事例 No.198 能美防災 特集 やる気引き出す新入社員教育
(企業と人材 2019年9月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

新入社員と入社2年目社員の合同研修で協力して劇を発表
縦と横のつながりを強める仕掛けで、一体感を生み出す

ポイント

(1)4月1日から3週間にわたり、新入社員教育を実施。座学、体験、ワークの流れでストーリー性をもたせつつ、社会人、そして能美グループの一員としての基礎や仲間とのつながりをつくっていく。

(2)4月5日には、「新入社員&入社2年目社員 合同プログラム」を実施。同期との横のつながりだけではなく、先輩社員との縦のつながりをつくり、一体感・連帯感を醸成する。

(3)合同プログラムでは、新入社員と2年目社員の混合チームが、チーム対抗で劇を発表。その結果を全員が投票し、最優秀グループ、優秀グループを表彰する。

強靱な「現場力」を礎にした人材育成を行う

1924年の創業以来、常に「もしも」を想定し、自動火災報知設備・消火設備など、各種防災システムを提供してきた能美防災株式会社。オフィスビルや住宅はもちろん、トンネル、文化財、船舶など、私たちの生活に欠かせないさまざまな施設に防災システムを提供し、社会の安全安心に貢献し続けている防災事業のパイオニアだ。
2019年3月には、新中期経営計画を発表。「さらなる成長のためには、『事業領域の拡大』が不可欠」とし、ビジョンに「強靱な『現場力』を礎に飛躍的成長へ」を掲げた。この現場力とは、現場で発生する課題に対して、全員が当事者意識をもって取り組み、解決にあたる力を指すという。
そして、それを実現するための重点方針として、1人財力の向上(図表1)、2事業構想力・遂行力/オペレーションの精度とスピードの向上、3グループ経営の強化の3点を設定。飛躍的成長に向けた基盤づくりをスタートさせた。

図表1 能美防災の重点方針の1つ「人財力の向上」

能美防災の重点方針の1つ「人財力の向上」

人材開発室長の舘野幸雄さんは、次のように説明する。
「最も重要な経営資源は、人です。そのため、重点方針のトップに『人財力の向上』を置き、基幹事業の研修の充実と新規事業に対する人財の発掘と育成の2つの実現をめざしています」
そうした戦略構想を実現するための施策の1つが、今回紹介する新入社員研修だ。その詳細について紹介する前に、まずは、同社が「人」により重点を置くようになった経緯について触れておこう。
同社では、以前から人材育成に力を入れていたが、企業力の基盤整備として掲げた「防災のプロ集団としての人材育成の強化」を達成するため、2004年に人材開発室を発足。以来、室長に就任した佐藤栄時さん(現嘱託)を中心に、外部委託中心だったこれまでの研修体系を刷新していった。
「まず、教育研修の柱として、創業精神と企業理念、存在価値といったNohmiValuesの理解、専門知識の習得・強化、ビジネス知識の強化、の3つを立てました。
そして、この柱に沿って、社員のさまざまな立場別に研修を組み立て、強化していきました」(佐藤さん)
以来、育成方針として「防災のプロフェッショナル/自立型人材の育成を図る」を、重点事項としては「NohmiValuesの浸透とそれに基づく行動」を掲げている。それらを基に人材育成体系図を作成し、資格や職位、年齢ごとに、「階層別研修」、「役割別研修」、「職能別研修」、「キャリア開発研修」、「社内公開講座」といった、OJT、OFF-JTによる、多様な教育プログラムを用意している。
このうち、階層別研修として最初に実施されるのが、3週間の新入社員研修である。以下では、新入社員研修全体の概要と、なかでも、とくにユニークな「新入社員&入社2年目社員合同プログラム」について紹介する。

座学・体験・ワークの流れでストーリー性のある研修に

同社の新入社員研修(図表2)では、約30ほどプログラムが用意されているが、そのうち2日間のマナー研修をのぞき、すべて内製化している。

図表2 2019年度 新入社員研修の概要

2019年度 新入社員研修の概要

大きな特徴としては、入社式が行われる4月1日に、厚さ5センチほどになるファイルが配布されることだ。手作りの「新入社員研修テキスト」のほか、入社前に課題として出された創業者自伝『自叙』の感想レポートや、プロフィールシート(自己紹介)が、参加者全員分ファイリングされている。
このプロフィールシートには、写真つきで新入社員一人ひとりの趣味や自己PRが載っている。また、後日2年目社員と合同で研修を行うため、2年目社員のプロフィールシートも含まれている。こちらは、趣味などに加えて、業務内容も盛り込まれている。
どんな人が参加するのか事前にわかると相互理解が深まる、と人材開発室の行田和美さんは語る。
「新入社員は緊張がほぐれますし、2年目社員にとっても、初めての後輩となる新入社員に興味津々。合同プログラムのイメージを膨らませるとともに、この1年間どんなふうに働き、どんな成長があったか、自分を見つめ直すよい機会となっています」
また3週間の全体プログラムは、座学、体験、ワークといった構成になっており、各1週間ずつ行っている。このように、研修にストーリー性をもたせていることも、大きな特徴の1つだという。
順にみていくと、まず1週目の「座学」では、ビジネスマナーや防災設備などの基礎知識といった、業務に関する知識を深めてもらう。この週のなかで、座学とは別のスタイルで行われるのが、後述する「新入社員&入社2年目社員合同プログラム」である。
2週目の「体験」では、創業者・能美輝一氏が防災事業を興した原点を理解していく。創業の契機となった東京・本所被服廠跡地(関東大震災直後に大火が発生した場所)を見学したり、創業者の薫陶を受けた石山顧問(元専務)による講話を聞く。
そして3週目の「ワーク」では、いくつかのグループに分かれ、関連会社や取引先を訪問してインタビューをし、その結果を「チーム・ノーミ」レポートとしてまとめ、発表する。ちなみに、チーム・ノーミとは、同社および、多くのグループ会社や協力会社、代理店などの総称だという。
人材開発室の高山清充さんは、次のように話す。
「新入社員研修のゴールは、学びを定着させることです。1週目で基礎知識を学習して、2週目で学んだものを体験し、3週目では、ビジネスマナーも含めてこれまでの学びを活かして実践してみる。このように、終始一貫性のある流れになっています」
研修のクライマックスは、最終日の最後の時間に流す、15分間のクロージング・ムービーだ。これは、3週間の研修風景を撮影した映像である。
「参加者たちは、研修中はまったく余裕がなく、自分を客観的にみることができません。ですから、研修の最後にこのムービーを見ることによって、いかに自分たちが成長したか、いかに自分たちが期待されているかを実感し、感動するのです」(佐藤さん)
前述のように、マナー研修以外は内製化しているので、講師・応対者は当然、社内の人材である。今年は全役員から全2年目社員まで延べ230人が、社内講師・応対者としてかかわった。これらはまず、人材開発室において、全体のプログラム構成を考えたうえで、内容ごとに適切な部門に振り分ける。研修の細かい内容や講師の選定などは各部門に任せており、引き受ける部門の人材育成にもなっているそうだ。

新人と2年目社員の混成 チームで一体感を生み出す

それでは、いよいよ「新入社員&2年目社員合同プログラム」の詳細についてみていこう。
同プログラムは、同期との横のつながりだけではなく、新人および先輩社員との縦のつながりをつくり、入社年度を越えて一体感・連帯感を醸成する、というねらいがある(図表3)。

図表3 「新入社員&入社2年目社員 合同プログラム」のねらい

「新入社員&入社2年目社員 合同プログラム」のねらい

今年度は、新入社員75人、2年目社員62人の総勢137人と、過去最高の参加人数となった。
同プログラムの発案者である佐藤さんは、次のように説明する。
「当時、入社2年目社員に対するフォローアップ研修は実施していませんでした。これを2006年度からスタートするにあたり、この合同プログラムのアイデアが浮かんだのです。このため、あえて当室一番のピークである4月に実施することとし、以降、毎年実施するようになりました」
初回は、新入社員と2年目社員の混成8チームが、チーム対抗で新商品・新事業開発のアイデアを模造紙にまとめてプレゼンテーションする、というものだった。とくに2年目社員たちが張り切り、想像以上に盛り上がったという。
以降、毎年、同社のビジョンに合わせてテーマを設定している。当日のプレゼンのスタイルもさまざまだが、ここ数年は、「劇」による発表が中心となっている。

「発揮せよ!チーム・ノーミの現場力」をテーマに寸劇

14回目を迎えた2019年度のテーマは、「発揮せよ!チーム・ノーミの現場力」。4月5日に開催し、新入社員と2年目社員が混成した10~11人(うち新入社員は5~6人)の13チームが、職場を舞台とした劇を発表した。
午前中は、新入社員と2年目社員がお互いに交流を深め、午後は共同で作業をして劇を発表する、というのが大きな流れだ(図表4)。

図表4 「新入社員&入社2年目社員 合同プログラム」の全体的な流れ

「新入社員&入社2年目社員 合同プログラム」の全体的な流れ

まずグループ内でアイスブレイクを行い、交流を深める。その後、2年目社員がプロフィールシート等を使いながら、グループ内の新入社員に向けて、所属部署での自分の役割や入社後の感想、後輩へのメッセージを伝え、質疑応答に移る。
それが終わると、各グループの新入社員らが、グループをチェンジする(2年目社員は同グループに残ったまま)。そして、アイスブレイクを行ったあと、先ほどと同じように、2年目社員がプロフィールシートを使いながら自己紹介をする、というように、計3回メンバー替えをしながら交流を深めていく。
午後は、新入社員はここまでで得た情報を基に、2年目社員は1年間の経験を基にして、新しいグループごとに意見を出し合いながら、「発揮せよ!チーム・ノーミの現場力」をテーマに劇を行う。
劇作成の条件は、まずグループごとに指定された現場(職場)を、必ず1回は登場させること。「三鷹工場」、「本社・本館」、「お客様先」など、グループごとに現場が指定され、そこを舞台とした劇をつくり上げる。また、複数部署の人、複数の現場を登場させる、といった条件もあるため、一筋縄ではいかないようだ。
劇のタイトルやストーリーは、グループ内で話し合って自由に決めていく。登場人物についても細かい制約はなく、たとえば、2年目社員の所属部署の人の役を新入社員が演じてもかまわないし、グループにいない部署の人を登場させてもよい。こうしたグループ作業を、昼食をとりつつ2時間半という短い時間で行っていく。
劇の発表時間は、1グループ8分。おおよその内訳は、発表時間5分、質疑応答1分、発表準備および移動2分となる。

劇の発表の様子。新人メインの面白い内容が多かったという

▲ 劇の発表の様子。新人メインの面白い内容が多かったという

そして、全グループが発表後、「もっとも共感した発表」に投票する。発表内容や表現力、チームワークなど総合的に評価したうえで全員が投票し、得票数に応じて、最優秀賞、優秀賞を各1グループずつ選出する。
「午前中は、新人がいくつかのグループに移動することで、多くの人と交流する時間です。午後は、新人と2年目社員が共同で劇の内容を考え、テーマに沿ってアウトプットする時間です。
2年目社員には、それぞれの部署で学んだり経験したことを基に、現場力とは何かを考えてもらいました」(高山さん)

縦と横のつながりが深まりモチベーションアップ

この合同プログラムを実施するにあたって、カギとなるのは、人材開発室から指名された中堅社員3、4人で構成される「コーディネーター」の存在だ。新入社員研修の4カ月ほど前から企画検討を重ね、研修当日は仕切り役を担う。
「新入社員研修は、基本的に人材開発室が前面に出て進めますが、このプログラムだけは別です。われわれは裏方に回り、コーディネーターが中心となります。これを務めたからといって評価に反映されるわけではありませんが、研修のねらいを理解し、そのために何をしたらよいか、知識や経験、実行力が求められるため、大きな成長につながります」(舘野さん)
また同プログラムに参加した新入社員や2年目社員にとっても、大きな学びの場になっていることはいうまでもない。
「1つ違いの社員とかかわりをもてることは大きい。何かあったときも、お互いに抵抗感なく話しかけられるきっかけとなります。参加者からも、1つ違いの社員と楽しみながら学べるよい機会だ、といった声がたくさん聞かれます」(行田さん)
「このプログラムが、若手の人脈ネットワークの醸成につながっていると実感しています。また、新人にとっては、実際に働いている先輩社員から話を聞けるので、配属後のイメージが固まり、配属の志望や仕事のギャップを埋めるよい機会となり、モチベーションアップにもつながっているようです」(舘野さん)

今後は、グループ全体の若手育成にも注力

3週間の研修後は、配属先の各部署で1年間、OJT、Off-JTを実施する。こうして新入社員が育ち、2年目になったとき、1年前に新人として受けた合同プログラムに、今度は先輩社員として参加する。これが、自分たちが感じたときと同じように「1年後の成長した姿を新入社員に見せる」という目標となっており、事実上、フォローアップ研修の役割を果たす。
このように、新人と先輩社員の育成がうまく回る一方、課題もあると舘野さんはいう。
「採用人数が増えたため、一人ひとりに対してきめ細やかに対応することが難しくなってきています。今後は、そうした状況でどのような教育を行うのがよいか、検討中です。次の目標としては、グループ全体の人財力も向上させていきたいと思います。また、配属先におけるOJT、Off-JTについては各部署にまかせており、人材開発室は深く関与していません。そこにもう少し人材開発室がかかわり、各部署と連携していけるようにしていきたいです」

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佐藤さんも高山さんも、人材開発室と各部署の連携の必要性については同感のようだ。
「OJT担当者には、担当者向けの研修をしており、課題の提出もあるので、“新人を育てる”意識はもちろん高いのですが、担当者以外の社員たちにも、“皆で育てる”という意識になってもらいたいと思います」(行田さん)
「部署の垣根を越えて、皆が若手育成にかかわれば、よりチーム力が向上すると思います。また、若いうちに育てられることで、その人もまた、人を育てられるようになるといわれています。こうしてプラスの循環を生み出していけば、企業風土もさらにいいものに変化していくのではないでしょうか」(高山さん)
近年は、自社で育成するというより、ある程度でき上がった人材の採用を好む企業もあるが、同社のように、イチから教育することは、社内のつながりや愛社精神を育むことにもつながる。じっくり育てることの大切さ、自社で育成する意義を、いま一度、再認識する必要もあるかもしれない。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 能美防災株式会社
本社 東京都千代田区
設立 1944年5月(創立1916年)
資本金 133億200万円
売上高 1,067億7,400万円(連結 2019年3月末現在)
従業員数 2,442人(連結 2019年3月末現在)
平均年齢 40.6歳(単体 2019年3月末現在)
平均勤続年数 16.1年(単体 2019年3月末現在)
事業内容 自動火災報知設備、消火設備など各種防災システムの製造、販売、取付工事、保守業務
URL https://www.nohmi.co.jp

(左から)
人材開発室 佐藤栄時さん
人材開発室 行田和美さん
人材開発室長 舘野幸雄さん
人材開発室 高山清充さん


 

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