事例 No.163 ラオックス 特集 語学教育の最前線
(企業と人材 2018年11月号)

語学教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

英語・中国語・日本語の教育を教材づくりから完全内製化
販売の現場で武器となる外国語習得をめざす

ポイント

(1)2015年に「ラオックス大学」を設立し、語学教育を強化。全社員を対象に、英語・中国語・日本語の3カ国語で接客できるレベルをめざす。

(2)外部の語学学校などに委託せず、専門の人材を採用したうえで、教材開発もレッスンもすべて内製化。現場でよく使われる言葉や言い回しを販売員にヒアリングし、オリジナルのテキストに取り入れる。

(3)語学習得を昇格要件に組み入れ、学ぶ意欲を高める。スマホ用の学習コンテンツ提供や「朝活」、朝礼での「3分間レッスン」など、日常的に外国語に触れる機会を設ける。

 老舗の “外資ベンチャー”、インバウンドの次をめざす

ラオックス株式会社は、1930 年に谷口商店として創業。1976 年に現在の社名となった。家電量販店として業績を伸ばし、2000 年前後には、東日本にフランチャイズを含め最大 150 店舗まで拡大。「日本でいちばんパソコンを売った家電量販店」として知られるようになった。
ところが、2007〜2008 年になると、家電の価格競争が激化。体力勝負を強いられ、同社も店舗の統廃合を余儀なくされた。そして、リストラクチャリングを進める過程で2009 年に中国の蘇寧電器(現在の蘇寧易購)の出資を受け、ここから総合免税店へと大きく事業の舵を切った。2015 年には、「爆買い」という言葉が、ユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞に選ばれ、同社の羅 怡文代表取締役社長が受賞。「インバウンドといえばラオックス」という世間の評価が定着した。

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しかし、同社はインバウンドだけの会社ではない。近年は新しい分野に積極的に進出し、事業の多角化を進めてきた。
たとえば、生活・ファッション事業。株式会社オンワードホールディングスと合弁会社を設立したり、婦人靴のオギツやカタログギフトのシャディを子会社化し、SPA(製造小売業)の構築、オムニチャネル展開を進めている。デベロップメント事業では、千葉ポートタウンをはじめとする各地で開発を行い、地域活性化にも貢献。エンターテイメント事業にも取り組み、劇場や飲食店の運営、京都の観光タクシー会社への出資なども行っている。
人事総務部部長の土田直樹さんは、「われわれは、インバウンドの次をめざしています」と明言する。その実現のためには、ただ接客・販売ができればよいわけではなく、新しいことに積極的にチャレンジする人材が必要となる。採用活動では、入社を希望する学生に対して、「90 年弱の歴史のある会社だが、外資系のベンチャー企業だと考えてほしい」と説明しているそうだ。

 2015年に社内大学を設立、語学教育を完全内製化

同社は、2015 年4月、社内研修をワンストップ化した「ラオックス大学」を設立した。中心となるのは、英語・中国語・日本語の3カ国語を学ぶ語学教育と、おもてなし・マナーなどの教育だ。社長を含む全社員が対象で、母国語以外の2カ国語でも日本の魅力、商品の魅力を伝えられる人材を育成するとしている。
社内大学の設立を強く望んだのは羅社長だ。当時は、いま以上に2015 年に社内大学を設立語学教育を完全内製化免税店でのリテール(小売)事業が中心だったので、接客・販売力の強化が必要との判断だった。
また、もう1つの背景として、2014 年以降、新入社員比率が急激に高まったことがある。2014 年当時の正社員数は 200 人前後。そこに、店舗数の拡大とともに、2014年は約 50 人、2015 年は約 100 人、2016 年は約 200 人もの新入社員が入社したため、教育体制の拡充が求められていた。
ラオックス大学の設立に伴って入社し、中国語講座の講師を務め、自社教材の開発・作成も担当する人事総務部ラオックス大学マネージャーの梁羽さんは、次のように説明する。
「当社は中国からのお客さまが多いので、まずは中国語をしっかり教育しようとスタートしました。また、グローバルな会社ですので英語も必要です。さらに、外国人社員が日本のお客さまに接客するときに、日本人並みのおもてなしを提供するため、少し遅れて日本語の教育も開発しました」じつは社内大学を設立する以前の 2013〜2014 年ごろは、外部の語学学校に依頼して中国語の研修を行っていたが、十分な効果は得られなかったという。
「語学学校での教育は一般的な内容で、この会社の社員が現場で必要とする言葉を教えるものではありませんでした。外部の人には、当社の現場でどんな言葉が必要かはわかりません。社内で教材を開発すれば、現場で活用できる言葉を教えることができます。それが、内製化の一番のメリットです」(梁さん)
「外部の講師では、商品説明の仕方などまで教えるのは難しいでしょう。また、社外の語学学校で学ばせるには、時間的制約もありました。社内で行えば、就業前や休憩時間にも教育ができます」(土田さん)
こうした考えから、外部に委託するのではなく、教材作成も講義もすべて内製化することにした。講師は、これまでの最も多いときで中国語3人、英語3人(非常勤を含む)、日本語1人の計7人。各言語の専門人材を社員として採用し、文字どおり一からプログラムを作り上げた。梁さんも大手語学学校で中国語講座の教材開発責任者を務めた経験をもち、同社の「自社独自の中国語教材をつくる」という仕事に魅力を感じて入社してきたのだという。

ラオックスの自社製語学テキスト

▲ラオックスの自社製語学テキスト

 全社員に中・英・日の3カ国語を習得させる

ラオックス大学は、原則としてグループ全体を対象とするが、現時点では、国内リテール事業を行う同社と、飲食事業など一部のグループ会社の社員が受講している。
ラオックス単体では約 80%が販売員だが、売り場に立つ販売員だけでなく、本社勤務を含む全社員に3カ国語を習得させる方針だ。本社の社員は、中国の親会社ともやりとりをするし、今後、中国市場の事業に携わる可能性もある。また、春節(中国の正月)などの繁忙期には、首都圏の店舗の応援にも行く。
中国語講座は現在、入門、基礎、全社員に中・英・日の3カ国語を習得させる初級の3コースが設置されている。「入門」はまったくのゼロから学ぶコース、「初級」は一般の語学学校の初級コースに相当する。前述のとおり、内容は販売員の業務に即したものとなっており、店舗でよくお客さまに聞かれる単語や言い回しなど、日常業務ですぐに使える言葉を学ばせるのが特徴だ(図表1)。

図表1 ラオックスの自社製中国語テキストの一例

ラオックスの自社製中国語テキストの一例

入門はT1〜3、基礎はT4〜6、初級はT7〜9と、各コースはそれぞれ3つのステップに分かれており、1ステップは 10 回のレッスンで構成される。
1回のレッスンは、当初は 80分としていたが、現場の状況に配慮し、1時間に短縮したという。各コース(10 回×3ステップ)とも1年間で修了するカリキュラムになっているため、トータル3年間で入門〜初級までを学ぶことができる。
次に、英語講座についてみると、中国、アジアからの留学生も日本の学生も、入社した時点ですでに一定の英語教育は受けている。そこで、中国語のように入門コースからではなく、初級、中級の2コースを設定した。そのほかは中国語講座と同様で、各コースが3ステップに分かれ、1ステップは1時間× 10 回という構成である。
最後に、日本語講座についてだが、これを始めた背景から紹介しよう。同社は海外からの留学生を多数採用しているが、皆、日本語検定で最上位の N1レベルに達しており、日本語を話せない人はいない。しかし、入社後に販売業務に従事するようになると、ほとんど一日中、母国語での応対に終始することになるため、半年もすると日本語の会話能力が低下してしまうのだという。
また、同社がめざしているのは「日本人並みのおもてなしを提供すること」であり、敬語や言葉の微妙なニュアンス、日本の文化・慣習まで含めて教育している(図表2)。

図表2 日本語テキストの一例

日本語テキストの一例

「たとえば、日本人は人から褒められたときに謙遜しますよね。そんなことは一般的な日本語の教科書には書かれていませんが、めざしているのはそういうレベルです。単純に受け答えができればよいわけではありません。イントネーションも含め、名札を見なければ海外出身とわからないくらいにまで、もっていきたいと考えています」(土田さん)
なお、この講座は、外国籍の社員だけでなく、日本人社員も受講するそうだ。

 多彩な学習ツールで主体的な学びを促す

語学講座は、毎年7月に開講する。基本的には公募制となっており、まず全社員が語学レベルのチェックを受け、自分のレベルや仕事の状況を踏まえて講座・コースを申し込む。社員はすべて無料で受けることができる。
受講は強制ではないが、各言語の習得は昇格要件となっている。各コースでは、ステップが終わるごとに、ネットでの筆記テストと講師による口頭テストが行われる。これに合格すれば合格証明書が発行され、資格等級ごとに求められるレベルに達していれば、昇格・昇進試験の語学試験が免除される仕組みになっている。合格できなかった場合は、そのステップをもう一度受講するか、自分で勉強して再受験することもできる。
実際のレッスンの提供方法については、まず首都圏の店舗(11 店舗)では、講師が本社から店舗に出向き、会議室や休憩室などを使ってレッスンを行っている。首都圏以外の店舗の場合は、ウェブ会議システムを使って対面式と同様のレッスンを実施している。
独習のためのツールもいくつか開発されている(図表3)。教材には、課ごとに QR コードがつけられており、コードを読み取るとその課の講義が動画や音声で再現されるようになっている。

図表3 多彩な語学学習機会の提供

多彩な語学学習機会の提供

また、通勤時などの隙間時間にも学習できるように、スマートフォン用のアプリを用いた教材も開発した。ラオックス大学のサイトに、15 分ずつにまとめた学習コンテンツを多数用意し、ちょっとした空き時間にも学べるようにした。当初は動画のコンテンツのみだったが、「電車で見るのはちょっと気恥ずかしい」という社員の声に応え、音声のみバージョンも用意したという。
さらに、本社では「朝活」と称し、始業前の 30〜40 分間、コーヒーを飲みながら気軽に語学を学ぶ、自由参加の講座を開催している。毎週火曜日と木曜日は英語、水曜日に中国語、金曜日は日本語で、新聞記事などをテーマにフリーディスカッションをする。参加者のニーズに応じて、たとえば一定以上の中国語を身につけた人が集まり、中国語による宣伝の方法を議論するなど、業務のレベルアップを図る場にもなっている。
毎朝実施されている朝礼においても、英語と中国語に触れる機会を設けている。週1回ずつ、中国語と英語の「3分間レッスン」を行っており、時節に合わせて、たとえば「春節のあいさつ」など業務に役立ち、皆が興味をもちそうなことを講師が紹介する。この内容も、毎回、イントラネットで全社に公開されている。
ここまで多彩に英語や中国語に触れる機会を設けているのは、社員の語学学習に対する心理的なハードルを下げ、学ぶ意欲を高めてもらうためだ。
「常に英語や中国語が身近にある状態をつくり、意識づけをしています。語学は、触れる機会がないと、どんどん力が落ちていってしまいます。毎日触れることで、いまの自分の力もわかり、学ぶ必要性を感じてもらうことができます」(土田さん)

 現場の声を反映させ、教材を日々進化させる

前述のとおり、教材には、現場でよく使われるフレーズや表現がふんだんに盛り込まれている。
梁さんは、レッスンのなかで、また現場の社員と話をするなかで、必要とされているフレーズなどを集め、教材に反映させていったという。
「現場の人と話しながら、必要な内容を教材に盛り込んでいます。レッスンのときに『中国のお客さまにこんなことを聞かれて困った』といった具体的な場面を教えてもらい、教材に反映しています。
たとえば、インバウンド関連用語のコーナーは、現場で 30 年働くベテラン販売員が、受講後アンケートで教えてくれたものです」(梁さん)
「2015 年の爆買いブームからたった3年ですが、お店で売れている商品のトレンドは大きく変わりました。当時は家電製品が売れていましたが、いまは理美容品が中心です。テキストに炊飯器に関する用語が載っていても、最近はあまり有効な武器にはなりません。
言葉として適切であるということも大事ですが、実際に現場で使える武器となるよう、常に教材を改善しています」(土田さん)
このほか、グループ会社の社員向けに、タクシー運転手用、飲食店スタッフ用の教材も開発した。昨年は、グループ会社が上海に日本料理店をオープンすることを受け、料理人がカウンター越しに接客する際に使う言葉(これは『〇〇産の鱧です』など)の教材や、電話で予約を受けるおかみさん向けの教材まで作成したという。
「現場で使える教材を提供することで、『忙しくても、自分の販売実績になるので勉強したい』と思えるようにしています。社員の皆さんは、仕事をしながら大事な時間を使って勉強していますので、われわれも外部の語学学校以上のものを提供しないと、皆さんの時間がもったいないです」(梁さん)

 今後はマネジャーの育成責任を明確化

学習効果もだんだんと現れてきている。それまで海外とのメールのやりとりではラオックス大学の講師に翻訳してもらっていた日本人社員が、自分で中国語や英語の返信文を作成し、講師に「これであっているか、見てもらえませんか」と持ってくるようになった、などのケースが増えてきたという。
日本語講座のアンケートでも、「朝礼や店長の指示が正確に聞き取れるようになった」、「日本語で報告レポートを書けるようになった」、「日本語の誤用を直すことができた」などの声が寄せられている。
ただ、仕事をしながら1ステップ 10 回の講座を続けるのは容易ではない。中国語講座の全コース修了者はまだ 30 数人で、途中で挫折する人も少なくない。
「店舗では、目の前にお客さまがいますので、“忙しい”ということが、本人にも店長にも言い訳になり得ていました。そこで、各店舗の KPI の1つに 『店員に対する教育』 を加え、人を育てることもマネジメントの役割だと明確にしました。今後は、部下に適切に教育を受けさせているかどうかが店長の評価ポイントとなるわけです。
ラオックス大学のサイトでは、店長が店員を教育するためのツールも提供しています」(土田さん)
また、国内にとどまらない広い視野をもたせるため、中国の市場を視察するなど、語学教育以外の研修も企画し、グローバルなマインドを身につけさせることも検討している。
「グループの事業ポートフォリオが広がっているなか、各社員が働きがいを感じ、活き活きと活躍できる場やツールを提供し続け、会社として発展していきたいと考えています。
そのためにも、組織をけん引するリーダーは、メンバーの育成に責任をもち、チームとして成果を上げていってほしい。一般の社員も、常に成長し変化し続け、多様な国の人、多様な事業が組織や事業の枠にしばられずに協力し合い、スピーディーに行動していける組織をめざしています」(土田さん)

(取材・文/崎原 誠)

 

▼ 会社概要

社名 ラオックス株式会社
本社 東京都港区
創業 1930年5月
資本金 226億円
売上高 642億円(2017年12月期)
従業員数 単体775人、連結1,557人(2017年12月現在)
平均年齢 34.1歳
事業内容 リテール事業、生活ファッション事業、エンターテイメント事業、SCディベロップメント事業
URL http://www.laox.co.jp/

管理本部 人事総務部
ラオックス大学 マネージャー 梁 羽さん(左)
管理本部 人事総務部 部長 土田直樹さん(右)



 

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