事例 No.024
タカミブライダル
特集 「もてなす心」を養う接客教育

(企業と人材 2015年7月号)

接客教育

クルー一人ひとりの接客力にスポットを当てる
「おもてなしロールプレイング・コンテスト」の取り組み

(執筆/高見株式会社 取締役人事部長 五木田紀子)

ポイント

(1)2015年1月、CS向上とおもてなしのスキルアップを目的として、婚礼衣装をコーディネートする「ブライダルスタイリスト」の接客コンテストを立ち上げる。

(2)ニュースレターの発信や、クルーマネージャーへのアドバイス提供などにより、ほぼ全店が予選に参加。

(3)本選の全国大会は、社長以下、役員らが審査。ふだんはフィッティングルーム内で行われるスタイリストの接客が見える化され、クルー同士が学び合う機会に。

 

弊社は1923 年(大正12 年)に京都で呉服卸商として創業し、まもなく92 周年を迎える企業である。ブライダルコスチューム事業、チャーチウエディング事業、ハワイウエディング事業、レストラン・カフェ事業、フラワー事業、ブライダルスクール事業を軸に、「総合ブライダル企業」としてCSRや文化活動への取り組みにも力を入れている。
企業理念には「“人と社会を幸せにする企業”として、たくさんの“ありがとう”を集め、大切な想いや伝統を最高のカタチにすると共に、ブライダルの文化を創造しつづけていく」ことを掲げている。

内定時から接客の基礎研修、チーフ以上はキャリアを選択

タカミブライダルでは、内定者となった瞬間から社員教育を始めている(図表1)。2000 年に「内定者実地研修」という制度を立ち上げ、入社するまでの約半年間、アルバイト社員として現場研修を行っている。たとえ内定者であっても、お客さまの前に立つからには、社員と同じビジネスマナーを身につけていなければならない。アルバイトに入る前に徹底したマナー研修を行うとともに、ブライダルの基礎が学べるテキストを段階的に配付して、各自で予習復習ができるようにしている。

図表1 タカミブライダルの人事・教育体系「キャリア・アップフロー」

図表1 タカミブライダルの人事・教育体系「キャリア・アップフロー」

入社直前・直後にも、合宿を伴うオリジナルの研修メニューで、集団生活のなかでの「躾」を徹底している。小笠原流礼法に始まり、挨拶、礼儀、食事の仕方、箸の持ち方、電話応対、敬語など、実践を交えてトレーニングする。
各エリアへの配属後は、それぞれの実務を中心とした職種別研修を経て各店舗でのOJT に入る。そこで、とくに力を入れているのが「OJT 担当者研修」である。
この研修は、新入社員を指導する“選ばれたトレーナー”として、知識・技術・マインドのお手本を示すことができることをゴールに実施する。コミュニケーションスキル、コーチングスキルのほか、コンプライアンスの重要性について事例を示して説明したり、企業理念やTAKAMI CREW STYLE(身だしなみ基準)の再確認もしている。
入社3カ月後には、ビジネスマナーのおさらいをするとともに、フォローアップ研修で各々の抱える問題点や入社前とのギャップを解決する。入社前の内定者実地研修によって大きなギャップはないものの、お客さまを1人で担当するようになると出てくる悩みや不安、売上げ意識とホスピタリティとの間で感じてしまう矛盾など、新入社員が最初の壁にあたる時期でもある。
その後は、入社1年後に「ベーシック試験」を実施する。内容は筆記試験と実技試験で、職種ごとに問題を作成している。実技試験では4~5人に1人トレーナーがつき、基本的な接客知識・技術が身についているかをチェックする。この試験に合格すると、いわゆる「新入社員」を卒業し、次のキャリアアップをめざすことができる。
次のステップとなる「チーフ試験」では、ブライダル全般の知識・常識を習得し、和装の接客が問題なくできる人材を合格者としている。認定されたクルーは、社内研修の講師や新卒採用の面接官を務めるなど、タカミブライダルの顔として活躍してもらう。
チーフ資格取得者は、自らのキャリアについて、「マネージャーコース」か「スペシャリストコース」のいずれかを選択し、それぞれの研修を受ける。
マネージャーコースでは初級管理職研修が行われ、経営理念、管理職の役割、労務管理、予算と損益、マーケティング、コンプライアンス、営業の仕組み等を学ぶ。そして、試験に合格すると初級管理職資格を与えられ、早ければ3年目で1店舗のマネージャーを任せられるようになる。一方、スペシャリストコースではインストラクター研修が行われ、着付、コーチング、パーソナルカラー、和装、ブライダル業界のトレンド、商品管理等について、より深く実践的な研修を受ける。インストラクターとして認定されると、各エリア全体の接客力向上に尽力することになる。
ここまでが、人事部が用意しているキャリア・アップフローである。その他にも、社内で起こった問題や事象について、そのつど研修を実施したり、各部署でウィークポイントを克服するための勉強会を開催したりしている。また、マネージャーには定期的に労務管理やコンプライアンスに関する教育を行い、長時間労働の撲滅等、社員がイキイキと働ける環境づくりを追求し続けている。

経験豊富なトレーナーの参画での接客コンテスト企画が始動

これまで弊社は営業成績を中心とした評価システムで、スタイリストやプランナーの接客力にスポットライトがあたることは少なかった。「幸せなお客さまをさらに輝かせているスタイリストやプランナーのモチベーションを、なんとかしてもっと上げていきたい!」。 その思いは、人事部長として丸6年が経った2014 年4月、私の具体的な方針となった。
その方針を具現化してくれたのは、以前から外部講師として研修を担当していた渡邉弘子だった。渡邉は航空会社や百貨店で長年人材教育に携わってきており、さまざまな業種のロールプレイング・コンテストを企画・運営した経験をもっていた。渡邉をエグゼクティブトレーナーとして弊社に迎えた直後、私はこのコンテスト企画を今年度に実現したいと彼女に打ち明けた。
2014 年6月、渡邉とともに「おもてなしロールプレイング・コンテスト」の概要を立案した。そして、各エリアのマネージャー会議で意見を聞き、9月の取締役会で承認を得て、全社に発信した。
当初は、ウエディング業界初の取り組みということもあり、ネガティブな意見も多かった。それまでにも、「いらっしゃいませ」から始まる接客の流れを学ぶための、新入社員向けのロールプレイング研修はあった。しかし、流通業界ではすでに広まっている「ロールプレイング・コンテスト」という言葉になじみがない社員が多く、「ブライダルの接客では無理」という声が多く聞こえてきた。
そこで、ことあるごとにロールプレイング練習の「効果」やコンテストの「意義」について説明した。新入社員がするように最初から最後まで通してシミュレーションしなくても、短時間のパート練習で得意な部分の伸長や、苦手部分の克服ができることも説明した。
説明だけではなく、人事部員がクルー役、お客さま役になっておもてなしの流れを実践した7、8分のサンプル動画をクルーたちに公開し、鏡とドレス1着、椅子1脚さえあれば、どこででも簡単にロールプレイングができることを「目に訴えた」。
すると、それを見た現場のプロフェッショナルたちは、「私たちならもっとできる!」と練習を始めたのだ。けれども、いざやってみると意に反して思うようにいかず、「もっと自分はできると思っていたのに……」、「こんなはずではない!」と、なんとか時間をつくって、さらに練習するようになっていった。これこそが、ロールプレイング・コンテスト開催の醍醐味である。
ブライダルのコスチューム・サロンでは、ドレス試着がメインとなるため、個室のフィッティングルーム内で「おもてなし」が行われる。そのため、これまではなかなか他のクルーのおもてなし風景に触れる機会はなかった。コンテストに向けた練習を重ねるうちに、それがお互いの良い点を学び合う好機を得ることになっていった。またマネージャーにとっては、クルーの良い点・改善点を目の当たりにして誉める機会も増え、モチベーション喚起が自然と日常のなかに広がっていくという好循環が生じた。

スタイリストが接客する個室のフィッティングルーム

▲ スタイリストが接客する個室のフィッティングルーム

ニュースレター発信と相談で大会への意識を高める

大会テーマは、「タカミブライダルならではの魅力的なスタイリスト日本一をめざす!」とした。コンテストの概要は図表2のとおりである。

図表2 おもてなしロールプレイング・コンテストの概要

図表2 おもてなしロールプレイング・コンテストの概要

各ショップから選出されたエントリークルーは、秋から冬の繁忙期に動画審査のための映像を撮影し、提出してくれた。常にお客さまを最優先にするクルーがその時間を捻出するには、相当な努力がいる。そこで、クルーの「やる気とやれる気」を維持していくために、渡邉と私が実践した工夫は、以下の2点であった。
1点目は「ニュースレター」の発信。全国大会までの情報を、段階的に公開していった。たとえば、ニュースレター第1号では「褒賞の発表」(これは大きな関心を集めた)、第2号では「審査用サンプル・ムービーと審査票の公開」、第3号では「予選(動画審査)の流れと練習のコツ」、「エントリー率進捗状況」などといった具合いだ。
2点目は、会議や研修で全国のクルーに会うたびに、積極的に様子を聞き出すことだった。順調であれば大いに承認し、うまくいかないと聞けば本人とマネージャーに励ましとアドバイスを提供した。この部分は、現場で教育に携わる渡邉が主に担当してくれた。地道な活動であったが、これもクルーを笑顔にする効果的なモチベーション・コントロールであった。
そうして、ありがたいことに全店舗ほぼ100%のエントリーとなり、初回のコンテストとしては上々のスタートを切ることができた。
ただ、1つだけ、事務局として心を痛めたことがあった。それは、予選審査用に提出された動画の撮影時刻が夜の遅い時間だったことだ。デジタル世代といわれる若手クルーであっても、なかには動画撮影が苦手な人もいたはずである。一日の接客を終えてから撮影した風景が目に浮かび、各店舗のチーム力に深謝した。
ともあれ無事に予選が終了し、全国大会に出場するファイナリスト5名が決定した日は、少しだけほっとした。

仲間が応援するなかファイナルがスタート!

全国大会が開催される1月5日は、晴天にも祝福され、うれしい朝を迎えた。自社自慢になるが、ステージは弊社装花部門が担当し、美しい舞台ができ上がった。
ファイナリスト5名は、各地から京都・北山通りにある弊社『Guest House 北山倶楽部』に集合。緊張で顔がこわばっている様子であった。ファイナリスト本人たちもさることながら、指導育成に携わったマネージャーたちはわが子の発表会を見守る母親の心境であったという。
新年式を終えた社長以下役員が審査員となり、部長・マネージャー等総勢135 名が見守るなか、審査と愛溢れる応援合戦が始まった。
大会の進行は図表3のとおりである。競技がスタートすると、「エントリー・ナンバー1番、東日本より○○ホテルの◇◇さん!」と高らかにコールされてファイナリストが登壇し、20~30 秒のスピーチの後、堂々とおもてなしを披露した。8分間ずつ、ファイナリストの熱演が滞りなく進んでいった。

図表3 全国大会当日のスケジュール

図表3 全国大会当日のスケジュール

審査は以下の8項目について、それぞれ5段階で評価し、40 点満点とした。審査員5名の得点の合計で入賞を競う。
(1)身だしなみ 表情・動作
(2)あいさつ お声がけ
(3)言葉遣い
(4)商品知識 専門知識
(5)会話力
(6)ニーズチェック
(7)提案力
(8)総合力
また、審査基準は以下のとおりだが、審査員が定量で測れるように、基準表を作成し、加点・減点のベクトル合わせの工夫をした(図表4)。

【審査基準】
・タカミブライダルの魅力を伝えられる魅力的なスタイリストであること
・好印象な挨拶・名乗りが自然にできること
・明るくニコニコ元気よく
・ニーズ、ウォンツ、ホープにフィットした根拠あるパーソナルなご提案ができること
・心からの共感が伝わること
・ネガティブな発言に対する心地よい切返しができること
・婚礼に関する知識が正確で、豊かであること

図表4 コンテスト全国大会の審査票

図表4 コンテスト全国大会の審査票

審査会議の後、パーティの最中に審査結果が発表され、入賞者の表彰式が行われた。社長から褒賞が授与され、全員で記念撮影。当日は繊研新聞社の方に取材に来てもらうなど、ファイナリストたちは晴れがましい一日を過ごすことができた。大きく取り上げていただいた新聞記事は一生の宝となった。
開催後、ファイナル進出がかなわなかった店舗のマネージャーからは、「私たちにもできるはず!次回は本気で優勝をめざしたい」、「他の店舗ではこのように接客しているのかと衝撃だった。私たちも負けられない」と、企画者が望んでいたとおりの声が聞こえてきた。このように真剣に切磋琢磨しあえる場が、ロールプレイング・コンテストなのである。
全国600 人のスタイリストから選ばれたファイナリスト5名は、甲乙つけがたい知識、技術、マインドの持ち主であり、いずれも素晴らしいプレゼンテーションであった。受賞者は口々に、「このような機会に感謝」、「自分以外のクルーのおもてなしを見て刺激を受けた。良いところはぜひ自分のものにして帰りたい」、「お客さまのために、もっとできることをやり切りたい。もっと後輩にも伝えていきたい」と話していた。
彼女たちは、いまも後輩たちにいい影響を与え続けていると聞く。本当にありがたい。
ある男性マネージャーは、「フィッティングルーム内での接客の様子は、じつは見る機会がほとんどなかった。自分の部下が、また他のショップのクルーやマネージャーがどのようにしているのかを知ることができたのが、このコンテストだった」と正直な心情を吐露してくれた。これもコンテストの奏功の1つであろう。

今後はコンテストを定例化職種・場面を変えて開催

今年度は、「第2回おもてなしロールプレイング・コンテスト」として、プランナー部門、サービス部門、キッチン部門を対象に5~6月に予選を行い、7月1日の幹部期首式後にファイナルを開催する。今後は、年2回の式典で、職種ごとに最優秀者を決定していく予定だ。営業マンのプレゼンテーションや和装の接客等、シチュエーションを変えて開催しようと考えている。
私どもの企業理念は、「人と社会を幸せにする企業」である。タカミブライダルにとって、幸せにしたい人とは「お客さま」であり、「タカミブライダルのクルー」でもある。クルーが輝いてこそ、お客さまを幸せにできる。これからも「本物」と「高品質」を追求し、心からの「ありがとう」をたくさん集めることをめざして、さまざまな研修や制度を設計していきたい。
2015 年度、弊社は134 名の新入社員を迎えた。近い将来、創業100 周年をともに祝うクルーになることを誓い合って、今期の新入社員研修を締めくくった。

コンテストの模様 / 全国大会受賞式後のファイナリストたち

▲ コンテストの模様 / 全国大会受賞式後のファイナリストたち ▲

右上の写真は全国大会当日のファイナリスト5名。写真中央が最優秀賞の茂木悠里、その右隣が2位の新盛有紗である。彼女たちの表情と受賞コメントをお読みいただきたい。

最優秀賞 茂木悠里 (2012年入社)
「先輩、後輩含め、皆で遅くまでロールプレイングの練習をしてきたことが実を結んだので、とてもうれしく、サロンの皆さんに感謝しています。自分自身の癖に気をつけたり、接客を見直す機会になりました。東京オリンピックを前に、日本の『おもてなし文化』が見直されてきているので、ウエディング業界からもおもてなしの素晴らしさを、さらにアピールしていきたいです」

2位 新盛有紗 (2011年入社)
「初めて他のサロンの皆さんのご案内を見ることができ、たいへん刺激を受け、勉強にもなりました。お客さまの近くに寄り添いながら、またこれから自分にたくさんの引き出しを作っていけることが楽しみで、わくわくしています」


 

▼ 会社概要

社名 タカミブライダル(高見株式会社)
本社 京都府京都市
設立 1952年1月(創業1923年9月)
資本金 9,600万円
売上高 214億円(2014年6月期)
従業員数 1,083人(2014年6月)
平均年齢 31歳(2014年度)
事業案内 ブライダルコスチューム事業、チャーチウエディングプロデュース事業ほか
URL http://www.takami-bridal.com/
取締役人事部長
五木田 紀子さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ