事例 No.127 ベアーズ 特集 気づいて動く接遇を学ぶ
(企業と人材 2018年2月号)

接客教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

お客さま感動度120%をめざし、「ベアーズフィロソフィー」で
理念を共有し、“ベアーズびと” になる

ポイント

(1)企業理念のもと、「ベアーズフィロソフィー」として定めた言葉をテーマにお互いに話し合い、社員どうしで気持ちや哲学を共有。

(2)現場のスタッフは7つのステップを踏んだ研修で、フィロソフィーや知識・技術を学ぶ。サービスに満足してもらう(=100%)のは当然で、感動してもらう(=120%)をめざす。

(3)「人生という名のものさしで、プランニングすることが必要」。評価の際は、キャリアプランとともにプライベートのライフプランも提出してもらい、一緒に目標を設定する。

「産業創出」と「雇用創造」をめざして創業

「お客様感動度120%への飽くなき追求」を社是に(図表1)、日本初となる家事代行サービス会社として、1999年に産声をあげた株式会社ベアーズ。日常の掃除、洗濯、料理、買い物など、ライフスタイルに合わせた家事代行サービスのほか、エアコンなどの分解清掃や高圧洗浄など、専用の機材を使って徹底的にきれいにするハウスクリーニングサービス、さらには子どものシッターサービス、高齢者支援サービス、ホテル清掃サービスなど幅広く事業展開している。

図表1 ベアーズの企業理念

図表1 ベアーズの企業理念

「香港での原体験である、“メイドさんのいる暮らし”を日本でも産業としてつくり、根付かせたかった」と、同社取締役副社長の髙橋ゆきさんは、創業のきっかけを語る。夫とともに移り住んだ香港で現地法人に勤めた髙橋さんは、現地で第一子を妊娠。27年前のことである。当時の日本は、女性は妊娠や出産を機に会社を辞めて家庭に入るというのが一般的な時代だった。髙橋さんも仕事しながらの出産・育児という状況を想像して、退職が脳裏をよぎったが、勤め先の社長は「香港では、妊娠・出産・育児で仕事を辞める女性はいない。キャリアもあきらめない。君はもっと素敵な仕事ができる」と妊娠を歓迎してくれたのである。

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「カルチャーショックでした。しかも、香港では家事のサポートにメイドを雇うのが普通だと知って二度びっくりです。メイドというと、よほどのお金持ちしか利用できないものと思っていましたが、香港ではごくふつうの共働き家庭でも利用していました。わが家でも家事全般だけでなく育児までこなしてくれ、私たち夫婦は安心して共働きを続けることができました」
しかしその後、夫妻が日本に帰国すると、そうした使い心地のいいサービスがないことを痛感する。そこで自分たちでサービスを根付かせようと創業を決意。夫である髙橋健志さんが社長となった。
「会社をつくるというより、家事代行サービスという産業を切り開き、根付かせていきたい。日本の暮らしの新しいインフラにしたいという思いで創業しました。もう1つの思いは雇用の創出です。当社には約200人の正社員に加え、現場の家事代行業に従事してくださる“ベアーズレディ”が約5,200人います。彼女たちは20代から80代までさまざま。そうした幅広い女性たちの新しい雇用創造に貢献したいのです。この2つの思いはいまも変わりありません」
現在、同社のサービス利用は年間約90万件で、個人利用だけでなく、社員の福利厚生として契約している法人も480社にのぼる。
家事代行サービス産業は、すっかり認知されてきたと思われるが、髙橋さんは「男女雇用機会均等法が施行されて30年も経つのに、ようやく女性の活躍推進を、男性も家事育児を、といわれるような状況です。2013年に立ち上げた一般社団法人全国家事代行業協会には、全国約40社が加盟していますが、どの事業所も問い合わせが多くあります。潜在需要は9割以上あるでしょう」と見通す。

求めるのは「人間臭さ」

同社の企業理念の冒頭には、「全従業員の幸せを最優先とする」とある(図表1)。「大家族主義」を掲げるベアーズで、髙橋さんは「ベアーズの母」を自認する。父はもちろん髙橋健志社長だ。人事・人材について尋ねると「人事は愛情を一番表現しなくてはならないところ」との答えが返ってきた。
「会社の人事というと、どうしてもルールや制度の話になりがちです。しかし当たり前ですが、組織は人が資本です。私は商品やサービスに携わる人の品格や人格が、その会社の商品やサービスを司ると信じていますから、自社の商品やサービスを思うのであればこそ、自社の人材を一番に考えるというのは当然であり、とても重要なことです。毎朝社章をつけるときも、『本日も暑苦しいほど愛ある経営でいこう』と、自分に喝を入れています」と、「愛ある経営」の大切さを強調する。
求める人材も「人間臭い人」だ。「人間臭いのがベアーズの強みでもあります。採用時にとくに気にかけるのは、たくさん苦労された方。うれしいことや幸せなことを体験するのも重要ですが、自己成長をさせてくれるのは、怒りや悲しみ、悔しさだったりします。そうした思いを抱え、乗り越えることで人間臭くなる、つまり人間力が磨かれると思うのです」
同社では顧客の自宅のカギを預かってサービスを提供することもある。そんなときに安心して任せられるのは、うわべだけでなく、相手の状況を思いやれる温かみのある人なのはいうまでもない。
髙橋さんは、もう1つのキーワードとして「地感性」をあげる。「よく地頭のいい人、といいますが、私は感性の高い人、感度の高い人を“地感性の高い人”と表現しています。苦労を重ねてきた人のほうが地感性が高いと思います」
そうした方針のもと、実際に同社に入社してくる社員は、「本当に人がいい社員が多い。一人ひとりについて、2時間くらい語れますよ」というほどだ。

「ベアーズフィロソフィー」で理念や気持ちを共有

育成の方針は、「人を育てるのではなく、育ち合う文化をつくっていく」ことだ。その柱となっているのが、「ベアーズフィロソフィー」だ。これは、髙橋夫妻の言葉も含め、これぞと思う経営者の言葉など80ほどのフレーズをまとめたもので、毎日全員で学び合う。
たとえば、社長の言葉としては「善因善果悪因悪果」(善い心がけてで始めたことは、多少時間がかかったり遠回りをしたりしても必ず善い結果に結びつき、悪い心根やずるい思いで始めたことは、多少うまくいっていても必ず悪いところに落ち着く)というものがあるが、ほかにも社是である「お客様感動度120%への飽くなき追求」や「ベアーズの商品は愛である」という髙橋さんの言葉も、フィロソフィーに含まれている。
これらの言葉のなかから毎朝1つ、「今日の言葉」として提示し、それを「“今日の心”でどう感じるか」を部署ごとで輪になって、経験談なども踏まえながら、互いに1、2分発表し合う。誰かが語るスタイルではなく、数人で互いに聞き合うのがポイントだ。
「お互いに聞き合うと、ベアーズフィロソフィーに則っているか指摘し合える関係になりますし、仲間のコンディションがわかってきます。あの人はちょっとお疲れモードだからチームでカバーしようとか、自然に助け合う良好な関係づくりに役立っています。このフィロソフィーが、私たち“ベアーズびと”の血肉になります」

お客さまの感動度を測るものさし

ベアーズフィロソフィーの徹底によって、「お客様感動度120%」が実現するわけだが、では、120%感動したかどうかは、どうやって測るのだろうか。
同社では、「働き手の満足度調査」や、ミステリーカスタマー調査(利用者を装ってサービスを利用し、評価する調査方法)で、サービス品質を定期的に測定している。
一般的にミステリーカスタマー調査では、アンケートを集計・分析し、レポート化して利用されるが、ベアーズでは、回収されたアンケートに書かれた内容を、実名そのままに全員の前で発表する。
たとえば「コールセンターの◯◯さんは早口で聞き取れない」、「営業の◯◯さんの態度が上から目線」といった内容をそのまま伝える。
「それで卑屈になったりする人は少なく、指摘された人は、同僚に『気づかせてくれてありがとう』と感謝されたりします。実名を出すので刺激的ではありますが、感動度120%のために必要なことだと思っています」
また、ミステリーカスタマー調査では「あいさつはきちんとできていたか」、「礼儀正しかったか」など約70のチェック項目が並び、指標化される。しかし、髙橋さんは「これで100点を取り続けることが感動を与えていることとイコールだとは思っていません。100点を取るのは当たり前で、それは“満足”の段階です」と指摘する。
お客さまへのアンケートに「感動しましたか」という項目もあるが、「それをただ鵜呑みにはしていません」と髙橋さんはいう。
では、“感動”があったかどうかの確認方法は何かというと、2つあるそうだ。1つは直接、利用者に聞くこと。もう1つは紹介による依頼件数だ。
「人は感動したことがあるとだれかに話したくなります。創業時の調査では、お客さまがサービスに感動すると、3人に話すことがわかりました。だいたい3件の紹介をいただいたからです。
現在はネットやSNSの普及で、1人のお客さまから5~7件のご紹介がありますが、この件数が多いほど感動してもらったのだと考え、指標の1つとしています」

7ステップで学ぶベアーズレディの研修

感動度120%のサービスを実現するために欠かせないのが、サービスを担当するベアーズレディが受講する研修だ。社員も入社時に必ず受講し、卒業しなくてはならない。

図表2 ベアーズの研修 7つのステップ

図表2 ベアーズの研修 7つのステップ

研修は7つのステップにわかれているが(図表2)、1つ目が先に挙げた「ベアーズフィロソフィー」を学ぶこと。主な言葉が書かれたベアーズDNAカードも常に携帯し、哲学の共有を図っている。
2つ目は、お辞儀の仕方や名刺の渡し方など、いわゆる一般的なマナー研修だ。ただし、だれもが同じ角度、スピードで頭を下げるようになど、「ベアーズ流」を徹底している。
3つ目が立ち振舞い研修である。たとえば、不在のお客さまの家に訪問するときは、不在だとわかっていても最低でも2回はインターフォンを鳴らし、玄関に入ったときも、誰もいないとわかっていても、「おはようございます。◯◯さま。ベアーズからまいりました◯◯です」とあいさつする。また、雨で濡れるときに備えて、替えの靴下を1足用意しておくことや、いざ履き替えるというときは一言断りを入れてから履き替えることなど、自分の行動がお客さまの目にどう映り、ではどう振る舞うべきかを徹底して学ぶ。
4つ目は知識研修である。座学により、料理や掃除、洗濯などの基本を学ぶ。
5つ目は研修所においての実技研修だ。掃除機のかけ方や拭き掃除の方向、ぞうきんの持ち方などを実際にやって身につける。

▲研修中の風景。人が行うサービスゆえに、技術だけでなく感謝と笑顔にもこだわる

▲研修中の風景。人が行うサービスゆえに、技術だけでなく感謝と笑顔にもこだわる

6つ目は先輩に同行しての研修となる。お客さまの家に入っていくタイミングや声のかけ方など、これまで学んだことを先輩と一緒に現場で実践しながら、業務を行い、具体的な指導を受ける。
最後が独立研修である。事前に了解を得たお客さまのところに“研修卒業生”として単身で派遣され、業務を行う。そして業務終了後、直接の感想をいただいて当人にもフィードバックする。
たとえば、「笑顔がすてきで感じもいいが、手が遅くてあれなら自分でやったほうがいい」という感想がきたなら、もう一度、知識研修や実技研修、などからやり直す。しかし、同社が重視するのは、「仕事は完璧でも笑顔がない」といった感想だ。再度フィロソフィー研修やマナー研修を行うが、「適性がないかもしれない」と判断することもある。
以上の7つをすべてクリアすると、現場に出ることになる。研修は公開されているスケジュールからステップごとに都合の良いときに受講する方式になっており、平均して約2週間で卒業できるようサポートしている。その後も入社して1カ月後、3カ月後にステップアップ研修を行うほか、任意のブラッシュアップ研修などを行って、サービス品質を維持している。

夢の片棒を担ぎあえる人事考課

もう一つユニークな取り組みを紹介しよう。同社では、社員の評価の際に、キャリアプランだけではなく、今後5年間のライフプランも提出してもらっている。
「どのように一人ひとりに配慮して成長を促し、支え、育ち合う文化にしていくかを考えたとき、実績や功績、経験値だけで人事考課をすることは、われわれのめざす世界観にはそぐわないと考えます。“人生という名のものさし”で、プランニングすることが必要だと考えました」
ライフプランの提出は5年ほど前から開始した。今後5年間の自分の理想の暮らし方、生き方を書くように指示しているが、特徴的なのは、「来年マネージャーになる、翌年は主任になる」といった仕事のことよりも、「◯歳で結婚する、◯年後には家を買う」などのプライベートなことを書いてもらうように求めていることだ。
「みんな仕事のことばかり。つまらないことばかり書くんです」と髙橋さんは当初を振り返る。そこで、ある女性部長のライフプランに二重線を引いて、「来年ボーイフレンドができる。2年目には結婚する。3年目は、妊娠し、産休・育休を取る。4年目に復帰する」と書いて返したのだそうだ。
「彼女とじっくり話して本音を問うと、『できるものならそうなりたい』という。それなら紡いでいきたい人生と、いまするべきことを逆算して、そのためにはいま、このくらいの力を発揮して、このくらいチームに貢献しようなど、具体的な目標を一緒に考えたんです。人事考課にも反映させました」
結果、彼女はライフプランどおりに結婚し、人生を歩んでいるという。ライフプランの提出は任意だが、実際に成功例が登場したことで社内にその大切さが伝わり、浸透してきている。
「ライフプランも考えた目標設定をすることは、夢の片棒を担ぎ合える人事考課だと思っています。会社としては、責任の片棒を担ぐことにもなるのですが、とてもベアーズらしい仕組みだと思っています」
こうした取り組みにより、濃い人間関係ができあがり、結果的に期待を上回るサービス提供ができている。
髙橋さんは、「私が育てた人たちが、今度は自分の下の人たちを同じようにして育ててくれています。しっかりとDNAが受け継がれつつあるのがうれしいですね。“ベアーズびとマネジメント”とでもいうべき、組織力、体質ができあがっています」と喜ぶ。
こうしてベアーズの母として奔走する髙橋さんは、家事代行業を産業として根付かせようとすると同時に、家事知識の普及のため、小学生からシニアまでが家事について楽しく学べる「家事大学」も設立した。
家事大学の設立の背景には、「5年以内に国家資格に」という髙橋さんの切なる願いがある。
「業界に携わる人たちにさらなる自信をもたせてあげたい。国家資格になれば、より情熱をもって働け、お客さまも安心してご利用いただけます。その布石として、カリキュラム実績をつくるため、家事大学をつくりました」と説明する。

▲こちらも研修風景。プロとしてサービスの品質を徹底して追求

▲こちらも研修風景。プロとしてサービスの品質を徹底して追求

ベアーズ自身の事業も順調で、取扱件数は毎年対前年比30%前後増加という追い風が吹く。だからこそ「課題ばかり」でもある。まず、拡大する市場に合わせ、人材をいかに確保するか。そして、いかに多くの従業員がベアーズフィロソフィーを継続し徹底していけるかということだ。
「機械ではなく“人”なので、日々の心持ちや体のコンディションは異なります。働く一人ひとりの状況をしっかり見て、いかにメンテナンスし、サポートしていくかが大事です。いまは規模拡大に伴い、成長痛が起きている状況ですが、苦しみや悲しみが人を成長させるのと同じで、企業が本当に強くなり輝くには逆境や試練が必要です。日本の新しい暮らしのインフラをつくることがわれわれのめざすところであり、それはオリンピックで金メダルを取ろうとしているようなもの。金メダルをねらう集団は、練習がつらいとはいわないでしょう。これからもぶれずにやっていきたいと思います」
120%の感動を支えているのは、独自のフィロソフィーはもちろん、フロンティアをめざす、あふれる熱意だ。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ベアーズ
本社 東京都中央区
設立 1999年10月
資本金 8,950万円
売上高 40億円(2016年9月期)
従業員数 385人(2017年9月末時点)
事業案内 家事代行サービス、ハウスクリーニングなど
URL https://www.happy-bears.com/

取締役 副社長
髙橋ゆきさん


 

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