事例 No.130 JR東日本テクノハートTESSEI 特集 気づいて動く接遇を学ぶ
(企業と人材 2018年2月号)

接客教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

ユニフォーム変更がきっかけでスタッフの意欲が向上
「エンジェルリポート」によっておもてなしの心を共有

ポイント

(1)「さわやか、あんしん、あったか」空間の創造をCS行動規範として掲げ、スタッフに、清掃だけでなく利用客へのおもてなしの心をもってもらうよう育成。清掃業からおもてなしサービス業への転換を図る。

(2)スタイリッシュなユニフォームに変更したことがきっかけとなり、スタッフの意欲や能力が向上。また、スタッフのよいところを伝える「エンジェルリポート」によって、互いを認め合う文化を育む。

(3)新幹線車両を再現した研修設備を利用し、新人に対して清掃技術やマナー研修などを実施。また、他企業と合同で開催する「おもてなしプロジェクト」に若手社員が参加し、おもてなしの心を学ぶ。

乗客への気遣いで、清掃業からおもてなし業へ劇的に転換

株式会社JR東日本テクノハートTESSEIは、全部で11あるJR東日本グループの清掃会社の1つで、1952年に鉄道整備株式会社の社名で設立された。当初は国鉄の在来線車両の清掃を担当していたが、現在は新幹線車両の清掃を専門としている。
同社は、東北、上越、北陸、山形、秋田の5方面から東京駅に乗り入れるすべての新幹線車両や、新幹線駅構内などの清掃作業を手がけている。新幹線自体が「安全・正確・高頻度」の輸送を実現するなかで、清掃を受け持ちながらその一翼を担うというのが大きな役割だ。
同社が清掃する新幹線は、1日平均170本。座席数をみると、1日約17万席、年間約6,300万席におよぶ。
車両の清掃時間は、東京駅での折り返し停車時間12分のうち、乗客の乗降時間を差し引いたわずか7分間のみ。基本的に10両22人のスタッフで1チームを組んで、てきぱきと作業を行う。こうした清掃スタッフたちの働きぶりを、同社は誇りを込めて「新幹線劇場」と呼んでいる。
また、スタッフたちは、列車がホームに入ってくると一列に並んで一礼をし、乗客が降車する際にはごみ袋を広げ、笑顔で「ありがとうございました」と言いながらごみを受け取る。そして、清掃が完了し車両から降りた際も全員で並び、「お待たせいたしました」と一礼。
同社は、こうしたていねいな接客をすることから、おもてなしの心が体現されている企業としても広く知られている。

図表1 経営理念

図表1 経営理念

同社の経営理念は、図表1のとおりである。そして、「お客さま第一」、「安全の確保」、「会社の発展」をキーワードとする行動指針を設けている。
さらにこれらに加えて、CS行動規範として、「『さわやか、あんしん、あったか』空間の創造」を掲げているのが、現在の同社の企業風土を表す大きな特色となっている。常務取締役おもてなし創造部長の石嵜剛さんは、次のように説明する。
「まず、『さわやか』は、新幹線の清掃会社として、当然ながらさわやかな車両空間を提供しようという思いを表したものです。
『あんしん』は、輸送業務なので安全に運行するといったことに加え、われわれも身だしなみや態度でお客さまから信頼していただけるような行動をとろうという意味です。
そしてもう1つの『あったか』には、お客さまとの出会いを大切にし、せっかく新幹線に乗っていただくのだから、お客さまをあたたかくお迎えしていい旅の思い出をつくっていただこう、といった思いが込められています」
ちなみに、おもてなし創造部は、それまでのCS推進部から名称変更をして2012年7月につくられた組織である。おもてなし創造部担当部長の平野健太郎さんは、こう話す。
「当初は、お客さまをおもてなしするのがスタッフ。そのスタッフをおもてなしするのが、おもてなし創造部だということで発足しました。その後、教育部門も統合し、従業員教育を含めて、従業員満足、顧客満足を総合的に追求する部署となっています」

まずはユニフォーム変更に着手。スタッフの意識改革が進む

清掃の仕事をおもてなしサービスに見事に転換させた同社の業務は、いまではハーバード・ビジネス・スクールの教材としても取り上げられるほどで、2012年にはCNNで「7ミニッツミラクル(奇跡の7分間)」として紹介され、世界的な注目を集めた。
また、CS行動規範をスタッフに浸透させたこともあり、2013年には、経済産業省主催「おもてなし経営企業選」50社に選出されるなど、多くの賞も受賞。
そして、これらがさらにスタッフのモチベーションアップにも結びつき、おもてなしの心を大切にする社風がより一層たしかなものになっていく、という好循環が生まれている。
ただし、こうした社風が定着したのはさほど昔のことではない。10年ほど前から顧客満足活動に注力しようという動きが始まり、それが1つのきっかけとなったのだ。
2006年には、同社が提供する清掃業務は単なる清掃ではなく、お客さまに対するサービスであるとして、「新しいトータルサービス」を経営計画に掲げるようになった。そして、同年12月にユニフォームを大幅に変更。それまでの清掃業として一般的な水色のユニフォームから、ファッショナブルなストライプのシャツやベレー帽のユニフォームに生まれ変わった。
「普通なら清掃業向けの制服カタログから選ぶのですが、このときはレストラン業向けのカタログから選びました。なんとなく気恥ずかしいというので最初は嫌がるスタッフが多かったのですが、家に持ち帰って着てみたら家族からカッコいいと言われたりしたことから、だんだんと定着するようになったようです」(石嵜さん)
じつはこのころまでは、スタッフも単なる清掃の仕事という意識が強く、当然ながらおもてなしの社風はまったく根づいていなかった。だが、ユニフォームが変わったことによって、利用客から声をかけられることが多くなった。すると、スタッフの意識も明らかに変わっていき、おもてなしの心が芽生えていったという。
「以前は、典型的な清掃のおじさんおばさんというユニフォームだったので、新幹線に乗るお客さまも、清掃スタッフに何か尋ねてもどうせわからないだろうと思われていたのでしょう。お客さまから話しかけられることは、ほとんどありませんでした。しかし、ユニフォームを変えたことで、ご案内を求められたりするようになってきたのです。
ときには答えられないこともありますが、事業所に戻ってから『こんなことを聞かれたけれど、どう答えればよいのか』を周囲と話し合っていくうちに、スタッフ一人ひとりが知識を身につけていき、それと同時に意識も高めていったようです。そこから、自分たちも新幹線の輸送を担う一員だという誇りをもてるようになっていき、お客さまに対しての姿勢も変化していったのです」(平野さん)
さらにその後、ほうきやバケツなどの清掃用具についても、そのまま持ち運ぶのではなく、すべてバッグに詰めて運ぶというやり方に変えていった。こうすれば見た目にもすっきりとして美しく、清掃スタッフはユニフォームとあわせて、非常にスタイリッシュな姿で移動できるわけだ。
この用具をバッグにしまって見えなくするというアイデアは、スタッフの提案が元になっている。同社では、こうしたスタッフからの提案について、基本的に「ノーと言わない」姿勢を貫いている。そのまま取り入れられる提案なら取り入れるし、難しい場合も代案を考えて、できるだけ提案を実行に移せるようにして、スタッフのモチベーションを高めているのだ。
制服変更と同じ時期に、前述したようなホームでの一礼も始まったが、これも当初はなかなかやりたがらないスタッフがいたという。
「リーダーシップのあるスタッフが、『皆でやろうよ』と声を掛けたほか、会社からも、一礼をする理由として1つには前を見ながらホーム上の安全を確認したり、運転士に『準備完了、安全ですよ』といったことを伝える意味もあるのだと皆に話したりしながら進めていくなかで、徐々にやりたがらないスタッフも減っていき、いまでは全員がやれるようになっています」(石嵜さん)
「最初は、なぜ清掃の仕事をしているのに、そんなことまでしなければいけないのかと強く抵抗していた人も、気がつくとまわりが一礼をするようになっていたので、自分もするようになったというケースもあります。一礼をする理由も、他のスタッフの話を聞いているうちに納得できるようになったようです。その意味では、時間をかけて細かいことを積み重ねていくうちに、多くのスタッフの意識が変化していったともいえますね」(平野さん)
そして2007年には、前述のCS行動規範も誕生している。

▲清掃スタッフがホームで一礼する様子

▲清掃スタッフがホームで一礼する様子

「このCS行動規範をつくったことで、スタッフも自分たちがどのような行動をとればいいかということがシンプルにわかりやすく伝わるようになりました。その後の接客やサービスの向上につながって、おもてなしの心でお客さまに対応するという姿勢が、徐々に全社に浸透していったと感じています」(石嵜さん)

スタッフのよいところを伝える「エンジェルリポート」

同社では、「共に働く者がお互いを認め合う」という企業文化が浸透しており、これも同社のおもてなしを支える大きな強みとなっている。この文化を象徴する仕組みが、「エンジェルリポート」(図表2)だ。
2007年にスタートし、毎日コツコツがんばっているスタッフや“あったか”なエピソードなどをリポートし、現場で共有するほか、本社でも抜粋した情報誌を発行し、全社的に共有している。
「何か目立っていいことをした人は褒められますが、『それ以外の人も皆、目立たないところで一生懸命がんばっている』といったスタッフの声を聞いて、地道にコツコツとがんばる人を取り上げてリポートしようということで始めたものです。
ただ、ふだんは文章を書かない人が圧倒的に多いので、最初は中間層クラス30人ほどに“エンジェルリポーター”になってもらい、がんばっているスタッフなどをどんどんみつけて報告してもらうようにしました。
現在は、だれでもリポートができるようにしています」(石嵜さん)
エンジェルリポートは、図表2のように、スタッフのリポートと現場長のコメントがそろって1つのリポートとなる。近年ではリポート数もどんどん増え、昨年には過去最高の約1万7,000件となった。詳細をみてみると、リポートされて褒められたスタッフが約96%とほぼ全員で、リポートしたスタッフも約80%に達している。

図表2 エンジェルリポートの例

図表2 エンジェルリポートの例

「昨年はかなりの件数になりましたが、件数の多さよりも、どれだけの人が書いているか、あるいは書かれているか、といったところが重要だと考えています」(石嵜さん)
ほとんどのスタッフがリポートをするようになったが、いまも活動の中心となるエンジェルリポーターの制度は残しており、毎年「エンジェルリポーター研修」も実施している。
これは、中間層である主任・指導員クラスを対象に、30人程度を指定。グループワークで、コツコツとがんばっている人や取り組みをどのようにしてみつけて、どうリポートするかといったことを研修する。
「基本的に、毎年メンバーを入れ替えていますが、事業所によっては人数が少ないところがあるので、なかには2度目、3度目となる人も含まれます。昨年はこの研修において、実際に東京駅に出てがんばっている実例をどんどんみつけて、それを紙に書いてもらうという訓練も実施しました」(平野さん)
この取り組みは、スタートから10年ほどの間で何度も改善されており、現在では、リポートを基に最も多く褒められた人や褒めた人を表彰する制度も設けている。現場長からの表彰をはじめ、半年に1回、「安全」や「清掃品質」と併せて優れた実績を上げた人を部長が表彰する制度や、創立記念日にとくに功績のあったスタッフを表彰する制度など、さまざまな段階で幅広くエンジェルリポートに関する表彰が行われている。
おもてなし創造部業務統括主事の浅海雅也さんは、次のように話す。
「現場スタッフに対する表彰では、毎月がんばってくれた組(6人のチーム)に対し、現場長が表彰するというケースもあります。通常の表彰制度では報奨金が出ますが、組への表彰ではお菓子の詰め合わせなどが出て、現場スタッフも喜んでいます」

「100席技能研修」で新人育成おもてなしの心を学ぶ研究も

このエンジェルリポートのほかにも、現場で生まれたアイデアから「ノリ語集(AngelWorld)」と「ノリません語集(DevilNote)」という冊子も作成した。「ノリ語」は、雰囲気を変え皆が気持ちよく仕事ができるよい言葉で、たとえば「ありがとう」、「がんばっているね」、「おもしろいね」、「いいね!」など。逆に「ノリません語」は、相手のやる気を失ってしまいかねない悪い言葉で、「うざい」、「けしからん」、「やめよう」など。これらの言葉を冊子にまとめて主任クラスに配布し、皆で話すときの言葉の使い方にも配慮するようにしている。
ほかにスタッフ同士が認め合うための取り組みとして、季節ごとに社内パーティを開催してコミュニケーションを深めたり、スタッフたちでつくった折り紙や飾り物を社内に飾ったりしている。
また、清掃チームごとのスモールミーティングも毎日実施。このなかで、たとえばエンジェルリポートを皆で書こうといった話し合いなどもなされ、理念の共有が図られている。
「当社の場合、ほとんどのスタッフは中途採用です。年齢、経験、考え方などもさまざまなので、お互いに気持ちよく仕事をしてもらうためには、やはりコミュニケーションが非常に大切なのです」(石嵜さん)
さらに、最近の取り組みとして、2017年に新たにスタートした「100席技能研修」がある。これは、100席ある新幹線車両を再現した研修設備のなかで、新人に4日間清掃の技術を学んでもらう研修だ。スキルアップが中心ではあるものの、このなかで、CS行動規範などをはじめ、同社の理念や企業風土についても話すほか、基本的な言葉遣いやマナーの研修も行う。その後、各職場でのOJTを経て、3カ月後には、フォローアップ研修も実施している。
また、社員の視野を広げるというねらいから、ほかの企業3社とともに、おもてなしを研究する「おもてなし研究プロジェクト」を開催。若手社員が参加して、おもてなしの心を学んでいる。これは2017年3月からスタートし、勉強会自体は毎年1回だが、その中間でメンバー同士の交流なども実施している。

《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」 《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」

今後も同社では、基本的な清掃業務の質の向上に努めながら、スタッフ自身がおもてなしの意識をもち、自分で考えて行動する力をさらに維持・向上させるための場や機会の提供に努めていく方針だ。
「当社は清掃会社なので、最大のおもてなしは、新幹線の車内でのおもてなしは、新幹線の車内で高品質な清掃を提供することです。それを実現していくためにも、前述の100席技能研修については、現行の新人向けだけに限らず、さまざまな階層向けに拡大していきたいと思っています」(平野さん)

▲「100席技能研修」に参加する新入社員たち
▲「100席技能研修」に参加する新入社員たち

▲「100席技能研修」に参加する新入社員たち

「これまで紹介したような制度や仕組みも含めて、お客さまから喜んでいただいたり、スタッフ同士で認め合ったりすることによって、スタッフがおもてなしの精神をもち、自主的にさまざまなことに取り組めるようになってきていると感じています。
とはいえ、新しく入ってくるスタッフたちは昔を知っているわけではないし、ここからがスタートなので、当社のもつ風土にいかに馴染んでもらうかは、これからも続く大きな課題といえるでしょうね」(石嵜さん)

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社JR東日本テクノハートTESSEI
本社 東京都中央区
創立 1952年10月
資本金 3,800万円
売上高 42億2,000万円(2016年度)
従業員数 910人(2017年4月現在)
平均年齢 49.6歳
事業案内 東京駅および上野駅における新幹線車両の折り返し清掃作業や駅構内の清掃作業など
URL http://www.tessei.co.jp/

(左)
おもてなし創造部
業務統括主事
浅海雅也さん

(中)
おもてなし創造部
担当部長
平野健太郎さん

(右)
常務取締役
おもてなし創造部長
石嵜 剛さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ