事例 No.179 共栄火災海上保険 特集 変える・変えない 管理職研修
(企業と人材 2019年3月号)

管理職教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

人事制度改定を機にマネジメントの機能を整理し体系化
職務定義にも反映させ、人事制度と研修の一体化を図る

ポイント

(1)10年ぶりに人事制度を改定し、総合職群と一般職群を統合。これに対応する形で新しい人材育成スキーム(体系)をつくる。

(2)マネジメントを4つの機能に整理・体系化。管理職クラスの職務定義と「新任マネージャー研修」の内容をこれに対応させ、人事・評価制度と研修の一体化を図る。

(3)管理職候補者向けの「新任7等級研修」を各拠点にライブ配信し、現マネージャーに受講させる「学び直し研修」。自身のマネジメントを振り返る機会にしてもらうと同時に、管理職候補者との共通言語づくりをめざす。

10 年ぶりの人事制度改定、総合・一般職群を一本化

1942 年に、農山漁村への保険普及を目的として、産業組合によって設立された共栄火災海上保険株式会社。社名も、産業組合の経営理念である「共存同栄」から命名された。現在も、同社の事業基盤は、農林水産業協同組合、信用金庫・信用組合、生活協同組合をはじめとする協同組合・協同組織諸団体であるが、さらには、親交の深い企業・ディーラー・整備工場とその代理店、同社固有の販売チャネルである共栄プロクラブ・直販社員など、事業パートナーであるすべての募集者との信頼関係をより一層強化することで、特色のある事業活動を展開しているという。
同社は、設立間もない1946 年に組織変更を行って以来、協同組合組織に近い相互会社として事業を行ってきたが、2003 年に経営基盤強化のために、株式会社へと再び組織変更を行い、現在に至っている。

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人事部能力開発室長の松村裕司さんは、同社の人材育成の取り組みについて、次のように語る。
「事業環境が大きく変化しているなか、今後も事業基盤をしっかり固めていくためには、やはり人が要になると思っています。当社では“会社の発展の礎は人材にある”との考えの下、社員一人ひとりの能力を最大限に発揮するために人材育成に取り組んでいます」
同社は、2016 年度から始まった中期経営計画で、営業基盤、財源基盤、人材基盤の3つの基盤の強化をうたっている。最終年度となる2018 年度には、次期中期経営計画に先行する形で、新しい人事制度が導入された。人事制度の改定は10 年ぶりという。
最大のポイントは、コース別の人事制度を統合したことだ。これまでは、「総合職群」と「一般職群」という2 つのコースに分けて管理していたが、これを「担当者職群」に一本化した。事業環境の変化に対応し、競争を勝ち抜いていくために、人材の総合力を活用していく。

新制度の職務定義に対応した人材育成スキーム

この人事制度改定に対応する形で、同じく2018 年度から、新しい人材育成スキーム(体系)が展開されている。図表1は、その概要を表したものである。

図表1 共栄火災海上保険の人材育成スキームの概要

共栄火災海上保険の人材育成スキームの概要

新人事制度の各職群等級において求められる職務定義を、仕事経験をとおして乗り越え、成長していく。そのことによって、業績貢献できる社員を輩出することが目的として掲げられている。
そのための取り組みの柱は3つ。その1つ目が「研修」だ。職務定義に沿って必要な知識・スキルを提供するとともに、主要階層の新任者に対して意識転換を促進させる研修を実施するとしている。
2つ目は、「経験学習」の仕組みを段階的に導入していくことである。これにより自己成長や育成風土の醸成をめざす。松村さんは、次のように説明する。
「経験学習は、経験したことを自分で言語化して内省し、次に活かしていくものです。ただ、人それぞれの経験があるので、一律にこういう経験をしましょうというのは提示しづらい。そこで、経験として学んだことを次に活かせればよく、それが成長の近道だということを伝えています。
また、内省したことを人事考課の面談に活用しています。つまり、内省して気づいた課題を自己成長目標として設定してもらい、次期に活かすようにしています」
3つ目は、「職群一本化のスムーズな定着」である。
「従来はどうしても、総合職群は男性、一般職群は女性となりがちでした。しかし、一般職群だった女性社員には経験豊かな人材もいますし、優秀な人が多くいます。女性活躍推進に関しては政府の後押しもありますし、当社の女性社員に、より活躍してもらいたいと考えています」
これらの取り組みを組み込んだ人材育成スキームの体系図が、図表2である。研修に関するものとしては、マネージャー層から若年層に向けた「階層別教育」と、営業部門や損害サービス部門対象の部門教育が中心となる「知識・スキルの獲得」が大きな柱となる。これに加えて、各年齢層でのキャリア開発支援研修や、組織活性化をねらいとした社内留学制度なども行われている。

図表2 人材育成スキームの全体像

人材育成スキームの全体像

知識・スキルの獲得については、これまでは「部門教育」が中心だった。今期からはそこに、「ビジネススキル研修」と「マネジメント学び直し研修」が新設されている。
ビジネススキル研修は、主に旧一般職群の人が対象である。ねらいは、これまで定例業務が中心であった人に対し、対外的な業務やマネジメント業務まで業務領域を広げられるようなスキルや知識を身につけてもらうことだ。毎月テーマを設定し、1 回3 時間、外部講師による講義形式で本社ビル内の研修室で実施している。
特徴的なのは、これを本社以外の社員も学べるように、全国約170 カ所の拠点にライブ配信している点だ。これにより、その時間だけ業務を中断し、各拠点内で受講することが可能となった。
また、各回の研修テーマは、人事考課の項目に対応して設定されている。タイムマネジメント、折衝力、コミュニケーション、チームワーク、業務改善、業務連携など10 テーマで、松村さんは「制度と一体化させて動かしていくことが大事」とする。
受講は手あげ式で、男性の受講者も少なくないそうだ。ライブ配信している各拠点についても、基本的には現場長の判断に任せており、人事部門から参加要請などはしていない。ただ、現状では1 回の参加者が60 人から90 人ほどで、松村さんは「もう少し参加人数を増やしたい」と話す。
実施後のアンケートでは「仕事に役立つ」とする人が多いなど、好評を得ている。その一方で、「時間を短くしてほしい」、「具体的なスキルアップにつなげられるものを」といった要望も出されており、次回以降の企画の参考にしている。「画面上で受講している人のほうが辛口コメントになりやすい」といった、ライブ配信ならではの傾向も見えはじめたところだという。
もう1つの「マネジメント学び直し研修」は、後述する「新任7等級研修」をライブ配信し、すでにマネージャーとなっている人が学び直しの機会として受講できるようにしたものだ。
7等級はマネージャー候補とされる等級であり、新任7 等級研修はマネジメントの基本を学ぶもの。既任マネージャーが「学び直し研修」を受けて、マネジメントの「おさらい」をすることにより、既任者と新任者が共通言語をもてるようにすることがねらいだ。

職務定義に対応したマネジメント体系で研修を実施

ここからは、管理職研修についてみていこう。同社の管理職研修は、図表3 のような構成になっている。実施形態が「ライブ配信」となっているものは、学び直し研修と同様に、本社で実施し全国の拠点に配信している研修である。

図表3 管理職および管理職候補者を対象とする研修

管理職および管理職候補者を対象とする研修

ここでは、課長クラスを対象とした「新任マネージャー研修」と、その手前の候補者向けの「新任7等級研修」について紹介する。
2013 年ごろ、同社では、業務偏職務定義に対応したマネジメント体系で研修を実施重型のマネジメントが課題とされていた。
「当時、マネージャーは、業績向上への思いから、仕事をマネジメントしようとする意識は高かったのですが、部下育成や職場運営に関しては弱いという状況でした。また、当時のマネージャー研修は、『部下育成』に絞った内容で実施していましたので、それ以外のマネジメント力も磨く必要があると考えました。
そこで、2014 年度に、新たにマネジメントを体系化し、3 年間かけて全マネージャーに研修を実施しました。その後、2017 年度からは新任者に絞って実施しています」
このマネジメント体系では、マネジメントを「戦略」、「業務」、「人材」、「組織」の4つの機能に分け、その機能ごとに必要なマネジメント・プロセスを整理した。たとえば、人材マネジメントであれば、「部下の現状を把握」し、「関係性をつくり」、うまく「活用しながら育成していく」。業務マネジメントにおいては「業務の現状を把握」し、「業務を促進」させ、「連携させる」という具合だ。
そして、今回の人事制度改定のなかで、マネージャーの職務定義をこの体系に対応させたという。これにより、マネージャーの評価はマネジメント体系の項目に合致した形で行われることになり、さらに管理職研修の内容ともリンクすることになった。
松村さんは、「今後は、人事制度に基づいた管理職研修ができるようになり、それぞれの職務定義を明確化する展開ができるようになると思います」と期待する。
新任マネージャー研修は、2日間かけて、このマネジメント体系を学ぶものだ(図表4)。人材マネジメントについては、とくに時間をかけている。やはり最も重要だという認識があるからだ。

図表4 新任マネージャー研修のプログラム

新任マネージャー研修のプログラム

各パートでは、内容についてレクチャーを行い、そのあとにグループワークを行う。ケーススタディが中心で、「こういう場面では、どのマネジメントを考えればよいか」といったことを話し合う。新任マネージャーは、毎年20〜30人程度なので、1 グループ5、6人に分かれて行うことになる。
「マネージャーは、いろいろな引き出しを使ってマネジメントしていかなければなりません。ケーススタディでその使い分けを考えるワークは、その手助けになると思っています」
各パートの最後には「まとめ」の時間があり、それぞれのマネジメント機能をどれくらい発揮できているかを自己採点する。研修後には、4 つの機能のなかでの自分の強みと弱みがわかるようになっているわけだ。
そして、2 日目の最後のパート「マネジメント機能の統合」で、どういう機能を自身の強みとしていくかについてアクションプランを作成する。このアクションプランは人事部などへの提出義務はないが、松村さんは、「全体的に、人材の把握、活用と組織の枠組みづくりが弱い傾向にある」と分析している。
松村さん自身も、2016 年度にこの研修を受講している。
「マネジメントの機能が4 つに整理されたことで、私にとってはマネジメントの概念がわかりやすくなりました。それぞれアプローチの仕方が違うこと、そのなかで自分はどういう面が弱いかということもわかるようになりました」

管理職候補者と現任者とで共通言語をもたせる仕掛け

次に、マネージャー候補となっている人材が対象の「新任7等級研修」についてみていきたい。
同社における7等級の中心層は38 歳前後。職務定義にも、管理職候補であることを明記し、意識づけをしているという。
研修の内容は、新任マネージャー研修のダイジェスト版といえるものだ。新任マネージャー研修が丸2日間かけて行う内容のエッセンスを、4時間で学ぶ。参加しやすいように時間を分け、2日間で実施しているという。1日目は業務マネジメントと人材マネジメントを1時間半ずつ、2日目は組織マネジメントについて1時間というプログラムである。人材マネジメントについては、短い時間だがグループディスカッションも組み込んでいる。
「この研修がマネージャー研修の入口となります。次の段階である新任マネージャー研修のエッセンスを学ぶことによって、現在のマネージャーとの共通言語ができるようになります。マネージャーはこういうことを学んでいるのかとか、こういうことを言っていたのか、と一段上のところで理解できるようになる。学び直し研修と合わせて、相互の理解が進むことをめざしています」
前述のとおり、この研修が「マネジメント学び直し研修」としてライブ配信され、現マネージャークラスも受講できるようになっている。今回、松村さんは、事務局として新任7等級研修に参加した。それが、予想以上に有意義だったそうだ。
「2年前に受けた研修内容で思い出したことも多く、また、この間の経験も踏まえて、自分のなかでうまく整理ができました。学び直し研修をやる価値は十分あると実感しています」
いってみれば1つの研修に2つの役割をもたせるようなものだ。ユニークで効率的な取り組みといえるが、マネージャー全員に研修を実施してからまだ2年しか経っていないこともあり、今期は学び直し研修の参加者は少なかったそうだ。しかし、研修内容が人事制度に直結していることを考えれば、だんだん受講者は増えてくると予想される。そうなったときに、この制度の有用性があらためて認識されるにちがいない。

課題はマネジメント体系の定着と女性活躍への後押し

松村さんは、今後について、次のように語る。
「社内ではマネージャーへの期待は大きく、マネージャーたちも、その期待に応えようと、誠実に、まじめに業務遂行してくれています。今後は、組織力を強化するためにも、マネジメント体系を定着させることが大事だと思っています。人事としては、早期に定着するように、さまざまな育成施策をつくっていきたい。それぞれのマネージャーの持ち味を活かしながら、マネジメント体系を機能させてもらえば、良いマネージャーになるし、また良い職場にもなると期待しています」
さらに、女性が大半の旧一般職群社員の育成についても、取り組みを続けていくつもりだ。同社では、6等級から課長代理職となるが、現在その26%が女性だという。昇格には部支店長からの推薦が必要とされており、それだけ評価されていることに「もっと自信をもってもらいたい」と、松村さんは女性社員にエールを送る。
「女性の課長代理職は、男性にはない共感力や面倒見の良さがある人が多く、コミュニケーション力も高いので、当社では活躍の場が多くあると思っています。ただ、現状は過度に期待されていて、なかなか追いついていない面もあります。会社として後押しをするような工夫が必要ではないかと考えているところです。
まずは、職場のなかで男性・女性双方が学び会う機会をたくさんもってほしい。そのためには、男性社員も、もっとレベルアップしてほしいし、豊富な経験を通して得たノウハウを、女性社員にも提供していってもらいたいと思っています」
職群を一本化して以降、活き活きと働いている女性も多く、そうした女性を集めた座談会も計画中だ。
現在は、制度を変えて間もないということもあり、新任マネージャー含め、現場に多少の混乱や迷いがあることは仕方がないのかもしれない。しかし、それを乗り越え、マネジメント体系や担当者職群をベースとして人材が育ってくれば、さらに力のついた組織となっていることだろう。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 共栄火災海上保険株式会社
本社 東京都港区
設立 1942年7月
資本金 525億円
売上高 1,637億円
従業員数 2,680人
平均年齢 45.6歳
平均勤続年数 14.6年
事業内容 損害保険業
URL https://www.kyoeikasai.co.jp/

人事部
能力開発室長
松村裕司さん


 

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