事例 No.171 日本電気 特集 世界で活躍する経営人材の育成
(企業と人材 2019年1月号)

経営幹部育成

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

国内外の社会課題に向き合う「NEC社会価値創造塾」で
リーダーとしてのあり方の内省、行動を促す

ポイント

(1)ICTの力でさまざまな社会課題を解決し、豊かな社会を実現する社会ソリューション事業 に注力するなか、社会価値を創造し続けることのできる社員の育成と組織風土の醸成を めざす。

(2)次世代経営者を育成する「NEC社会価値創造塾」では、社内外の講師らとの対話や、 国内の介護・地方創生の現場、新興国の現場における課題の体感、さらにこれらの体験・ 学びを言語化し、自分がNECのトップになったらどう変革していくかを考える。

(3)創造塾のうち、「現地学習(ラーニング・ジャーニー)」は、ザンビア、フィリピン、日本で実 施。新興国や日本が抱える課題を当事者として体感するエスノグラフィー的アプローチに より、自らの思考の枠組みを問い直し、リーダーとしての内省、変容、成長を促す。

社会価値創造のための 「人財哲学」を策定

1899年(明治32年)にアメリカの通信機器製造会社との合弁により、日本初の外資との合弁企業として創業した日本電気株式会社。創業者は、エジソンとともに働いた数少ない日本人として知られる岩垂邦彦氏で、当時、海外で広がり始めた最先端技術である「電話」を日本でも普及させようと、「ベタープロダクツ・ベターサービス」を基本方針として会社を立ち上げた。そして、技術だけでなく、タイムカードによる時間管理、規律など、経営管理の仕組みも日本に持ち込み、国内の産業界をリードした。

“失敗談”や“改善点”まで踏み込んだ記事を掲載。研修の立案に活用できる『企業と人材』

通信機の輸入販売から製造開発、そして通信インフラ事業へと業容を広げた同社は、戦後、コンピュータ事業にも進出。通信技術がアナログからデジタルへと変化していくなか、半導体事業にも参入し、1977年には、中興の祖である小林宏治氏が「コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合」を意味する「C&C」という新しい概念を提示した。その後、同社はC&Cを企業戦略として発展し続け、1990年には、企業理念として、「NECはC&Cをとおして、世界の人々が相互に理解を深め、人間性を十分に発揮する豊かな社会の実現に貢献します」と明文化。
その精神は、現在も同社に脈々と受け継がれている。
人事部シニアエキスパートの小西勝巳さんは、次のように話す。「ポイントは“C&Cをとおして”という点です。当社は電話から始まり、通信、半導体、コンピュータへと事業を広げてきましたが、そうした事業を通じて、この理念の実現をめざしています」2000年代の始めまでは右肩上がりで成長してきた同社だが、バブル崩壊などで、多くの企業同様、不採算部門の整理や海外事業からの撤退をせざるを得なくなった。「当社はもともと、最先端技術によって世の中のインフラを支えてきた会社であったはずですが、このころには行き過ぎた短期志向の弊害が目立つようになってきました。そこで、あらためて当社の原点を振り返り、長期的な視点をもって事業に取り組むことにしたのです」(小西さん)
そして、C&Cの提唱からちょうど30年経った2007年に、新たな長期ビジョン「NECグループビジョン2017」を策定。「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」をめざすとした。その後、このビジョンに基づき、ICTの力で豊かな社会を実現するための「安全」、「安心」、「効率」、「公平」という社会価値を創造する社会ソリューション事業に
注力していくようになる。
「こうして新たなビジョンに向けて舵を切るにあたり、やはり実際に行動する“人”が重要になってきます。そこで、NECグループ社員の普遍的な価値観である『NECグループバリュー』をベースに制定したのが、“人財哲学”です」(小西さん)
これは、前述のような社会価値を創造し続けることのできる社員の育成と組織風土、文化醸成をめざし、2016年4月に制定されたもの(図表1)。現在、これに基づいて、人財育成だけでなく、ほかの人事の仕組みについても、順次見直しを進めているという。

図表1 NEC グループバリューと人財哲学

NEC グループバリューと人財哲学

人財哲学に基づき「NEC 社会価値創造塾」創設

同社では、グループの事業運営の中核となる経営幹部ポジション(NEC本社の事業部長以上、国内主要関係会社社長、海外の主要ポジション)をグループキーポジションとした。そして、このキーポジションへの登用や後継者育成を計画的に行うタレントマネジメントプロセスのなかで、マネジメント人財の選抜研修も実施している。
2016年7月には、前述の人財哲学の考え方のもと、従来の選抜研修を拡充した「NEC社会価値創造塾」(以下、塾。図表2)を設立。これは、次世代リーダー育成のためのプログラムだ。

図表2 NEC 社会価値創造塾の全体スケジュール

NEC 社会価値創造塾の全体スケジュール

2016年7月には、前述の人財哲学の考え方のもと、従来の選抜研修を拡充した「NEC社会価値創造塾」(以下、塾。図表2)を設立。これは、次世代リーダー育成のためのプログラムだ。
「当社には、海外を含め約10万人の従業員がいます。そうしたなか、ビジョンを実現するには“リーダーの育成”と“ベースの底上げ”の2つが重要で、とくに大事なのは、組織を引っ張っていくリーダーだという認識が、経営陣にはありました(小西さん)
本プログラムの塾長は、代表取締役会長の遠藤信博氏。同社の選抜人財が、社内外のさまざまな講師・ステークホルダーとの対話や社会課題を抱える国内外の現場での体験を通じて内省し、高い倫理観と視座から自らの使命を再認識し、社会価値を具現化する経営を構想し、実行していく力を強化することを目的としている。受講対象者は、グループ全体から選抜された事業部長・部長クラスの社員で、事業部長クラス10人、部長クラス25人(年によって変動あり)となっている。これら対象者の選抜方法について、グループ会社であるNECマネジメントパートナー株式会社の人事サービス事業部シニアエキスパート伊藤洋一さんは、次のように話す。
「グループキーポジションには後任計画を立てており、その後任感し補、社者会が価タ値レを構ン想トしプ、ールになっています。そのなかでも、執行役員以上をめざしてほしい人を塾の受講対象者として選んでいます」人選は、コーポレート人事として設置するキャリアディベロップメントファシリテータ(CDF)が担う。CDFにはNECの事業部長経験者が就任。タレントプール対象者本人に定期的に面談を行い、メンター的にかかわるとともに、その人の仕事ぶりや成長課題等を客観的に把握し、経験させるべき業務や必要な研修を、対象者の所属組織の責任者に提案する。塾の人選も、その一環としてCDFが候補者を推薦し、所属組織と相談のうえ決定する。
「事業部長以上のポジションには、経営者としての視点が求められます。タレントプール対象者がそうした視点をもっているかどうか、CDFが客観的に見極め、所属組織の責任者にフィードバックするという仕組みです」(伊藤さん)

4つのモジュールで 経営構想力や実行力を強化

では、NEC社会価値創造塾の具体的な内容をみていこう。塾は事業部長、部長クラス合同で行われ、7月に開講、翌年2月修了とな2月る。約7カ月のなかで、実施期間は延べ20日間程度。プログラムは「共創学習」、「現地学習(ラーニング・ジャーニー)」、「内省学習(エグゼクティブ・コーチング)」、「NEC変革プロジェクト」の4モジュールで構成されている。
初日の開講式では、まず会長からオリエンテーションがあり、その日の午後に「社史ワークショップ」を実施。自社の歴史を振り返り、会社としての存在意義を考えてもらう。
その後、最初のモジュールである「共創学習」がスタートする。社外からさまざまな分野の講師を招くほか、社内からは経営幹部を講師に、経営体験について話してもらう。そして、こうした人たちを交えたチーム対話を通じ、思考の枠組みを広げていく。
そして、2つめの「現地学習」では、受講生が国内の介護や地方創生の現場、海外の新興国に出向き、社会の変化や課題に当事者として向き合いながら、NECの提供価値を構想する(詳細は後述)。「社会の現実を知らなくては、当然、社会に貢献することはできません。そこで、さまざまな現場に飛び出していく体感型のプログラムを行うことにしました。そして、そこでの学びを言語化して、受講生一人ひとりの血肉としてもらうために、しっかりとした振り返りも行っています」(小西さん)
それが3つめの「内省学習(エグゼクティブ・コーチング)」だ。社外のプロ・コーチによるコーチングを受け、リーダーとしてのあり方を内省し、行動と学習のサイクルを回すことで一歩ずつ自分の枠を超え、拡げていく。
こうした学びを統合するのが、最後のモジュール「NEC変革プロジェクト」だ。ほかのモジュールの学びを統合したうえで、将来のNECの経営を構想し、自分が社長に就任したという想定で、修了式で一人ずつ就任演説をする。
「あくまでも仮の就任演説ですが、答えがないなかで、“自分が当社のトップになったら、会社をこんなふうに引っ張っていこう”という意思をもって取り組まねばなりません。最後はトップである自分が決断するしかない状況を経験することは、受講生が自分の限界を超えて成長することに役立っていると感じます」(小西さん)。

新興国の現場を体感し、 課題を深く認識する

ここでは、この塾の大きな特徴である「現地学習」について、もう少し詳しく紹介しよう。
フィリピン、ザンビア、日本の3カ所で実施し、事業部長・部長クラスあわせて35人が各所に分かれ、それぞれ約1週間滞在した。ザンビアとフィリピンでは新興国が抱えている課題を、日本では人口減少社会における課題に向き合い、現地の人たちと解決策を探っていく。3カ所それぞれが終了し、帰国した後、全員が集まり体験を共有するという流れだ。
こうした学習を実施する背景には、前述のように、同社が社会ソリューション事業に注力し、ICTの力でさまざまな社会課題の解決を進めていることにある。
「これからは、高性能な製品をつくり、どうやって売っていくかというよりも、社会課題を解決するために当社がどんな価値をどんなやり方で提供できるかを考え、新しいビジネスを生み出していかなければなりません。
当然、リーダーにもそうした視点から、社会価値を構想する力をつけてもらう必要があります。そのような人材を育成するためには、今後大きな市場となる新興国が抱える課題を自分自身が体感し、向き合ってもらう必要があると考えました」(小西さん)
この現地学習は、どのように行われたのか。フィリピンでのプログラムをみてみよう(図表3)。フィリピンでの現地学習は、beyondglobal社が提供するプログラムを取り入れ、2018年度は9月に実施された。

図表3 現地学習(フィリピン)の主なスケジュール

現地学習(フィリピン)の主なスケジュール

まず、現地についての事前学習を1カ月にわたって行う。そして、フィリピンでは、初日に半日間、現地の人や講師らと自分自身のこれまでの人生について語り合う等のチームビルディングを実施。2日目は、1日かけて政府系、NGO、社会起業家などと交流し、視野を広げる。
その後、3~5日目まで、現地の人との混成チームでプロジェクト活動を開始。それぞれ「若者の教育と就業機会」、「貧困脱出のためのスモールビジネス」などのテーマに挑む。6日目(最終日)には、混成チームとして社会課題をどうとらえ、今後どんな行動をしていくのか、自分自身が得た気づきなどを発表する。
「フィリピンにおける貧困問題は、さまざまな問題が絡みあっており、簡単には解決策はみつかりません。しかし、答えのない現実のなかで悩みながらも本質を考え続けて決断し、仲間とともに一歩踏み出さねばなりません。じつはそれこそがリーダーの役割なのです」(小西さん)
一方で、ザンビアは、簡単に「課題解決のため」というアプローチ
は難しいという。なぜなら、過去に開発を目的にさまざまな国や団体が入ってきた結果、地域や村のコミュニティを破壊してしまったケースが絶えなかったからである。そのため、「村の課題は何か」というアプローチではなく、「いまやっていることを見せてほしい」というアプローチをしているそうだ。
ザンビアのプログラムは、2018年度は8月に実施。コーディネーターとともに、ストリートチルドレンを支援している施設のほか、病院や現地のベンチャー企業などを訪問し、対話を繰り返した。

現地学習(フィリピン)の様子

現地学習(フィリピン)の様子

▲現地学習(フィリピン)の様子。単なる視察ではなく、現地の社会課題を深く認識し、向き合っていく

「油で汚れた水を飲むしかないストリートチルドレンの現実、スラム街のすぐ近くに乱立するショッピングモール、地方の病院などは各国の支援により建物ができていても、ドクターやスタッフが十分にいない。そのなかでも、目を輝かせて楽しそうに遊び助け合う子どもたち、長時間歩いて学校に通う若者たち。そんな現実を目のあたりにするわけです。
そこで参加者が何を感じ、何を考えるか。解決策を考えることよりもむしろ、受講生がすでにもっている思考の枠組みを揺さぶることがねらいです」(小西さん)。

国内では超高齢社会、地方創生の現場を体感

日本の現場にもさまざまな課題があるが、現在は「超高齢社会」、「地方創生」の2つに絞り、それぞれの現場に派遣している。
2018年度は9月に実施。「超高齢社会」では、介護実習を含めて体験。高齢者の気持ちに寄り添えるよう車いすに乗ったり、体が不自由になることを体験するために「おもり」を装着して歩いたりするほか、訪問介護に同行したりデイケアで一緒に活動するなかで、超高齢社会の実態をとらえていく。「地方創生」では、成功事例となっている地方拠点を訪問。行政と民間ベンチャー企業が連携して「村」の長期ビジョンに向けて創意工夫しつつ、徐々にエコシステムを形作り拡げている現場を体験してきたという。
「各現場はそれぞれ状況が異なるので、課題ももちろん違います。ですが、現実を見たときに自分のなかに湧き上がる感情などに対する振り返りの方法論は共通化しています」(小西さん)
共通のフレームワークのベースになっているのは、過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術として知られる「U理論」と、全体の関係性と流れを把握することで真の変化をつくり出すための「システム思考」だ。これらをベースに、課題を自分事としてとらえ、「この課題に対して、自分はNECを通じて何をしていきたいか」を考える。その集大成が、最後のモジュール「NEC変革プロジェクト」に結びつく。

国内外の社会課題を解決する グローバルな経営人財へ

卒塾生からは、「この刺激を通じて自分の軸が太くなった」、「自分の意識のOSがバージョンアップした」、「ビジネスはビジネスで社会貢献とは別だと思っていたが、つながりがみえてきた。自分のなかにも、社会に貢献したいという思いがあったことがわかった」などの感想が寄せられている。
ある卒塾生は、介護施設や地方創生の現場をめぐり、さまざまな実体験や介護職員、地域リーダーとの対話を通じ、「自分は世の中のことを何も知らなかった」と、ショックを受けたという。執行役員に昇格した現在も、塾の同期メンバーと共同で、部下たちに社会価値提供のマインドを学ぶ研修を導入したり、役員同士で自分の創りたい世界や今後のNECの方向性を語り合う場を設けるなど、新たな風を吹き込んでいる。
こうした塾の成果や内容を聞きつけて受講生に立候補する人も出てくるなど、塾の存在感は増す一方で、課題もあるという。
「業務に戻っても、自分のなかに芽生えた変化をいかに継続できるか、経営陣と連携しつつ、卒塾生のさらなる成長にどうつなげていくか、その仕組みづくりを考える必要があります。また、ミドル層にこの動きをどう伝えていくか
も難しい。短期的な数字責任も負う彼ら・彼女らのとまどいを払拭し、どうやって組織に広めていくかも課題です」(小西さん)
NECマネジメントパートナー人財開発サービス事業部の嘉藤裕司さんは、受講生が日本人中心であることも課題だとする。
「現在は参加者35人のうち、海外現地法人の社員は1~2人程度にとどまっています。日本人社員だけでなく、海外現地社員も含めて、グローバル人財として育成していくことが大事。この塾の対象者の多様性をもっと広げていきたいと考えています」
SDGsに象徴される国内外のさまざまな社会課題を解決できる事業を生み出すことが、日本の、とくに大企業のもつ力を再度覚醒させるのではないか。そこに向かう人財育成こそが、真の意味でのグローバル経営人財の育成ではないだろうか。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 日本電気株式会社
本社 東京都港区
設立 1899年7月
資本金 3,972億円 (2018年3月末現在)
売上高 2兆8,444億円(2017年度実績・連結)
従業員数 109,390人(2018年3月末現在・連結)
事業内容 有線・無線通信機器、コンピュータおよびITサービス
URL https://jpn.nec.com/

NECマネジメントパートナー 人事サービス事業部 シニアエキスパート
伊藤洋一さん(左)
人事部 シニアエキスパート
小西勝巳さん(中)
NECマネジメントパートナー 人材開発サービス事業部
嘉藤裕司さん(右)


 

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