事例 No.162 アサヒビール 特集 語学教育の最前線
(企業と人材 2018年11月号)

語学教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

「3カ月間講座を受けて試験」というPDCAサイクルを繰り返し
モチベーションを保ちながら集中して語学を学ぶ

ポイント

(1)グローバル化に伴い、語学力向上の気運が高まる。3カ月間のオンライン英会話サービスとTOEICの受験を1セットとし、年3回のスパンで、自由に選択可能。いつでも始められる常設のオンライン英会話も別途設置して、個々の事情に合わせたカスタマイズ性をさらに高めている。

(2)講義を学び、試験を受けるサイクルを経ることで、自身の実力を実感し、モチベーションを保ちながら集中して取り組む環境が自然と構築される。

(3)各期の講義はTOIEC対策、スピーキング強化など内容が異なり、すべて受講することで英語力を総合的に底上げできる。常設の講義も別途設置。

グローバル化の急激な進展に語学力向上の気運が高まる

酒類の市場は人口減少の影響もあり縮小傾向にあるが、そんななかでも、アサヒビール株式会社の「スーパードライ」は相変わらず人気の商品だ。糖質ゼロの発泡酒「スタイルフリー」、新ジャンルいわゆる第3のビール「クリアアサヒ」など、それぞれのカテゴリーに加え、ビール以外でも、RTD、洋酒、焼酎、ワインなど幅広い商品ラインナップを揃えている。また、飲料、食品事業を手がけるアサヒグループの他の事業とのシナジーも、同社の強みといえる。
これまでは国内市場が中心だったが、2016年から17年にかけて欧州の複数のビールブランドを買収したことに加え、今年からはイタリアでスーパードライの生産を始めるなど、海外展開に力を入れ始めている。
以前から酒類、飲料事業を展開している中国、オセアニア、東南アジアも含めて、いま同グループは、急激にグローバル化を進めている最中だ。海外事業の比率が高まったことにより、アサヒグループ全体では、約6割が外国籍の社員になったという(図表1)。

図表1 アサヒグループの地域別社員数の推移

アサヒグループの地域別社員数の推移

同社には、これまでも海外拠点があり、部署としても国際部などがあった。しかし、英語が必要となるのはそうした拠点・部署の一部の社員であり、もともと英語ができる人がそういった拠点や部署に配属されることが多いため、一般的な社員にとって英語はさほど必要性の高いものではなかった。
そのため英語教育についても、TOEICの受験料を補助する制度などはあったものの、あまり関心の高いものではなかった。
しかし、急激なグローバル化が進み、関心の高まりとともに、新しい取り組みが始まったところだという。現在、同社の英語教育を主導している、人事部秘書室の生山香織さんはこう語る。
「語学をスキルとしてとらえるという点では、以前から、管理職になる要件の1つとして、CASEC(キャセック:日本英語検定協会が開発した、インターネット上で受験できる英語コミュニケーション能力判定テスト)の受験がありました。ただ、これは受験するというところまでで、何点取らなくてはならないといった基準はありませんでした。
しかし、ここ数年のグローバル化の急激な進展を、社員は肌で感じるようになり、英語教育に対する関心が高まってきました。また、今後は海外に赴任する社員はもちろん、逆に海外からやってくる社員も増えることになるでしょう。そんな状況下で、英語教育は急務だと思いました」
生山さんは人事部のなかでも秘書室の所属で、秘書業務を主に担当してきた。だが、そうした思いから、社員全体の英語力を底上げするために英語教育に取り組むことを上司に提言。了承を得てプロジェクトを担当することになったという。
このように自発的な提言などを受けて、取り組みやプロジェクトがスタートすることは、同社では珍しくなく、いろいろなことにチャレンジさせる風土があるのだという。

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いつでも、どこでも、同じ教育をメリハリをつけて学ぶ

では、どのような取り組みが行われているのか。英語教育をスタートさせるにあたり、プラットフォームとして利用したのが、昨年1月に整備された、同社の社内eラーニングサイト、「CareerPalette(キャリアパレット)」だ。
これは、社員が自分のキャリアを描くために必要な、さまざまなツールを提供するものだ。リニューアルによって、元々用意されていたeラーニングの申請・受講機能などに加え、現在の職種や職位で求められるスキルが確認できるようになったり、一人ひとりに沿ったおすすめのコンテンツを確認できるように改めた。そのほか、職場のOJTやキャリア面談をサポートする機能なども搭載して、使い勝手を各段にアップさせている(図表2)。

図表2 CareerPaletteの画面

CareerPaletteの画面

このリニューアルに合わせて、同サイト内の「自己啓発支援プログラム」の1つとして、オンライン英会話サービスを試験的に入れたのが取り組みのスタートだった。
利用するサービスは、Skypeを利用してネイティブスピーカーの講師と1対1のレッスンができるというもの。
この試験導入では、3カ月30回のコースで、費用は半額会社負担という条件で募集を始めたが、人気が高く申し込みが殺到した。
また、特筆すべきは、オンライン英会話の受講だけではなく、3カ月間オンライン英会話を受講したあと、CASECを受験するところまでをセットにし、それで修了という形で一区切りつくようにしたことだ。
「ずっとオンライン英会話だけを続けてもいいのですが、長い期間続けていると、どうしてもメリハリがなくなり、モチベーションの維持が難しくなります。3カ月学んで、その成果をテストし、一区切りとしたほうが、明確な目標として、集中したり、受講の計画を立てやすくなると考えました」
実際、このトライアルでは、結果として、90%以上の受講者が最後までやり切ったそうだ。
また、オンライン英会話を導入したのは、公平性の確保も大きな理由だ。集合研修で行う場合、会場は限られ、受講できない社員も出てくる。ましてや、長期にわたり何度も集まるとなると、すべてに出席するのは相当難しい。
しかし、オンラインのサービスなら国内のみならず全世界から利用することができる。実際、海外から受講した社員もいたという。
「弊社は全国に拠点がありますので、『いつでも、どこでも、同じ教育を安価に受講できる』ことを考えた結果、まずはこの形を試してみたのです。人気の理由として、場所を選ばないことも1つの理由だと思います。こうした結果を受けて、オンライン英会話の講座を続けていくことにしました」

年3回ヤマをつくり、それを越えることでPDCAを回す

トライアルの結果を受け、講座を受けて資格試験の受験をする3カ月間、という形を一区切りとする形式で、1月、5月、10月のタイミングで英語教育施策を実施することにした(図表3)。

図表3 英語教育の年間スケジュールイメージ

英語教育の年間スケジュールイメージ

ただし、期により講義の内容はそれぞれ異なり、連動はしていないため、たとえば1月と10月は受けるが5月は受けない、TOIECの受験はしないなど、何を受講するかは自由に選択できる。そうした自由度を確保したうえで、年間を通してすべて受講すると、総合的に語学力を強化できるようになっている。順にみていこう。
1月のプログラムは、トライアルのものと同じオンライン英会話を受講し、講義が終わるタイミングで、TOEICSpeaking&WritingTestと、TOEICListening&ReadingTestを受ける。この際、より広く利用してもらうために、受講や受験時の費用を補助している。前述の「いつでも、どこでも、同じ教育を安価に受講できる」を考えた設定だ。
「Listening&ReadingTestについては、公開テストを利用して、北海道から沖縄まで全国で受験できるようにしました。一方Speaking&WritingTestsは、テスト内容が難しいこともあり、受験人数が少ないことが予想されたため、東京のみでの開催にしました。交通費は社員の自己負担ですが、受験料は補助という形です」次の5月期は、TOEIC受験にあたり、さらに点数アップをねらう人向けに、TOEIC対策講座を導入した。この講座もオンラインの講座で、パソコン、スマホ、タブレットを利用して、いつでもどこでも受講でき、途中で模試も行われる実戦的な形式だ。実際、この期の受講者は、ほとんどの人がTOEICを受験したそうだ。なお、受験の際は、1月期と同様、費用の補助を実施している。
10月期はこれに加えて、トライアルのものとはテーマの異なる別のオンライン英会話コースを実施した。これは3カ月30回のレッスンで、ビジネスに必要な4技能(リスニング、リーディング、スピーキング、ライティング)を総合的に強化する内容だ。どのプログラムも人気が高く、のべ300人以上が受講・受験した。しかも、多くの社員がすべての期のプログラムを受講・受験したという。
「TOEIC対策講座はTOEICのListening&ReadingTestに効果があります。一方、オンライン英会話は、Speaking&WritingTestsへの効果が高いものです。講座を受講してTOEICを受験することは、TOEICの点数という結果を軸に、自身のスキルについてPDCAを回しているようなものといえます。
そして、さらに大きな視点でみると、すべての講座を受けることで、聞く、読む、話す、書くという英語力の総合的な底上げにつながります。そのため、すべてを受講・受験する人が多いのは自然な流れだと思います。
ただ、すべての施策をやりきるとなると、スケジュール的にかなりハードですし、『話す力を高めたい』などの個々人の計画もあります。そうした計画に合わせて選べるようにも設計しました。そして、年間でいつどんなプログラムがあるのかを年初に示すことで、どのように学ぶかを考えることができるようにしています」
生山さんが述べるとおり、社員によっては、ある期ではTOEIC対策の講座だけを受講し、次の期のオンライン英会話を受けて、11月にTOEICの受験をする、というように年間の予定を組み立てる人もいるという。
一方、各プログラムは、期間をきっちり定めている分、モチベーションを保ち、計画的に学ぶには有効だ。だが、その分、途中から何かを追加で学びたいときや、不意に始めたいときには、次の期を待たなくてはいけない。
そこでトライアルで利用したオンライン英会話サービスを常設の講座として設置。希望者はいつでも申し込み、始めることができるようにしている。この講座は、基本3カ月30レッスンという形式だが、1カ月半で30回受講して、すぐにまた申し込むという熱心な社員も珍しくないとのことだ。
「利用しているオンライン英会話は教材がいくつもあり、繰り返し受講しても、同じ内容を繰り返すということにはなりません。
また、1対1でネイティブの先生と話すというスタイル自体が、英語力の向上に大きな効果があると思いますので、仮に同じ内容であっても、高い効果が得られると思っています。そのうえで、サービスを提供している会社には、社員の要望をお伝えして、新規の教材をつくってもらうなど協力体制を取っています。
先方も、想定していなかったニーズを発掘できたといってくれていて、お互いによい形で講座を運営できています」
運営する人事部としても、集合研修のように、その都度講師を探し、会場を手配して、といった運営に関する手間がほとんどないので、メリットが多いという。

課題を改善するなかで社員のニーズを知る

このように英語学習の取り組みを進めるなかでは、意外なことも多かったそうだ。
「なにより社員の関心が、想像していたよりも高かったですね。この取り組みを始めるまで、これほど英語の習得に熱心な社員がいるとは想像していませんでした。
また、研修のスタイルとして、座学よりもオンライン英会話の人気があることがわかりました。企画当初は、社員の要望として、TOEICの点数を上げたいという人が多いと思っていたのですが、実際には話す、聞くというところを学びたい社員が多かったということですね。
ですので、座学でじっくりリーディングやライティングの基礎からスタートするよりも、いきなり話すところに軸を置いた施策を行うのも、1つの手かもしれないと、考えるようになりました」
社員側の反応も、「集合型研修に比べ、オンラインサービスでは、せっかく申し込んだのに、仕事が忙しくて受講できなかったということが少ないので、気軽に申し込める」と、好評のようだ。
受講者アンケートでも、「回数を重ねるごとに会話の内容が理解できるようになり、英会話に対するアレルギー的なものがなくなりました」、「自分の空き時間に実施できるため、時間を効率的に使うことができた。とくに休日早朝から開校しているのはありがたいです」、「外国人と気軽に話す機会となり、リスニング力等を身につけるきっかけになった」など、の声があがっている。
また、面白いところでは、要望として、「ビールやその生産に関する専門用語を覚えたい」といった、同社ならではの専門的な知識についてや、「英語での電話応対を身につけたい」という要望が多かったのも印象的である。

学びに貪欲な社風が学びの効果をさらに高める

ここまで紹介してきたものは、すべて手上げ式で、いまのところ英語学習については、指名式の研修はない。しかも、一部の補助はあるものの、費用については、原則自己負担のものが多い。
それでも受講率が高く、リピーターも出るというのは、自ら学ぶということが社風として浸透していることが大きい。
「たとえば、ワインの資格を取得したり、ウィスキーの資格を取得するなど、自ら勉強するということについて、モチベーションの高い社員が揃った会社だと思います。先輩もいろいろアドバイスをしてくれて、勉強しやすい土壌があります」
そう生山さんがいうとおり、英語についても、部署、性別、年齢などに偏りはなく、さまざまな社員が積極的に学んでいる。50歳代で、連続してTOEICを受けている社員もいるという。
いまのところ、研修を受講したことやTOEICの成績が処遇などに反映される仕組みにはなっていない。これはワインアドバイザー取得など、英語以外の分野でも同様だという。
「ただし、英語ができれば仕事の幅が広がります。弊社のよいところだと思いますが、グループでさまざまな事業を行っているため、いろいろな仕事があって、転職しなくても多様なキャリアに進めるチャンスがあるんですね。そして、望めばそれに挑戦させてもらえることもあります。キャリア面談などでアピールすることで、まったく別の職種の部署に異動することも珍しくありません。
そのため、チャンスを得るために、必要なもの、興味のあるものを自ら学ぶという社風が定着しているのだと思います。とくに英語はこれから仕事の幅が広がる可能性が高いスキルです。アサヒグループ全体では、海外の仕事がますます増えている最中ですから、英語をマスターすれば海外で働くチャンスも広がります。そういった理由もあって、意欲の高い社員が多いのだと思います」
同社では、約1年、今回の取り組みを続けてきたわけだが、もちろん、今後も続ける予定だ。
「今後は、もっとこの研修を定着させたいと思います。まだ始めて1年ですので、続けていると必ず課題がみつかります。それらを少しずつ解決していきたい。それから、担当者が私から替わっても継続できるように、しっかりとした仕組みをつくっていきたいですね。やりたいことがいろいろと出てきています」
今後の課題としては、研修の告知の仕組みも工夫したいという。
受講した人の意欲の高さは実感しているものの、全社的には取り組み自体の周知がまだまだの段階なのだそうだ。
前述の社内サイトCareerPaletteや、メールによる通知なども行っているが、現状では途中で中継する形での告知になったり、伝わらないこともある。意欲のある人に確実に情報を届けるために、全員に直接伝わる仕組みを用意したいと考えている。
また、今回のような語学に関する取り組みは現在、英語のみであるが、他言語でも同様の教育プログラムを広げることを考えていきたいとのことだ。
以上、アサヒビールの英語教育の取り組みについて説明してきた。同社の取り組みは始まったばかりだが、担当者の想定を超えるほどに社員の関心が高いことが取材でも感じられた。
それには、自ら学ぶことがあたり前の社風が大きく影響しているのだろう。どのような講義を導入するかなど、学び方を工夫することはもちろん大切だ。同社の取り組みはその点においても、英語に堪能な担当者が、どうすれば学びやすいかを熟慮しながら学び方を選択した結果、効果の高い学習につながっている。
だが、一番重要なのは、自ら学ぶ社風や風土をつくることなのかもしれない。

(取材・文/小林 信一)


 

▼ 会社概要

社名 アサヒビール株式会社
本社 東京都墨田区
創業 1949年
資本金 200億
売上高 9,689億円(2017年12月)
従業員数 3,241人(2017年12月)
事業内容 酒類製造・販売
URL https://www.asahibeer.co.jp/

人事部秘書室 生山香織さん


 

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