事例 No.200 ヤマハ 特集 やる気引き出す新入社員教育
(企業と人材 2019年9月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

明確なゴールとロードマップを定め、
研修内容を整理・刷新インプットとアウトプット、
効果測定を繰り返して目標をめざす

ポイント

(1)若手の育成ゴールと時期ごとの能力要件等を明確化。目標に向けて一貫性のある内容に、研修全体を大幅に刷新。

(2)知識詰め込み教育から脱却し、座学→工場実習、職種別研修→職場実践のように、短期間にインプットとアウトプットを繰り返す教育スタイルへシフト。

(3)人事部による定期面談(2・4・6年目)を実施。新入社員の成長度合いを定点観測し、関係者と共有することで、全社的な育成サイクルの醸成をねらう。

目標と要件を明確に新入社員研修を大幅に刷新

ピアノを代表とする楽器、音響製品、電子デバイスやゴルフ用品まで、さまざまな分野で事業を手がけるヤマハ株式会社。多様なジャンルを取り扱う同社だが、現在の同社の人材育成について、人事部人材マネジメントグループの黒田泰広さんは、次のように述べる。
「2014年に企業理念体系を再整理し、『ヤマハフィロソフィー』が制定されました。現在は、それを体現する人材を育成するべく、階層別・挙手型等のさまざまな研修体系全体の見直しに着手しています。そのなかで、今年度とくに大きく見直したのが新入社員研修です。
いままでの新入社員研修は、目的がやや曖昧で、新入社員にその目的が伝わりにくいまま、研修が進行していました。そこで、育成ゴールから各年次の状態目標を明確にし、その達成に必要な能力要件を定めることにしました。その要件と研修プログラムを一つひとつ紐づけることで、能力開発の1つのストーリーを描いて完結させようと考えたのです」
同社では、入社して3年間を若年層教育期間として位置づけており、社員が独り立ちする目安としている。
図表1は、若年層3カ年の育成における目標を示したものだ。最上段の「社会人へのマインドチェンジを果たし、自己実現を通じて組織に貢献する土台を築く」が3カ年の最終的なゴールだ。

図表1 若年層(3カ年)における各年度の状態目標と能力要件の明確化

若年層(3カ年)における各年度の状態目標と能力要件の明確化

上段は、各年における状態目標であり、人事制度から落とし込み策定されている。下段は、その状態目標を達成するために必要な態度・スキル・知識の三要素で構成されている。
たとえば1年目は、「ビジネスの基本を身につけ、組織の一員として自律する」というゴールと、そのためにはどういう能力を身につける必要があるかが示されている。あわせて、社会人基礎力も、常に磨いていく。
これは現代のビジネスパーソンが仕事で活躍するために必要な基礎的な要素であり、これらを効果的に習得するために構造化し、研修のなかに盛り込んでいる。

インプットとアウトプットを繰り返し研修効果を高める

それでは、新入社員研修の内容を追っていこう。大まかな流れとしては、新人研修は、内定期間から始動する。同期の横のつながりを強化することが、研修効果の向上に寄与するという考えから、内定式後にチームビルディング研修を実施する。そして、4月の入社後は、ヤマハグループ全体で2週間の研修を実施し、その後ヤマハでの全体研修がスタートする。
6月からは、技術開発系、営業企画系の括りで分かれ、職種別の研修が行われる。その後、各部門に配属となり、OJTで学ぶ。12月と2月にフォローアップ研修を挟み、2年目へ続いていくという流れだ(図表2)。全体では常にインプットとアウトプットを繰り返し、2年目研修、3年目研修、さらには成長度合いの定点観測として、人事部による定期面談を実施する。以下、それぞれのプログラムについて、昨年からどのような変化があったかを交えつつ、みていこう。

図表2 若年層の研修スケジュール全体像

若年層の研修スケジュール全体像

(1)4月~「全体研修」
4月、5月の2カ月間は、「態度」、「スキル」、「知識」をバランスよく学ぶ。具体的には、ヤマハフィロソフィーや自社についての理解、ビジネスマナー、チームビルディング、社会人基礎力といわれる6つの力(見る力・聴く力・話す力・考える力・書く力・時間力)、そして工場実習などがあげられる(図表3)。

図表3 4月、5月の研修スケジュール

4月、5月の研修スケジュール

大きな変更点が、その期間だ。昨年までは、4~6月の3カ月間全体研修を行い、そのなかで工場実習や、新設した職種別研修の前身にあたる、各部門担当による研修を行っていた。
今年から2カ月間になった理由について、同社グループの人材開発を担当する、株式会社ヤマハビジネスサポートのHR事業部採用・教育部課長代理、亀川敬之さんは、こう述べる。
「それぞれのプログラムは良質なものだと自負しているのですが、それだけに昨年までは、『あれを入れよう、これを入れよう』という意見が出ると、否定する理由がなかったんですね。結果、研修を詰め込みすぎていました。
今回、求める能力とゴールを明確にしたことで、それを軸にどの時期に何を学んでもらうかも定まりました。その軸に照らしてプログラムを取捨選択したのです」
研修の再構成にあたり、内容のバランスにも気を配っている。
「全体のゴールを定める際に、成果とは何かという点についてもはっきりさせることにしました。ハーバード大学マクレランド教授の能力構造(氷山モデル)を参考に、元来の性格・資質の上に、知識、態度、スキルが乗り、それが行動となり、成果を生むと定義したのです。知識、態度、スキルをバランスよく身につけることが成果につながるということですね。
そこで、いままでの研修を分類していくと、座学中心で知識偏重のプログラム構成になっていることに気がつきました。この偏りも詰め込みすぎの原因の1つだと思いましたので、態度やスキルとのバランスを考えて、プログラムを整理したのです」(黒田さん)
また、常にインプットとアウトプットを繰り返す構成になっている点について、ヤマハビジネスサポートHR事業部採用・教育部の坂村美幸さんは、次のように説明する。
「最近の若手の傾向として、目的思考が強く、きちんと腹落ちしないと行動変容につながらないところがあると思います。研修でどれだけ良質なインプットをしても、理解と納得が抜け落ちると、意味のないものになってしまいます。学んだことをアウトプットする機会を入れることで、『あ、ここで必要なんだ』とわかってもらえて、またインプットするという循環ができていきます。この流れを理解したうえで研修を進めていくと、後々のOJTなども、より効果的になると考えました」
5月に入ると、工場実習が行われる。現場の製造ラインの業務に従事することで、自社のモノづくりについて学んでいく。ここにも工夫をし、日々のレポートに加えて、6つの力について、自分で振り返る実践シートを導入した(図表4)。

図表4 工場実習時の「6つの力実践シート」

工場実習時の「6つの力実践シート」

「以前は、工場実習で何を学んでほしいのか、メッセージが曖昧なところがありました。そこで、4月に教わったことをベースに、現場の先輩と触れ合い、学んでくださいとねらいを伝えたうえで実習に行くことで、わからないことは積極的に先輩に聞こうなど、具体的な実践につなげられるようになりました。
また、自分が6つの力に対してどうあったかを確認する実践シートも書いてもらうことで、行動を自覚する機会も設けています。毎週書き込む形式になっているので、次の週はこれにも力を入れようなど、計画性やモチベーションにもつながるようになっています」(亀川さん)

(2)6月~「職種別研修」
6月に入ると、技術開発系、営業企画系に分かれて職種別研修が行われる。これは、今年新設されたパートだ。各部門の社内講師を中心に、たとえば技術開発系では、商品開発・生産にかかわる基礎技術、営業企画系ではマーケティングや商品企画研修が行われる。
「昨年までは、全員が一堂に介し、技術開発系・営業企画系両方の専門知識の講義を受ける形でした。しかし、学ぶことがたくさんあるこの時期に、詰め込みすぎても効果がないだろうと、分けることにしたのです。また、職種で分けたことで、配属後の仕事に直結するような、より専門性の高い内容にすることができます。
これまでは、そういった専門知識のプログラムも、全体研修の一部ということで、人事主導で構成していたのですが、いま本当に必要な研修は何かというのを、現場を巻き込んでプログラムを検討することで、より有用な内容にできるだろうという意図もありました」(亀川さん)

(3)8月~「部門研修」
8月になると、OFF-JT期間からOJT期間へと本格的に切り替わり、職場での実践を進めていく。同社では、先輩がトレーナーとしてつき、OJTを進めていく。サポートを受けながら、職場での成功と失敗の体験を通じて、自立に向けて学んでいくのだ。
今年大きく変更されたのは、12月と2月に、新人全員が集まるフォローアップ研修を実施し、入社2年目の6月の人事面談につながる流れになったことだ。
「全体でのフォローアップ研修を加えた理由は、1つには、先ほど述べたインプットとアウトプットの繰り返しです。職場での実践をアウトプットの場、フォローアップ研修をインプットの場とすることで、4月からのサイクルがつながります。
2つ目には、これまでは全体研修が終わると、配属先のOJTにお任せになっていた部分がありました。OJTは、どうしても指導者ごとに違いが出てきてしまうところがあります。人事部も含めてみんなが現状について共有し、同じところにたどり着けるようにしたいと考えました」(坂村さん)
これらを補完する仕組みとして、「成長支援シート」をつくっているところだ。このシートは、対象者が現在地を把握し、ゴールに向けた道筋が把握できるように支援するためのものだ。本人や上司が記入する形式で、人事部と本人の面談や、人事部と上司で育成方針を相談するときなどに活用することを検討している。
「たとえば、研修設計の基本的考え方の1年目には、『報告・連絡・相談を確実に行い、ミス発生を防ぐ』という目標がありますが、それができているか、6つの力は育っているかなど、リスト化を進めているところです。
気をつけたいと思っているのは、このシートを人事考課に反映しないこと。あくまで育成のゴールに向けた現在の位置を、本人・上司・人事部が認識するためのものであることを、念頭に置いています」(黒田さん)
「このシートを活用し、状態目標や研修で学んだことを現場と共有することで、今後現場サイドでどこを伸ばしていけば良いのか、どういう点を補強していかないといけないのかなどが、もっとわかりやすくなっていくと思います」(亀川さん)

各施策の有機的なつながり・連携強化に向けて

以上、同社の新入社員研修について、これまでの研修との変更点とあわせて紹介してきた。今年からということで、まだ実施前のプログラムもあるが、人事スタッフは、どのように手応えを感じているだろうか。
「やはり、ゴールを明確にしたのが大きいですね。いま自分たちがどんな位置にいて、ゴールまでのギャップをどうやって埋めるのか。そんな教育の基本をストレートにやったこと、そしてそのコンセプトを共有できたことが、一番の成果だと思います」(黒田さん)
「人材育成にかかわるのは人事だけではないということを再認識しました。研修を変えるにあたり、提供する側でも濃密なコミュニケーションを取りましたが、まだまだ詰め切れていないところがあります。
とくに職種別研修では、新設ということもあり、各部門の社員と人事部との連携がまだまだと感じています。若手を育てるためにどのようなコンセプトで進めているのか、なぜ現場の皆さんにお願いするのか、というところをもっと理解して、共感してもらえれば、さらによいものにしていけると思っています」(亀川さん)
「今回、育成の状態目標や能力要件を人事部で定めましたが、今後それらが、全社で共通言語として浸透していくことで、会社全体に育成のサイクルが生まれていくのではないかと期待しています」(坂村さん)

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教育研修に長く携わっていると陥りやすいことの1つに、方向性がブレてしまうというものがある。その点において、同社の今回の刷新は、一貫性のある形で整備し直した事例として、参考になるのではないだろうか。
また、新入社員研修だけに留まらず、その先の入社5年後までを見据えて、1つのストーリーとして形づくろうとしている点も、大きなポイントだろう。それは一つひとつの研修ではなく、もっと大きな視点、会社全体へとつながる動きともいえる。付け加えるならばそれは、変化の激しい時代のなかで、人事の役割というものを、あらためて確認することにもつながるのではないだろうか。
渦中のスタッフとしても、そうした手応えを感じたであろうことが、黒田さんの次の言葉からも感じられる。
「今回大幅に研修を変更したものの、まだ途上にあると思っています。受ける側の新人社員たちにとっても記憶に残る、受けてよかったなと思える研修を意識して作り上げていきたいと思っています」
今後さらにブラッシュアップが進められていくであろう、同社の取り組みが楽しみだ。

(取材・文/編集部)


 

▼ 会社概要

社名 ヤマハ株式会社
本社 静岡県浜松市
設立 1897年10月
資本金 285億3,400万円
売上高 4,374億1,600万円
従業員数 20,375人(連結 2019年3月末現在)
事業内容 楽器・音響機器・ネットワーク機器の製造販売、部品・装置事業など
URL https://www.yamaha.com/ja/

(左から)
ヤマハビジネスサポート HR事業部 採用・教育部 坂村美幸さん
ヤマハビジネスサポート HR事業部 採用・教育部 課長代理 亀川敬之さん
人事部 人材マネジメントグループ 主事 黒田泰広さん


 

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