事例 No.184 ネットプロテクションズ 特集 評価者・被評価者の成長を支援する
(企業と人材 2019年4月号)

管理職教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

全員が評価し評価される360度評価とローテーション制の
面談で相互に成長を支援する組織をめざす

ポイント

(1)「自律・分散・協調型組織」をめざし、2018年度に新人事制度「Natura」を導入。マネージャー職を廃止し、評価制度も「相互成長支援」に主眼を置いた360度評価にシフト。

(2)全社員が業務関連度の高い5人から、コンピテンシーに基づく評価を受け、その結果で昇給・昇格が決定される仕組み。導入前に関係構築を学ぶ2つの研修を実施。

(3)面談する側が毎回、ローテーションで替わる「ディベロップメント・サポート面談」や360度評価のトライアル実施の結果、ふだんから業務関連度が高くない人にも意識を向け、積極的にかかわる風土ができつつある。

自律・分散・協調型組織をめざし新人事制度を導入

2000年に設立された株式会社ネットプロテクションズは、BtoCの通信販売事業者向けに、未回収リスクを100%保証する後払い決済サービス「NP後払い」を提供し、成長を遂げてきた。いまでは、導入店舗数2万3,000店、年間流通総額2,000億円にまで事業規模を拡大、コンビニ後払い決済サービスとして確固たる地位を確立している。その後、実店舗やBtoBの商取引の決済を支えるサービスも開始。2018年には台湾に進出し、海外展開にも乗り出している。
これまでにない事業を生み出し、「つぎのアタリマエをつくる」をミッションに掲げる同社は、自社の組織においても新たな形をめざしている。それが、「自律・分散・協調型組織」だ。人事総務グループ兼ビジネスアーキテクトグループの河西遼さんは、次のように説明する。
「われわれが大事にしているは、会社と個々のメンバーが、主従関係ではなく、対等なパートナー関係にある組織をつくっていくことです。そこで重要となるのが、自律性・分散性・協調性です。権限や責任、情報、資源などがしっかりと分散し共有されて、一人ひとりが自律的に意思決定ができる状態を築く。ただ、それだけだとバラバラになってしまうので、同時に、協調性を重視していく。
理想は、一人ひとりが全社最適の視点をもったうえで、自律的に意思決定していく組織であり、概念としては、“ティール組織”に近いです」
そうした組織を実現するには、ベースとなる価値観の共有が欠かせない。同社では、以下の7項目のビジョンが掲げられている。これは、2012年から2013年にかけて、全社員で丸1年かけて議論して決めたものだ。
・歪みがない事業・関係性をつくる
・すべてのステークホルダーと真摯に向き合う
・みんなで会社をつくる
・志を尊重する
・わくわく感を大切にする
・違いこそを組織の力に変える
・厳しく求め、支え合う
採用においても、こうした自社の理念に共感できる人材であることを重視し、毎年20人から30人規模の新卒採用を行ってきた。
これは、中途採用の場合、一般的なピラミッド構造の文化に慣れ親しんだ人だと、同社の組織風土になじみにくい面があったからでもある。それは、自律・分散・協調型組織をめざしていくなかで、明文化・制度化されていない面が多分にあったということでもある。
そうしたなか、同社は、2018年4月に新人事制度「Natura」を導入した。マネージャー職をなくし、全社員が応分の責任と相互成長支援を担う組織だという。めざす組織のあり方に沿った制度ができたことで、今後は中途採用も積極化し、今後3年間で社員数を倍増させる計画だとしている。

マネージャー職を廃止し、助言役カタリストを新設

新人事制度Naturaは、以下の2つの方針を基本として設計された。
①上下関係や競争意識を極力排除し、協調を促進していくために、「心理的安全」を醸成し、「相互成長支援」を促進する
②一部のメンバーだけに負荷や機会が集中する状態を是正し、機会、権限、責任の分散化を進める
②について補足すると、同社は平均年齢が約28歳と若く、新卒1〜3年目の社員が全体の半数弱を占める。マネージャーも約半数が就任1年前後の新任であり、負担が一部の社員に偏りがちという課題があった。
自律・分散・協調型の組織を運営するには、全メンバーがマネージャー的な意識で行動する必要がある。そこで、役職としてのマネージャーを廃止し、そのうえで、メンバーの合意に基づき流動的に決定される「カタリスト」という役割を置いた(図表1)。

図表1 カタリストの役割コンセプト

カタリストの役割コンセプト

新人事制度の立ち上げからまだ間がない現時点では、暫定的にカタリストが従来のマネージャーの役割を担っている部分もあるそうだが、本来のカタリストのミッションは、マネージャーのような権限行使ではない。カタリスト固有の権限は、病歴や家庭の事情など、全社員での共有がしにくい個々人の機微情報を有すること。たとえば、人員配置は関係部署のメンバーが話し合って決めることが多いが、そこに当人の機微情報が関係する場合には、カタリストが助言を行う。
カタリストは、基本的には部署ごとに置かれているが、1つの組織に複数人いる場合もあるし、1人のカタリストが複数のグループを担当する場合もある。現状では、カタリストになるための基準を満たす社員が限られるため、以前のマネージャー職より人数は少なくなっているが、役割がスリム化したので、組織運営上問題は出ていないという。
各人の賃金は、5段階のバンドからなるグレード制で決定される。市場平均より一定程度高くなるようにベースが組まれ、ベーシックインカム的な思想も取り入れられている。
そして、各人のバンドは公開されており、コンピテンシーに基づいた360度評価によって、昇格および昇給が決定される。この評価制度では、360度評価に加えて、面談者がローテーションする1on1面談も組み込まれ、「報酬の適正配分」よりも「成長支援」に主眼が置かれている。
以下、評価の仕組みについて、もう少し詳しくみていく。

360度評価で昇格・昇給、成長支援の面談も実施

同社の評価には「コンピテンシー評価」と「業績評価」があり、それぞれ半年に1回ずつ実施される。コンピテンシー評価はグレード制度上の昇格と各バンド内での昇給に、業績評価は賞与に反映される。
コンピテンシー評価は360度評価で行われる。11項目のコンピテンシーについて、各人が業務上かかわりの多かったメンバー5人から評価を受ける(図表2)。11項目のうち「複合スキル」の4項目がバンドの昇格基準となっており、4項目すべてにおいて上位バンドレベルに達したと評価されると昇格する。

図表2 11 項目のコンピテンシーとその構成要素

11 項目のコンピテンシーとその構成要素

評価者を決めるプロセスとしては、はじめに、社員一人ひとりに、自分がこの先の半期でかかわるメンバーとその関連度を提出してもらい、バンド上の上位者・下位者のバランス、各評価者が評価する人数の偏りなどを勘案したうえで、人事部門で評価者を決める。
同社の社員は、大半が企画業務に携わっており、部署横断的なプロジェクトや兼務も多い。そのため、他部署のメンバーが評価者となることも少なくないそうだ。また、「新入社員は除く」といった条件はなく、原則、全員がだれかの評価者となる。
初実施となった2018年10月の評価時には、評価者のうち、もともとマネージャーをしていた人をメイン評価者とした。そのメイン評価者が、ほかの人の評価や被評価者のふだんのふるまいなどを考慮して、昇給、昇格の可否などを判断するやり方をとった。同社では、新人事制度導入以前から360度評価を実施してきたが、それでも、新しい評価制度の浸透には一定の時間がかかるものとみており、様子をみながら、柔軟に制度の定着を図っていくとしている。
新人事制度のもう1つの特徴が、「ディベロップメント・サポート(DS)面談」である(図表3)。3カ月に1度行われる「Q:DS」(QuarterlyDevelopmentSupport)と3カ月に2度の「R:DS」(RegularDevelopmentSupport)とがあり、Q:DSはカタリスト、もしくは、カタリストから権限移譲されたメンバーが、ローテーションで担当する。他方、R:DSは、面談を受けるメンバーと同じ組織にいて、当人よりグレードが上位のメンバーが担当する。

図表3 ディベロップメント・サポート面談と評価制度全体との関係性

ディベロップメント・サポート面談と評価制度全体との関係性

「特定のメンバーだけが人材育成を担当すればよい、という考え方をなくしたいと考えました。ローテーションで、だれもが面談を担当することになれば、必然的に日々、相手に意識を配るようになります」
面談では、目の前の業務上の支援も行うし、「中長期的に、こういうスキルを伸ばしたい」といったことへの支援も行う。新しい制度導入によって目標管理制度は廃止したが、本人が目標を決めて取り組みたいという場合には、目標を立て、それを支援していくことも問題はないという。
各回の面談内容はオンライン上にログとして書き込まれ、面談者の間で共有されるので、前回の面談の内容も踏まえて話し合うことができる。特定の人と継続的に面談をやりたければ、DS面談とは別に、本人と調整して設定してもらえばよい。
面談者の人選は、360度評価と同様、業務の関連度とバンドを考慮して行う。どの部署のメンバーでも、企画職という点では共通点があるため、評価や指導をするうえで不都合はないという。

制度導入の直前に関係構築の研修を実施

新人事制度の導入にあたっては、制度が確定してから周知するのではなく、2017年7月の検討開始から導入までの各フェーズで、全社員を対象に、制度の共有会を行ってきた。

図表4 制度導入直前の 2 つの研修のプログラム概要(半日間)

制度導入直前の 2 つの研修のプログラム概要(半日間)

そのうえで、導入直前に2種類の研修を行った(図表4)。まず、1つ目は、リレーションシップビルディング研修だ。これは、評価や成長支援を機能させる前提として、コーチングや「NVC(NonviolentCommunication=非暴力コミュニケーション)」というコミュニケーション技法を参考に、望ましい関係構築のあり方や、その状態が築かれたときの価値について体感してもらうもの。参加者間でピアコーチングをしたり、関係構築のワークショップをして、対話をしながら理解を深める。
もう1つは、ディベロップメントサポート研修。これは、関係構築について学んだうえで、いかに成長支援に資するフィードバック、フィードフォワードをするか、具体的なTipsを伝える。ティーチングとフィードバックとコーチングをどう使い分けるか、成長支援のコメントでは、どういうことに気をつける必要があるかといったことを、これもロールプレイングをしながら学ぶ。
いずれも半日間強のプログラム。基本的には、まずリレーションビルディング研修を受講し、そのあとにディベロップメントサポート研修を受講するという流れで、1回あたり約30人ずつ、3、4回に分けて実施していった。

評価トライアルを実施し、全員の目線合わせを図る

一般に評価制度については、評価の目線合わせが難しい。この点について、河西さんは次のように話す。
「評価の目線は、実際に何度かやっていくなかで、徐々に浸透していくものと考えています。移行直後の1回目からバッチリ目線がそろうといったことは、ゴールとして考えていませんでした。基準を文言化したからといって、水準感をそろえるのには時間がかかります。評価を何周か繰り返すなかで対話が生まれ、目線が擦り合わさっていくことを期待しています」
同社では、2018年10月の「本番」の評価に先だって、本番さながらの形でトライアルを5月に行っている。全社員にアンケート調査を行い、その結果を見える化し、共有化したという。これも、評価について一人ひとりが考え、目線を合わせていくきっかけになったようだ。
今後の施策としては、個人別の評価結果分析を行い、評価者側にフィードバックする予定だ。たとえば、評価者XさんがAさんを評価した場合、Aさんを評価した5人の平均値とXさんの評価との間に、どの程度の差異があったかをコンピテンシーの項目ごとに表し、Xさんにフィードバックする。もちろん、平均値が絶対的な正解というわけではないが、大枠の傾向として、自分の評価がどれくらい辛め・甘めなのかを理解してもらう資料として活用してもらうつもりだという。
トライアル後に行ったアンケートによると、多くの社員が今回の360度評価を「評価しやすかった」と感じていた。評価項目であるコンピテンシーは、ビジョンやバリューの要素を踏まえてつくり上げたものなので、同社の社員にとって納得性が高かったと考えられる。
課題として多く指摘があったのは、「評価関連度が低い場合に評価しにくい/されにくい」という点だ。
前述のとおり、評価者は業務関連度の高い順に選ばれるが、兼務者も多いため、業務時間の2、3割しかかかわっていないメンバーを評価するケースも珍しくない。そうしたときに、評価する側からは、「評価対象者をずっとみていたわけではないので、評価できない」、「関連度が薄い人の評価をするのは心苦しい」という声があがった。また、評価を受ける側からは、「関連度が低い人に評価されたことに納得がいかない」という声もあった。
この点については、側面的であっても、実際に仕事をしたときの評価でつけてもらうよう周知するとともに、コメントの記入を徹底し、書けない場合は評価しないようにしてもらうこととした。
さらに今後は、「ピアボーナス」(従業員同士が互いの良い仕事に対してインセンティブを送り合う制度)などのリアルタイムフィードバックの仕組みを組み合わせることで、評価の多面性をより高めることを検討していく考えだ。

メンバー同士が互いに育成し合う意識が向上

このように、今後に向けた課題はいくつかあるものの、自社のめざす方向に合致した新人事制度は、多くの社員に好意的に受け止められているようだ。DS面談についても、当初は双方に混乱が発生したが、徐々に育て合う意識の醸成につながってきている。
「確実に、意識は変わりつつあると思っています。これまでは、暗黙的に『あの人の仕事』と思われていたのが、『全員でやるべきものだよね』というスタンスに変わってきたりしています。

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育成という面でも、自分事化したアプローチが増えてきていると感じます」
関連度の低い人を評価するのが難しいのは、「その人のことをよくみていなかった」からでもある。そうした気づきから、自ら積極的にかかわり、育成していこうという意識が育ってきていると、河西さんは感じている。
「今後、中途採用を強化していくなかで、より多様性のある組織になっていくと思います。拠点も増え、リモートワークなども含めて、働き方も分散していくでしょう。そうした多様性・広がりを取り入れながら、全員が納得感をもって、成長やチャレンジを続けていくにはどういう制度がいいのかという視点で、アップデートしていく必要があると考えています。
それをすべて人事主導で考えるわけではなく、めざす方向性や思想は繰り返し伝え、共有したうえで、一人ひとりのメンバーと対話の場を設け、そこから改善施策や研修プログラムなどにつなげていくことが大事だと思っています」

(取材・文/崎原 誠)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ネットプロテクションズ
本社 東京都千代田区
設立 2000年1月
資本金 1億円
売上高 非公開
従業員数 130名(2018年4月1日現在)
平均年齢 28.0歳
事業内容 B to C通販向け、およびB to B向け決済サービス等の運営など
URL https://www.netprotections.com/

人事総務グループ
兼 ビジネスアーキテクトグループ
河西 遼 さん


 

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