事例 No.097 帝人 特集 着実に進める次世代育成
(企業と人材 2017年6月号)

経営幹部育成

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

対象層を3段階設定し、3年間かけて教育と配置を
組み合わせた選抜型の育成プログラムを実施

ポイント

(1)「STRETCH I」、「STRETCH II」、「SLP」という3つの選抜型プログラムを運用。研修と配置を組み合わせて、3年かけて次世代リーダー候補を育成・プール。

(2)STRETCH Iでは、海外を含むグループ全体から部課長クラス10人前後を選抜。経営学やリーダーシップについて学ぶほか、2015年度からは新たにリベラルアーツの研修を組み入れる。

(3)STRETCH IIでは課長・係長クラス20人前後を、SLPでは中堅社員30〜35人をそれぞれ選抜し、グループ単位でビジネス提案を行う研修を実施。

既存事業の強みを活かし、新規ビジネス創出をめざす

日本初のレーヨンメーカーとしてスタートし、2018年には創業100周年を迎える帝人株式会社。合成繊維事業で培った技術力を基盤に、現在は高機能素材、ヘルスケア、ITの3つの領域で事業を展開している。近年は、これらの事業間の強みを融合した新規ビジネス創出を通じて、「ソリューション提供型企業」へと進化することをめざしている。

《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」 《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」

同社はまた、国内60社、海外93社のグループ会社をもち、売上高の4割を海外が占めるグローバル企業でもある。
帝人グループとして掲げる企業理念は、以下の3つである。
1.帝人グループは人間への深い理解と豊かな創造力でクォリティ・オブ・ライフの向上に努めます
2.社会と共に成長します
3.社員と共に成長します
第1に掲げる「クォリティ・オブ・ライフ」は「生きていることの価値」という意味で、生活の豊かさや健康、安全、ゆとり、仕事・趣味・人との触れ合いなどを通じて得られる人生のさまざまな喜び、さらには、地球上のすべての生命の大切さ、という広い意味が込められている。
また、第3にある「社員とともに成長します」には、同社の人材育成方針ともいうべき、次の3つの小項目が明記されている。
(1)社員が能力と個性を発揮し、自己実現できる場を提供します。
(2)社員と共に、革新と創造に挑戦します。
(3)多様な個性に彩られた、魅力ある人間集団をめざします。
多くの日本企業がそうであったように、かつては同社も、会社が仕事を与え、育ってきたなかから優秀な人材を上位のポジションにつけるという形で選抜が行われていた。それが1990年代末頃から、もっと意図的な育成が必要だという認識が強まっていき、徐々に現在の選抜型育成のプログラムが整えられてきたという。
では次に、現在のプログラムがどのようなものなのか、具体的にみていくことにしよう。

3つの選抜型プログラムで次世代リーダー候補を育成・プールする

同社の選抜型プログラムは、「STRETCH I」「、STRETCH II」、「SLP」と、大きく3つに分かれる。後述するが、STRETCH Iは部長・課長クラス、STRETCH IIは課長・係長クラス、SLPは30代半ばの若手リーダーがそれぞれ対象となる。いずれも3年間を1つの区切りとして実施されている。ちなみに、STRETCHは「Strategic ExecutiveTeamChallenge」の、SLPは「Strategic Leader Development Program」の略である。
まず、STRETCH Iについてだが、毎年、海外を含む帝人グループ全体から、部長・課長クラス10人前後が選抜される。
選抜基準としては、1つは「直近3年の評価」。ただし、事業部によってビジネス環境の厳しさなどは一様ではないため、厳密な合否ラインを設けているわけではない。2つ目は「役割等級」で、先に触れたようにSTRETCH Iは部長・課長クラスが対象となる。3つ目は「英語力」。将来、グループ全体の運営をすることになる人材の選抜である。ある程度の英語力は必須となろう。4つ目は「年齢」だ。これはだんだんに下がってきており、国内については現在、45歳未満が目安になっているという。
そして、選抜方法は、まず各事業部、グループ会社から上記基準に合致する候補者を推薦してもらう。そして、その候補者たちにテーマを与え、本社役員の前でプレゼンテーションを行ってもらって決定する。
3年間のプログラムのなかでは、1年目に集中的に研修が行われる。それと同時に、STRETCH I対象者の所属部門では、通常の人員配置計画とは別に、対象者の育成目的での配置が計画され、おおよそ2年目に入るころからアサインされていくことになる。
意図的な育成施策の必要性について、人事部人財開発グループ長の吉岡久さんは、次のように説明する。
「すでに多様なビジネス経験をしてきた人であればそれを継続していけばいいのですが、たとえば、これまで国内事業の経験しかないということであれば、海外グループ会社に経営幹部のポジションで出向してもらうなど、ときには本社人事部門も調整に入りつつ、それぞれの対象者にとっての、次に経験するべきポストを決定しています」

新たにリベラルアーツを取り入れたSTRETCH I

STRETCH Iで1年目に実施される研修プログラムは、どのような内容だろうか。プログラムは大きく3つに分けられる。1つ目は経営学のエッセンスを集中的に学ぶプログラムで、外部のビジネススクールと提携して実施している。3日間の研修を3回行うスケジュールだ。内容としては、たとえば「国際経営」について講義形式で学んだうえで、それを帝人グループに当てはめた場合にどのようなことができるかをグループで議論し、最終的に役員の前で発表するといった流れになる。
2つ目は新しく取り入れたもので、「リベラルアーツ」をテーマとしたプログラムだ。新規導入の意図を、吉岡さんはこう説明する。
「人を引っ張っていくためには、ブレない軸が確立されていなくてはなりません。ブレずに行動するための軸をつくるには、会社の業務に近い知識ばかりではなく、広く世の中のことを理解する、先人の知恵のようなものを修得していく必要があるということになり、リベラルアーツの研修を取り入れることになりました」
こちらは、8カ月の間に2日間×8回の研修を実施。約1カ月に1回のペースである。1回の研修を2日間にしているのは、個々の参加者に内省を求めるハードな内容が多く、まとまった時間が必要になるためだ。
文化・宗教・歴史など幅広い分野にわたる知識を身につけ、その一方で自分に対する質問・意見を聞き、内省を深めていくという内容で、自己を見つめ直す良い機会になるという。参加者のなかには、それまであまりリベラルアーツに触れてこなかった人もいるため、毎月1冊は課題図書が提示される。論語、茶の湯、キリスト教に関する本など、多彩なラインナップになるそうだ。
当初は戸惑う参加者も少なくなかったが、回が進むにつれて研修の意図が理解され、楽しいという人が増えてきているという。
3つ目はリーダーシップ研修である。これは2泊3日の合宿形式で実施されている。内容としては、たとえば参加者各人が海外拠点の経営トップという設定で、お互いに予算獲得を主張し合い、ネゴシエーションを行うといった難しいタスクが、短時間に次から次へと与えられるというもの。
じつは、このプログラムはアセスメントとしての機能も併せもっている。外部のアセッサーが研修中の議論の様子などを観察して、事前に実施した360度評価の結果とも突き合わせたうえで分析・検討し、一人ひとり、現在の能力および将来への期待についてレポートにまとめる。他方、参加者各人に対しても、いま発揮されているリーダーシップ、今後伸ばせそうな面、そのためにはどうすればいいかなどがフィードバックされる。参加者はそのアドバイスを受けて、しばらく職場で実践してみて、再びアドバイスを受けるというプロセスを繰り返していくのである。
前述のとおり、STRETCH Iは、これら3つの研修プログラムを受講し、参加者の一部にはローテーションが行われ、さらに3年目の終わりに、事前に提示されたテーマに沿って役員を前にプレゼンテーションを行うところで、プログラムとしてはいったん終了となる。しかし、STRETCH I修了者はその後も「次世代リーダー候補者」としてプールされることになる。現在では,候補者は常時60〜70人が登録されており、毎年行われる会議において候補者の見直しが検討されているという。3年目の役員プレゼンの出来が悪ければ、その時点でリーダー候補者から外れることもある。

グループで新規事業を考え発表するSTRETCH II

次はSTRETCH IIについてだ。こちらもSTRETCH I同様、1年目を中心に研修プログラムが用意されている。
STRETCH IIの対象者は課長・係長クラスで、一般社員層は対象外となる。選抜はSTRETCH Iと同様の基準で行われるが、年齢層については42歳未満を目安としている。人数はSTRETCH Iの2倍、20人前後で、そのうちの海外からの参加者は1割程度だという。
STRETCH IIの研修については、すでに参加者らが基礎的な経営知識を修得しているという前提で、グループに分かれてビジネス提案を考えるプログラムと、リーダーシップに関するプログラムの2つが用意されている。これらを組み合わせた研修が3日間×3回のスケジュールで実施される。海外からの参加者のため、一部は同時通訳を入れて行っているという。プログラムの全体像は図表1のとおりである。

図表1 STRETCH II 研修プログラムの全体像(2016年度)

図表1 STRETCH II 研修プログラムの全体像(2016年度)

研修の内容は、まずリーダーシップに関するプログラムでは、現在の自分のリーダーシップについて、他の参加者から指摘を受けるなどして、そのあり方を見つめ直すというもの。その結果を職場で実践し、次回の研修時に振り返りを行う。
ビジネス提案プログラムのほうは、4、5人ずつのグループに分かれて、帝人グループとして取り組むべき新しいビジネスを考えるものだ。まず研修のなかで1人ずつテーマ案を出し、そこから参加者たち自身でグルーピングを行う。人数に偏りが生じた場合は事務局が調整するが、基本的には参加者の自主性に任せているという。
研修で集まるのは3回だけだが、次の研修までの期間にグループごとに集まったり、遠隔地にメンバーがいる場合はテレビ会議を行うなどして、提案内容の検討を重ねていく。期間中は、集合研修を担当する外部講師およびコンサルタントに2回までアドバイスを受けることができる。集合研修が終わってから発表までは約5カ月。その間に、新規事業を立ち上げるためにはどのようなことが必要なのかを考えることで、経営者的な視点を身につけてもらうのがねらいだ。
これまで提案されたビジネスは、短期的なものから長期にわたるものまで、また規模的にもさまざまだが、提案内容に予算がつき、継続事業になっているものもある。
なお、2017年度からは、本研修の発表テーマに既存のビジネスを成長・発展させるための提案も加えることにする。もともと、とくに条件は設けていなかったが、これまでは新規事業提案という点を強調してきたため、既存ビジネスに関する提案は出てきていなかったという。
「既存のビジネスを大きくする人材も必要です。これまでは新規ビジネスの提案に偏っていましたので、今期はどちらの提案でもよいというふうにアナウンスしようと思っています」(吉岡さん)
1年目の研修プログラムは、最終的に役員の前で新規ビジネスの提案発表を行って修了する。その後、参加者の一部には、2年目に外部研修に行かせているそうだ。さらに育成プログラム期間の3年間が終了したあとも、次世代リーダー候補人材としてプールされ、毎年の見直し会議にかけられる点はSTRETCH Iと同様である。

中堅社員対象のSLPでは30〜35人を選抜。参加者の2〜3割は女性

STRETCH I、STRETCH IIが、すでにリーダー層にある人材を対象にした選抜型リーダー育成プログラムであるのに対し、SLPは40歳未満の社員を対象とする選抜型のプログラムである。これはSTRETCH I、IIとは違い、国内の社員のみを対象に実施され、事業部推薦で毎年30人から35人程度が参加する。プログラムの全体像は図表2のとおりである。

図表2 SLP研修の概要

図表2 SLP研修の概要

「こちらの特徴としては女性の参加者が多いことです。STRETCHは現状ではまだほとんど男性ですが、SLPは2〜3割が女性です。いまの30代半ば以降は、女性の積極活用に取り組むようになってから入社してきた世代にあたることもあって、必然的に女性の比率が高くなっています」(吉岡さん)
SLPは、それまで配属先の事業領域にどっぷりつかって知識・スキルを深めている中堅社員層に、いったん目線を上げて、「将来、マネージャーや役員候補になったときに必要な知識はどのようなものか」を考えてもらうことがねらい。そのため、1年目は、基本的な経営知識・スキルとリーダーシップのあり方を学ぶプログラムが中心となる。図表3がその全体像である。

図表3 SLP 1年目の研修プログラム全体像

図表3 SLP 1年目の研修プログラム全体像

そして2年目は、STRETCH IIと同様に、5〜6人ずつのグループに分かれてビジネス提案プログラムに取り組む。こちらは新規ビジネスに限らず業務改善提案でもよいとしているが、やはり新規ビジネスの提案がほとんどだという。
テーマ設定およびグルーピングについても、STRETCH IIと同じように参加者が自主的に進めるスタイルを取っている。同じ領域での経験や知識をもっている人同士でグループをつくっても、提案内容が深まらないことは参加者たちもわかっているため、たとえば医薬部門の人が集まると、素材部門の人に加わってもらったり、技術の人を入れようといった話になり、最終的にはバランスのとれたチームが揃うのだそうだ。

図表4 SLP 2年目の研修プログラム全体像

図表4 SLP 2年目の研修プログラム全体像

図表4にあるとおり、2年目の研修プログラムは全6回で実施される。SLPでは、最終的に執行役員クラスや人事担当役員に対して提案内容の発表を行うが、研修では前年度に発表した先輩社員に来てもらい、実際の取り組みについて話してもらう時間も設けている。もちろん、研修時だけでなく、メンバーの自主的な集まりもあちこちで行われることになる。
そして、SLPでは、3年目に参加者全員が「他社との交流」を目的として外部研修に参加する。ただし内容は一律ではなく、一人ひとりのこれまでの経験を考慮し、上司の意見も聞いたうえで、人事部門でいくつかの研修を選んで派遣しているそうだ。
なお、SLPについては、今後は対象を海外のグループ会社にも広げることを検討しているという。日本語、英語両方のプログラムを用意するか、あるいは日本だけでなく海外数カ所でも開催するほうがよいかなど、実施の仕方について検討している段階だという。
また、これまでは事業部推薦だけだったが、対象を海外に広げるのに合わせて、自薦の要素を入れることも考えているとのことだ。吉岡さんは次のように説明する。
「日本では、優秀な人は自然と将来の経営幹部として注目されるようになります。しかし、今後新しいビジネスを作り出していく人材が必要になってくるなかでは、そういう人ばかりでいいのかということもあります。たとえば、未成熟だけれども野心のある人、やる気のある人にもチャンスを与えていくことが、変革につながるのではないかと考えています」
以上、帝人の3つの次世代リーダー育成プログラムをみてきたが、いずれもプログラム修了後に将来のリーダー候補人材をプールする仕組みになっている。これまで選抜されプログラムに参加してきた人たちの顔ぶれをみても、SLP修了者がSTRETCH IIに選抜され、STRETCH II修了者がSTRETCH Iに選抜されるケースは多い。しかし、必ずしもそれだけではなく、SLPに選ばれなかった人がSTRETCH IIに選ばれることもあるという。
今後の課題として吉岡さんがあげたのは、全社員に向けた「キャリア教育」だ。同社はいま、従来からある階層別研修などとの融和を図りつつ、社員個人が将来ありたい姿を自分で描き、会社はそうなるための場や環境を提供する、「社員主導型の人材開発」への移行に取り組んでいる。いままでのように黙っていても研修の通知が来るという形ではなくなってきているが、まだ社員の意識は十分に変わっていないのが現状という。今後、次世代リーダーを育てていくためにも、キャリア教育にはいままで以上に力を入れていくとの考えだ。
次世代リーダー候補を階層ごとにプールし、配置も含めて意図的に育成していく同社の取り組みは、社員全体のキャリア意識を高める教育施策との両輪で進めてこそ、組織を活性化させ、成果につながるということだろう。同社のこれからの取り組みに注目したい。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 帝人株式会社
本社 大阪府大阪市
創立 1918年6月
資本金 708億1,600万円
売上高 7,413億円(連結 2016年度)
従業員数 連結19,292人(2017年3月末現在)
平均年齢 42.7歳(2017年3月末現在)
事業案内 高機能繊維・化成品・複合成形材料、医薬・在宅医療、ITなどの分野での開発・製造・販売
URL http://www.teijin.co.jp/

人事部 人財開発グループ長
吉岡 久さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ