事例 No.112 メタウォーター 事例レポート(管理職教育)
(企業と人材 2017年9月号)

管理職教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

部長らが集まり、組織ビジョンを作成
3年かけて現場の変革に取り組む

ポイント

(1)マネジメント層の意識と行動を変えるため、2014年度に「チェンジミーティング」を導入。部長らが年2回集まり、実務課題を議論する。

(2)マネジメント層が自ら作成した組織ビジョンを基に、各組織で実践に取り組む。1週間ごとに「職場実践レポート」で言語化し、フィードバックを受ける。

(3)3年かけて取り組み、2017年4月には成果発表会を実施。自分たちの言葉で取り組み状況を語るグループも多く、また実際のビジネス面でも成果が表れる。

組織変革促進に向け、教育予算を事業部に

メタウォーター株式会社は、2008年に日本ガイシ株式会社の水処理プラント機械部門と富士電機株式会社の水処理プラント電機部門が統合して発足した。プラントエンジニアリング事業とサービスソリューション事業を両輪に、全国の浄水場、下水処理場のプラント設備を構築し、設備の保守・メンテナンス・管理運営を手掛けている。
日本の水処理技術は世界的にみても高度で、同社は海外でも多くの事業を展開している。一方、国内では、近年は事業環境が大きく変化しつつあり、PPP(PublicPrivatePartnership:官民連携)が進んでいるという。とくに地方では、人口減少などによる財政難や技術者不足に直面しており、設備や機械の納入だけでなく、運転やメンテナンスへの要望が大きくなっているのだそうだ。先進的な例として、たとえば熊本県荒尾市では、水道設備の管理のみならず市民への料金徴収まで同社が担っている。
また、文化の異なる2つの会社の事業が統合してできた同社は、多様な人材が集まる組織となっていた。そのため、共通の企業理念と教育体系の整備に関しても議論を積み重ね、「メタイズム」という共通価値観が生まれた。「変革」、「挑戦」、「多様性」という3つを柱としたものだ。変革を加速するメタイズム実現のために、管理職研修は一般的なマネジメント研修ではなく、「お互いに思っていることを言い合おう」というオフサイトミーティングを中心に行ってきたという。
経営企画本部人事総務企画室長の藤井泉智夫さんは、次のように話す。
「われわれは“まじめな雑談”といっています。現状の不満を言い合って、それではこれからどうすればいいかということを話し合いました。画一的な管理職研修ではなく、都度のテーマで議論するのが当社の管理職研修です。」
また、藤井さんたちは、ヒューマンスキル系の研修は自主選択としたうえで、全体の組織開発やマネジメント力向上のための教育を事業部ごとに実施できないかと模索していた。そこで、教育予算について、経営企画本部側が集中的に管理するのではなく、各事業部の課題に応じて執行するようにした。「人材開発はビジョン達成に向けた取り組みであり、教育は投資である」という視点で考えてのことだ。

“個人商店”からの脱却をめざし、チェンジミーティングを導入

そのような意識で取り組んでいた矢先、2013年に人材育成コンサルタントの田口光彦さん(株式会社ジョイワークスCEO)から、「チェンジミーティング」という手法を提案された。ビジョン達成に向けて、現実の事業課題をテーマに、トップダウンではなくボトムアップで議論を重ねながら自らビジョンをつくり、部長・課長クラスのマネージャーと現場のリーダークラスが連動し、当事者意識をもって変革を推進していく活動である。
2008年の創業当時、同社は部課長職の年齢が比較的高く、また現場の技術職は職人的で「先輩の背中を見て技術を盗め」という雰囲気だったという。システマチックな育成ができておらず、仕事がある程度できるようになると、それぞれが個人商店のようになってしまう傾向があった。
そのため、担当しているお客さまに対しては熱心に取り組む一方、自分のやり方にこだわってブレークスルーしない人や、上からの指示待ちになる社員も見受けられるのが実態だった。部署・エリアの異動が少なく、取引先が固定化しがちであることも、個人商店化の一因となっていた。
前述のとおり国内の事業環境が大きく変化するなか、同社はPPPへの対応も含め、サービスソリューション事業の拡大をめざしている。サービスソリューション事業本部長の清水誠さんには、それまでの個人商店的な意識を変えていかなければならないという思いがあった。
2013年には事業部制となり、事業部独自の教育を推進することで、若手社員にもマインド的な変化が出てきた。そこで、「それに勢いをつけてくれる」(清水さん)ことを期待して、2013年末に、サービスソリューション事業本部内のCE事業部(CE:CustomerEngineering)で、チェンジミーティングが導入されることになった。

部長自らビジョン作成、実践レポートで振り返る

CE事業部での取り組みは、年2回、春(3〜4月)と秋(10月)にミーティングを開催することとし、実施期間は2014年春から2016年秋までの計6回のミーティングと、2017年4月開催の成果発表会までとなる(図表1)。

図表1 CE事業部のチェンジミーティングの全体像

図表1 CE事業部のチェンジミーティングの全体像

実際には、2つのミーティングが併走する。1つは、部長および次世代部長候補の中核グループマネージャーの計10人が1日間で行う「CE事業部チェンジミーティング」である。そしてそれを受けて、全国に4つあるエリア別のサービス部で行われるのが「各部チェンジミーティング」で、2日間かけてグループマネージャーとその部下のリーダー計20人が討議する。
初回の2014年春期は「目標展開構想」というテーマが掲げられ、参加者が自分たちの組織のビジョンづくりに取り組むことから始まった。
初回のチェンジミーティングのねらいについて、事務局を担当した経営企画本部人事企画部採用・能力開発グループの井出浩輔さんは、次のように説明する。
「トップダウンではなく、参加メンバーが、エリア各部やグループの方針策定に参画していきます。それによって自覚と責任が芽生え、達成に向けてがんばろうという意識づけができます。それが、最初のチェンジミーティングのねらいでした」
参加者は、CE事業部・運営方針(図表2)を基に議論を重ねながら、各々の部やグループの目標展開構想を練った。その結果、それぞれの組織の課題が明確になり、また自ら参画したことで、納得度の高い目標を設定することができた。

図表2 CE事業部・運営方針

図表2 CE事業部・運営方針

初回のチェンジミーティングが終わると、各メンバーはそれぞれの現場に戻り、目標達成に向けた実践活動に取り組むことになる。そこでは、自分たちが決めたビジョン・目標について、日々どのようなマネジメント行動を取ったかを、1週間ごとに「職場実践レポート」に書いていく。管理者として、ビジョン達成に向けて組織、またはメンバーが成果を出すために、どんな行動を取ったのかを振り返りながら書くのがポイントだ。
「実際に部下とのかかわり方がどうであったか、どれくらい意識していたのかというところを自分で書くことで、マネジメント行動をより強化していきます」(井出さん)
このレポートに対し、外部コンサルタントの田口さんがフィドバックを行っていく。
「たとえば『業務日誌の域を超えていません』、『レポートからはPDCAが回っているとはまったく感じません』といった手厳しいコメントを書いたこともありますし、よくできている部長に対しては、素直に称賛するフィードバックをします。
この組織学習では、業務日誌に書くようなアウトプットは求めていません。それよりも、マネジメントによって組織がどう変わったかを言語化することが大事なのです」(田口さん)
レポートの内容は非公開だが、田口さんからのフィードバックコメントは他のメンバーも見ることができる仕組みになっている。田口さんから「同じ部の○○さんのフィードバックを見てください。この人はもっと部下と良好なかかわりをしていますよ」といったフィードバックを受け、刺激を受けることによって、相乗効果が生まれることを期待した。マネージャーのなかには、気になるフィードバックコメントを見て、他のマネージャーに直接レポートを見せてもらいに行く人もあったという。
「自分を出し惜しみしていたり、年上の部下に遠慮したりして、つまずいている新任マネージャーもいます。そういうときに別のマネージャーへのフィードバックを見て、部下に対して自分にはなかった考え方や接し方をしていることを知り、それに触発されて変わっていったケースもありました」(井出さん)

「関係の質」が組織成果を左右する

2回目となる、2014年秋期のチェンジミーティングのテーマは「チェンジの促進」となった。実施期間などは1回目と同様である。
ここでのキーワードは、「関係の質」であった。部長とグループマネージャー、グループマネージャーとリーダー、リーダーとメンバという、直接の上司・部下間のコミュニケーションの質が問われていった。
「受け身の姿勢のやらされ仕事をしていると、関係の質がどんどん悪化していって、部下の表面的な行動や結果だけを見るようになる。そうすると組織成果も上がらず、さらに関係の質が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。
これに対し、上司・部下の関係の質を上げることによって、お互いの思考の質が上がり、行動の質が上がり、結果も改善するという好循環を生み出していこうということです」(清水さん)
参加メンバーは、関係の質を向上させることの重要性について学び、部下一人ひとりに対し「チェンジ力の評価と育成方法・かかわり方」を言語化するというワークを行った。
そして、各メンバーにそれまでの1年間を評価してもらい、組織ビジョンの実現に向けて、自分の思考や態度、行動に問題はないのか、部下が自ら考え仕事を実践するようにどう働きかけるとよいか、職場実践レポートのフィードバックを振り返りながらリフレクション(内省)してもらった。
「とくに部長のマネジメント変革に関しては、当初からものすごく難しいという問題意識があり、部長自身にどう腹落ちしてもらうかが課題でした」(清水さん)
清水さんが感じていた課題は、部長層が彼らにとっては問題なくこなせるマネージャーレベルの仕事に時間を取られ、本来の部長の仕事が十分にできていないことだった。部長の平均年齢は53歳(現在)。組織とメンバーに働きかけていく本来の仕事に関する記述がレポートに現れるようになるには、「1年かかった」という。
2015年は、春期は「プロセスチャト作成」、秋期は「活動余力の創出」がテーマとされた。部長自身が自己変革を実現し、新しい仕事に挑戦するために、部下に仕事を降ろすための業務プロセスチャートを作成し、活動する余力をつくるためのワークアウトをしていくことがテーマとなった。
プロセスチャトは、業務の成功パターンを見える化した表である。それぞれの部、グループの成功事例を持ち寄り、標準化するとどうなるか、何が最適なアプローチ方法なのかについて、皆で表にまとめていった。受注案件の企画提案書など、成功事例のツール・資料などをイントラネット上に集め、共有するようにもなった。
また、秋期のワークアウトでは、ビジョン達成に向けた活動を増やすために業務点検を行い、部下に仕事を委ねていくことを心がけていった。このころになると、日常的に本音の議論が活発に行われるようになり、変革が「点から面になってきた」(井出さん)感じがあったという。
変化は、チェンジミーティングの場以外でもみられるようになっていった。4人の部長が、それぞれ他の3つのサービス部の部会に、少なくとも後半の1時間は出席し、懇親会にも必ず参加するようになった。部会では、部内の部長とマネージャーの関係の質について率直に話し合われるようになり、お互いの現場の変化がよくわかるようになったという。
そして、3年目となる2016年度は、「自走とルーティン化」がねらいとして掲げられ、各サービス部ごとの取り組みが中心となった。部長自身のビジョンをメンバー全員で共有し、それに基づき傘下の各組織が何をなすべきかを考え、各グループにも落とし込んで浸透させる取り組みが1年かけて行われた(図表3)。それとともに、変革をルーティン化させ、風土として根づかせる意識の醸成にも力を入れていった。

図表3 2016年度 4部門の部長ビジョン

図表3 2016年度 4部門の部長ビジョン

成果発表会では独自の言葉で表現

2017年4月には、3年間の取り組みの総仕上げとなる成果発表会が4つのサービス部それぞれで行われた。3年間の取り組みや変革の成果をグループ単位で発表する場となったが、丸1日かけて発表と質疑応答を行ったところもあれば、午前中は発表を行い、午後はこれからの部・グループのビジョンづくりにあてた部もあった。
各発表会のそれぞれに、全部長がオブザーバーとして参加した。部長にとっては他部のチェンジミーティングの成果を肌で感じるよい機会となった。また、今年4月の人事異動で何人かの部長が入れ替わっており、各部の現状、実態がわかることによって、新体制での目標設定などがスムーズにいくという効果もあったという。
成果発表会では、「他人事から自分事、自分事からお客事」、「教えて、任せて、次をやる」といった、自分たちで考えたキャッチフレーズが、次々と飛び出したという。取り組み事例としても、たとえばある施工管理グループでは、「KSカード」(危険察知カード)を自分たちで作り、「何かがあった」ことを共有するのではなく、何か危ないことが「起こりそうだ」ということを皆が書き、そのカードを1年間で何百枚も集めるという、安全管理に関する独自の取り組みを発表した。
「独自のキャッチフレーズが生まれるようになったのは、どのようにチェンジしていくかということを、自分事として考えた結果だと思っています」(井出さん)
成果は、実際のビジネスにも表れてきている。

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1年目に作成したCE事業部の運営方針のなかに「WBC案件契約拡大への挑戦」というものがある。当時、同社にはWBC(WaterBusinessCloud)というクラウドサービス事業が新たに立ち上げられていた。水処理施設の管理データを、ITを使ったクラウドサービスで監視していくものだ。しかしCE事業部内では、だれがこれを推進していくのかが曖昧で、だれもが自分事として考えていない状況があった。
チェンジミーティングでは、なぜWBC推進をやらなくてはいけないのか、やることで何が生まれるのかについて突っ込んだ議論が行われ、共通認識が形成された。それにより、WBC案件の契約拡大という課題がクリアになり、主体的な取り組み機運が生まれて、普及が加速していったという。
3年間のチェンジミーティングを経て、CE事業部は社内で最も事業貢献する部門に、そして、同メタウォーター社の管理職登用試験において、最も合格率の高い部門へと「チェンジ」したという。
今後の課題は、各サービス部が自走化をいっそう進めること。部長が掲げる将来の組織ビジョンをメンバー全員で協働しながら進めることである。すでに同社は、プラントエンジニアリング部門へのチェンジミーティング導入を開始しており、今後も実績を積み重ねながら、全社的な導入を視野に入れて取り組んでいくとしている。

(取材・文/上本洋子)


 

 

チェンジミーティング参加者に聞く

CE事業部中日本サービス部東海サービスグループマネージャー
川田達也さん機械サービス部第四グループ
尾崎昌輝さん

チェンジミーティングに参加して、自分自身が変化した実感はありますか。
川田さん(以下、K):あります。以前に比べ、部下とのかかわりや関連部署とのかかわりを意識して行動するようになったと思います。
尾崎さん(以下、O):私も自分自身の変化を感じています。従来は担当案件に特化して業務を行っていましたが、チェンジミーティングを通じて、自分たちで部門の将来展望や目標を検討したことで、視野や思考を広くもてるようになりました。また、そこから立ち上がった取り組みを部門やチームで力を合わせて運営し、成果や実績ができたことで、現在の施策やメンバーとのかかわりに少し自信がもてるようになりました。

チェンジミーティング前後で、自グループにも変化があったと思いますか。
K:グループとしても変化した実感があります。メンバーが自分の時間を確保して、グループ内のいろいろな問題の解決にあたったり、マネージャー補佐としての行動をとるようになりました。
O:私は、どちらかというと変化したという感じです。まだグループ内の全員ではありませんが、自部門や自身の将来のことを考えながら、新しい取り組みを行ってくれているメンバーが増えてきました。

チェンジミーティングのなかで学んだことや決定したことで、いまも役立っていることはありますか。
K:1本読み(紹介された書籍)、2参画する/させること、3ワークアウトし新しいことを始めること、4ルーティン化によって行動を定着させること、5目標展開構想の適用、といったことです。
O:メンバーのことを考えて業務を行うことの大切さや、メンバーが部門の施策立案や活動に直接関与し、取り組む場ができたことによって、日ごろの業務への動機づけが明確にできるようになっていることです。

▼ 会社概要

社名 メタウォーター株式会社
本社 東京都千代田区
設立 2008年4月
資本金 119億4,670.8万円
売上高 1,116億8,800万円 (2017年3月期、連結)
従業員数 2,889人(2017年3月31日現在、連結)
事業案内 上下水・再生水処理等の水環境分野の各種装置類、電気設備等の製造販売、各種プラントの設計・施工・請負
URL http://www.metawater.co.jp/

(左)
執行役員 経営企画本部
人事総務企画室長
藤井泉智夫さん

(中央)
執行役員
サービスソリューション事業
本部長
清水誠さん

(右)
経営企画本部
人事企画部
採用・能力開発グループ
井出浩輔さん


 

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