事例 No.129 スーパーホテル 特集 気づいて動く接遇を学ぶ
(企業と人材 2018年2月号)

接客教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

従業員が自ら課題を設定しチェックする仕組みで
“自律型感動人間”の育成をめざす

ポイント

(1)店舗拡大・稼働率停滞のなかで理念浸透が不十分であったことが判明。現場の社員も入れた委員会で自社の理念と行動基準をまとめたクレド「Faith(フェイス)」を作成。

(2)100店舗を超えた2011年にフロントアテンダントの育成を強化。本社が仕組みをつくり、「スター制度」と「アテンダント評価表」、「トレーニングログ」などのツールを活用し、各店舗での育成をサポート。

(3)全国のアテンダントが、実際のフロント業務を想定したロールプレイや1分間スピーチで接客を競う「スーパーホテルグランプリ」を開催。全国大会の模様を収録したDVDを各店舗に配布し、育成教材として活用。

感動するサービスがリピート客をつくる

国内124店舗、海外3店舗のホテルチェーンを展開する、株式会社スーパーホテル。出張などビジネス目的で宿泊する個人客にターゲットを合わせた質の高い接客サービスで、ビジネスパーソンから高評価を得ている。
同社は、独立開業希望者にホテル1店舗の運営を任せる、独自の「ベンチャー支配人制度」を実施していることでも知られる。同社と業務委託契約を結んだベンチャー支配人は、50日間の研修を受講したうえでホテル経営に臨み、4年間の契約期間中に報酬を得ながらビジネスのノウハウを身につける。
現在、国内124店舗のうち、直営店7店を除く117店舗がベンチャー支配人によって運営されている。
同社は経営理念に次の文言を掲げている。
「私たちは常に『安心・清潔・ぐっすり眠れる』スペースを創造し、お客様第一主義を旨として、お客様に元気になっていただき、活力ある社会活動・経済活動をされるのに貢献いたします」
顧客満足度を追求する同社にとって、接客サービス品質の追求は最も重要な経営課題の一つである。同社経営品質部・部長の星山英子さんは、同社のサービスコンセプトについて、次のように説明する。
「経営理念にある『安心・清潔・ぐっすり眠れる』に『LOHAS』(LifestylesOfHealthAndSustainability、健康と持続可能社会を重視する生活様式)を加えた4つの要素をお客さまに提供し、お客さまにぐっすり眠って元気になっていただくことが私たちの使命であると考えています。
このコンセプトを実現するためには、たとえばお疲れのご様子の方にはいたわりのお声がけをしたり、いつも同じサービスをご所望される方なら言われずとも対応するなど、お客さま一人ひとりのご様子、特性を理解したうえで、ちょっとした気遣いを大切にして接客サービスに取り組むことが必要です。
そうした姿勢がお客さまの感動を呼び、リピートにつながると私たちは考えています」
このような接客サービスを実現できる人材像を、同社は「自律型感動人間」と定義し、人材育成目標としている。自分で考え自分で行動し、結果に対して責任をとると同時に、利用者に感動を与えられるのが自律型感動人間であり、社員だけでなく、ベンチャー支配人やアルバイトまで含めて、すべての従業員がめざすべき人材像とされている。

経営理念をわかりやすくまとめた「フェイス」

ここで、同社が現在のように接客サービスの品質を追求するようになった背景に触れておきたい。
1996年に1号店が福岡市に開店した当初から、感動を呼ぶサービスという理念を掲げ、接客サービスの品質向上に取り組んできた同社であったが、開業10周年を控えた2004年ごろ、それまで右肩上がりだった稼働率が停滞し、その原因を追求する過程で、経営理念が現場に浸透していなかったことが明らかになった。
「当時私は、フロントアテンダントとして現場の業務を担っていましたが、経営理念について深く考える機会はあまりありませんでした。従業員は皆、お客さまに良いサービスを提供したいという思いはもっていましたが、何が良いサービスで、自分たちがどんなことをすればいいのかという価値観は統一されておらず、バラバラだったために、顧客満足度の向上にはつながらなかったのです」と星山さんは振り返る。
課題がみつかったことをきっかけに、同社は経営品質の考えを取り入れた。そして、お客さま視点でサービスの見直しを図るとともに、人材育成方針をあらためて打ち立てた。
このとき、現場の社員も加わった委員会形式で、クレドが作成された。星山さんもこの委員会のメンバーの1人だったという。従来から用いていた経営指針書の内容を、わかりやすい言葉で簡潔にまとめ、手のひら大の冊子を作成した(図表1・省略)。冊子は「Faith(フェイス)」と名づけられ、現在、全従業員が携行しているほか、各店舗でのミーティングで、フェイスを読み合わることが日課となっている。
「このフェイスの読み合わせを、私たちは『フェイスアップ』と呼んでいます。フェイスアップでは、その日読み合わせた項目について、その日の担当者が日ごろ心がけていることや経験したことを発表し、それに対して支配人がフィードバックします。
まだ入社して日が浅い従業員などは、フェイスの解釈が少し違っていたりすることもありますが、そんな場合にもフィードバックによってすり合わせることができ、価値観の共有が進みます」
店舗では、ふだんは全従業員で集まることは難しい。そのためフェイスアップは、最低でも日に3回は行われるという。経営改革に着手して以降、同社は、接客サービス重視のホテルへの転換を急速に果たしていった。フェイスは、その地盤固めに大きな役目を果たしたのである。

スター制度と評価表を核に、各人が課題に取り組む

ここからは、接客現場の中心的な役割を担うフロントアテンダントの育成について詳しくみていくことにする。
現在のアテンダント育成の仕組みは、2011年に始まったものだ。店舗数が100に達したことを機に、それまでは各店舗の支配人任せだったアテンダントの育成に本部がかかわり、サービスの均質化を図ることとなったのだという。

図表2 フロントアテンダント育成の仕組み

図表2 フロントアテンダント育成の仕組み

アテンダント育成の全体像は図表2のとおり。ベースとなるのは、接客レベルに応じてランク付けされる「スター制度」である。ランクは、新人たちがまずめざすことになるブロンズスターから順に4段階に分かれている。・ブロンズスター(フェイスに示される経営理念、サービススタンダード、行動基準を理解し実践している)
・シルバースター(フェイスに則った行動がほぼでき、お客さまから接客対応について高い評価を頂いている)
・ゴールドスター(フロントチーフ。フェイスに示される経営理念や行動基準に則り、模範的な接客対応ができる)
・No.2(フロントマネージャー、支配人、副支配人の代わりに店舗運営ができる。またトレーナーとしてアテンダントの指導ができる)
アテンダントは、各自のランクを表すバッチを胸につけることになっている。ちなみに、No.2とは「支配人、副支配人の右腕」という意味だそうだ。
評価の対象になるのは、全国のスーパーホテルでフロント業務を務めている約600人のフロントアテンダントだ。社員、アルバイトの区分けなく、ランク付けには同じ評価基準が用いられている。現在、ゴールドスター認定者は全国に約100人、No.2認定者は70人ほどで、星山さんは「もっと増やしたい」という。
スター制度とともに、アテンダント育成の中核となるのが、ランクごとにめざす接客スキルが示された「アテンダント評価表」(図表3)である。図表では空欄となっているが、「価値観の共有」、「数値(目標)管理」などの評価項目ごとに、1~4の行動目標が記載されており、これをもとに各人が能力開発を行っていく。

図表3 アテンダント評価表

図表3 アテンダント評価表

上位ランクへの昇格は、半年に一度実施される筆記試験と面接による検定試験によって決定される。面接時には、アテンダント評価表の項目がそのまま評価基準として用いられ、ブロンズスターおよびシルバースターは支配人が、ゴールドスターおよびNo.2は、本社の経営品質部やコンサルタント部が面接を行って、最終的な評価を決定する。
一例として、人材育成目標に深くかかわる「自律と感動」の行動目標を一部紹介すると、ブロンズスターでは「目標に向かって積極的にチャレンジしている」、「気持ちや態度にムラがなく、素直な心で周囲に常に感謝の心をもって接している」、シルバースターでは「言い訳や責任転嫁をせず、物事は自分次第と考え、責任感をもって行動している」、「お客さまへの感謝の心を忘れず、常にお客さまの立場に立って考え、感動を与える努力をしている」、ゴールドスターでは「目標を達成するために創意工夫し、できる方法を考えている」、「チームワークの大切さを理解し、働く仲間や支配人・副支配人への報告連絡相談を怠らない」などとなっており、評価の要素、視点が具体的に示されている。
このアテンダント評価表に基づいて、日常業務のなかでスキルをチェックするためのツールが、「トレーニングログ」と「レベルアップシート」である。アテンダント一人ひとりがこれらのシートを作成し、支配人と月1回・30分間の面談を行うことになっている。
トレーニングログは、当人にとっての目標ランクの行動目標について、達成状況をみるためのチェックリスト。たとえば、ブロンズスターをめざしている従業員のトレーニングログには、「誰に対しても、自分から相手に伝わるように元気よく、笑顔で挨拶できる」、「電話は3コール以内に出て、明るい笑顔で名乗れる」など59のチェック項目がある。面談の際には、支配人と話し合いながら、それぞれの項目に○△×の三段階評価を書き入れていき、全項目の達成をめざす。
一方、レベルアップシートは、トレーニングログの項目のうちの未達項目を最大5つ書き込み、それぞれの項目について、毎日、3点満点で自己採点していくものだ。
面談では、トレーニングログやレベルアップシートの進捗について話し合うと同時に、支配人がアテンダントの悩みや相談を聞く場ともなっている。「まず、30分で終わることはありません」と星山さんは笑うが、上司・部下の結びつきを強め、安心して仕事に取り組んでもらうことも面談のねらいである。

模範ロール普及を目的に始まった接客コンテスト

アテンダント向けの研修も多数用意されている。
入社から半年以内の新人アテンダントは、オリエンテーション研修に必ず参加する決まりだ。各店舗での採用となるため、研修は月3回、大阪と東京の直営店で開催され、参加者は都合の合う日・場所を選んで参加する。
当日は、同社の経営理念についての講義や基本的なマナー研修のほか、「感動とは何か」を知ることを目的とするプログラムが実施される。まず、接客をテーマにしたショートムービーを観たあとに、「どうすれば人は嬉しいと感じるのか」など、与えられたテーマについて参加者同士で話し合いながら、気づきを深めていく。
集合研修以外には、本社所属のインストラクターが各店舗を訪問する出張研修もある。ベンチャー支配人は、本社が提供する接客研修プログラムのなかから必要と思われる研修をピックアップし、インストラクターの派遣を依頼する。インストラクターは、ゴールドスター以上のアテンダントを対象にした接客インストラクター養成システム「GIS(ゴールド・インストラクター・スクール)」で学び、認定を受けたアテンダントが務める。
次に、全国のアテンダントが参加して開催される接客コンテスト「スーパーホテルグランプリ」について紹介しよう。このイベントも、接客サービスの品質向上を目的とする取り組みの1つである。
グランプリの出場者は、実際のフロント業務を想定したロールプレイに臨み、利用客役の要望や困りごとを、いかに早く正確に把握して、好ましい接客を実現できるかを競い合う。上位入賞に向けて出場者が切磋琢磨することにより、多数の店舗の接客スキル向上につなげることがコンテスト開催の主な目的である。
毎年、コンテスト全体のテーマが設定されており、2017年は「観察力」。ロールプレイの場面設定もこのテーマに関連づけたものになり、今回は10パターンつくられたという。アテンダントならだれでもエントリーすることができ、まず東京と大阪で東西大会が開催され、そこで勝ち残った15人前後が全国大会に出場する。
全国大会の様子はDVDに収録され、全店舗に配布されてフロントアテンダント育成の教材として用いられる。
「高い接客スキルをもつフロントアテンダントによる模範ロールを全国に広めることが、スーパーホテルグランプリを立ち上げた、そもそもの目的です。それに加え、全店舗のフロントアテンダントが接客スキルの向上に取り組もうと考えるきっかけになっています。
コンテストの課題の1つに、フロントアテンダントの業務について述べる1分間スピーチがあるのですが、その映像を見て、『同じアルバイトなのに、この人はすごい』、『皆、こんな思いで働いているんだ』と、それぞれが大きな気づきを得ているようです」

新入社員を対象にした多様な取り組み

ここまで、社員とアルバイトの双方を対象とする、フロントアテンダント育成の取り組みを紹介してきたが、最後に、同社の新入社員を対象とする自律型感動人間育成の取り組みを一望してみたい。
新入社員が必ず参加することになっているのが「人間力研修」である。感謝の気持ちを育むことを目的とする研修で、1週間の宿泊研修を1年間に2回実施している。
新入社員がプロジェクトチームを組み、自分たちで立案した企画の実現をめざす「感動プロジェクト」も、同じく新入社員必修の研修だ。2016年は、直営店が排出した古紙を原料にして再生紙のトイレットペーパーを製造した。加工業者選びをはじめ、この活動にかかわるすべての作業を自分たちで処理し、できあがったトイレットペーパーは実際に各店舗に配布された。2017年は、社史編纂に挑んだ。会社とかかわりのある多数の人にインタビューを実施し、その内容から記事をまとめ、一冊の社史を完成させた。
岐阜県の東白川村との提携によって実現した「グリーンツアー」は、新入社員恒例のイベントになっている。過疎問題の解決に、企業として、どのようにかかわっていくかを考えるのがこのイベントの大きな目的だ。これまでに、東白川村の間伐材を使用した椅子や風呂桶を企画製作し、スーパーホテル各店舗の大浴場で使用してきた実績がある。

サービス品質のさらなる向上をめざす

ここまで見てきたように、同社は多様な取り組みを通じて、従業員の成長を支援している。
民間調査会社による、ホテル宿泊客対象の満足度調査で4年連続トップになるなど、同社の人材育成は着実に成果に結びついている。こうした状況でも、「まだまだ課題はたくさんあります」と、星山さんは改革に向かう姿勢を崩さない。
「4年連続で高い評価をいただいた顧客満足度調査のなかで、接客サービスが高く評価されたことを、とても喜んでいます。ですがよく見ると、店舗間でサービス品質に差があることがわかります。この課題をクリアするためにも、人材育成はもちろん、マネジメントの改善にも取り組んでいかなければならないと考えています」
近年、同社は、接客サービスの形式知化に注力している。たとえば、利用客のアンケートから、感動を呼ぶ接客のポイントを約20項目抽出し、その方法を学べる事例集を制作し、全店舗に配布している。

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これに加え、これまで属人的なものと考えられてきたおもてなしの“科学化”をめざし、京都大学と共同研究を推進しているという。「分析結果を体系化し、教育ツールに落とし込みたい」と星山さんは述べる。
接客サービスの品質向上に徹底して取り組むスーパーホテル。同社が接客サービスをどのように進化させていくのか、今後の動向に注目したい。

(取材・文/外﨑 航)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社スーパーホテル
本社 大阪府大阪市
設立 1989年12月
資本金 6,750万円
売上高 308億7,100万円(2017年3月期)
従業員数 330人
平均年齢 33歳
平均勤続年数 4.4年
事業案内 ホテルチェーンの展開、土地有効活用のコンサルティング
URL http://www.superhotel.co.jp/

経営品質部 部長
星山英子さん


 

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