事例 No.025
三井不動産ホテルマネジメント
特集 「もてなす心」を養う接客教育

(企業と人材 2015年7月号)

接客教育

スタッフの自発的思考を育む「クレド活動」で
共通の価値観の浸透と接客力の向上を図る

ポイント

(1)全国に広がるホテルに共通の価値観を浸透させるため、2012年からクレドの精神を具体的行動に反映させる「クレド活動」に取り組む。

(2)2カ月ごとにクレドの行動指針を1つ取り上げ、各ホテルのオペレーションマネージャーとCSキャプテンが中心となって、自発的に行動目標を設定。

(3)目標設定/活動報告シートには社長以下、経営層が直接コメント。活動を振り返り、次の目標設定につなげる思考が、社員一人ひとりの接客力を育てる。

(4)経営層が継続的にコミットし、また好事例の情報発信や表彰制度などの仕掛けによって、活動が徐々に浸透。お客さまの評価も向上。

クレド精神の浸透をめざして「クレド活動」がスタート

三井ガーデンホテルズは、2005年に「三井ガーデンホテル」と「ホテルサンガーデン」の統合により誕生したホテルチェーンである。三井不動産グループの株式会社三井不動産ホテルマネジメントが運営し、現在、東京と京都、大阪を中心に全国18 のホテルを展開している。2016 年には、東京・京橋と名古屋で新規開業を予定している。
三井ガーデンホテルズは「記憶に残るホテルになる」という理念を掲げ、「感性豊かなお客さまの五感を満たすホテル」をコンセプトに、きめ細かなおもてなしによって、お客さまにハイレベルの満足を味わってもらうことをめざしている。その実現に向けて、スタッフの行動原理をクレドにまとめ、
・「 楽しむ」
 仕事を楽しむ心をもつ
・「 考える」
 お客さまの気持ちを考える
・「 努力する」
 “NO”という前に努力する
・「 行動する」
 自分からすすんで行動する
・「 点検する」
 サービスの基本を点検する
・「 一体感をもつ」
 信頼とコミュニケーション
という6項目を行動指針として掲げ、全スタッフに配付している。
このクレドの精神が正しく発揮され、顧客満足に結びつくことを目標に、同社が2012 年から取り組んでいるのが「クレド活動」である。
クレド活動を主管する同社管理本部広報ブランド部リーダーの中田理恵さんは、活動の目的について次のように説明する。
「クレドは、三井ガーデンホテルのスタッフとしてのあり方に迷ったときに何をすればいいのかを指し示す、いわば行動の方位磁針です。スタッフが立ち返る原点ともいえます。
クレド精神が浸透すれば、どのスタッフもクレドを基に考えたり、努力したり、改善したりするようになるでしょう。皆が共通の価値観に沿ってベストを尽くせば、会社として大きな力を発揮できることになります。
これまでも、全国にあるホテルで個々にCS を追求し、お客さまに選ばれるホテルに成長できるよう努力してきましたが、ホテルによって取り組み方もそれぞれで、方向性にばらつきが生じてしまうなどの課題がありました。
そこで、クレドを『唱和するだけ』ではなく、日常の行動においてもっと活用し、全ホテルに共通の価値観や行動の方向性を浸透させようということになり、クレド活動が始まりました」

オペレーションマネージャーとCS キャプテンが活動を主導

クレド活動を推進するのは、各ホテルで現場を切り盛りするオペレーションマネージャーと、CS活動を主導するCS キャプテンである。活動は2カ月ごとに、クレドの6つの行動指針のうち1つをテーマとして取り上げ、その精神をいかに発揮するか、具体的な方策を考えていくのである。
まず、本社の広報ブランド部が、年度初めに年間テーマの割り振りを提示するところから活動はスタートする。それを受けて各ホテルでは、オペレーションマネージャーとCS キャプテンが中心となり、図表1の「目標設定シート」に、テーマを実践に落とし込むための目標とその具体策を記入し、本社に提出。これを基に、2カ月にわたり活動していく。

図表1 クレド活動の「目標設定シート」

図表1 クレド活動の「目標設定シート」

このような進め方について中田さんは、「本社からは骨組みを提示するだけにして、具体的な活動計画や内容は各ホテルに任せて、個性を発揮してもらおうという考えです」と話す。
活動期間終了後には、「活動報告シート」に目標達成状況と反省点等を記入し、ホテル総支配人の評価コメントを得たうえで本社に提出する(図表2)。活動報告シートには、活動の成果や反省点などが記載されるが、「非常に手ごたえがあったので、期間終了後も別途継続したい」、「スタッフ間での活動への温度差が感じられました」といったコメントが書かれることもあるという。これを基に改善を図り、次の目標に落とし込んでいくのである。

図表2 クレド活動の「活動報告シート」

図表2 クレド活動の「活動報告シート」

自発的に考え行動するための思考を育む

現場から提出された目標設定シートと活動報告シートは、社長以下、取締役、広報ブランド部長、事業部長、そして各店舗の総責任者である総支配人が目を通し、すべてにコメントを記入しているという。全18 ホテルから2カ月ごとに提出される各シートをみて、経営陣が1つひとつコメントを書いていくというのは、そう簡単なことではない。
コメントの内容はさまざまで、叱咤激励の言葉が並ぶこともあれば、活動がより充実するよう、アドバイスが記載されることもある。実際のシートをみせてもらうと、2行、3行と丁寧なコメントが記入されており、各シートがきちんと読まれていることがわかる。経営層にとっても、現場のスタッフに直接メッセージを送ることのできるツールとなっているのだろう。
各シートは、社内ネットワーク上に評価コメントも含めて公開されており、スタッフならだれでも見ることができる。各ホテルでは、自分たちのシートだけでなく、他ホテルのシートやそれに対する経営層のコメントなども参考にして、次期の活動内容を検討することになる。こうして、2カ月ごとにPDCA を回しながら、クレド精神の浸透を図っていくのである。
中田さんは接客力向上のカギはスタッフの「思考プラス行動」にあるという。
「目標設定シートでは、クレドの行動指針をどのように実際の仕事や行動に落とし込むのか、その方策をスタッフ自らが考えて実践するところに大きな意義があると考えています。
接客業は、“決められたことを決められたとおりにやる”受け身の姿勢だけでは成り立ちません。突発的な出来事に、自分で最善の方法を考え、行動する力が求められるのです。そうした力を育むためにも、クレド活動の内容を自分たちで考え、行動に移し、反省・分析・改善を繰り返していく習慣が、大いに役立っていくと思っています。
たとえば報告書の作成一つをとってみても、文章のレイアウトや言葉の選び方に気をつけることで、読む人が理解しやすいようにと思考・表現するトレーニングになるはずです」

優れた活動・行動を全社に発信、表彰制度も取り入れる

このように、クレド活動はスタッフの自発的な取り組みを促すものであり、ホテルごと、あるいは地域ごとに、ユニークなツールや活動が生まれてきているという。
たとえば、同社では、毎年「全力挨拶」(2カ月間集中的に素敵な挨拶に取り組む活動)を実施しているが、京都三条では、事務所からフロントカウンターに入る玄関口の床に足形のマットを作って貼りつけ、「必ずそこで一度立ち止まって挨拶する」という自主ルールを定めて、徹底したという。また、都内にある複数のホテルが合同で勉強会を開催するといった取り組みもみられるようになってきている。
本社の広報ブランド部でも、各ホテルで考案されたツールやユニークな活動を水平展開するために、さまざまな働きかけをしている。
その1つが社内メディアによる情報配信。独創的な取り組みのアイデアがあれば、電子社内報や広報ブランド部が独自に配信する「クレド通信」、「サジェッションカードを読み解く」などで、他のホテルにも紹介する。このような働きかけにより、優れたアイデアを吸収し合い、ブラッシュアップして、さらに効果的な活動につなげるホテルも出てきている。 「サジェッションカードを読み解く」はA4版1枚の、すぐに読めるもの。たとえば、「大雪の日に、レストランスタッフに東京タワーに行きたいと言ったら、東京タワーの営業時間と雪のなかを歩いた場合にどのくらい時間がかかるかを調べて伝えてくれました」という宿泊客からの感謝コメントを取り上げ、「このスタッフの対応には、『雪のなかなら、いつもとどういうところが違うかな』と想像して回答している様子がうかがえます。……お客さまの『今』を想像した最適なご案内ができたら素敵ですね!」といったワンポイント解説を加えて、配信している。「お客さまが、なぜこのような意見をくれたのかを分析し、周知しています。クレド精神発揮の事例集のようなものです。こういう行動をするとお客さまに喜ばれ、会社からも認められ、自分も磨かれていく、という思考回路をつくってもらいたいと思って、週1回程度ですが発信しています」と、中田さんは説明する。
また、スタッフのモチベーション向上策として、「クレド賞」という表彰制度も取り入れている。これは、2カ月の活動期間ごとに、全スタッフが積極的かつ連帯感をもって目標達成できたかを評価し表彰する制度で、最優秀ホテルには賞金も授与される。そして、年間を通じて優秀な成績をおさめたホテルは、年1回開催される従業員表彰「MGH AWARD」のセレモニーで「ダイヤモンド・クレド賞」が贈られるのだそうだ。
さらに、クレド活動とともに同社のCS 活動の柱となっているのが、「全力応対コンテスト」である。各ホテルから選出されたスタッフが、ロールプレイング形式で接客力を競うイベントで、年1回実施されている。お客さまからの多様な要望や突発的なトラブル状況を舞台上に再現し、どのように対処していくかを競う。お客さま役はプロの役者に依頼するという力の入れようで、毎年、出場者とその応援団で100 人以上が一堂に会する盛大なイベントになる。出場者はコンテストに向けて、さまざまなシチュエーションでの接客を学ぶことになるため、多くのホテルが若手スタッフの成長を促す機会として活用しているという。
中田さんは、コンテストがクレド精神を表現する場にもなっているとして、次のように話す。
「自分のなかで高めてきたクレド精神をコンテストの舞台で表現して、それがプラスに評価されることで、会社がどういう行動を期待しているのかをあらためて理解する機会になっているようです。こうした経験によって、共通の価値観が浸透していくのだと思います。当社のクレド活動もそうですが、スタッフの意識を育てるためには、自分で思考し、それを表現して評価を受ける場を、もっとつくっていくべきだと思います」

価値感のトップダウンがクレド活動の推進力

クレド活動がスタートした当初、スタッフには「何をやっていいかわからない」という戸惑いの空気もあったそうだ。活動報告シートにどんなことを書いていいかもわからず、抽象的だったり形式的だったり、ありきたりな言葉が記載されることもあった。
しかし、活動を続けるうちに、少しずつよい流れができてきた。
「どのホテルも日々の業務に追われるなかで、時間を捻出して独自にスタッフ教育ツールを考案したり、ES 向上のイベントを開催する等、活発な動きが増えてきました。また、そうした活動事例を社内報で自発的に全社に発信するなど、互いの取り組みのよいところを取り入れ合う動きもみられます。ホテル間の積極的な連携もみられるようになりましたし、活動の精度も年々向上してきています」
接客力向上の指標とされている「サジェッションカード」の評点も、クレド活動がスタートして以降、上昇してきているそうだ。
今年度の試みとしては、これまで2カ月単位で進められてきたクレド活動を4カ月単位で実施するという。「目標設定から振り返りまでを2カ月間でやりきるのは大変」という声が現場からあがっているからだ。
最後に、クレド活動を推進するうえでのポイントを1つあげてほしいとお願いすると、中田さんは「価値感・理念のトップダウン」と答えてくれた。
「全社に共通の価値観を浸透させていこうというとき、トップダウンがとても大事だと思います。トップが先頭を切って、『こういう会社になりたい!』という発信を根気よく続けていくことで、スタッフに自分たちの会社の価値観や精神を理解し、実践しようという意識が根づいてくるのだと思います。クレド活動のシートに経営陣のコメントを書き込んでもらっているのも、そうした意図があります」
スタッフの「思考プラス行動」に着目して接客力向上を図ろうという三井ガーデンホテルズのクレド活動は、接客力の課題に悩む組織にとって大きなヒントになるのではないだろうか。

(取材・文/外﨑 航)

ブランド構築の一環として制定されたクレド

三井ガーデンホテルズがクレドを制定したのは2005 年のことである。この年、「三井ガーデンホテル」「ホテルサンガーデン」という2 つのホテルチェーンブランドが「三井ガーデンホテルズ」に統一され、新たなホテル理念やホテルコンセプトが制定された。そして、これを機に、各ホテルが同じ方向性・価値観で業務を推進していこうという方針が打ち出され、クレドが制定されることになった。
社内にはホテル名統一と新ロゴの制作、クレド制作を推進する「ブランド構築プロジェクト」が結成された。
プロジェクトメンバーの1人である同社管理本部広報ブランド部マネージャーの重田寿江さんは、当時の様子を次のように振り返る。
「6 つのクレドは、スタッフの立場、お客さまの立場など、さまざまな視点に立って考え、練り上げて作成したものです。社内外から集まったプロジェクトメンバーで、時間をかけて方向性を合わせていきました」
何度も議論を重ね、プロジェクト結成からおよそ1年が経過した2005 年10 月、ようやく新しいホテル名と新ロゴ、そしてクレドが決定した。
クレドカードクレド制定と同時に、クレドの6 つの行動指針や心構えをまとめた、名刺サイズのクレドカードが作成され、アルバイトも含めた全スタッフに配付された。スタッフは自分の名前の入ったクレドカードを、胸ポケットに入れるなどして常時携行している。
同社では、クレド制定以来、毎日のクレド唱和を欠かさず実施しているほか、新入社員や新入りのアルバイトに対し、三井ガーデンホテルズの価値観を教えるときにもクレドカードを用いているという。クレド活動とも相俟って、一人ひとりの自発的なおもてなしを生み出す元となっている。


 

▼ 会社概要

社名 株式会社三井不動産ホテルマネジメント
本社 東京都港区
設立 1981年5月
資本金 4億9,000万円
従業員数 401人(2015年4月)
事業案内 ホテルの経営・管理
URL http://www.gardenhotels.co.jp/
管理本部
広報ブランド部リーダー
中田理恵さん


 

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