事例 No.067 日立製作所(日立グループ) 事例レポート(経営幹部育成)
(企業と人材 2016年7月号)

経営幹部育成

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

グループ全体でグローバルリーダー育成
経営トップと対話する選抜型研修

ポイント

(1)グローバル競争優位に資する「人と組織」にしていくという戦略のもと、グループ・グローバル共通の人財マネジメントを推進。そのための研修プログラムを世界で実施。

(2)2015年に、選抜型のグローバルリーダー研修「GAP‐K」を大幅改訂。「志」をキーワードに、リーダーに必要なぶれない判断軸の強化に取り組む。

(3)研修コンセプトに合わせた3つのモジュールを英語で実施。内省や振り返り、経営層との対話を通して、組織の成長を牽引していくリーダーを育成。

グループ全体でグローバル人財マネジメントを推進

1910年の創業以来、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念の下、さまざまな事業を展開してきた株式会社日立製作所。現在は、長年培ってきたOT(OperationTechnology)とITを融合させ、ステークホルダーとの協創により社会課題を解決する「社会イノベーション事業」に日立グループをあげて全力で取り組んでいる。
同グループの人財育成を手がける中核的な組織の1つが、株式会社日立総合経営研修所(HIMD)だ。HIMDは、1961年に日立製作所の創業50周年事業の一環として、米国ゼネラル・エレクトリック社(GE)のクロトンビルを手本として設立された、日本初のコーポレートユニバーシティ(企業内経営者学校)である。
HIMDリーダシップディベロップメントセンタ・センタ長の田中一也さんは、こう語る。
「HIMDの設立当初の使命は、経営理念・経営思想や、グループ内の貴重なノウハウを伝承・交換し、一体感を強化することでした。それ自体は大きくは変化していませんが、現在は中核となる経営に関する研修に加えて、多様な分野の研修を提供しています」
HIMDのミッションは、「グループ・グローバルで事業の成長・発展を担う人財の育成・教育を実行するとともに、学習する組織を創る」。手がける研修は、「経営研修」、「ビジネススキル研修」、「職能別研修」、「グローバルビジネス関連研修」、「外国語研修」の5つのカテゴリーに分かれており、年間の受講者数は約1万6,000人、研修プログラム数は約400本となっている。
日立グループが2018中期経営計画で最大のテーマとして掲げているのが、デジタル技術により進化した社会イノベーション事業でお客さまとの協創を加速し、「IoT時代のイノベーションパートナー」となることである。海外売上比率については、2012年度実績41%から2015年度実績48%と高まってきており、2018年度には55%超にすることを目標としている。
このようなグローバル化の進展を見据えながら、人財部門に関しては、2011年から「グローバル人財プロジェクト」を立ち上げて、グループ・グローバル共通の人財マネジメントを推進している(図表1)。

図表1 グローバルビジネスに資する人財戦略の概要

図表1 グローバルビジネスに資する人財戦略の概要

最初に手をつけたのが、グループの全人財情報のデータベース化だ。選抜制度については、トップタレントをプール・育成する仕組み「GlobalLeadershipDevelopment(GLD)」へと大きく転換させた。
「それまでは階層別で優秀な人を選ぶという方式でしたが、日立グループとして重要なキーポジションを定めて、そのポジションの次を担う人はだれかといった、ポジションマネジメント的な考え方に変えたのです。そして、キーポジションを担う人財はどのような経験・スキル・知識が必要で、候補者となっている人財に足りない要素は何かを明確にし、育成していくことにしました」
この人財データベースをもとに、2013年度にはマネージャー以上の全ポジションを格付けし、グローバルでのローテーションや異動をしやすくするグレード制度(日立グローバルグレード=HGG)などを導入した。その後、2014年度には「グローバル・パフォーマンス・マネジメント(GPM)」をスタート。GPMは、評価のためではなく、組織と個人の目標を連動させてパフォーマンスを向上させていくためのツールで、とくに上司から部下への日常的なコーチングとフィードバックを実施するよう徹底を図っている。
そして、2015年度には「HitachiUniversity」を導入。これは、個人別の研修履歴管理や研修の申込み・出欠管理などが、すべてイントラネット上でできるグローバルな教育マネジメントシステム(LearningManagementSystem=LMS)である。最終的には採用から配置、処遇、教育まで、すべての人財マネジメント関連のシステムを同じプラットフォームに載せた、新人財情報システムを築き上げていく計画だ。こうした施策により、グローバル競争優位に資する「人と組織」にしていくという戦略である。
このような戦略に基づき、現在は、HIMDの各種経営研修プログラムを世界で展開している。世界各国のリーダーを対象とした主なグローバル共通プログラムとしては、2015年度に大幅改訂した選抜者教育「GAP‐K(GlobalLead-ershipAccelerationProgramforKeyPosition)」をはじめ、ミドルマネージャー対象の「GAP‐M」、新任ラインマネージャー対象の「R2L」などがある。
「リーダーに求めるものやメッセージは、全世界共通です。また、どこの国にいても、学んだことをマネージャー同士が同じ言葉で語れて、共通認識をもてるようにする。そういうねらいでグローバル共通のリーダー研修を実施しています」

選抜型グローバルリーダー研修を改訂、「志」を行動につなげる

ではここからは、2015年に大幅改訂した選抜型のグローバルリーダー研修「GAP‐K」について紹介していこう。この研修が開発された背景について、田中さんは次のように説明する。
「これまでタレントマネジメントや、グローバル人財プロジェクトと連動を図った各種の新しい研修を実施してきた結果、グローバル経営に向けた現実的理解や認識強化は進みました。ただ一方で、当社として必要な成長を牽引するグローバルリーダー人財の開発は、質・量ともにまだ十分とはいえない、と総括しています」
では具体的な課題は何かを知るために、GAP‐K改訂に先立ち、同社経営幹部や外部のコンサルタント、大学教員、その他の社内外の有識者に、「日立のリーダーはどう映っているのか」を調査したそうだ。その結果、「スマートでまじめ。バランス感覚があり、本質的問題を理解する力は高い」という好評価を得られた面もあったが、課題も浮き彫りになった。
まず、「ビジョンよりタスク・オリエンテッド。課題設定よりも、与えられた課題解決に強みをもつ」との声があった。これは、グローバルな成長を視野に入れて、自分で主体的に本気で勝負していくといった人は少ないということだ。また、「保守的、安定・調和を求める傾向」、「リスクを負って困難にチャレンジしない」といった指摘も出た。そのほか、「海外で修羅場を経験している人が少ない」、「業績より人間関係で動いている」といった現状があがってきた。
では、これらをどう変えていくかというところから誕生したのが、新しいGAP‐Kプログラムである。
「簡単にいうと、グローバルリテラシーまでは身についたが、行動につながらないということです。なぜつながらないのかを、タレントマネジメント部門と検討を重ね、加えて社内外の有識者によるアドバイザリーボードをつくって、議論を深めました。
そこで一定の結論として出たキーワードが『志』、英語では『Asenseofmission』、『Asenseofpurpose』です。人から何をいわれてもぶれない自分の判断軸をどう築き上げていくか。GAP‐Kに選抜された人は、高い業績を上げていて判断軸ももっているのに、それに気づいていない。そこに気づいてもらうために、もう少し普遍化したり深みをもたせて、『志』という言葉で表現したのです」
この志をどのようにつくっていくか、気づいていくかをまとめあげた研修コンセプトが図表2である。「使命感と目的意識の確認」、「リーダーシップ強化」、「組織と人を鼓舞する」の大きく3つの枠組みになっており、これらを回してグローバルリーダー人財育成につなげていくとしている。

図表2 新たな経営研修のコンセプト

図表2 新たな経営研修のコンセプト

コンセプトに合わせ、3つのモジュールを英語で実施

GAP‐Kは指名制で、想定している対象は30〜50代の部長および課長・部長代理・主任技師クラス。対象者の選定は、タレントマネジメント部門が中心になって手がけている。
研修は3回のモジュールに分かれており、各モジュールは、図表2の3つのコンセプトにそれぞれ対応している。
1回目のモジュール(モジュール1)は、2015年11月にHIMD我孫子キャンパスで開催された「目的意識と使命感モジュール(3日間)」(図表3)。2回目(モジュール2)は、12月にインド・ニューデリーで開催された「リーダーシップ強化モジュール(4日間)」(図表4)。3回目(モジュール3)は、2016年1月に我孫子キャンパスで開催された「In-spirePeopl(e組織と人を鼓舞する)モジュール(3日間)」(図表5)である。どのモジュールも、すべて英語で行われている。

図表3 モジュール1「目的意識と使命感」

図表3 モジュール1「目的意識と使命感」

モジュール1では、同社のアイデンティティと成長、および自身の価値観・目的意識を、内省を通じて深く考察し、会社と個人の目的・使命を統合していく。また、自身のこれまでの経験を振り返り、リーダーシップの持論をもつ。そして、経営幹部との対話を通して、幹部の経験とそこから得られた教訓に触れ、自身の考えを深めていく。これらを、ディスカッション、個人ワーク、グループワークといった多様な手法を使って進めていく。
このとき経営幹部として登場したのは、元同社社長兼会長(現名誉相談役)の川村隆氏である。川村氏からは、自身のリーダーシップストーリーを語ってもらうと同時に、著書『ザ・ラストマン』(角川書店)を参考書籍(海外の参加者には英訳を配布)として、参加者に事前に読んでもらい、その内容と講話をもとに対話を行った。
「このモジュールでキーワードの1つとなるのが、リーダーシップ持論です。言い換えれば、『志』のもとになるぶれない軸ですね。グローバルリーダーには、『自分ならこうだ』と部下や後輩に語れる持論をもってもらう必要があります。『ザ・ラストマン』には自身の内面が描かれており、リーダーシップ持論が読み取れるということで参考書籍にしました」
川村氏の講話では、経営数字の推移なども織り交ぜながら、『ザ・ラストマン』にも描かれている自身の仕事上の体験と、そのときの経営判断などが語られ、受講者との質疑応答も活発に行われた。

図表4 モジュール2「リーダーシップ強化」

図表4 モジュール2「リーダーシップ強化」

モジュール2は、リーダーシップのなかでもとくに「戦略」、「意思決定」、「ダイバーシティマネジメント」を強化するプログラムだ。市場の現実に触れ、社会イノベーション、事業創造、顧客価値創造について考えていく。また、成長に資するリーダーとしての決断、多様性のマネジメントについて徹底的に議論を交わす。そのほか、社外経営者との対話も組み込まれている。
ここでは、ケーススタディやレクチャのほか、「フィールドビジット・ツアー」も行った。受講者が開催地インド・ニューデリーの一般家庭などを訪れて、日常生活を自分の目で見て、成長著しい新興国の現状を肌で感じることができるツアーを実施したそうだ。

図表5 モジュール3「Inspire People」

図表5 モジュール3「Inspire People」

モジュール3は、モジュール1と2で醸成してきた「自身の信念」、「リーダーシップ持論」を言動で示し、他者に影響を与えられるようになるためのプログラムだ。このモジュールでも経営幹部との対話を設けた。登場したのは、当時の執行役会長兼CEO(現取締役会長)の中西宏明氏である。
「モジュール3を実施する前に中西に時間をとってもらい、一皮むけた経験について90分インタビューを行いました。たとえば、自分の担当とは違うトラブルの対応を任されときにどう乗り越えたかといったような経験談を、新人時代から時間軸に沿って語ってもらい、それをまとめたものを英語に訳して、事前に参加者に配布して読んでもらったのです。
ただし、それを読んで『素晴らしい経験で、勉強になりました』という反応をしてもらうことが目的ではありません。自分の経験や思いをどう語っているかを感じて、『では、自分ならどう語るだろうか』と考えてもらうのがねらいです。中西本人が研修に来ることは受講者に伝えていなかったので、ちょっとしたサプライズにもなりました。前日に来ることを伝えて、受講者のなかからマイリーダーシップストーリーを語る人を選び、中西の前で話してもらいました」
最後は、受講者が今後の経験・チャレンジを通して成長を牽引するリーダーになるべく、継続して学習することを決意して修了した。
そのほかGAP‐Kでは、我孫子キャンパス施設内にある暖炉を使い、海外でよく実施されている暖炉を囲んでの「炉ばた談義」も取り入れた。たとえばモジュール1では、夕食後にリラックスした雰囲気のなかで、外部講師が自身のリーダーシップストーリーを語り、受講者とともにインタラクティブなやりとりをして1時間半ほどを過ごしたそうだ。

テーマ毎に複数企業の事例を紹介。企業研修のプランニングに役立つ情報を掲載『企業と人材』

タレントマネジメントと研修の連動を深め、真のグローバル人財を育成

2015年度のGAP‐K受講者は25人。大半が日本人だが、アメリカ、イギリス、シンガポール、インドなどからの参加者もいた。研修後の反応としては、通常の研修でよく聞かれる「ためになった」、「勉強になった」という声よりも、「私が変わって私が職場を変えていく」といった声が多かったのが特徴だ。
田中さんは、「こうした受講者の反応は、研修設計時に意図したとおりだったので、一定の効果は現れていたのではないかと自負しています」と話す。
研修後には、ポストプログラムも用意した。これは、海外の大学のeラーニングのコンテンツとコーチングなどを組み合わせて、研修で学んだことを補完していくものだ。本人の強み・弱みに合わせて、コーチが必要なコンテンツを勉強させたり、アドバイスをしたりするプログラムである。まだ一部の受講者にしか提供できていないため、今後は、たとえばモバイル端末を活用したeラーニングや、全員を集めてフォローアップセッションを開催するといったことを検討していきたいという。
新たなGAP‐Kは導入1年ということで、結果が出てくるのはこれからだ。受講者にどのような変化がみられているかは、HIMDとタレントマネジメント部門とで注視していき、研修内容などの見直しに反映させていく方針だ。なお、2016年度のGAP‐Kについては、2015年度と同様に年1回実施予定だが、2017年度以降は実施回数や対象者を増やすことを計画している。

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最後に、日立グループのグローバルリーダー育成全体の課題について、田中さんはこう話す。
「4月に組織編成を見直し、グローバル人財開発部が設置され、そのなかにグローバルのタレントマネジメント部門内や日本のタレントマネジメント部門内の育成部門を統合しました。そうしたなかで、
海外の人財も含めて、これまで以上にタレントマネジメントと研修の連動を深めて、真のグローバル人財育成につなげていければと思っています。また、いまはまだ海外拠点にいる外国人の経営研修の参加率が少ないので、各拠点のHR部門とも連携しながら、外国人マネージャーの質・量の充実も図っていきたいと考えています」
今後の事業を牽引していくリーダー人財を育成するため、グループ全体で取り組んでいる日立製作所。グローバルで競争優位となる「人と組織」の構築は、これから加速していくことだろう。

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社日立製作所(日立グループ)
本社 東京都千代田区
創業 1910年
資本金 4,587億9,000万円 (2016年3月末現在)
売上高 単体 1兆8,596億5百万円、連結 10兆343億5百万円(2016年3月期)
従業員数 単体 37,353人、連結 335,244人(2016年3月末日現在)
事業案内 社会イノベーション事業
URL http://www.hitachi.co.jp/

日立総合経営研修所
リーダシップディベロップメント
センタ
センタ長
田中一也さん


 

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