、社憲の精神を発展させる形で企業理念を制定。そのあとも時代に合わせて進化させていき、2015年にはグローバル化の進展を踏まえて、よりわかりやすく実践的な内容に改定した。
それまでは、社憲(基本理念)・経営理念の下に、経営指針と行動指針を定めており、全体を企業理念としていたが、この改定により企業理念は、社憲(OurMission)と、「ソーシャルニーズの創造」、「絶えざるチャレンジ」、「人間性の尊重」からなる3つの「私たちが大切にする価値観」(OurValues)とした(図表1)。

図表1 オムロンの企業理念

図表1 オムロンの企業理念

「海外拠点では、オムロンがどういう会社なのかよく知らないまま入社してくるケースも少なくありません。そういう社員にも私たちがこれまで大切にしてきた価値観をお客さまに伝えてもらうためには、できるだけシンプルにまとめる必要があります。改定はそれを見据えてのことです。3つの価値観はそれぞれ『私たちは〜』という形式にすることで、自分ごととしてとらえやすいようにしました」(有澤さん)
前述した長期ビジョン「VG2020」のスタートにあたっては、企業理念を浸透させ、その精神を実践に結びつけていくことを、経営戦略の柱の1つとした。
これは、グローバル化の進展により、いまや世界中110を超える国・地域で活動を展開し、連結売上高に占める海外比率は約6割、海外従業員比率は約7割に達する同社が、グローバルで製品やシステムが選ばれ続けていくためには、創業以来培ってきたソーシャルニーズの先取りやチャレンジ精神といった強みを、さらに磨いていくことが不可欠と判断したためである。また、多種多様な3万7千余人の社員が、同じ目標に向かってまとまるための求心力として、企業理念の浸透が求められているという。
日々の仕事のなかで絶えず企業理念を意識し、実践する組織風土を醸成することで、「VG2020」に掲げる高い目標へのチャレンジにドライブをかけるとともに、個々人のより高レベルでの成長を図ることがねらいだ。
企業理念浸透は事業/本部主導で進めている。事業/本部が主導することで、企業理念と事業ビジョン/戦略、個々の仕事のつながりを深め、横断的な取り組みや実践にもつなげている。
図表2は、グローバル共通で行っている3つの横断的取り組みを示したもの。従来は企業理念の理解・共感に努めるレベルにとどまっていたが、「理念教育・理念ツール」、「グローバルアワード」、「理念ダイアログ」の3つに取り組んでいくことで、企業理念と自らの仕事をリンクさせ、実践を図り、価値創造、Missionの実現のグッドサイクルをまわすことをめざす。

図表2 企業理念実践強化の取り組み

図表2 企業理念実践強化の取り組み

理念教育・理念ツールについてはこれまでも、理念に関する映像や冊子を作成したり、各階層別の研修の一環として理念教育を実施してきた。
これに加えて新たに実施したのが、今回紹介する、仕事を通じた理念実践を褒め讃えるグローバルアワード「TOGA」と、各職場で理念と仕事のつながりについて話し合う「企業理念ダイアログ」だ(図表3)。また理念に関する階層別研修でも、一方通行の講義ではなく、対話を重視する進め方に変えた。

図表3 取り組みの全体図

図表3 取り組みの全体図

企業理念の実践を加速するグローバル表彰制度「TOGA」

TOGAは「TheOmronGlobalAwards」の略で、企業理念実践にチャレンジし続ける風土の醸成を目的とするグローバルの表彰制度である。2012年度にスタートした。その特徴は以下の3つである。
(1)有言実行:各職場でチームを組み、テーマを設定、1年間かけて実行し、優秀事例を表彰。
(2)企業理念実践度:取り組みプロセスにおける企業理念実践の度合い、こだわりを評価・表彰。
(3)表出と共鳴:プロセスのなかで理念に対する自分の思いを言葉と行動で表出し、共鳴の輪を広げていく。
「私たちの理念は、黙っていて実践できるものではありません。自分で宣言し、周りを巻き込んで実行していく、有言実行のカルチャーを根づかせたいと考えました」(有澤さん)
1チームの人数は3人以上。上限は決められておらず、工場や事業所全体として200人以上のチームで取り組む事例もある。職場の枠を超えてチームを編成することもでき、1人で複数のチームに参加してもよい。チームでは、企業理念実践につながるような取り組みテーマを設定、チャレンジを宣言、1年間かけて実行していく。
初年度となる2012年度は、2,481テーマがエントリーし、延べ2万828人が参加した。2013年度は2,519テーマ(2万3,524人)、2014年度は3,651テーマ(3万2,751人)、2015年度は4,173テーマ(3万8,100人)と、参加者は年々増加している。
グローバル人財総務本部グローバル人事部の土阪崇弘さんは、「仕事を突き詰めて考えていけば、必ず理念につながっているはずですから、どんな仕事でもテーマになります。TOGAという機会を使って、自分が仕事を通じて実現したい志を表現してもらいます」と話す。
全体の流れは、毎年5〜8月にかけてチーム結成・エントリーを受け付け、エントリー後は各職場で実践、12月に事業部・社内選考、翌年2〜3月にリージョン選考を行い、各賞を選定・表彰するというものだ。
エントリーの際には、テーマやその背景となる現状、到達目標、そして理念のどの部分をどう実現していくのかという「こだわりポイント」を明確にする。その際、上司は活動のサポーターとしてコメントを伝える。
エントリーしたチームから順次、テーマに沿った活動を始めていくが、内容を周知・実践していくため、テーマを部門内のイントラネットに掲示したり、テーマを共有し応援し合う会を開いたりしている職場もある。そのほか、テーマと上司の直筆応援メッセージを職場の壁に掲示、部門メンバーがコメントを付箋で付け合う職場もあった。また、本部内の全部長・課長・係長が1週間に1〜2人のペースで、「自分なりの理念実践」について記したエッセイをメールで配信している部門もあるなど、活用方法は職場によりさまざまだ。
事業部・社内選考会では、職場で最も理念に合った活動を行ったチームを選ぶ。
「事業部・社内選考で選ばれたテーマだけが素晴らしいのではなく、エントリーされたすべての取り組みから学ぶことがあります。選考会は、各チーム・個人の思いを表出して認め合い、共有する場と位置づけています」(土阪さん)
ここで選ばれたチーム・テーマ(2015年度は100テーマほど)が、リージョン選考に進む。リージョン選考は、日本、アメリカ・南アメリカ、ヨーロッパ・アフリカ、アジア・パシフィック、中国、韓国という6地域別の選考会で、本社からも取締役と執行役員が審査に参加する。
ここが実質的な最終選考会となり、Gold賞と呼ばれる最優秀賞13テーマのほか、Silver・Bronze賞が選ばれる。この3つの賞は、後世に残すべき理念体現のロールモデルとなるものだ。
そのほか、企業理念体現のモデルとなる取り組みを讃える「Challenger賞」、地道な努力・工夫を重ねている取り組みを讃える「TheRoots賞」、失敗から学んだことを活かし、果敢にチャレンジしている取り組みを讃える「TheBrave賞」などが選ばれる。
ちなみに、TheRoots賞とTheBrave賞は、「地道な取り組みや失敗を恐れない取り組みも評価しないと、チャレンジし続ける風土は醸成されない」という山田義仁社長の考えから設けられたという。
そして5月10日の創業記念日に、Gold賞13チームのメンバー(各チーム5人まで)を本社に招いて、公開プレゼンテーションと表彰式を行う。公開プレゼンテーションの様子は国内各事業所に生中継されるほか、海外拠点にも後日イントラネットを通じて動画を配信、受賞チームの取り組みを全社員が共有できるようにしている。

3つの価値観をベースに、5つの観点で評価

TOGAは、前述した3つの価値観(OurValues)から導き出される次の5つの観点で活動を評価する。
(1)高い目標…目標の新規性・ユニークさ、チャレンジングな目標設定
(2)ユニーク性…プロセスの独自性・創造性
(3)変化対応…粘り強い努力、環境変化への対応
(4)チームワーク…個の力の集結、多様なメンバーの協力
(5)成果…顧客にとっての価値
(1)は目標設定段階、(2)〜(4)は取り組みのプロセス、(5)は取り組み結果についての指標である。これらは共通の判断軸として、全事業部・全リージョンで共有しているが、細かな選考方法については現場に任されている。評価の際の議論の詳しい内容は、参加者にもフィードバックされる。
「2015年度は企業理念をよりわかりやすく改定したこともあって、Gold受賞チームには、自分たちの国・地域の社会課題のソリューションを意識した取り組みが多かったように思います。たとえば、韓国では労働災害や事故が多く、安全に対する関心が高いことから、当社の制御技術を活用して安全向上に貢献するといった内容が選ばれました」(土阪さん)
そのほか、どのメーカーも実現できなかった液晶パネルの検査を機械で実現した日本のチームや、偽薬の服用を防止するため政府が管理するマークをグローバルで検査する技術を実現したヨーロッパのチーム、フィリピンの医療施設4,000に15万ユニットの電子血圧計を届けたアジアのチームなどがGold賞に選ばれた。

▲プレゼンするGold賞受賞チームのメンバー"

▲プレゼンするGold賞受賞チームのメンバー

有澤さんは、TOGAを継続して行ってきたなかでの変化と手ごたえについて、「受け身ではなく自分たちで積極的に課題を見つけ出したり、新しい価値を生み出して提供していくような取り組みが増えてきています。2014年からは、国・地域や事業をまたいでテーマを設定し、活動するケースも目立つようになりました」と話す。
同社は全世界に拠点があるが、これまでは事業部ごとの独立性が高く、地域間・事業間連携による新たな価値創造の重要性は認めつつも、なかなか具体的な取り組みにはつながっていなかった。それが、TOGAを通じて「表出」し合うことで、「この部署・チームと一緒にやったら面白いものが生まれるのでは」といった発想が生まれてきたという。
ある工場では、異物の除去をテーマにエントリーし、世界中の事業所から対策事例を集め、整理して手順化するという取り組みを行った。営業部門や関連工場などがこの活動に興味をもち、話を聞いたりするなかでネットワークが形成され、グローバルで勉強会や研究発表会を独自に開催するようになったという。現在では、異物の除去がかなりの高レベルまで改善されているそうだ。
TOGAによるいちばんの成果は、一人ひとりの社員が自分の仕事と理念の結びつきを日常のなかで意識するようになったことだ。選考会ごとにプレゼンテーションを行うため、メンバーは自分の言葉で活動内容や思いを説明し、審査員やオーディエンスからの質問に答えるという経験を積む。とくに受賞者は選考ごとにそれを繰り返すため、発表ごとに仕事と理念のかかわりがクリアになっていき、「自分の仕事には、こういう意味があるんだ」と腹に落ちるようになるという。

仕組みがなくても理念を体現できる風土醸成へ

もう1つの取り組みである理念ダイアログは、組織ごとに、メンバーがオムロンの歴史や身近なチャレンジ実践事例について語り合い、自らの行動と理念を重ね合わせ、行動変革につなげていくというものだ。マネージャ(部課長)を中心に全員参加で行うことが原則で、年1回開催している。今年はTOGAとの連関を図るため、創業記念日に各職場で実施するようにした。
具体的な進め方については、オムロンの歴史理解を深めたり、過去のTOGAでGold賞となったテーマを題材に学習を行ったり、映像資料を活用したりとさまざまである。
また、「会長ダイアログ」として、立石文雄会長が毎年世界中の各拠点を訪問し、現地の法人社長や幹部との対話を行うといったことも実施している。
このように、TOGAや理念ダイアログなどによって、社員一人ひとりが自らの仕事と理念のつながりを意識し、仕事を通じた企業理念の実践を日常化している同社。それによって企業全体として持続的な成長を実現できる風土を醸成している。有澤さんは、「理念についてくどくど言わなくても、日常の仕事のプロセスで自然に理念とのつながりを実践できるというのが行き着くべき地点」だという。
土阪さんは、「良い意味でTOGAというイベントがなくなることが理想」と話し、「年度初めに、それぞれが企業理念を体現していくために何をするかを明確にして、お互いの取り組みを褒め合ったりしながら目標に近づけていくというのは、本来TOGAのような仕組みがなくても各職場のマネジメントサイクルとして行われるべきことだと思います」と続ける。
そのための課題としては、それぞれの施策間のつながりをもっと密にすることをあげる。日常のコミュニケーションにおける着眼点や研修、評価など、あらゆる場面で企業理念とのリンクを意識していきたいという。
オムロンでは、社員が理念やそれに基づく先人の業績を誇りに思って仕事をしていること、その思いを共有できているからこそ、TOGAのような取り組みが着実に根づいているのだろう。企業の歴史そのものが人を育てているともいえ、このなかで育った新たな人材がまた、後世から目標にされる歴史をつくっていくことだろう。

(取材・文/北井弘)


 

▼ 会社概要

社名 オムロン株式会社
本社 京都府京都市
設立 1948年5月(創業1933年5月)
資本金 641億円
売上高 8,336億円(連結 2015年度)
従業員数 37,709人(連結 2016年3月31日現在)
事業案内 制御機器事業、電子部品事業、車載事業、 社会システム事業、ヘルスケア事業、その他事業
URL http://www.omron.co.jp/
(左)
グローバル人財総務本部
グローバル人事部
土阪崇弘さん
(右)
グローバル人財総務本部
グローバル人事部
人事企画グループ
マネージャ
有澤暢敏さん


 

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