事例 No.161 宇都宮市 事例レポート(企業と人材 2018年10月号)

管理職教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

半年かけて政策提言をまとめる政策形成研修で、
自律行動型職員の育成を図る

ポイント

(1)住みよいまちづくり推進のため、めざすべき職員像を「自律行動型職員」と定め、職員一人ひとりの主体的なキャリア意識の醸成と、課題を察知し解決する政策立案能力の向上に取り組む。

(2)20代後半から50歳時までの節目ごとに「キャリア・デザイン研修」を実施。独自に開発した「キャリア支援検査」ツールで、自身の「職務興味」と「キャリア志向性」への理解を深め、キャリア選択に活かす。

(3)40年以上続く「政策形成研修」。全職員に求められる政策形成能力向上のため、4つの研修をそろえる。主任主事・主任クラス対象の同研修IIIでは、グループごとに半年かけて政策提言をまとめ、発表する。実現した政策も多い。

「住みよいまち」の発展に取り組む

栃木県の県庁所在地である宇都宮市は、県のほぼ中央に位置し、古くから政治・経済・文化の中心として栄えてきた。北西には日光連山から続く丘陵地、市内には田川、鬼怒川などの河川が流れ、豊かな自然に恵まれている。東京から約 100kmという立地に、東北自動車道、東北新幹線など交通の便も良く、国内有数の工業都市としても発展している。
宇都宮市といえば、「餃子のまち」のイメージが強いかもしれない。ほかにも、「ジャズのまち」、「カクテルのまち」としても知られており、また、「ジャパンカップサイクルロードレース」が毎年開催されるなど、「自転車のまち」という顔もある。
同市では、早くからこうした町の魅力を発掘し、ブランドとして育て上げてきた。東洋経済新報社が毎年発表している「住みよさランキング」において 5 年連続全国1位(注)となるなど、対外的にも高い評価を得ている。
約 52 万人の人口を抱える北関 東の中 枢 拠 点 都 市であり、2050 年においても人口 50 万人を維 持 する将 来 展 望を描く。2018 年 3 月には「第 6 次 宇 都宮市総合計画」を策定し、「未来都市うつのみや」の実現に向けた取り組みも始まっている。他方、少子高齢化や労働人口減少の影響から、地方自治体が直面する社会課題は、より高度で複雑なものになっている。行政運営にはますます効率化が求められており、同市はまちづくりの担い手である職員一人ひとりの能力開発に力を入れているところだ。
同市の人材育成基本方針は、めざすべき職員像を「自律行動型職員」と定めている。行政経営部人事課人材育成グループ係長の杉山純徳さんはこう語る。
「自律行動型職員とは、市民の立場になって考え、課題を発掘し、自らの能力を最大限に発揮して課題を解決していくことができる人材です。職員一人ひとりが、単にいわれたことをやるというのではなく、自ら課題を察知し、改革を推し進めていけるようになれば理想的です」

図表1 宇都宮市におけるキャリアパス

宇都宮市におけるキャリアパス

標準職務遂行能力に基づく評価と教育研修

こうした人材を育成するには、職員が自らキャリアを描き、能力開発においても主体的に取り組んでいくことが重要になる。同市では、目標管理制度をベースにPDCA サイクルを回しながら、人事評価、処遇、人材育成を連携させる形で、職員の能力開発を支援する体制を整えている。この仕組みを循環させることによって、一人ひとりの業務を通じた成長と中長期でのキャリア形成を支えていくことをめざしている。
能力開発の前提となる、同市職員のキャリアパスは図表1のとおり。主事から参事まで、9 段階のポストに分かれている。新規採用職員の多くは主事からスタート。
能力育成期との位置づけで、29歳くらいまでにジョブローテーションで 3 つほどの部署を経験する。
「人によって多少は異なりますが、基本的には定型的な窓口業務、総務のような内部管理の業務、イベント企画のような事業系の業務など、タイプの異なる仕事を経験してもらい、行政の仕事の基礎を身につけていきます」(杉山さん)
30 代前半で主任主事に昇任すると、今度は能力開発期として、5 年ほどじっくりと1つの業務を担当することになる。その間に、高度な行政事務能力を身につけ、35 歳前後で主任に昇任する。主任は、まさに自律行動型で困難な業務でも主導的な役割を果たしていくことが求められる。
「一般職員の完成形」であるとされており、能力発揮期に移っていく節目であり、自分の得意分野や適性業務がほぼ固まってくるタイミングでもある。そして、その上の副主査からは監督職となり、マネジメントの役割が求められるようになる。
同市職員の人事評価は、能力評価と業績評価の 2 本柱で行われる。まず能力評価は、職制ごとに定義された「標準職務遂行能力」の実行度を 5 段階で評価している。
一方、業績評価は、目標管理制度が導入されており、組織目標からブレイクダウンした個人目標を設定し、その達成度合いを評価する。部門や職種によっては定型的な業務が多く、チャレンジングな目標が立てにくいケースがあるため、「業務の改善度合い」や「確実な業務遂行」、「臨機応変な対応」などの項目を共通目標として業績評価に加えている。
人材育成施策の柱となるのが、職員研修だ。人事課が企画・実施を担う「基本研修」、各部門で行う「所属研修」、個々人で自主的に受講する「自己研修」の3つがある。これらは、宇都宮市職員研修計画として体系化されており、5 年ごとに見直しが行われている。
図表2は、基本研修について「標準職務遂行能力」の項目に基づいて体系化したものだ。人事評価の最終面接は、上司が被評価者の職員に対して評価結果を開示する場であるが、その結果をもとに次期の能力開発について話し合う機会でもある。
被評価者の職制区分を対象とした研修一覧をみながら、「今後はこのスキルを伸ばしてみたらどうか」、「来年はこんな研修を受けてみてはどうか」といったように、スキルアップに向けた指導が行われるのだ。たとえば、主任の職員が「目標達成」の能力を高める必要があるとなった場合には、「タイムマネジメント講座」、「仕事の段取り力強化研修」などの受講を検討するといった具合いだ。

図表2 標準職務遂行能力維持・向上のための研修一覧

標準職務遂行能力維持・向上のための研修一覧

独自の診断ツールも開発、キャリア・デザイン研修

多岐にわたる研修のなかでも、重視されているのが、2005 年に導入されたキャリア・デザイン研修である。じつは、それ以前には「なかなかキャリアビジョンを描けない」という職員も少なくなく、課題となっていた。
行政経営部副参事(人材育成推進担当)の桐原弘臣さんは、次のように説明する。
「公務員の仕事は多岐にわたり、異動も頻繁にあります。もともと『まちづくりがしたい』、『社会福祉に携わりたい』などの動機で入ってきた人もいますが、必ずしも希望の仕事につけるとはかぎりません。そうしたなかで、具体的なキャリアプランが立てづらいという人も、少なくありませんでした」
そこで、節目ごとに「キャリア・デザイン研修I・II・III・IV」を実施。しかるべきタイミングで、10年先、15 年先のキャリアを描いてもらうこととした(図表3)。

図表3 キャリア・デザイン研修の対象と内容

キャリア・デザイン研修の対象と内容

キャリア・デザイン研修Iは、3回のジョブローテーションが終わるタイミングで行われ、中長期的な視点でキャリア開発目標を考える機会となるものだ。
次の同研修IIは、「一般職員の完成形」である主任が対象。年齢的には 30 代半ばから 40 代半ばで、進路選択と役割認識についてグループで議論し、キャリアプランを作成する。
同研修IIIは、監督職である係長および専任が対象で、年齢的には 40 代前半層。マネジメントや部下育成について学ぶ。同研修IVは 50 歳時にいっせいに行われるもので、ライフプランセミナーの位置づけである。
これらのキャリア・デザイン研修では、10 年以上前の 2007 年度から「宇都宮市キャリア支援検査(U-CAST100)」というツールを導入している。これは、同市が、キャリア・デザイン研修の外部講師と共同開発したもので、100 項目の設問に答えた結果から、自分の「職務興味」と「キャリア志向性」を知ることができる。
まず、パート1「職務興味」では、「市税の賦課から徴収までの管理をする」、「土地基盤の整備をする」、「観光振興を考える」、「高齢者の相談にのる」などのように、市役所で行われる仕事が76 項目あげられており、それを「やってみたい(4点)/少しやってみたい(3 点)/あまりやってみたくな(2 点)/やってみたくない(1 点)」のいずれかで答えていく。
続いて、パート2「キャリア志向性」では、「私は目標達成に向けて責任あるリーダーとして働きたい」、「安定した組織のなかで自分の居場所をもちたい」、「私は仕事に、創造的なことや熱くなれるものを求めている」など、仕事に対する価値観が 24 項目並べられており、こちらも「あてはまる(4 点)/ややあてはまる(3 点)/あまりあてはまらない(2点)/あてはまらない(1点)」のいずれかで答える。
そして、すべての回答を点数化し、マトリックス上の回答欄に記入すると、職務興味は、窓口/管理/技術/計画/環境などの7区分で、キャリア志向性は、上昇志向/安定志向/バランス志向/仕事志向の 4 区分で、スコアが算出できるようになっている。各 区 分のスコアをレーダーチャートに記入すると、自身の興味やキャリア志向が見える化されるようになっている(図表4)。

図表4 宇都宮市キャリア支援検査(職務興味)のレーダーチャート

宇都宮市キャリア支援検査(職務興味)のレーダーチャート

餃子のまちブランドをつくった政策形成研修

同市の研修のなかで最も特徴的といえるのが、「政策形成研修」である。40 年以上前から行われ、多くの実績をあげてきた。全職員共通に求められる政策形成能力の向上のための研修で、現在は職制ごとに「政策形成研修I・II・III・IV」を実施している。
主事クラスを対象とした「政策形成研修I」と、主任主事から主任クラス対象の「政策形成研修II」は、座学と演習を通じて基本的な政策形成手法を学び、政策実現に必要な課題発見・解決力や提案力・説得力を習得する内容だ。
注目は、これも主任主事・主任クラスを対象とした「政策形成研修III」だ。毎年約 60 人が受講。6 人1組のグループを 10 班つくり、グループごとに半年ほどかけて政策を検討し、提言をまとめて発表するというものだ。
具体的な研修スケジュールは図表5のとおり。全員が集合する全体会議は模擬発表会・成果発表会を含めて 5 回だが、これとは別にグループごとのミーティングを 1回につき4 時間、計 14 回行う。

図表5 政策形成研修IIIのカリキュラム(2018 年度・予定)

政策形成研修IIIのカリキュラム

第 1 回目の全体会議でグループ分けを行い、グループごとに 14回分のミーティング日程を決めてしまうという。グループ分けにあたっては、部門や職種、入庁年度などができるだけばらけるようにし、多様なメンバーが集まるように配慮している。
以後は全体会議で政策形成手法について学びながら、グループごとに作業を進めていく。政策のテーマは、「第 6 次宇都宮市総合計画」の枠組みのなかで自由に選べる。メンバー同士で議論しながらテーマを決め、調査を進め、政策を策定していく。
最後は成果発表会において、自分たちの政策を所管する課の課長にプレゼンテーションする。課長の判断次第では、提案された政策が実際に事業化されることもある。
じつは、いまやすっかり定着した「餃子のまち」ブランディングも、この研修が発端となって生まれたのだという。地域振興施策のリサーチをするなかで、「餃子の消費量が全国トップクラス」であることに注目したグループが「餃子のまち」PR を提言したことから、現在に続くPR 活動が始まったそうだ。そのほかにも、スマホアプリを使ったゴミ分別のサポートなど、これまで事業化された提案は全体の3割程度であるという。
「全体会議はもちろん、14 回のグループワークの時間も公務扱いになっています。テーマを決めるところから立ち上げて、政策の形に作り上げるまでの一連の流れを経験できる貴重な機会ですし、ここで同じグループになったメンバーとは、その後もつながりが続くことが少なくありません。
職場の上司も自分自身が経験しているので、皆、快く送り出してくれています」(杉山さん)
なお、副主査クラスを対象とする「政策形成研修IV」は、マネジメント職として政策を評価する力を身につけるというもの。政策形成研修IIIで生まれた提言を、今度は教材として活用して演習を行い、政策を評価するポイントを学ぶ。

OJTサポーター制度、女性活躍の取り組みも

そのほかの人材育成施策としては、まず新規採用職員に対する「OJT サポーター制度」があげられる。期間は1年間で、多くの場合、年齢の近い先輩がサポーター役を務めている。素朴な疑問や不安・悩みを解消し、円滑なキャリアのスタートを切れるようにするねらいだ。すでに、先輩の支援を受けた2年目、3年目の職員が、OJT サポーターとして後輩を支援するといった好循環も生まれている。
また、職場の枠を越えてさまざまな相談ができる「キャリア・アドバイザー制度」もある。たとえば、キャリアの方向性に悩んで、他部門の業務についている人の話を聞きたい、仕事と家庭の両立についてワーキングマザーの先輩に相談したいなど、身近に適当な人がいなくても、この制度を通じてアドバイスを受けることができるようになっている。

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さらに近年の取り組みとしては、女性職員の活躍推進にも力を入れている。女性職員のキャリアアップ研修、子育て応援キャリア支援セミナーなどを開催するほか、「身近にロールモデルが少ない」という女性職員の声に応えて、「MiyaJo きらめきネット」というネットワークづくりもスタートしている。
限られた予算のなかで「自律行動型職員」の実現を加速するため、庁内報を通じて職場内のコミュニケーションの活性化を図ったり、行動規範を体現した職員を表彰する制度を導入して、モチベーション向上につなげるなど、研修以外にもいろいろと工夫を凝らしているという。
「政策形成の能力はもっと若いうちから高めていってほしいという思いもありますし、女性活躍推進や技術職・資格職の育成強化など、検討課題もたくさんあります。
いまは人材育成基本方針に沿って、着実に計画を実行していくことが重要。改定のタイミングではしっかりと総括し、より良い施策をめざしていければと考えています」(杉山さん)

(取材・文/瀬戸友子)

(注)東洋経済別冊『都市データパック2017年版』による。
   人口50万人以上の28都市を抽出し、ランキングしたもの。


 

▼ 会社概要

所在地 栃木県宇都宮市
設 立 1896年(市制施行)
人 口 519,025人
(2018年4月1日現在)
世帯数 223,213世帯
(2018年4月1日現在)
職員数 3,274人
(2018年4月1日現在)
事業内容
URL http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/
(取材に応じていただいた方)
行政経営部 副参事
人材育成推進担当
桐原弘臣さん(左)

行政経営部 人事課
人材育成グループ 係長
杉山純徳さん(右)


 

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