事例 No.060 SCSK 特集 マネジャー教育最前線
(企業と人材 2016年6月号)

管理職教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

被災地東北への訪問を含む約1年間のプログラムで
組織のリーダーとして必要なマインド・スキルを学ぶ

ポイント

(1)2014年度から次世代リーダーの育成に向けて、部長・課長を対象に、約1年間かけて必要なマインド・スキルを学ぶプログラムをスタート。

(2)2014年度は、女性管理職を対象に「エグゼクティブ・ダイバーシティ・プログラム(EDP)」を実施。続く2015年度は、将来の男性本部長候補と女性部長候補を対象とした「エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)」を実施。

(3)プログラムの前半に東日本大震災の被災地への訪問を行い、現場で難題に挑み続けているリーダーたちとの対話をとおして、リーダーに必要なマインドを学ぶ。そのほか、経営全般の基礎知識やリベラルアーツを学ぶ研修を実施。

企業理念を策定し社員の意識を統一する

2011年に住商情報システム株式会社(SCS)と株式会社CSKが合併して誕生したSCSK株式会社。「ITに関するすべてのサービスで、ビジネスの新価値創造とグローバル展開をサポート」する企業として、ソリューション事業、ビジネスサービス事業など4つの機能別事業と、金融システム事業、通信システム事業など4つの業種別事業を展開している。社員数は単体で約7,500人。そのうち約8割がIT技術者、IT営業などのIT人材だ。
経営理念は「夢ある未来を、共に創る」。そして、「私たちの3つの約束」として、「人を大切にします」、「確かな技術に基づく、最高のサービスを提供します」、「世界と未来を見つめ、成長し続けます」を掲げている(図表1)。

図表1 TTDC の人材育成の全体イメージ

図表1 TTDC の人材育成の全体イメージ

この経営理念は、企業として発展していくためには、社員の意識を1つにすることが不可欠だとして、合併を機につくられたものである。同時に、これらを実現するための3つの行動指針、「Challenge」、「Commitment」、「Communication」も定められた。
ちなみに、評価基準や資格等級制度などの人事制度も、経営理念と行動指針の考えに基づいて、合併から半年後に統合、整備された。
同社の求める人材像は、この経営理念と行動指針を体現する人である。そして、「人=財産」、「社員全員の成長が企業の成長」であるとして、きめ細かな人材教育を行っている。
なかでも組織の中心となり、重要な役割を果たすのは、経営者であり、部長・課長などの管理職である。経営者・管理職の品質を高めることが、社員の品質の向上、商品・サービス品質の向上につながり、顧客満足、業績向上、株主満足につながっていくという原理原則を、研修などにおいて繰り返し徹底している。
同社の教育体系は図表2のとおり。大きくは「、マインド(人間力)」、「スキル(仕事力)」、「グローバル」の3つに分けられており、そのなかで、「マネジメント・階層別研修」、「共通能力研修」などが実施されている。また、社員の大半がIT人材であるため、専門性レベルに応じた「専門能力研修」が重要視されている。

図表2 SCSK の教育体系

図表2 SCSK の教育体系

管理職に対する教育としては、「理事研修」、「部長研修」、「課長研修」、「リーダー研修」を実施。また、管理職になる前段階では「基幹職研修(新任)」、各種「ビジネス研修」などを行っている。
部長研修、課長研修は、(1)マネジメントリーダーシップの原理原則の共有、(2)「部を経営する」考え方の醸成(部長研修)、(3)取り組んだ事例の徹底的なディスカッション(課長研修)などが中心だ。とくに合併後は、全員が同じ価値観を共有し、同じ方向に向かっていくために、全部長・課長を対象に研修を実施したという。

リーダーに必要なスキルを1年間かけて学ぶプログラム

以上のような部長・課長に対する研修に加えて、新たに始めたのが、「エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(以下、EMP)」である。
これは、将来の本部長クラス人材の育成と、経営に必要な大局的な視座の養成を目的にスタートしたもので、そのための土台となるリベラルアーツなど、次世代リーダーに必要なマインドやスキルを、約1年間かけて学んでいくというものだ。
「将来を担う次世代経営リーダーを時間をかけて育成していくことの必要性は、どこの企業も認識していると思います。そのためにはまず、大局的な視座を高めていくことが必要ではないかと考え、このプログラムをつくりました」
こう説明するのは、人事グループ人材開発部長の杉山敦さん。
このプログラムは2014年度に始まったが、そのときは、今後の女性管理職増加などを見据えて、女性の部長職および部長候補層15人を対象に、「エグゼクティブ・ダイバーシティ・プログラム(以下、EDP)」として実施した。
ちなみに同社は、「女性が輝く先進企業2015」(内閣府)で「内閣総理大臣表賞」を受賞している。女性管理職比率が4年間で4倍に増加したこと、女性役員・管理職の数値目標を設定し、階層別選抜型研修など計画的な育成・登用に取り組んでいること、働き方改革を断行し、残業削減、年次有給休暇取得率向上を達成していることなどが評価されての受賞だ。
EDPは、2014年10月〜2015年11月までで、図表3のようなスケジュールで実施した。

図表3 2014 年度 EDP のスケジュール

図表3 2014 年度 EDP のスケジュール

続く2015年度は名称をEMPとして、対象を女性に限定しない、経営幹部育成プログラムとして実施した。受講者は、男性10人(部長以上)と女性4人(課長以上)の合わせて14人。期間は、2015年8月〜2016年8月までの約1年間だ。EMPの全体スケジュールは図表4のとおりである。

図表4 2015 年度 EMP のスケジュール

図表4 2015 年度 EMP のスケジュール

2015年8月のキックオフからプログラムはスタート。その後、詳しくは後述するが、東日本大震災の被災地を訪問。そして、外部機関を活用した経営の全般知識を学ぶ研修を経て、プレゼンテーション研修、リベラルアーツ研修、経営リーダーワークショップなどを行う内容となっている。
「経営全般の基礎知識」は、ミニMBAといった内容で、マネジメントの知識やスキルを再確認し、ブラッシュアップすることを目的としている。就業後に外部ビジネススクールに通い、経営に必要なさまざまな知識を学んでいく。ここでは、研修をとおして異業種の人たちと交流することも含まれている。
「プレゼンテーション研修」は、伝える力を養うためのもの。ただし、単なるプレゼンテーションではなく、基礎と実践を組み合わせて、傾聴、コーチングといった部下育成に必要な内容も学んでいく。
4月からは、宗教、哲学、歴史などを学ぶ「リベラルアーツ研修」となる。リベラルアーツとは、古代ギリシャで生まれた概念で、「人を自由にする学問」という意味。幅広い知識を身につけ、さまざまな考え方を知ることで、より創造的な発想が可能になるとする。現代では、大学で身につけるべき基礎的教養科目のことを指す場合もある。
前年度のEDPでも地政学・構造主義などを学ぶリベラルアーツ研修を実施したが、経営人材にはより幅広く深いリベラルアーツの知識が必要との考えから、2015年度は大幅に充実させ、外部の講師、機関を活用した内容となっている。
その後、役員からの講話、外部講師による「経営リーダーワークショップ」を実施。プログラムの最後は、経営トップに向けて1年間で学んだことをプレゼンテーションして修了となる。

被災地を訪問し、現場のリーダーに学ぶ

EDP、EMPのプログラムのなかでとくに目を引くのは、前半に実施している「東北被災地訪問」だ。
これは、東日本大震災の被災地・岩手県に行き、
(1)東北復興のハード・ソフト両面での現状と課題を感じ、復興にかける想いと行動を心で感じ取る
(2)復興に向けて難題に挑み続けるリーダーとの対話をとおして、価値創造のために求められるリーダーシップや高い人間性を磨き上げる
(3)深く自己を内省し、自らの存在価値やSCSKで実現すべき価値創造や組織開発への使命を再認識する
ことを目的として実施しているものである。
東北ではいまも、日々復興のために悪戦苦闘しながら、課題に取り組んでいる人が少なくない。そういったリーダーとの対話をとおして、自分自身の課題と向き合い、リーダーシップを磨いていく。
「EDPもEMPも1年をとおしたプログラムですので、かなりハードです。その前半に、東北被災地訪問を行うことで、プログラムの目的をしっかりと理解してもらい、経営人材、真のリーダーへのマインドセットを促しながら、これから一緒に学んでいく人たちとの仲間意識や一体感を醸成しています」
図表5は、EMPの東北被災地訪問のスケジュールである。このときは前泊を入れて2泊3日で実施した。

図表5 2015 年度 EMP の東北被災地訪問

図表5 2015 年度 EMP の東北被災地訪問

1日目は移動のみで、2日目からが本格的な研修となる。
まずは、津波で大きな被害を受け、いまも復興の真っただ中にある岩手県陸前高田市の市内を視察。その後、地元で復興まちづくりに取り組んでいる企業の代表者や、同地で復興事業に取り組んでいる大手ゼネコン、地元でワイナリーを営んでいる人に話を聞いた。
大手ゼネコンの統括責任者の方からの講話は、実際にまちづくりを行っている工事現場の視察も含めて行われたそうだ。
「その会社は外部支援として、陸前高田市のまちづくりに携わられていますが、そのときはまだ、山を切り崩して土地の嵩上げをしているところで、その現場への視察も含め、いろいろとお話をお聞きしました。見渡すかぎり何もない広大な土地を前に、受講者たちは被害の大きさを実感していました。講師の方からは、復興に携わる企業としての思いや、巨大プロジェクトのマネジメント運営についてのお話をうかがいました」
受講者からは、ビジネスリーダーとして日ごろ自分たちが感じていることに関連する質問も出ていた。多くの企業・人がかかわる大プロジェクトを回していくうえでの思いや仕事にかける熱意、覚悟なども聞くことができ、受講者の心に深く響いていたという。
2日目の宿泊先は、釜石市にある、津波の被害から復旧を果たしたことで有名な旅館。
3日目は、大きな被害が出た大槌町を、語り部ガイドの案内で視察。津波で廃墟になった役場など
を見て、受講者たちは復興への道程の困難さや、それに立ち向かっている地域の人たちの想いなどを感じとった。その後、NPO法人や地元ホテルの代表に話を聞いた。

リーダーに求められる情熱や使命感を肌で感じる

「お会いした方々はさまざまな方法で復興をめざして取り組んでおり、リーダーシップの形もそれぞれ違いました。しかし共通していたのは、震災後、しばらくの間は茫然自失といった状態だったところから、やるべきことをみつけ、それに対して信念をもって粘り強く取り組んでいたことです」
3日目、すべての行程を終えて盛岡駅へ向かうバスのなかでは、全員で振り返りを行った。振り返りでは、「リーダーにとって大切なこと(その理由)」と「これからの約束」を、一人ひとり発表していった。受講者からは次のような声があがったという。
・今後はリーダーとして「最善を尽くす」ことを率先して実行していきたい
・挑戦の機会をつくっていかないといけない。若いパワーを摘むことなく、しっかりと耳を傾けて、仕事を任せていきたい
・部下の気持ちに寄り添い、タイミングよく示して、ヒト・モノ・カネをしっかりと有効活用できるリーダーになりたい
・リーダーには情熱が大切。情熱をもって部下に語りかけていきたい
・覚悟を決めた人には重みがある。リーダーとして志をもち、ぶれない心が大切だと痛感した
・組織においてリーダーが培うべきは、「使命」と「信頼」であることを深く学んだ
このほかにも、「情熱をもって取り組む」、「使命感」、「矜持」などの言葉が、受講者から多く出ていたという。
「リーダーにとって大切なのは、やはり信念であり、粘り強く取り組む姿勢だと思います。受講者も、東北への訪問をとおして、そのあたりを肌で感じてくれたようです。一見、あたり前のようなことですが、日常とはまったく異なる場を体験し、実際に触れることで、気づきが深くなると思います。」
受講者同士の仲間意識を醸成するという点についても、良い効果が出ていた。受講者同士はそれまでほとんど接点がなかったそうだが、3日間の東北での研修をとおして、自然と距離が縮まっていったという。
また、EMPは男女混合としたことで、男性・女性のよいところ、見習うべきところをみることができたという面もあった。物怖じせず活発に質問する女性や、リーダーシップを発揮する男性に刺激を受けるなど、お互いに切磋琢磨している様子がうかがえたという。

モチベーションを高めながらやり遂げられるように支援

EMPはいまも実施中だが、受講者には大きな成長がみられている。たとえば、将来に向けて広い視野がもてることはもちろん、研修のなかで経営層と身近に接することで、自社や経営の考えをより深く知ることができたり、仕事に対して覚悟や自信をもったりといった効果が出ている。この研修に参加することが昇進の条件ではないが、結果として、ポジションが上がった人も多い。
しかし、通常業務を行いながら、1年間のプログラムを受講するのは容易ではない。そのため事務局では、全員が最後まで続けられるようさまざまな支援をしている。

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「東北での研修もそうですが、みんなで一緒に最後までやり遂げられるよう、受講者のモチベーションを高めるものを随所に入れるようにしています。たとえば、就業後に外部機関に3カ月間通う経営全般の基礎知識や、リベラルアーツ研修のプログラムはかなりハードなので、その前には懇親会を設定しています。そうすることで、受講者同士のつながりが強くなり、将来的に社内人脈の強化になってくれればという期待もしています」
EMPのプログラムは、今後も続けていく予定だ。2016年度の内容もほぼ固まっている。
「今後は、リベラルアーツのプログラムをもっと本格化させていきたいと思っています。また、自己分析を深めたり、継続してチェックし改善していけるような取り組みも考えています。基本の形は変えない予定ですが、状況をみながら、これから考えていきたいと思っています」
以上、SCSKの部長・課長を対象としたEDP、EMPについて述べてきた。いうまでもなく、管理職の育成は企業にとっての最重要事項の1つである。東北での熱い想いをもったリーダーとの対話とさまざまな研修で、リーダーとしてのマインドやスキルを学び、視座を高めている同社の育成方法は、参考になる点が多そうだ。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 SCSK株式会社
本社 東京都江東区
設立 1969(昭和44)年10月
資本金 211億5,200万円
売上高 3,239億円(2016年3月期 連結)
従業員数 11,769人(2016年3月末 連結)
平均年齢 41.9歳(2016年3月末 単体)
平均勤続年数 17.0年(2016年3月末 単体)
事業案内 製造システム、通信システム、金融システムなどのシステム開発、ITインフラ構築、ITマネジメント、ITハード・ソフト販売など
URL http://www.scsk.jp/

人事グループ
人材開発部長
杉山 敦さん


 

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