事例 No.136 GEジャパン 特集 根づかせる!  研修の内製
(企業と人材 2018年4月号)

人材開発部門

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

クロトンビルのクオリティを維持するトレーナー養成のあり方と
デジタルラーニングへの挑戦

ポイント

(1)研修プログラムごとにトレーナーを養成する「TCP(Trainer Certification Program)」を実施。要求レベルに達した人のみを認定し、資格継続のための要件も整備。

(2)教えることに不慣れな人、苦手意識のある人を対象に、トレーナースキルを習得するための「New Trainer Workshop」も用意。3日間でわかりやすい伝え方や、やる気の高め方を学ぶ。

(3)より多くの社員に学びを促すために、2015年にデジタルラーニングの取り組みを開始。リアルタイムでのオンライン講座をファシリテートする際には、教室型とは異なる課題に直面。

ITと産業・医療機器の製造技術で価値創出をめざす

GEジャパン株式会社の親会社であるゼネラル・エレクトリック(GE)は、1892年、米国で設立された。世界約180拠点に展開し、日本においても100年以上の歴史がある。事業内容は幅広く、ガスタービンや風力タービンをはじめとする電力・エネルギー事業、航空機エンジン事業、MRIやCTといった医療機器を扱うヘルスケア事業などを行っている。従業員は30万人以上、売上高は約13.5兆円に上る巨大企業である。
同社は現在、大きな変革を進めている。めざしているのは「デジタル・インダストリアル・カンパニー」。ただ機器を作って売るのではなく、そこから得られるデータを分析し、効率向上・生産性向上のために活用することで、これまでにない価値を実現する。たとえば航空機は、どの航路で飛ぶか、着陸後の地上走行時にどのようにエンジンを利用するかなどによって燃料効率が変わり、燃料コストを大きく左右する。強みである産業機器の製造技術とITソリューションを掛け合わせ、顧客のイノベーションに貢献する考えだ。
こうした変革を支えるのが、各国・各層で活躍するリーダーたちである。優秀なリーダーを育てるため、同社は、人材育成に年間約10億ドルを投資し、経営幹部は執務時間の3分の1もの時間を人材育成にあてているという。
GEクロトンビル日本地域リーダーの牛島仁さんは、こう語る。
「外資系企業ではよく、『Leadersdevelopingleaders』と言います。リーダーがリーダーを育てるという意味ですが、GEでは『Leadersteachingleaders』と表現します。あえて『teaching』という言葉を使うのには、理由があります。『develop』(能力開発)にはいろいろな場面がありますが、GEのシニアリーダーたちは、実際に研修の場に足を運び、自ら教壇に立ちます。それほど人材育成を大事にしている会社なのです」

世界一有名な企業内大学「クロトンビル」

GEのリーダー育成の中心的役割を果たしているのが、1956年に設立された世界初の企業内大学「ジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発研究所」、通称「クロトンビル」である。よく間違えられるそうだが、クロトンビルの「ビル」はBuildingのビルではなく、Villageのビル。ニューヨーク州郊外のクロトン・オン・ハドソンという村の近くにあるクロトンビルというところに設けられた施設で、20万平方メートル、東京ドーム4個分の敷地に、教室や宿泊施設を完備する。上級幹部から新任マネージャーに至るまで、現在の、そして未来のリーダーを育てる多様な研修が日々行われている。

▲緑豊かな郊外にあるクロトンビル

▲緑豊かな郊外にあるクロトンビル

また、「GEのカルチャーの発信基地」とも位置づけられており、自社の方向性を議論する経営会議を開いたり、重要顧客を招待して先進的な教育を体験してもらう機会なども設けている。
クロトンビルは、自社の知見と学術界や研究機関などとの幅広いネットワークを活かし、常に学びの最先端であろうとしている。また、その時々の環境やプライオリティに応じて、毎年のようにプログラムを見直している。実験的な取り組みも多く、最先端の行動科学や脳科学を活用したり、ユニークなところでは、エグゼクティブに料理やタップダンスをさせるなど、柔軟な発想で世の中を先取りした教育を行っている。
クロトンビルで行う教育プログラムは、大きく3つに分けられる。
(1)LeadershipExperiences:いわゆるリーダーシップ開発のためのコース。短くても1週間、長いと2〜3週間に及ぶ充実したプログラムがそろっている。
(2)ProfessionalSkills:リーダーシップを発揮するのに必要なスキルのコース。コーチング、ファシリテーション、プレゼンテーションなど、さまざまなものがある。
(3)FunctionalSkills:職種ごとに求められる専門スキルのコース。営業、ファイナンス、IT、HRなど、さまざまな職種のものがある。
このうち(3)は、特定分野の専門性が要求されるので、外部の専門家に教育を依頼するケースもある。一方、(1)や(2)は、内製のプログラムが中心である。これらのプログラムは、全員がクロトンビルに行って学ぶのが理想だが、それではコストがかかりすぎる。そこで、世界各地にクロトンビル直属の「リージョナル・ラーニング・リーダー」を置き、どこの国にいても、クロトンビルの教育(クロトンビル・エクスペリエンス)を受けられるようにしている。
牛島さんは、日本のラーニング・リーダーであると同時に、アジア・パシフィック地域も担当しており、日本やアセアン諸国で研修を行うことも多いが、同時にトレーナーを養成する役割も担っている。
クロトンビルは、選ばれた優秀な社員を特別なプログラムに参加させることで、自社の将来を担うリーダーを数多く輩出してきた。今後もこの取り組みは継続するが、一方で、教育のあり方を見直しつつもある。
「ジャック・ウェルチの時代は、先見性のある強力なリーダーが引っ張っていく“牽引型”のリーダーシップが求められていました。しかし、いまはVUCAワールドといわれ、だれも先を見通せないほど変化が激しい時代です。こうした環境下で、リーダーが1人だけで方向性を見定めようとすると、見誤った際に大変な状況になってしまうかもしれません。
これからは、多くの人と対話を重ね、集団的知性を高め、まだ見ぬ世界への解を一緒に考えていく、“エンパワー&インスパイア型”のリーダーシップが求められています」
そのためには、選抜型の人材育成だけではなく、より多くの人に学びの機会を提供していく必要がある。同社では、これを「ラーニング・デモクラタイゼーション(学びの大衆化)」と呼んで検討を進めているという。

研修プログラムごとに講師を養成する「TCP」

ここからは、そうしたクロトンビルの研修トレーナーを養成するプログラムについてみていきたい。
同社では、研修プログラムごとに、専任のトレーナーを養成するプログラムを設けており、これを「TCP(TrainerCertificationProgram)」と呼んでいる(図表1)。

図表1 TCP (Trainer Certi cation Program) の流れ(スキル研修)

図表1 TCP (Trainer Certi cation Program) の流れ(スキル研修)

トレーナーを養成するのは、「マスタートレーナー」と呼ばれる“トレーナーのトレーナー”。マスタートレーナーは、その研修を何回以上行ったか、参加者から常に高い評価を得ているかといった要件に照らして認定される。牛島さんのようなラーニング・リーダーがマスター・トレーナーになることが多いが、他部門の社員もいる。
トレーナー候補は、所属事業部門から指名されるケースや、自ら「やりたい」と立候補するケースもあるが、ラーニング・リーダーが候補者の上司を通じて依頼することが多い。クロトンビルの研修トレーナー資格を取得することは社内外に通用するステータスとなるため、依頼を断る人はほとんどいないという。
トレーナーに応募するには、まず特定分野での業務経験など、プログラムごとに定められた要件を満たしている必要がある。
要件を満たした応募者には、まず「セルフアセスメント」をしてもらう。たとえば、「変革推進マネジメント」のプログラムであれば、過去に変革を経験した際の詳細について、また、ファシリテーションなど必要とされる経験について申告してもらう。そのうえで、TCPの受講可否を判断する。
続いて、受講が認められた場合は、トレーナー候補となっている研修を、まずは参加者として受講する。そのうえで、マスタートレーナーによるTCPを受講し、その研修のプログラムを提供する際の大事なポイントや、教えるうえでのコツなどを学ぶ。
そして最後には、TCPの一環として、「TeachBack」と呼ばれるアセスメントを受ける。これは、実際に担当することになる研修のトレーナーをやってみせて、それをマスタートレーナーが、定められた基準要件に沿って評価する場である。基準要件は研修によって種類も項目数も異なるが、たとえば図表2のような項目で評価され、フィードバックを受ける。

図表2 トレーナーの基準要件(抜粋)

図表2 トレーナーの基準要件(抜粋)

TeachBackの結果は、翌日からでもトレーナーができる「完全合格」、一定の条件付きで認められる「条件付き合格」、「不合格」の3段階で判定される。ここに至るまでには相当な手間と時間がかかっているが、「不合格」となるケースも珍しくないという。
「とくにリーダーシップ開発のプログラムでは、ラーニング・リーダーでも不合格になることがあります。世界各地からクロトンビルまで行き、1週間の研修プログラムに参加し、次の1週間でTCPを受講し、計2週間の時間と交通費を投資していても、不合格を出すことをためらいません。クロトンビルは、それほどクオリティへのこだわりが強いのです」
いったんトレーナーに認定されても、その資格を維持するには「年3回以上、その研修を行う」、「参加者の満足度評価で、4点満点中3.6以上を取る」といった条件がある。ただし、実施回数については、各拠点の組織規模にもよるので、ある程度幅をもたせた運用になっている。
同社にはもう1つ、トレーナー養成のためのプログラムがある。
トレーナーになるのは、人に教えることを専門にしている人ばかりではない。事業部門に所属する人が講師となる場合には、教える内容には詳しくても、それをわかりやすく伝えるのは苦手という人もいるだろう。
そういう人のために、「NewTrainerWorkshop」という3日間のプログラムが用意されている(図表3)。個別のプログラムのトレーナー資格を得るTCPとは別に、研修内容を問わず、トレーナーとしての基本スキルを学ぶためのものである。

図表3 New Trainer Workshop スケジュール

図表3 New Trainer Workshop スケジュール

受講するのは、研修のトレーナーになる人だけではない。たとえば、「若手にプロジェクトマネジメントの勉強会をしているが、いつも自分が一方的に話している。どうすればもっとインタラクティブにできるか」といった悩みをもつベテランエンジニアが参加することもあるそうだ。

より多くの人にリーチするデジタルラーニングの課題

前述のように、同社はいま、選ばれた一部の人だけでなく、より広い層に向けた教育を強化しようとしている。その方法の1つが、「デジタルラーニング」である。
2015年には、「BrilliantYOU」という社内向けのデジタルラーニングプラットフォームを立ち上げた。書籍、記事、ビデオ、オンライン講座、集合研修など、さまざまなコンテンツを検索し利用することができる。無料コンテンツも多く、また5分程度で学べるマイクロラーニングを取り入れるなど、年ごとにコンテンツは充実させている。マッキンゼーなどの外部機関や大学のMOOCs(無料のオンライン講座プラットフォーム)とも連携を進めている。
BrilliantYOUの導入により教室型研修の本数は減ったが、オンライン講座などバーチャルなものを合わせると、全体としては講座数が大幅に増えている。ただし、現状ではほぼすべて英語での提供だ。
その一方で、牛島さんはアジア・パシフィック地域の特性として、対面式の研修を好む傾向があるという。自らの意思でデジタルツールを活用して学ぶ人を増やしていくためには、意識改革が必要だと述べる。また、アジア人には“師に教えを乞う”意識も強い。こうしたマインドセットも変えていく必要がある。
さらに、デジタルラーニングの課題として、たとえばオンラインを活用してバーチャルに研修を提供する場合などでは、トレーナーに求められるファシリテーション・スキルも、対面式の場合とは違うものが求められるという。
「バーチャルでのファシリテーションには、独特の難しさがあります。いちばん違うのは、相手の反応がわからないことです。講師サイドは、PC画面上でカメラをオンにしている受講者の顔が見えるのですが、顔を出したがらない人も多く、また顔を出していても、大勢が参加している場合はすべての人を見ることが難しく、一方通行になりがちです。
また、参加者同士のインタラクションがつくりにくく、『ちょっと隣の人と話し合ってみてください』ということができません。
とはいえ、テクノロジーも進化し、さまざまなツールが出てきていますので、まずはわれわれラーニングにかかわる人間が、それらを使いこなすことが大切です」
たとえば、チャット機能を使うことで、声を発するのをためらう受講者の意見を引き出す。また、複数の選択肢から1つを選ぶ投票ツールや、参加者のコメントからキーワードを拾ってリアルタイムで表示するツールなどにより、参加者の関心を高める。参加者同士の対話も、ウェブ上に会議室をいくつか設置し、グループに分かれて話し合ってもらう、といったことができるようになってきているそうだ。

対話を促す、引き出す能力が求められている

牛島さんは、もう1つの課題として、演繹的(Deductive)な課題解決から、帰納的(Inductive)な最適解の探求へと教育のあり方が変化しており、それに対応してファシリテーションのやり方も変えていく必要があるという。
「演繹的というのは、命題があって答えが決まっている形です。研修にあてはめると、ある課題があって、その解決のための手法を教え、それを用いて答えを導き出させる、ということになります。
しかし、現代のようなVUCAワールドでは、絶対的な解はなく、いま起きているさまざまな現象から、『こういうことがいえるのではないか』と、帰納的に最適解をみつけていかなければなりません。そのためには、多様な経験値をもつ人を集めて対話を促す“インダクティブ・ファシリテーション”が求められます。これは、これまでの演繹的なファシリテーションよりはるかに難しい」
象徴的なのは、研修で使うPowerPointのページ数だという。かつては、1日研修で100枚以上ものスライドを用いることもあったが、現在は、たとえばリーダーシップ開発の1週間の研修でも2〜3枚しか用いないこともあり、代わりにホワイトボードを駆使する。
プレゼンテーション資料に頼らず、受講者から引き出すファシリテーションは試行錯誤しながらでしか学べないもので、経験も大事だと牛島さんはいう。これからのトレーナーには、そうしたより高度なファシリテーション・スキルが求められている。

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「ファシリテーターというのは、学びの促進者。情報は提供しますが、答えを教える“先生”ではありません。ですから当社では、研修を行う人は『講師』ではなく、『ファシリテーター』と呼んでいます。個人的には、『トレーナー』という言葉も使いたくないと思っています。
参加者の多くは答えを欲しがりますが、そこで答えを教えようとするのではなく、対話を促しながら、皆で答えを見出していくスキルを身につけてもらうことが重要です」

(取材・文/崎原 誠)


 

▼ 会社概要

社名 GEジャパン株式会社
本社 東京都港区
設立 1892年(米GE)
資本金 非公開
売上高 約13.5兆円(米GE)
従業員数 非公開
事業案内 発電機器事業、航空機エンジン事業、ヘルスケア事業など
URL https://www.ge.com/jp/

GE Crotonville Japan
Regional Learning Leader
牛島 仁さん


 

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