事例 No.039
コンピューターサイエンス
事例レポート(組織開発)

(企業と人材 2015年12月号)

組織開発

部門長らによるチームコーチングで
本質的な課題を発見・共有する

ポイント

(1)本質的な課題に対する危機感からチームコーチングを導入。部門長が集まって組織の壁を越えた議論を始めることから取り組むことに。

(2)第1期チームコーチングでは、本音の議論から自分たちの組織に辛辣な定義がなされ、そこから現状打破のための「チームTaSuKi」の活動が生まれる。

(3)メンバーの入れ替えを経た第2期チームコーチングでは、「自ら成長することで変革をリードする」とのミッションが生まれ、中期経営計画策定に結実。

見えない部門間の壁を壊しより本質的な議論へ

コンピューターサイエンス株式会社(以下、「CSC」ともいう)では、組織変革の取り組みの1つとして、チームコーチングに取り組んできた。今回は、2014年度から2年間にわたり継続的に実施された同社の取り組みについてうかがった。
そもそも「チームコーチング」とは何か。リーダーシップ、組織改革コンサルタントのピーター・ホーキンズは、その著著『チームコーチング』(英治出版)のなかで、以下のように定義している。
「自らのミッションを明確にし、内外における関係を改善することで、チームに個々のメンバーの合計以上に機能できるような力を与えること。チームリーダーに自分のチームをどのようにリードするのかをコーチングすることとも、グループ内の各人をコーチングすることとも異なる」
つまり、1対1の個人的なコーチングを一度に多数の人に行うようなものではない。メンバー間のかかわりを促進することで、複数のメンバーが集まった“グループ”を、成果を達成する“チーム”に変えていくプロセスなのだという。
メンバーそれぞれが、1つの目的・目標を共有し、コミットして、自律的に動いてブレークスルーを成し遂げていくーーーコンピューターサイエンス社副社長の安田秀敏さんは、2013年に一般社団法人全国チームコーチ連盟が開催した「2013チームコーチングカンファレンス」に参加した際に、導入企業の事例発表をみて「面白いなと感じた」という。
「事例発表を聞いているなかで、皆が前向きに取り組んでいるなというのが伝わってきました。チームコーチング中の風景の写真をみて、最初は皆ちょっと引いている感じだったのが、最後のほうではぐっと前のめりになっていて……。ああ、これはいい雰囲気だなと直感的に感じたんです」(安田さん)
その直感に従って、翌2014年度にチームコーチング導入を決断。背景にあったのは、どこかぎくしゃくした社内の雰囲気をなんとかしたいという思いだったという。
きっかけは、営業事務担当者の1人が産休に入ったことだった。代替要員として派遣社員を配置したにもかかわらず、社内が混乱してしまった。
「営業担当者も総動員して対応したのですが、なかなか混乱が収まらなかったんです。これは単純に業務の進め方だけの問題ではなく、部門間に見えない壁があるのではないかと考えました。皆自分の業務で忙しいのはたしかですが、『これはうちの仕事じゃない』といった雰囲気で、うまく協力体制がとれていませんでした」(安田さん)
さらに突き詰めていくと、日常の議論があまり深まっていないという課題もあった。限られた時間のなかで仕事の効率を優先していくと、どうしてもいち早く解決策を見出すことになる。議論を深掘りしていく余裕がない、というのが現状だった。これでは目先の課題には対応できても、本質的な課題解決やブレークスルーを導くことは難しくなる。
「プロジェクトをリードしていく仕事なので、マネジメント研修などにはかなり力を入れていますが、プロジェクトの質が上がっているかといえば、そうともいえない状況でした。われわれはエンジニアの集まりなので、あくまで品質にこだわる『技術者魂』を大切にしてきました。それが、納期や利益目標などが厳しくなるにつれ、どこかで妥協点をみつけるようになっているのではないか、と。
プロジェクトの現場だけでなく、本社のマネジャーたちも事情は同じで、それでは経営の質も上がっていきません」(安田さん)
そんな危機感を抱いていたときにチームコーチングに出会った。マネジャー同士が前向きに課題に取り組み、意見をぶつけ合い、創造性豊かなチームに変わっていけるのなら、本質的な解決につながるのではないかとの期待があったという。

教えるのではなく自律的な成長を支援

第1期のチームコーチングは、2014年3月から7月にかけて実施された。5回のセッションはいずれも週末の朝から夕方までを費やして行われた。
コーチを務めたのは、インテリジェンスフィールド合同会社代表の福田祥司さんと、株式会社ダイアローグ代表取締役の原田一郎さんだ。チームコーチングでは、チームコーチは2人一組でセッションをリードすることが多い。1人がメンバーに寄り添って議論をみている間、もう1人のコーチが一歩引いた視点でメインコーチとメンバーとの関係性やチームの状況を観察し、必要に応じて介入するという体制で進められるという。
またチームコーチングは、実際の業務上の課題に取り組みながらメンバーの行動変容を促進するもので、コーチが知識やスキルを教えたり、改善策を提案したりすることはない。チームが自律的に課題を解決できるよう支援するのがコーチの役割であるとされるため、議論を誘導したりはしない。
ただし、表層的な議論に終始しているような状況であれば、原点に立ち返るような問いを投げかけたり、議論が煮詰まっていたり集中力が落ちてきたと感じられるようなら、柔軟に休憩を入れるなどして、メンバー自身の体験を通じた気づきや学びを促していく。
チームコーチは、フレームを駆使してセッションをデザインし、当日はそれに基づいて進行するが、チームのダイナミクスに応じてセッションの内容も進行のスピードもかなり大胆に変わっていく。効率的で予定どおりの進行には意味がない。メンバーの内面(無意識レベル)に変化が起きることが重要だと考えているからだ。
第1期のメンバーは、各部門のトップである部門長9人である。ミーティングなどで顔を合わせることも多く、日常的にはコミュニケーションはとれている面々だが、時間をかけて本質的な議論をする機会はそれまでなかったという。
安田さんはメンバーの招集にあたり、業務の一環として戦略会議を行うと告知したが、「最初は皆、研修だと思って集まってきた」(安田さん)そうだ。
チームコーチングでは、通常、セッションの初回はチームビルディングを行う。まず「チームとは何か」、「チームコーチングとはどういうものか」を理解するセットアップが行われた。続いて、セッションにおける基本ルール―全員が参加して自分の考えを述べることや相互に尊重することなどを確認したうえで、「成功のイメージ」についての議論が始まった。社内がどこかぎくしゃくしていることや、業務がうまく回っていないことなど、議論のなかで各メンバーの問題意識も明らかになっていった。
現実の課題を扱うだけにメンバーの関心は高く、理解も速い。そうするうちに、チームコーチングが研修とは異なるものであることが徐々に理解されていき、本音が出るようになっていったという。また、回を重ねるごとに、ファシリテーター、タイムキーパー、書記など、自主的にチーム内の役割も担うようになっていった。

浮き彫りになった自分たちの現状の姿

2回目以降は、前回の内容をバックトラックしてから、その日のセッションのゴールを決めて本格的にスタートする。
重要な転機となったのは、2回目のセッションだった。この日は、「私たちの真実」というテーマで自分たちの現状を付せんに書き出して類型化していく作業を行った。背景にある本質的な問題は何かを考えて、それぞれひと言で表現するというワークが行われた。
そこで最終的にできた定義は、「自己防衛の意識が強く、見えない組織の壁を作ってしまい、他部門や全社的な課題に対して踏み込んでいない。まさに“触らぬ神に祟りなし”の状況にある無責任集団である」という、きわめて厳しい表現のものだった。
「メンバー自身も、想像していた以上に辛辣な定義に驚いてしまったほどです。でも、こうして火がつくと、向き合わなくてはいけないという意識が生まれてくるのです」(福田さん)
そこからは、ディスカッションのテーマも、この現状を打破するためにどうするかという、前向きなものに反転していく。自分たちのアイデンティティを「CSCの永遠の存続をめざす、理念・価値観の伝道者」と定め、このチームを「TaSuK(iたすき)」と名づけた。会社のもつ文化やスピリッツを、たすきのように次の世代に伝えていく役割を担うというものだ。
さらに、これを実現するためのタスクを整理。第1期が終了するころには、大きく3つの作業グループが活動を開始した。
1つ目が、会社の羅針盤としてのクレドを策定する作業グループである。伝道師の役割を果たすべく、自分たちの思いや価値観を明文化するというものだ。2014年度中にクレドの体系が完成し、イントラネット上で公開されている。また、新入社員研修やキャリア採用研修、マネジャー研修など、各階層別研修でもクレドを伝える時間を設けている。
2つ目が、部門間の連携強化を図る「コオペレーションマネジメント」の体系化を検討する作業グループだ。現在は部門間の連絡会議を毎月1回開催するようになり、グループ活動の進捗を報告したり、経営会議に上申すべきことを話し合うなど、部門長同士のコミュニケーションの土台は固まってきた。今後は、部署間の相互サポートを実現するべく具体的な施策に落とし込むことをめざしている。
そして3つ目が、モチベーション研究の作業グループだ。現在は研究を進めているところで、やがてはその成果を社内の各種トレーニングに展開していくことが目標だという。
また、こうしたチームTaSuKiの活動への理解を広げることを目的に、「TaSuKi通信」を発行。不定期だが、チームコーチングの活動報告などを行っている。

影響力のあるチームをめざし、第2期を開始

第1期の全セッション終了後には、メンバーの関係性も密になり、積極的に話をするようになった。メンバーからは「時間をかけたキックオフのようなものだった」という感想があがった。ここからがスタート、という意味だ。
一方で、足りない部分も感じていたという。第1期の事務局を務め、自身もメンバーの1人としてセッションに参加した経営企画室室長の浜田高博さんはこう語る。
「それぞれ部門長として多くの仕事を抱えているだけに、日々の業務に戻ってみると、まだまだ自分たちだけで自走できないという思いがありました。また、2015年度には組織変更があり、部門長も少し入れ替わったため、チームコーチングを継続することにしました」
第2期のチームコーチングでは、チーム内だけでなく、全社に対して、チームTaSuKiの影響力を高めていこうという意識が強くなっていた。「TaSuKi通信」などの広報活動も、単なる活動報告では意味がないとの意見もあがっていた。社内にチームTa-SuKiの存在は知られるようになったが、まだ実態が理解されているといえるほど浸透しておらず、一般の社員に対して働きかけにも力を入れ始めていたところだった。
同社の栗城文教社長からも、「第2期のTaSuKiには、パーソナルイノベーションのリーダーとして会社全体に影響を及ぼしていけるような存在になることを期待したい。一般社員にも、その貢献が評価されるようになってほしい」と、期待がかけられていた。
そうして始まった2015年度の第2期チームコーチングは、1人が抜け、新たに2人が加わり、メンバーが10人となった。8人は第1期からの継続メンバーとなるが、チームコーチングでは、メンバーが1人でも替われば新しいチームになるという考え方をする。
「気をつけないといけないのは、古いメンバーの支配力が強いと、新メンバーを無意識に阻害してしまいます。コーチとしては、セッション中でもパフォーマンスや発言のバランスなどに留意したり、古いメンバーにしかわからない話題が出てきたときには、問いかけをして話の論点を少し戻すなどの配慮が必要となります」(原田さん)
新たなメンバーが加わることは、新たな視点が加わるということ。とくに今回新加入となった2人は比較的若く社歴の浅い社員だったため、古いメンバーがあたり前に思っていたことがそうでもなかったりして、そのつど同社特有の手法や考え方を再確認するなど、新旧メンバーに刺激を与えたようだ。

図表 第2期チームコーチングの概要

図表 第2期チームコーチングの概要

中期経営計画の策定にチームとしてコミットする

第2期の初回セッションは、チームのアイデンティティを再確認することから始まった。第1期で確認した「CSCの永遠の存続をめざす、理念・価値観の伝道者」というチームのアイデンティティは今回も変わらなかった。
大きな一歩となったのは、「私たち自らが成長することで、変革をリードする」という新たなミッションを、全員で共有したことだ。チームの外に目を向けて、自分たちがより主体的に動いていくことが全員で確認された。初回に前向きなミッションが定まったことで、2回目のセッションも大きく動いた。あらためて自分たちの現状を振り返ってみると、会社全体の変革を自分事としてリードしていないという結論にたどり着いたのだ。
「では、そこをブレークスルーするために何をするべきかという議論のなかで、『中期経営計画を自分たちの手でつくろう』という話になりました。ちょうど次の中期経営計画を策定しなければいけない時期でしたので、タイミングとしても最適でした」(浜田さん)
これまで同社では、単年度の事業計画の策定には各部門もかかわっていたが、中期経営計画は役員クラスが主導して策定しており、部門長にとっては「上から下りてくるもの」だった。それをチームTaSuKiでつくるということは、自分たちがリーダーシップを発揮して、経営にもコミットしていくという意思表示であり、チャレンジングな取り組みであった。
その後の第4回セッションでは、原点に立ち戻り、「私たちはお客様に信用され、頼られるITのメインパートナーとしてお客様の企業価値創造に貢献します」という会社のビジョンを、ポスターによって視覚化するワークが行われた。
メンバー個々の抱くイメージの違いを埋め、同じレベルで理解するために、まず各メンバーがイメージを描き、発表する。そして、10枚の絵を持ち寄り、合意形成しながら統合されたイメージをポスターとして制作していく。
ポスターにかぎらず、チームコーチングでは、チームが合意形成する過程で模造紙を用いてリストや表を作成することが多い。1日に20枚作ることもあるという。作成した成果物は、壁に貼り出して見える化する。今回のセッションでも、部屋中に模造紙が貼られていた。そうしたことから、チームコーチングでは比較的広めの部屋が使われることが多いという。
「ビジョンに対して、自分たちがどんな物語をもつのかが大切だと考えています。皆で議論しながら1つの絵を作り上げていく経験を通じて、メンバーが物語を共有していく。そのことが、志を同じくするメンバーやビジョンそのものに対する共感を醸成し、自分事として自発的に問題解決に動き出していく土台となるのです」(原田さん)

▲セッションでのグループワークの様子

▲セッションでのグループワークの様子

▲ビジョンを視覚化したポスター

▲ビジョンを視覚化したポスター

グループワークで完成した絵は上の写真のようになった。チームTaSuKiによる経営へのサポートを前提として、営業系のチームである「ToBiRa」が顧客に広く門戸を開き、技術者のチームである「TaKuMi」がほかにはないソリューションを提供していき、顧客およびパートナー企業と一緒に同社が成長し続けるというイメージができ上がった。
第5回セッションではさらに、ビジョン実現によって得られる成果は何かを、会社、社員、メンバーそれぞれについて具体的に書き出した。そして、そのためのミッションを1人ずつ明確化し、アクションプランの策定までを行った。

対話をさらに深めビジョンを体現していく

全5回にわたるセッションの最後は、第2期の振り返りで締めくくられた。「目標は達成できましたか」という原田さんの質問に対して、5点満点中8人が4点をつけ、5点と3点が1人ずつと、おおむね評価は高かった。
「自分の得たもの、学んだこと」という質問についても、「心強い仲間。見ていてもらえると感じられる。信頼関係ができた」、「あからさまに現状がみえてきた。それに取り組むやる気がみえた」、「協力体制。共感。ビジョンの共有」、「会社運営の全体像」などといった付せんがホワイトボードに貼られ、チームの連体感やリーダーとしての成長が感じられた。
一方で、「やり残したこと」としては、「ビジョンの共通認識がまだ足りない」、「テーマによって対話の入り込みにムラがある」など、さらなる対話の必要性もあげられていた。
「ビジョンに関しては、社内に浸透してきたものの、社員が自分たちの現場でどう行動に移すのかというレベルまで理解できているかというと、まだまだだと思っています。TaSuKiのメンバーには、中期経営計画をつくるという重要なミッションがありますが、もう1つ、このビジョンを自部門で展開していくことも、非常に大きなミッションとなります。TaSuKiのメンバーのなかでも理解度は違いますし、部署ごとの事情もさまざまですので、今後も密にコミュニケーションをとり、お互いにアドバイスやサポートをしながら進めていければと考えています」(安田さん)
2年間のチームコーチングを経て、部門長の意識は高まり、連携も強固になってきた。深い議論を重ねて本質的な課題解決に取り組み、変革をリードしようと動き始めたところだ。その精度を高めて業務の品質を上げ、経営の品質を上げ、目にみえる形の成果につなげていくことが、次の目標である。

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 コンピューターサイエンス株式会社
本社 東京都品川区
設立 1985年9月
資本金 7,000万円
売上高 27億円 (2013年12月期)
従業員数 283人 (2015年7月現在)
事業案内 ITソリューションサービス・コンサルティング事業、システムインテグレーション事業ほか
URL http://www.cscnet.co.jp/
(中央右)
取締役 副社長 安田秀敏さん
(中央左)
経営企画室 室長 浜田高博さん
(左)
インテリジェンスフィールド
代表 福田祥司さん
(右)
ダイアローグ
代表取締役 原田一郎さん


 

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