事例 No.141 日立化成 特集 経営層の視野を広げる
(企業と人材 2018年5月号)

経営幹部育成

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

絵を描き想いを表現するワークショップを実施し、
50年後にめざすべき姿について全社的な共有を図る

ポイント

(1)創立50周年を機に、これまでの歩みを振り返るとともに、50年後にめざすべき姿について全従業員と共有する「コミュニケーション・ワークショップ」を実施。

(2)最初に、執行役全員で「マネジメント・ワークショップ」を実施。絵を描くこと・見ることを通じて自己と向き合い、他者の想いを認め、そこから次の50年のビジョンに向けて「マネジメント・メッセージ」を作成し、全従業員に提示。

(3)各役員の未来への想いを、「コミュニケーション・アート」として1枚の絵にまとめあげ、全従業との対話のコミュニケーション・ツールとして、各事業所のワークショップで活用。

創立50周年を機に、全社的なイベントを実施

日立化成株式会社は、日立製作所の化学部門が独立した日立化成グループの代表的企業であり、半導体用材料、無機材料、樹脂材料、配線板材料、自動車部品、蓄電デバイス、電子部品、診断薬・装置など、幅広い分野で事業を展開している。なかでも、世界トップシェアの「リチウムイオン電池用カーボン負極材」は、環境対応自動車やスマートフォン・タブレットPCなどに広く使われている。

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同社グループは、企業理念として「時代を拓く優れた技術と製品の開発を通して社会に貢献すること」を掲げている。そして、「未知の領域に踏み出すチャレンジ精神をもって、化学を超えた『新たな価値』を創造し、社会やお客さまの期待を超える『驚き』を実現します」、というビジョンをもっている。
そのうえで、企業が成長していくために、人財は非常に大きな原動力になるとし、従業員一人ひとりが経営層の基本的な考え方や事業の方向性を共有、共感し、同じベクトルをもって進んでいくことが基本であると考え、経営への理解をより深めてもらおうという取組み(「タウンミーティング」という。詳細は後述)を行っている。
2012年、同社グループは、創立50周年という大きな節目を迎えた。これを機に、全従業員を巻き込み、世界中の同社グループの従業員が50年後にめざす姿を共有することを目的として、「コミュニケーション・ワークショップ」を実施。アート(絵画)を活用したワークショップで、従業員から大きな反響があったようだ。
このワークショップは、海外も含めた全グループ会社を巻き込んだ取り組みで、1年半近くにも及ぶプロジェクトだった。
全体的な流れ(図表1)としては、まず、当時の田中一行社長(現会長)をはじめとする執行役が、3回の「マネジメント・ワークショップ」に参加。次の50年の会社のビジョン「マネジメント・メッセージ」を作成し、それをプロの画家が1枚の「コミュニケーション・アート」にまとめた。

図表1 コミュニケーション・ワークショップスケジュール

図表1 コミュニケーション・ワークショップスケジュール

次に、事業所長やグループ会社社長などを集めた「部門長ワークショップ」を開催。コミュニケーション・アートやマネジメント・メッセージを基に、未来に向けた想いを共有。各自が組織の50年後のめざすべき姿を考え、それを各事業所へ展開した。
そして最後に、全従業員のメッセージおよび写真でフォトモザイクアートを作成するという流れだ。
当時、事務局として50周年事業の企画・運営を担当した、経営戦略本部コーポレートコミュニケーションセンタブランド・宣伝グループブランド戦略担当部長の米澤裕さんは、こう話す。
「創立50周年を迎えるにあたり、これまでの歩みを振り返るとともに、これからの日立化成グループを全従業員で考える機会として、コミュニケーション・ワークショップを行いました。
その皮切りとして、まず執行役にマネジメント・ワークショップに参加してもらい、それぞれの想いを絵に描いてもらいました。
最終的には、各役員の未来への想いをアート化したコミュニケーション・アートを、全従業員の写真を使ってフォトモザイクとして再構成しました。全従業員の想いが1つの作品として仕上がっています」
こうして、「50年後の日立化成グループはこうありたい」という想いが全従業員に共有化された。では、そもそも経営層は、50年後にめざすべき姿について、どのように答えを出したのだろうか。以下では、経営層を対象としたマネジメント・ワークショップを中心にみていきたい。

経営層の未来への想いを絵にして表現する

マネジメント・ワークショップには、同社の社長や執行役が全員参加。株式会社ホワイトシップによる「EGAKUプログラム」を実施した。これは、創作(絵を描く)と鑑賞(見る)を通じて、自己と向き合い、他者の想いを認め、未来を自ら創り出すためのプログラムだ。
開催は、2011年8月、9月、10月の3回。そのうち、1回目は「過去」をテーマに、同社のこれまでを振り返り、同社のDNAとは何かを考えた。2回目は「現在」をテーマに、転換点としての「今」をとらえ直し、3回目は「未来」をテーマに、次の50年は何をめざすのかを議論。最終的にマネジメント・メッセージ(図表2)としてまとめあげる、という流れだ。

図表2 3つの問いをもとにまとめられたマネジメント・メッセージ

図表2 3つの問いをもとにまとめられたマネジメント・メッセージ

毎回のテーマに合わせて事前に課題が出され、当日は半日かけてグループワークとディスカッションを行う。ユニークなのは、各回とも討議セッションと創作セッションの2部構成になっている点だ。役員一人ひとりが自分の想いをパステルを使って絵に描き、その絵をきっかけとして、参加者同士で議論を深めていく。
言葉や数字を使ったロジカルな議論とは異なり、絵には、その人の「想い」が色濃く表現される。アートというツールを採り入れることによって、ふだんとは異なる視点で考えられるようになったり、他者の新たな一面がみえることもあるという。
「ふだん絵を描かない人が多く、四苦八苦しながら取り組んでいる役員もいましたが、社長(現会長)などは楽しみながら、率先して素晴らしい絵を描き上げていましたね。
人によっては抵抗感もあったと思いますが、ワークショップでの雰囲気は非常によく、いつも以上にざっくばらんに話が進んでいたように感じました」
こうした3回のワークショップでの議論と、執行役のアートを基に、画家の谷澤邦彦さんがコミュニケーション・アートとして1枚の絵にまとめあげた。これを全従業員との対話のコミュニケーション・ツールとして、各事業所のワークショップで活用していったのだ。
谷澤さんにはマネジメント・ワークショップに毎回同席してもらい、議論の流れや各役員が描いた絵などをすべて把握したうえで、作品化してもらった。最終的には、コーポレートカラーの青を基調としたパステル画に仕上がっている。

▲マネジメント・ワークショップの様子

▲マネジメント・ワークショップの様子

全社で想いを共有しモザイクアートとして再構成

こうして、各役員の「未来への想い」がアート化された。次のステップは、この想いを全社で共有することだ。
2012年3月には、海外グループ会社社長、部門長、事業所長を集めた部門長ワークショップを開催した。参加者は、総勢61人。当日は、執行役からマネジメント・メッセージが紹介され、コミュニケーション・アートを基に、50年後にめざす姿についてディスカッションを実施。最後には、同社グループの一員として、どんな想いでこれからの未来に向かっていきたいか、「未来に向けた私の想い」を発表する。7色の紙からイメージに合う1色を選び、漢字一文字またはOneWordのメッセージを書き込み、1人ずつ写真撮影を行った。
その後、全従業員を対象に、同様のワークショップを、国内外の各事業所で開催。その数は100カ所近くに上ったという。このワークショップは、役員や幹部クラスが各拠点をまわり、従業員と対話するタウンミーティングの一部として導入され、執行役が各拠点に赴いて実施した。
ここでも、参加者はワークの最後に漢字一文字またはOneWordのメッセージを作成。1人ずつ写真撮影を行った。なお、この写真は各役員の未来への想いをアート化したコミュニケーション・アートを、フォトモザイクアートとして再構成する際に使われた。
フォトモザイクアートとは、小さな写真を集めて1枚の絵を作り出すデジタルアートのこと。ワークショップには、約1万7,000人のグループ従業員の96%が参加している。全員のメッセージでできた絵は、現在は各事業所に飾られているほか、イントラネット上にも置かれており、氏名を入力するとその人の顔写真を検索することができる。
「いまでも従業員の間では、初めて訪ねる社内の人を検索してみたり、話のきっかけにどんなメッセージを書いたのか確認したりするなど、さまざまな形で活用されているようです。
絵を前にして、自分はどこにいるのか、指差し合って語り合うこともできる。未来への想いをコミュニケーション・アート化するだけでなく、全グループ従業員の想いとともに1枚の絵のなかに構成されたことで、まとまりが強まったと感じています」

▲フォトモザイクアート。全員のメッセージが1枚の絵を作り出す

▲フォトモザイクアート。全員のメッセージが1枚の絵を作り出す

経営層の想いから始まった組織の変化はいまも続いている

コミュニケーション・ワークショップは50周年事業として行ったものだが、この取組みは、決して一過性のイベントではない。これをきっかけに、さまざまな施策が行われている。
まず、マネジメント・メッセージの達成に向けて、2013年度にさらに議論を重ね、従来の「日立化成ビジョン」を見直すこととなった。そして、企業理念(Mission)、創業の精神(Values)、日立化成グループ・ビジョン(Vision)からなる「日立化成グループ・アイデンティティ」を制定した。
また、グループ・ビジョンの実現に向けて、WOW-BB活動を開始。この活動は、WorkingOnWondersBeyondBoundaries活動の略称で、全従業員参加型の活動だ。
この活動の一環である「WOWグローバルアワード」は、毎年、従業員が自らの意志でエントリーしてテーマに挑戦し、その挑戦の過程を称える表彰制度。10年後の未来に向けて定めた同社の5つの挑戦に、毎年多くの従業員チームが参加している。
2015年度には、次の50年に向かう第一歩として「10年後のありたい姿」を描き、それを実現させるための「10年戦略」を策定。同社が事業を通じて実現していく価値を「クオリティオブライフ向上」、「サステナブル環境実現」と定義し、従来の延長線上にない成長をめざしている。
そして、2018年中期経営計画において、10年戦略の達成を見据えながらバックキャスティングして、3年後の到達点を示した。
なお、役員や幹部クラスが各拠点をまわり、従業員と対話するタウンミーティングも、2010年度からずっと継続している。とくに、本社の役員と接する機会が少ない海外の事業所やグループ会社から好評だという。
「50年のビジョンから、10年先の10年戦略となり、3年先の中期経営計画となり、ビジョンを体現する個人の活動をWOWグローバルアワードで表彰し……、とすべてがつながっています。また、コミュニケーションが深まり、一体感も増しています。
振り返れば多くの成果が生まれていますが、その原点は、経営層が絵を描きながら想いをまとめあげたマネジメント・メッセージにあるのだと思います」

(取材・文/瀬戸友子)


 

 

「EGAKU プログラム」とは

株式会社ホワイトシップ 代表取締役社長
長谷部貴美さん

私は、2001年、アーティスト谷澤邦彦とともに株式会社ホワイトシップを創業しました。アーティストとオーディエンスの両方の立場から考えたアートの可能性を探求し、2002年、「EGAKUプログラム」を谷澤とともに開発。企業向けには、「EGAKUプログラム」を核とした個と組織の力を引き出す研修やコンサルティングを実施しています。
EGAKUプログラムは、谷澤が、「絵を描くという行為は上手下手ではなく、答えのないものに向き合う勇気や楽しさを学ぶものだ」という考えのもとで考案したプログラムです。2008年から企業への導入がはじまり、現在、企業向けには大手企業を中心に150社以上が導入しています。
最も多い活用のテーマは、チームビルディングとダイバーシティー、そしてリーダーシップです。対象者は次世代リーダー、管理職、経営層に適していると思います。また、イノベーション創発組織や対話型組織への変革、ビジョン浸透など、人事や経営企画、コンサルタントなどと連携を取りながら、プロジェクト型で組織の課題に対して設計し、推進することも多くあります。
とくにプロジェクトの場合は、経営層向けにも実施することが多くなりますが、欧米の組織と違い、日本の組織では役員が学ぶという習慣がほとんどないように見受けられます。また、過去の経験からか、研修はスキルを身につけるものであり、若手社員が学ぶものだという考えをおもちの方も多いようです。
一方で、現場からは、必ずといっていいほど役員に実施してほしいという声が聞こえてきます。とくに役員向けに実施する場合は、経営戦略につながる意味づけをしっかりすること、当日は、自ら自然に学びながらも視座が上がるよう設計することが肝になります。
EGAKUプログラムの最低所要時間は3時間、主なインパクトは下記の3つになります。
(1)自分を知る:
  自分自身の想いや価値観、決めつけているバイアスに気づく
(2)多様性の受容:
  言語と非言語のコミュニケーションによりビジネスのコンテクストを超え、多様な価値観、感性に触れる
(3)試行錯誤を楽しむ体験:
  正解のないものに対して試行錯誤しながら創り上げていく楽しさを思い出し、コンフォートゾーンを抜け出す
これまで、さまざまな業種の役員向けにEGAKUプログラムを実施した経験からいえることは、現状に課題を感じている役員であれば、全員に大きなインパクトがあるということです。
最も多い変化は、アンコンシャス・バイアスといわれる「自分がもっているバイアス(偏見、思い込み)に気づく」ということです。それによって、その後の議論がオープンに進むようになります。
また数回実施することで、勝手に決めつけている自分の限界や恐れ、他者に対しての決めつけ、成功体験から逃れられないなど、自身の凝り固まっている部分に向き合い、柔軟な思考やスタンスで建設的な議論ができるようになります。

▼ 会社概要

社名 日立化成株式会社
本社 東京都千代田区
設立 1962年10月
資本金 155億円
売上高 3,499億円
従業員数 6,484人
事業案内 機能材料関連製品、先端部品・システム関連 製品などの製造および販売
URL http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/

経営戦略本部
コーポレートコミュニケーションセンタ
ブランド・宣伝グループ
ブランド戦略担当部長
米澤 裕さん


 

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